「・・・・寒い」
+干芋+
ポツリと呟きながら、斎藤は火鉢へと手を翳した。
カタカタと北風に窓枠が音を立てて揺れている。
秒針の音がこの室内の静寂をさらにかきたてて。
部屋には斎藤ただ一人。
気だるげに火箸で炭を転ばせると同時に小さく零れる溜息。
「腹減ったな・・」
微かに空腹を覚え、周囲へと首を巡らすが書類だらけの室内に小腹を満たす
ものは置いているはずもなく。
体を動かすのもじれったくて、また火箸で炭をつつく。
「寒い。腹減った」
部下のどちらかがいれば、作らせるなり買いに行かせるなりしたのだが、
彼の二人の部下は生憎、仕事で外へと出払っている。
給湯室に行けば何かしら置いてあるだろうから、自分で取りに行けばいいのだが、
なんとなく面倒くさい。
「退屈だな」
見回りにでも出ればまた気分が変わるのだろうが、今日は一日室内に篭りっぱなしの
書類作成。その書類さえもなかなか進まず。
誰かいれば気晴らしに話をしながらと仕事も捗るのだが、生憎今日は一人。
はぁ
また、ひとつ小さい溜息が吐き出された。
スッと外へと視線を向ければ、どんよりと雲った冬色の空。
あと数日たてば雪でもチラつくかもしれないと考えながら、今外へ任務に出ている部下を思う。
鼻を赤くさせ、栗鼠のように手を擦り合わせる仕草を脳裏に浮かべながら、小さく口端を上げた。
「寒いだろう?早く帰って来い」
また炭をつつく。パチッと炭が弾ける音が木霊した。
廊下の奥のほうから軽やかな足音が聞こえ、思わず口角を上げる。
十数年前からずっと変わらない同じ間隔で歩く足音。聞き間違えるはずもない。
「ただいま戻りましたーvv」
「あぁ。ご苦労だったな」
「うーさぶいですぅー」
首だけで振り返れば、鼻頭を真っ赤にさせ肩を窄めながら手を擦り合わせる。
まさに栗鼠そのものの仕草にクツクツと笑えば、きょとんとが首を傾げる。
そんな仕草がますます栗鼠で。
「寒かっただろう。ここに座って温まるといい」
「うんvあっそうそう干芋買ってきたんですv食べませんか?」
「・・お前・・・職務中に何買ってんだ?」
「ぅう;だってなんとなーく斎藤先生が「お腹すいたー」とぼやいてそうだったんだもん!」
ぷうっと頬を膨らませるに、一瞬目を見開き次の瞬間には声を出して笑っていた。
「え?ぇえ?」と?マークを飛ばすに、「なんでもない」と手をヒラヒラさせて立ち上がる。
怪訝そうな表情で見上げてくるを鼻で笑い飛ばすと、給湯室へ向かうために踵を返した。
「外で頑張ってきた部下のために、上司が茶を入れてやるのもたまにはいいもんだろう?
芋焼いとけ」
そう楽しげに部屋から出て行く、斎藤を見送ると、は顔を顰めて首を傾げた。
「変な先生・・・今日一日篭りっぱなしだったからちょっとおかしくなっってんのかな?」
そう呟くと、手の中にある笹の葉で包みを開く。
中には干芋。
それを火鉢の網の上に丁寧に乗せていく。
この干芋で斎藤の一日篭りっきりだった鬱憤が晴れるようにと心を込めて。
また給湯室で斉藤も上質の茶葉を、香りが良く立つように淹れていく。
この茶にありがとうの感謝と、の体が温まるようにの願いを込めながら。
二人の真心が合さった一息の時間まであともう少し
干芋を買ったんですよ。大量に。繊維質たくさん摂取ー!!(うおー!)
焙ってたら、なんとなくちゃんちゃんこ着た斎藤さんがぽそぽそと
火鉢で干芋焼いてるビジョンを浮かべちゃったのね。なんか「あー寒いなこんちきしょー」とかいいながら
背中丸めて焙ってるかわいい姿浮かべちゃったりしちゃったんです。
互いに思いあってる空気が出てたら・・・嬉しいっす。
執筆2007年1月17日