一・時代人と殺すべからず

一・歴史を変えるべからず

一・時代人と関わるべからず






「っと、先代新撰組に関わるべからず;」


「よおく解っているじゃねえか、莫迦やろうが」






























目の前で顔を引き攣らせながら笑っている上司に、
はたらたらと冷や汗を零した。


が土崎に連絡を入れてから約一時間後、新撰組屯所にその男は現れた。
斉藤たちがはじめてを見たときと同じ黒く長い隊服、新撰組の中でも長身の枠に
入る斉藤よりも若干背が高く、髪は短く切りまとめられていた。
鋭い眼光だが、屯所に入る門での礼儀正しさに一同は呆気に取られるも、
その男がを視界に入れた途端、その表情は一変し、男の怒鳴り声が屯所いっぱいに響き渡ったのだった。
近藤と土方に迎えられ、の上司−土崎は座敷に通される。
そこにはが目を覚ました時にいた斉藤、沖田そして原田と永倉の姿もあった。

腕を組み見据えてくる上司−土崎の前で隊規条例を唱えれば、
土崎の米神が微かに痙攣する。


「で?十三ある条例のうち、お前は一体幾つ破った?」

「;;えー・・・三つほど?」

「十だ!ばかたれがぁっ!!」


「あはv」と笑うに土崎は手にしていた紙束での頭を思いっきり叩いた。
呻き声を上げ頭を抱えるの前に紙束を放ると、土崎はスッと近藤へと居直り頭を下げる。




「見苦しいところをお見せしました。先ほども申したとおり、
私は800年後の世界から来ました新撰組副長、土崎歳樹。
本来ならば局長が出向くのが筋ですが、生憎任務へ出ています故、
私が参上つかまりました。
この度は三番隊隊長、を助けて下さり本当にありがとうございます」

しっかりと頭を下げる未来の副長に好意を抱きながらも、近藤は不思議そうに首を傾げた。
土方はもちろん沖田達が怪訝そうにひそひそ話しているのを土崎は不思議に思い、
おもむろに顔を上げる。


「何か?」

殿は三番隊の隊長・・こちらでいう組長になるのかね?」

「?そうですが」

原田達が驚きに息を飲む姿に、土崎はぴくりと柳眉を上げ、顔は近藤に向けたままに
殺気を斜め後ろに控えているへと向けた。
近藤はいやいやと顔の前で手を振りながら小さく笑う。


殿は隊士と名乗ったのでね。まあ、簡単には名乗れなかったのだろう」


大したことじゃあないよと笑う近藤に、土崎は半眼で振り返りを睨みつけた。


、てめえ・・・」

「う;」



ぴしりと固まるに舌打ちし見据えると、近藤へと視線を戻す。



「いえ、は一人前の三番隊・・・」

「隊士です」


土崎にとってはなくてならない隊長だった。胸を張って自分の部下であると
豪語できるほどに。そう例えそれが先代の新撰組に対してもだ。
そう誇りを口にするがそれはの言葉で一瞬にして引き裂かれる。
土崎はバッと振り返ると勢いよくの胸倉を掴んだ。
突然の出来事に近藤達は目を見開くだけ・・いや土崎から放たれる凄まじい気に
言葉が出なかった。
キッと双眸を険しくするに、土崎も険を宿す。


「てめえ・・・いい加減にしろよ」

「私は隊長なんかじゃない。・・・そんな資格はないんだ」


の脳裏に仲間の躯が山のように折り重なる光景がよみがえる、そしてその頂に
立つ優しい笑顔を称えたかつての師の姿−


室内は異様な空気が流れた。
近藤たちは彼らの素性を知らない故、無暗に声が掛けられない。
おそらく彼らも自分達同様、あるいはそれ以上に、苦汁を味わっているのかもしれない。


ふと、の表情が僅かに歪んだ。
それは思い出された地獄と脇腹に走る痛みによるものか。
それを見抜いた土崎は小さく舌打ちをすると「勝手にしろ」と吐き捨て再度近藤に頭を下げた。



「近藤殿。部下を助けていただき言葉もございません・・・ですが
もうしばらくこいつをこちらに置いてはくださりませんか?」

「!!何言ってんだ副長!先代新撰組に関わるのはっ・・」

「情勢が変わった」


「え?」

歴史を変えるな、先代新撰組に関わるなそう条約を改めて唱えさせたにも
関わらず、土崎はをここにおいて欲しいと頼む。
なんという矛盾か。そう力一杯に土崎の肩を掴んだまま、は怪訝そうに声をあげた。
土崎の視線が真っ直ぐを見据える。
先ほどに放った紙束を指差してみせた。


