ちゃん逃がしませんよ!」


!敵前逃亡とはいい度胸じゃねえか」


「しつこっ!ってやっぱり敵なんじゃんか!」



















+団子+

















「おい歳よ、あらあなんだい?」

「んあ?」


自室で寛いでいた近藤は、外が騒がしいことに気づき、開いている障子の方へと首を巡らした
その瞬間、脱兎のごとく走り抜けるにそれをこれまた凄まじい速さで追いかける斎藤と沖田。
そんな光景に一瞬目を丸くし、丁度訪れていた土方へと口を開いた。
近藤の視線の先を辿ってみたものに、土方はがぱっと口を開き手にしていた煙管を落としそうになる。
言葉が出ずに固まってしまう。そこへ山崎がお茶を運んできた。


「や・・山崎君、あれはなんだ?」


半泣き状態で逃げ惑うに、さも楽しそうに追いかける沖田と
不敵な笑みを称えた斉藤が凄まじい速さで追いかけていく。
土方の指さす方をちらりと見やると、山崎は涼しい顔でコトリとお茶を置いた。



「沖田はんと斉藤はんがはんに惚れましてな。
はんが未来へ戻るまでどちらがはんの心を射止めるか競っているんですわ」




淡々と語る山崎に、近藤と土方の顔が色が消える。




「まあ、体力つけるには丁度いい追いかけっこですなあ」





薄ら笑いを浮かべる山崎に近藤は背中に冷たいものが走る。




「い、いや山崎君そーいう問題じゃなくてな;」





くつくつと笑う山崎に近藤と土方はザーッと青ざめると、再び達へて視線を走らせた。
忍びとしての能力も備えている
時々家屋の上と逃亡を謀るが、沖田と斉藤も逃がすものかと回り込む。
なるほど、忍びが立ち塞がった時のことを考えると、これはいい鍛錬だ。


しかし。


「あいつら何考えてんだ、は未来から来たんだぞ。
向こうの副長に顔向けできなくなったらどうするんだ!」


そう勢いよく立ち上がると土方は廊下に出た。


「てめーらあ!いい加減にしやがれ!」


土方の怒鳴り声が響き、は慌てたように土方へと方向転換し
全速力で走る。



「うえ〜!土方さん助けてください〜!」


半泣きでこちらへと向かってくる様はある意味可愛くも見え、
土方はもちろん、山崎と近藤も一瞬顔が熱くなるのを感じる。
土方の前まで辿り着くと、両膝に手を起き、肩で行きを整えた。



「もう・・しつこくて」


「いたー!」

「逃がさん!」

「ひー!」


ガシッと両肩を二人に掴まれ、は走り出そうとするがずっと走り続けていたせいか、
足がいうことをきかず、そのまま抑えられてしまった。
ジタバタともがくを面白そうに取り押さえる斉藤と沖田に、土方は深いため息を吐き出す。


「総司、斉藤・・お前らなあ。は未来からきた女子だぞ?」

「あー大丈夫土方さんちゃんを傷つけることはしない規則なんで」

「は?」

「左様。また法度を破ることもないので心配無用。」


そうずるずるとを引きずり去って行く二人に土方は声をかけることができなかった



「総司と斉藤に目をつけられたのが運のつきか。かわいそうに」


まあの身に危害を加えるような輩ではないから大丈夫だろう。
土方は再び深いため息を吐き出すと近藤の部屋へと入っていった。










「まったく土方さんに助けを求めるなんて反則ですよ」

「ああ全くだ」


「・・誰が決めたのよ、そんなことっ!」


両腕をしっかりと掴まれたまま、は頬を膨らませて沖田と斉藤を睨みあげるが、
二人は大してきにした様子もなく、を引きずって行く。
盛大に溜め息を吐き出すと、諦めたように歩調を沖田と斉藤に合わせた。



「もぉ〜今日はなんなの?また、二人の言い争いだったら私嫌だかんね!」



は先代の新撰組に対して敬語を使うようにしていた。
のだが、
河原の件からことあるごとに絡んでくる沖田と斉藤にはすでに敬語を使う気はさらさらなく。
また、沖田と斉藤もその方が気が楽というより、本来のの表情を垣間見れると
とくに気にも止めてない。
沖田がにっこりとに振り返る。




