まるで小動物が狼狽えているような動きに、一同は顔を見合わせた。
近藤は咳払いをすると、ははっとして近藤へとぎこちなく顔を向ける。
ぁあっそうだよっ
この人が近藤勇だ。ばっちり学校の教科書にも写真載ってたしっ
の頭の奥で、上司が怒り笑いながらいつもの嫌みを吐き捨てる様を
思い出しながら顔を引き攣らせる。
「藤堂を助けてくれたようで」
「え?」
近藤から零れた言葉にははっとして顔をあげた。
「ありがとう」
畳に額がつくかつかないかの最上級の礼節には慌てたように顔をあげた。
自分は当たり前の任務をこなしたまで。時代人を死なせるわけにはいかない。
それに鎧武者に喰われた隊士をは助けることができなかったのだ、
そんな自分に頭を下げるられる謂われはない。
それに・・・・・
先代の局長に頭を下げられるなんて!
はわたわたとしながら布団を跳ねのけた。
「ちょっやめてくださいっ私は−」
「だが−」
近藤の瞳に今まで見いだせなかった険しさが灯り、はびくっと固まった。
「君が倒した化け物。その化け物が君のことを新撰組と呼んでいた斎藤が聞き覚えている。
しかし新撰組には女人はおらんし、私は君の顔は知らない。
化け物もそうだが、君は一体何者だね」
先ほどまで穏やかだった空気が一瞬にして張り詰めたものに変わり、
は近藤を見つめながらも、襖の前に控えている斎藤、原田と永倉がいつでも抜刀できる状態であることに気づく。
傍らに控えている沖田も笑顔を浮かべながらも、いつ押さえつけられてもわからない姿勢だ。
さすが新撰組だ・・
丸腰で囲まれている状態にもかかわらず、は妙な感動を覚えて軽く目を閉じた。
時代人と関わってはいけない、しかも先代新撰組なら尚更のこと。
しかし、あの時死ぬはずではなかった隊士が殺されたのだ。
知りませんで通るはずもない。
自分が条例違反で処罰される身でも、彼らには知る権利がある。
は脇腹の痛みに顔を引き攣らせながらも居住まいを正し、近藤に深々と頭を下げた。
「素情の知れぬ私を介抱してくださり、本当にありがとうございました。
私はこれより800年後の時代より来ました新撰組・・・」
一瞬、言葉をつまらせたに斎藤はスッと琥珀色の瞳を細めた。
口唇を噛むとは近藤をまっすぐに見つめる。
「私は新撰組三番隊隊士、と申します」
近藤との視線が衝突する。
おそらく信じてもらえないだろう。
拷問に課せられるかもしれない。
そうなれば隙をみてなんとか逃げ出さなければ、
まだ自分は死ねないのだから。
ふと近藤の顔に笑みが零れた。
「そうか800年後なのか」
妙に納得している表情には「へ?」と間抜けな声を出した。
普通は疑うでしょ?!
信じないでしょ?!
唖然としているに気づいたのか、近藤はああっと頷く。
「申し訳ないが手荷物を改めさせてもらった」
そう斎藤へと視線をめぐらすと、斎藤は傍らに置いてあった風呂敷を手に取り近藤の横へ座った。
解かれた風呂敷からはの隊服と時代を越えるために必要なID、身分証などが入ったポーチ。
そして非常食など・・斉藤はの顔写真が入った身分証を手にしながらを見据えた。
「これはもしかしたら君のことを表すものだと思ってね。
年号が和時26年となっていた。こんな年号は今までないし、君の持ち物は今の時代には全く見かけない。」
淡々と語る斎藤に頷きながら、近藤はわくわくしたような顔でを覗きこんだ。
「いやー。未来の新撰組かー。三番隊と言ったな。
斎藤っ!ずいぶんかわいい後輩じゃあないかっ」
ばんばんと斎藤の肩を叩く近藤に、斎藤はさも嫌そうなに顔を顰めた。
抜刀体勢だった原田達もさきほど殺気を打ち消し、へと身を乗り出してくる。
「へー、未来ってどのようになってんだ?」
「新撰組は800年後まで続いてるの?」
「君いくつ?」
「この隊服のだんだらってやっぱりあれ?」
次々に飛び出る質問には呆気に取られるだけだった。
「あ・・・あのっ」
「ん?なにかね?」
近藤はにっかりとに笑いかけた。
「あの・・上司に報告をしたいのですが・・その7日も何もいれてないので;」
どこか焦ったように話すに、斎藤は何か言えない事情があるのだろうかと、鋭く察する。
近藤が承諾するとはポーチから印籠のようなものを取り出した。
不思議そうに見つめる面々には小さく笑ってそれを開く。
2つ折りにされているそれを手慣れた手つきで操作する。
開かれた中にはなにか文字と小さな碁石のような形の模様。
その碁石をリズムよく押しているに一同は首を捻るだけだった。
年号と座標そして自分のIDを打ち込むとそれを折りたたみ、
再度ボタンを押す。ピピピと軽快な音が流れ、驚愕の声が零れる。
彼女が操作した時空携帯映写機。
カメラレンズから光が流れ閉じられた襖にスクリーンを映し出した。
襖にふわりと浮かぶ人影にどよめきが起こる
はスッと襖の前までくると静かに口を開いた。
「副長、長い間報告が遅れてすいません」
スクリーンの男が少し慌てたように身を乗り出してくる。
「っ。無事だったか!
あと三時間遅かったら、原塚と倉永に捜索に向かわせるところだったぞ。今どこにいる!」
の顔がぴしりと固まったのを見て、スクリーンの男はぴくりと柳眉を上げた。
「おい、」
「あー;レベル5を相手に怪我しちゃって;気を失って助けていただいたんです」
「怪我?おい大丈夫なのか」
男の顔に狼狽の色がよぎる。
「もう平気」
「そうか・・っと誰に助けられた時代人か?」
「・・・・」
「おい」
本格的に硬直しているに、副長と呼ばれた男が半眼でを見据える。
どうやら彼の思考は的を得たようだ。
「・・まさかお前」
「えっとう・・しっ新撰組に・・・」
「ばかやろうがあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
新撰組屯所に、ここにはいない新撰組副長の怒鳴り声が響いた。