「詳細はそれを読め。が、今は俺の話しを聞け」

「あ・・じゃあ外へ」

「いや、近藤殿・・新撰組にも重要なことだ」


土崎の言葉に近藤たちの顔にも狼狽の色が走る。
先ほどが目を覚まし質問攻めになった時、は申し訳ないと彼らに頭を下げた。
歴史を変えてしまうことはできないと、未来を語ることはできないと。
歴史を変えることはいくつかの歪みを作り出し、下手をすれば未来と過去の均衡が崩れ、
世界そのものが消えてしまうと。
今ひとつ事情が飲み込めなかった近藤達だが、の真剣な表情にそれは
とても恐ろしいことなのだろうと推測するしかなかった。

しかし、それは彼女の上司である男が語ろうとしている。

は怪訝そうに土崎を見つめた。そんなに「座れ」と小さく言うと
ポンとの頭に手を置く。
土崎の見つめてくる目がどこか、追い詰めたようにも見えはわずかに動揺した。


「先日、沖田殿達が遭遇した化け物に喰われた隊士達。
本来ならば彼らはあそこで死ぬ運命ではなかった。化け物は我々800年後の世界
からきたもの、あそこで大きく歴史に歪みが生じるはずで、局長と後始末をつけるために
データを分析したんだ。」

前半は近藤たちに、後半はに向けながら土崎は静かに続ける。



「そうしたらどうだ、キメラに喰われた隊士は池田屋事件の日に不可解な死を
遂げていると記されていた」


「・・・それって・・・・」


「あぁ、キメラはすでに歴史の中に紛れていたことになる」


の顔から血の気が一気に引いていく。


「すまんが・・」

「はい?」

近藤が怪訝そうに見てくるのを土崎は不思議そうに答えた。


「その、「きめら」とは何のことだね?」


「・・・・あぁ、そうでした。キメラとは沖田殿達が遭遇した化け物のことです。」


「そうそう!その化け物なんだけどあれは一体なんなんですか?」


沖田が興味津々の表情で身を乗り出してくる。
あの化け物は随分強いですよね!!そうわくわくした表情に
土崎とは一瞬顔を見合わせた。


「あれは・・・元々は人だったもの」


どこか怒りにも似た言葉に、近藤達は驚きに目を見開いた。
近藤と土方はキメラを実際に見ていないが、沖田達から聞いた話では
およそ人と呼べるものではなかったという。
実際に目のあたりにした沖田と斉藤、原田に永倉はさすがに言葉が出なかった。
原田が身を乗り出してくる。



「あれが人だっていうのか?!おいおい冗談だろ!」


「えぇ、正確にいえば人と獣を融合させた違法生物」


「・・・え?」


いまいちよくわかっていない原田には静かに口を開いた。


「少し違いますが、人と獣が交わり、生み出されたもの。
そういえばどうですか?」


土崎と同様にの表情もどこか固い。
一同の顔にさっと血の気が引いた。


実際は人と獣からでた子供ではなく、人と獣そのものが一体にされたのだが、
ナノテクノロジーやバイオテクノロジーなど全くないこの世界には説明のしようがない。
近藤達はの言葉だけで相当打撃を受けたようで、
土崎はの説明に補足することはしなかった。それだけで十分だろう。
近藤や土方はもちろん、おそらく普段より感情を表面にださないのであろうと
感じた斉藤でさえひどく驚いていた。
永倉が身震いして土崎を見る。


「なんか怖いな・・君達の世界は」


「無論。それが認められているわけではありません。
キメラを作ることは違法。まして人買いや浮浪している人をさらい、
本人の意志とは無関係に作られる。俺たちの世界の新撰組はキメラと
キメラを作り出し歴史を壊そうとしている組織の殲滅なんです」



室内に異様な静けさが支配した−



近藤達は到底信じられないといった表情だが、沖田達が遭遇したのも
事実、それは否定できなかった。


ぽつりとの声が響く



「キメラに姿を形を変えてしまえば、人の感情はなくなりもとの姿には
戻ることはできません。ただひたすら人の血と肉を欲っする化け物になって
しまうのです。」



「キメラを作り出す組織は歴史の中で繰り広げられた戦に目をつけ、
キメラを送りだしているのです。もちろん過去に行くことも違法。
政府は対策として新撰組を作り、キメラと組織の殲滅に全力と尽くしているのです。
もちろん俺達も歴史を変えてはならない」




それで、ここからが本題なのですが−



そうきりだすと土崎はへと視線を向け、言葉は近藤たちへと向けた。

「先のキメラに喰われた隊士ですが、本来ならば歴史外のこととして調整するはすでした、
ですが彼らは史実の中でも死をとげている」




不可解な死と記されて



「そこで至急に調べたら、キメラが異常な多さで過去に流出していてな。
、お前に引き続き任務にあたってもらいたい」


「でもだからって新撰組に・・・」




キメラが大量にこの時代に押し寄せているのなら、ここに留まらず全力で殲滅すればいい。
ここにしてはいつ彼らが襲われるかわからないのだから。
土崎は一つ息を吐き出すと、やや声のトーンを落とした。