「お団子食べに行きましょう!」


お団子と聞いて、の顔が徐々ににぱあと綻んでいく。
そんな様子に斉藤は呆れたようにの頭を掻き撫でた。



「まったく。食うことになると目が変わるなお前は」


「うぅ・・いいじゃんかさ」


むうと仄かに顔を赤くさせながらむくれるに斉藤はそっとの頬を撫でた。
「ん?」と見上げくる様が本当に小動物のようで、思わず抱き締めたくなる。





「はーじーめーさ〜ん?」


眩しいほどの笑顔を向けてくる沖田だが、その背後に背負っているのはひたすら黒い。
サッとの腕を取ると足早に歩き出す沖田に舌打ちをすると、斎藤もの横をぴったりと歩いた。



































「もきゅv」


「・・・栗鼠だな」


「栗鼠ですねえv」


頬を紅潮させ団子を頬張るに、斉藤と沖田は呆れながらも
幸せいっぱいの表情のに優しく笑った。
斉藤と沖田の間で、手にしていたうぐいす餡が乗った団子をにぱにぱと見つめている
そんな様にますます栗鼠のようだと沖田が笑えば、は恥ずかしそうに頬を染めてはにかんだ
笑みを浮かべた。


「この間食べた梅餡のお団子も美味しかったけど、
このうぐいす餡のお団子も美味しいねえv」


丁度茶を出しに出てきた店の女が、の嬉しそうな笑顔ににこやかに微笑む。


「娘はん、ここんとこよう来てくれはりますなあv
うちの団子は美味しゅうて、今度は柚子餡のも食べてなv」


「うわあv柚子餡vv」


にぱあと咲き誇る笑顔に、店の女はくすりと笑う。


「栗鼠みたいに、かわいいねえv」


くすくすと笑いながら店の奥へと戻っていくのを見やると、斉藤と沖田は
噴出しそうなるのを堪えながら、斉藤はの頭にそして沖田は肩にぽんと手を
おきながら肩を震わせた。



「やっぱり誰が見ても栗鼠に見えるんだぁv」

「冬眠するなよ」

「あのねえ;」



必死に笑いを堪えている斉藤と沖田を軽く睨みつけると、
最後の団子をぽんと頬張る。



「おいしv」



「栗鼠ぅ〜vvvv」

「/////もぉ・・・;」



腹を抱えて笑う沖田を、顔を赤くしながら睨めば斉藤もくつくつと笑った。
ぽんぽんと宥めるようにの頭を軽く叩くと、そっと顔を退きこむ。


「ところで俺か沖田君。心は決まったか?」

「・・・はあ?!」


意地の悪い笑みを浮かべる斉藤には思いっきり顔を顰めて見せた。
油断あらば、隙あらば、斉藤や沖田こうやってを攻めてくる。
琥珀の双眸を意地悪気に細める斉藤に、にっこりと微笑んでくる沖田。
はわたわたしながら「さあっ屯所へ戻ろうかぁ!」と立ち上がろうとするが、
両肩を斉藤と沖田に掴まれ、再び座り戻された。
沖田がの顔を覗き込んでくる。


「そろそろ決めてもいいんじゃないかな?」

「いい加減決めろ。でないと力ずくでいくぜ?」

「う〜・・・・・・決めないとだめなの?」


むう・・と唸りながら上目遣いで二人を見やれば、二人同時に吐き出される
深い溜息。その様子には落ち着かない様子で居住まいを正す。
斉藤は呆れたようにを見やった。


「あのな・・・何度も言わせるな」

「そうですよ。いんですよ?一さんが振られても僕は痛くも痒くもないんだし」

「・・・・・・、迷う必要はない。俺に決めろ」


二人にずいっと攻められて、は「うぐ」と言葉を詰まらせると、
視線を泳がせながら手をもじもじさせる。



「わかんないよお・・斉藤さんも沖田さんも大好きだよ?
でも・・・私は期間限定の恋愛だなんて・・」



10歳の頃から刀を取りキメラと闘ってきた
学校や新撰組の仲間はとても良い人達だし、も大好きだ。
けれども、恋愛となると話は別である。刀をとり戦い続けてきたには
恋をすることなどなかった。よって恋をしたこともない。
「それでもいつかは!」と心の隅で頑なに願っていたりもする。
初めての恋愛はちゃんとしたいのだ。だからこそ沖田や斉藤の提案する、
が未来に帰るまでの期間限定の恋愛はどうしても一種のゲームのような気がしてならない。