「長州側に斎木の姿が確認された」



長州と聞いて緊張が走る近藤達だが、は次に紡がれた言葉に目を見開いた。





「斎木・・先生が?」




膝におかれた手が静かに震えだすのを土崎は見やり、静かにだが力強く頷く。



「斎木の介入により、長州一派はキメラを武器にした。
政府もここの新撰組に俺達を入れることにしたんだ。」


「いいかよく聞け。お前はここに留まり、キメラを殲滅しろ。
だが斉木には近づくな。できれば大介達もこちらに回したかったんだが、
第三次大戦の方でかなり手間取っている。あっちもかなりキメラをぶち込んだみたいでな」


「でも・・・・なんで私が・・」


自分の能力は自分がよく知っている。
無理だとは言わない、だが、一人で遂行するにはかなりリスクが多すぎる。
それなら自分よりも有能な者に任せた方がより安全なはず・・・


「要員も足りないこともあるが、こちらの世界に順応できるのはお前ぐらいだからな」


「・・・・・は?」


「大介達にゃあ無理だ、飯はレンジ、自動クリーナーに洗濯。オートマチックライフに
支配された俺達にはここでは生活できねえ。が、しかしお前は違う。
このご時世に珍種と思えるほど機械おんちな上に、田舎好き、掃除洗濯に生きがいを感じ
ひたすら新メニューを開発するお前ならここでもやっていける!!」


「おい、まさかそれで決めたんじゃ・・・」


「ったりーめーだ」


「おいい!!!」


「そういうわけで、近藤殿。長州側についたキメラ殲滅のためにもこいつを
こちらに置いてはくださりませんか?時代人を斬ることはできませんが、
情報収集としての監察方として思う存分こき使ってやってください。
あとこいつは炊事洗濯が得意です!」


「聞けよ!!」


さらりと無視して近藤に向き直る土崎には拳を握って睨みつけた。




絶対ダメに決まっているじゃない!!
大体先代新撰組は女は入れないのよ!!



「わーvv局長おもしろそうですねー」

「近藤さん、いいんじゃねえか?」

「副長もそういってますし!飯作れるのはでかいっすよ!!」

「そうそう!!あ?着物も繕える?」

「局長・・俺は反−」


「よし、いいだろう!!」



ピシリと音を立てて、は固まった。


普通さOK出すにももう少し渋ったりするんじゃないの?
なんかこう今晩のおかずは何する的な決め方じゃなかった?今。
あー・・斉藤さん反対って言おうとしたんだね。
お願いだからもっと早く言ってほしかったよう・・



満面の笑みで近藤と土崎が固い握手するのを横目に、そして斉藤はひたすら固まっていたが、
喜びで万歳している沖田達は全く気づかなかった。
土崎は満足気にの頭をポンポンと軽く叩くと、思い出したように声をあげた。





「ああ、俺は少し先代方にまだ話がある。
大介達が心配してたから、連絡してやれ」


そう、時空携帯映写機を手渡す土崎にまだ納得がいかないと渋りながらも受け取ると、
は近藤達に頭を下げて出ていった。



の足音が遠ざかるのを確認すると、土崎は静かに微笑む。




「あいつが生きていて本当によかった」


まるで心から染み出る安堵の表情に近藤もつられて笑う。


「信頼を置いているのですな」

「えぇ。あいつがとう拒もうとは立派な三番隊隊長ですよ」



そう呟くと微かに目を鋭くして近藤に向き直った。







「あなた方にはお話しておきます。長州一派に加担している斎木という重罪人を」








それからほどなくして、土崎はに持参したふろしき包みを渡すと帰り支度を始めた。
隣でその行動を見ているにおもむろに口を開く。


「しっかし、お前よく一人でキメラ五匹も倒したな。、調べたら全てレベル4で鎧のは6だったぞ。」

その言葉には一瞬まばたきをして小さく首を振った。


「私が倒したのは3匹だけだよ、虎みたいのと黒いのはこちらのお二人が・・」


そう沖田と斎藤へと振り返るに土崎は目を見張った。


「すげぇな・・さすがは・・」


「えーでもちゃんはあの鎧武者を倒したんだよ〜!君の方が凄いよ」


沖田はの肩にポンと手を起きながら、にっこりと笑ってみせた。
しかし土崎はいまだに驚いた表情のまま。


「しかし・・沖田殿」


土崎は自分の刀を抜くとそれを沖田に見せる。


「俺達の相手はキメラ。普通の人ではありません。
よって俺達の刀もキメラ用に施してあります。キメラは銀と日の光にとくに弱い。
俺達の刀にも銀を打ち込んであるしかし、あなた方の刀はキメラ用ではない・・」