言葉を詰まらせてしばし俯いた後、はジッと斉藤を見つめた。
先ほどとは違って、真剣でどこか儚げな表情のに、斉藤は不思議そうに首を傾げる。
そんなの姿に、沖田は薄く笑うと少し残念そうに目を閉じた。
何も言わずジッと見つめてくるに、斉藤は何かのピンと糸を張り詰めたような
物を感じた。その瞬間に感じる熱に思わず胸が高鳴るが、
当のは何も言わずに見つめてくるだけ。



ついっとは斉藤から視線を外すと、ぽつりぽつりと呟いた。



「ねえ?二人は私がいずれこの世界からいなくなるから・・かまってくれるの?」



期間限定の恋愛。
後腐れはおろか、存在証明もない恋愛。
終わりの鐘が鳴ったら、すべては幻となって消える恋愛。



すべてはうたかたとなって消えるものだから

羽目をはずせるのか



もしそうだとしたら。そう思うとはひどく胸が痛くなるのを感じて
きゅうっと衿を掴んだ。
その姿に斉藤と沖田は無言で顔を見合わせる。


なぜだろう・・・たとえ期間限定であろうと二人に、
斉藤に一時の楽しみの対照されるのがたまらなく嫌だった。




「阿呆が」


「え?」



温かみのある声が降り注ぐと同時に、頬に宿る温かい感触。
それが斎藤の手が添えられているものがと、理解するのにはしばし時を要した。
のろのろと見上げれば、さも呆れたように笑っている斉藤の顔。




「たとえ未来の者だろうこの時代の者だろうと、惹かれなければ
追いかけるか。好きでもない者を追いかける暇なぞない」


「うわ・・なんかきざですよ一さん」


「・・・:・・・・・できることならお前をここに留めておきたくらいだ」


「・・・・」


複雑そうなの表情に、落ち着かせるように頭を撫でる。



「無論それは到底無理なこと。だからこそお前が帰る日まで
、お前をつなぎ止めておきたい」


「きざ・・・」


横槍をいれる沖田を完璧に無視して、じっとを見据えれば
ほのかに頬を染める。「ありがとう・・」と小さく呟くに沖田は
諦めにも似た小さい笑みを浮かべた。





−あーあ・・僕には斉藤さんみたいにきざな言葉なんか思いつかないよ
悔しいけど・・この勝負は僕の負け・・かなあ・・・―



































「で?決めたか?」


「・・;」




結局、は答えを出さないまま、三人は屯所へ戻ることにした。
原田と永倉にも買っていこうと、団子を買い包んでもらうとそれを大事そうには抱える。
今夜の夜警には沖田と斎藤、そして永倉の隊だ。
早めに戻って夜に備えたいところ。




はどちらかを選ぶことはなかったが、斎藤と沖田の間では自然と勝敗が
決まっていた。目線で負けを認める沖田に斎藤は小さく勝ち誇った笑みを浮かべるが、
それでもまだやりきれない表情でを横目で見つめる。




−本当に引き止めたら、お前は困るだろうな−



















その夜、今夜もは黒コートの隊服に身を包んでいた。
昼は身につけない刀も、大刀と小刀を身につける。
コートの中には苦無に手裏剣、この時代には珍しい銃などを手際よく身に着ける様を、
斉藤も夜警へ行くための身なりを整えながら眺めていた。
ふと、が手にした小さい掌に収まるほどの筒へと視線を向ける。


「いつも思うが、まるで歩く武器庫だな。その筒はなんだ?」


胸ポケットにしまおうとしていた手を止めて、はそれを掌に転がし
「これ?」と首を傾げて見せる。頷く斉藤に「んー」と小さく唸った。


「これは一種の爆弾みたいなものだよ。
この中にはね、太陽の光を閉じ込めてあるの。これを投げると、
太陽の光があふれ出して昼のように明るくなるんだ。
ほら、キメラは陽の光に弱いでしょ?それに組織などの人相手の場合だと
目眩ましにもなるんだよ」


そう斉藤の手に光明弾を乗せながら、は説明する。
斉藤は光明弾をしげしげと見つめながら、日中がよく何かを
手にしながら空へと手を伸ばしているのを思い出した。


「よく昼に手を空に向けているのは、これか?」


「うんv陽の光を集めているのさ」


光明弾を受け取りそれを胸ポケットにしまうと、手甲をはめる。
今夜の巡回の当番は一・二・三番隊だったか。
は皆に「気をつけてね」と声を掛けると、ひらりと跳躍し家屋の屋根へと消えた。
それを見届けると斉藤は部下の隊士へと振り返る。
の任務はキメラの殲滅であるため、斉藤達とは別行動である。
しかし、ひとたび斬り合いが始まれば、も駆けつけてくる。
キメラは血の匂いに引き寄せられるのだ。
部下を引き連れて屯所の門をくぐると同時に、斉藤はおもむろに空を見上げた。
不気味なほど大きく白い満月が浮かんでいる。それは美しいを通り越してどこか気味が悪く、
なにか悪いことが起きる前触れでは?と柄にも泣く考えてしまう。
しかし。


−やけに胸がざわつく・・・何も起こらなければいいが・・−

















 































 満月に照らし出された二つの影が、激しくぶつかり合う。
と、次の瞬間、一つの影が砂のように崩れ、風に流されて消えた。
ゆっくり息を吐き出すと、は眩しそうに満月を仰ぐ。
飲み込まれそうなほど、大きい満月がそこには浮かんでいた。



「また・・・哂ってる・・」



まるで自分を蔑むかのように浮かぶ満月は、かつての上司である斉木を
思い出させ、思わず唇を噛んだ。



「集中しろ、考えるな」




しかし、妙にざわつくこの胸はなんだろうか。
は気持ちを奮い立たせるようにかぶりを振ると、ついっとあたりを見渡した。
満月に照らしだされた家屋はいつも以上に見通しが良い。
瞬間、そう遠くない箇所から刀がぶつかりあう音と、人の声が聞こえた。
どうやら斬り合いが始まったようだ。は刀を納めると、音のする方へと足を踏みだした。


「!?」


屋根から屋根へと飛び移ろうとした足を踏み出すことができなかった。
まるで両足をがっしりと掴まれているような気がの背後で立ち込めている。
ヒヤリとした空気がゆっくりと体を這う感覚に、の顔から一気に血の気が引いた。
この感覚は初めてではない。
以前にも感じた気配。の肩が小刻みに震えだす。手を刀の柄へとかけるも力が入らない。
冷や汗がたらりと頬を伝い、まるで呼吸の仕方を忘れてしまったかのように苦しい。

この気を忘れようはずがない。

崩れそうになる膝を押さえつけるように気を奮い立たせると、はゆっくりと振り返った。




満月の光が象る影


それはまるで神仏を思わせる光景。

滑らかな前髪がふわりと揺れ、穏やかな笑みが静かに綻んだ。






会いたかったよ、そしてさようなら」



「斉・・・木・・・先生」



ふわりと舞い上がる風にきらりと刀が光り、その瞬間満月に血飛沫が舞った。




まるで花びらが風に吹かれたように。
































幕末時代の斉藤は、明治時代よりも若干軽め?に設定してあります。
たしか25前のはず。まだまだ血気盛んだろう、若いだろうと思いつつ。
で、この回はUPになるまでに5〜6回書き直しました;
この回から急転換するので、ちょっと迷いましてね;
実は、期間限定の恋愛でさんが斎藤氏と沖田氏に「期間限定だからかまってくれるの?」という
件、じつは最初斉藤の部屋で斉藤と二人で話している時にする会話で、
そこでじつはさんが斉藤さんは心は自分に傾いていると確信して、おもわず「そうだ」と
拒絶してしまう設定だったんですね。
で、そうなると後々大変になることが判明;まだちゃんと決着はついてませんが
なんとなく沖田さんが手を引き始める形で今回まとめさせていただきました。


まとまってねえし;

ちなみに梅餡・柚子餡の団子は近くにある団子屋さん。といっても車で一時間のところで
しかも運転免許持ってないので、電車で一時間半。のところにある団子屋さんの
団子をイメージして書きました。画像もその団子屋さんの。
梅餡と柚子餡のお団子美味しいの!!
でもって京都の言葉はわかりませんので、違ってたら本当に申し訳ありません!


2006/05/06 執筆