土崎は沖田と斎藤をしっかりと見つめると小さく笑ってみせた。



「流石は・・な、

「うん」


二人だけで納得している様に、沖田と斎藤は不思議そうに顔を見合わせた。






流石は新撰組最強と言われたお二人だ・・・・




刀を納めると土崎は思い出したように、意地の悪い笑みを浮かべてを見据えた。


「そーいえば、担任の山口先生から連絡があったぞぉ。たしか一昨日からの試験・・・」


「・・・・はわあっ!」


一瞬なんのことと首を傾げただったが、すぐさま真っ青になり頭を抱えた。


「しまったあっ!今回の試験パスしなかったらまるっと一ヶ月強化補修だったあ!」


あわあわと狼狽たえる様を至極楽しげに見据える土崎。
追い討ちをかけるかのように、唸りながら腕を組む。


「この際だから退学したらどうだ?情報処理の勉と違って、お前戦闘員なんだ。
そもそも二足草鞋は無理だって」


なんなら俺が退学手続きしてやろう!
と頷く土崎にははっとして土崎に食ってかかった。



「やだあっ!退学なってみっともない真似できるかー!!
歳だってわけのわかんないエッセイなんか出版してるじゃないか!」


「莫迦やろう。俺はお前と違って有能なんだよ、それと俺の崇高な詩集を馬鹿にするな」


むうっと頬を膨らまして睨みあげてくる仕草はまるで小動物のようで、
土崎は喉の奥で笑うとピンとの額をはじいた。



「安心しな、また一層酸素汚染がひどくなってな、学校はしばらく休校だってよ」


その言葉には表情を強張らせる。



「皆は大丈夫なの・・?それに美咲さんの容態は」


「俺らは平気だ。なんたって歴史の中を這いずり回ってんだ、そんなやわじゃねえ。
沖は・・・・」

そう言いかけて土崎は言葉を噤んだ。の体内を不安がゆっくりと蠢いていく。





「そろそろ覚悟しておけ」



急に目頭が熱くなるのを感じて、は目を閉じてうつむいた。
頭に置かれる優しい手。



「逐一報告しろ。何度も言うが斉木には接触するないいな。」


「・・・・はい」



近藤達に頭を下げると、土崎はスッと霧の様に消えていった。
驚く一同に、はしばらく土崎が消えた箇所を見つめていた。
くやがて、るりと近藤達に向き直ると深々と頭をさげる。




「よろしくお願いします」




しっかりとした口調に近藤は力強く頷いた。










その夜、は全隊士に紹介された。
未来から来たことは、近藤と土方、そして沖田に斉藤、原田、永倉のみだけに留め、
他の者には近藤の遠縁で炊事洗濯などの雑用を兼ねた監察方と紹介した。


はそこで改めてて近藤達から自己紹介をされ、妙な安堵感を覚える。

局長の近藤は、自分の局長の近衛に空気が似ていた。
大きく口を開いて笑う姿がよく似ている。

土方は原田と永倉につっこむ様が土崎を連想させる。

沖田は彼をとりまく空気や笑顔が今では起きあがることもできない、仲良しの先輩に似ていた。

原田と永倉もいつも彼女といたずらをして、ともに土崎にどやされる大介と新一と
だぶって見える。




だけど・・・・・




「三番隊組長の斉藤一だ」


たったそれだけ。簡潔すぎる紹介には目の前で見下ろしてくる斉藤からは
なんの影も見出せなかった。


同じ三番隊の長であるのに・・・


その影は一欠けらもない。


けれど、それはむしろに安堵感をもたらした。



似てなければ、その影を思い出すのが少なくなるから。



優しい笑顔

柔らかい口調

穏やかな瞳


が慕ったかつての長の影は、斉藤には全く当てはまらなかった。



それが唯一の救いだったのかもしれない。


は儚い笑みを浮かべると、静かに斉藤へと頭を下げた。




「よろしくお願いします。斉藤さん」



斉藤はの自虐的な表情にどこか違和感を感じながらも「あぁ」と
小さく頷いたのだった。
























どうも、妄想も大概にしやがれよと自分で自分に突っ込んでおりますKirisaです。
初めて後書きを書きます。
書き始めたのはいいんだけど、自分かなり思いきった設定したなーと
今更ながらに狼狽えています。
800年後って何?!キメラって何!あんた鋼の錬金術師見すぎ?!
さっさとオリジナルな幕末はスルーしてとっとと原作沿いに行きたいよ。
でも、やらかした以上はやります。

のでお付き合いしてください。(鬼)