赤い月が哂っている。
どうしてお前はこんなに弱いのだろう
ヤメテ、私を見ないで
漆黒の世界がを追い詰める。
脳に直接響く声にはたまらずその場に蹲った。
なんて醜い生き物なのだろうか
震える手。
滲み出る涙。
視界が揺らぐ。
目の前には自分の愛刀。
手を伸ばさなきゃ。
刀を手にとらなきゃ。
けれど手が伸ばせない。
不意に影が落ちた。
ヒヤリとした冷気がを包み込む。
カタカタと震えながら頭を上げれば、そこには赤い月に照らされる長身の男。
柔らかく揺れる髪、優しい笑顔。
しかしの震えは増すばかり。
男の顔が憐れみに微笑む。
「、お前はなんて醜いんだ」
ヤメテッ
「っつ・・・・」
男が手にする刀が振り下ろされる瞬間、はハッと明の世界へと戻った。
「夢・・」
体から冷や汗が吹き出る感覚に襲われ、は上体を起こし両肩を抱きしめる。
「っでも夢じゃないんだ」
あれは夢なんかじゃない。
ふうっと息を吐き出すと、ついと顔を上げた。
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
自分のいる場所に違和感を覚え、あたりを見渡した時だった。
ふと視界の隅に何かが移り見やると同時には一瞬を息をのんで固まった。
そこには着物を着た男が鎮座していた。
「大分うなされていたようだが」
「!」
きゃああああっ
あたりに女の声が響く。
「五月蝿い黙れ」
「しゃっしゃべったあっ」
「は?」
は腰を抜かしそのままざざざと後退るが、急に脇腹に激痛が走り、
脇腹を押さえ込んで屈みこんだ。
「いっ痛ひぃ」
涙目になりながら顔を顰めるに、鎮座していた男はさも呆れたように溜め息を吐き出し立ち上がる。
硬直するを軽々と抱きあげると、が寝ていた布団へと静かにおろした。
「阿呆。まだ傷が癒えてないんだ無理に動くな」
ぶっきらぼうにへ布団をかけると、男は先ほどの位置に再び鎮座し、腕を組んでを見据えた。
琥珀色の双眸が射抜くように見下ろされ、はびくっと掛けられた布団を引き上げる。
このひと・・
「気配が全然しなかった」
頭の中で呟いたつもりが、口に出ていたらしい。
男は僅かに柳眉をあげると、口端を上げてみせた。
「ふん、怪我人の周りでやたらと気を発するのはよくないからな」
(いや少しは発しろよ)そう突っ込みたい気持ちに駆られるも、
男がおもむろに手を伸ばしてきたのでは思わずびくりと肩を竦ませた。
の額に男の手が当てられる。
ぽけーと間抜けな表情で自分を見上げてくる少女に鼻で笑うと、人差し指で額をはじいてやった。
「あたっ」
「熱はさがったようだな」
額を撫で男を睨み上げたと同時に、スッと障子が開いた。
「一さん、女の子の悲鳴が聞こえたんですが、彼女が目を覚ましましたか?」
と同い年くらいの男の子がゆっくりと入ってきた。
この人もまた着物を着ている。
気づけば自分も隊服である黒いコートではなく着物を着せられていた。
(そうだ私キメラを倒した時怪我を負ったんだ・・)
の横に鎮座していた男が不機嫌そうにはいってきた少年を見やった。
「沖田君。君も安静にしてないと駄目だろう」
沖田と呼ばれた少年はにっこりと微笑みながら、男と反対側のの横に腰をおろす。
「だってー、この子ことが気になるんですよー」
そう言ってにっこりとに笑顔を向けた。
「いやー、一さんの看病でお決まりの反応ありがとうっ」
「はい?」
「沖田君。まるで俺が病人を脅しているみたいではないか」
さも不機嫌そうにする男に少年はまあまあと笑ってみせの顔を覗きこむ。
「無理はしちゃだめだよ。君、7日も昏睡していたんだから」
「なっ7日も?」
「そv」
の顔から一気に血の気が引き、少年と男は顔を見合わせ、青ざめている少女の顔を覗き込む。
「おーい」
がばっ
「こうしてらんない!早く報告し・・うっ;」
布団を跳ねのけて立ち上がろとした瞬間、再び走る脇腹の激痛にはガクリと布団へなだれ込む。、
男が再び呆れた溜め息を吐き出した。
「阿呆。何度も言わせるな。寝てろ」
「だめだよ〜まだ安静にしてないと」
優しく布団をかける少年には涙目で頷く。
途端に外が騒がしくなる。何人かの足音がこちらに向かってくるようだ。
「おっ目さましたか!?」
大柄な男が大きな声でずかずかとはいってきたのを男が睨みつける。
「五月蝿い静かにしろ、原田」
「げ、斎藤いたのか」
「眠り姫ご起床か?」
「なんだよ新八つあんその眠り姫ってーのわよ」
「あ?。だって当たってるだろ」
「ちげーねぇっ、がはははは」
「原田、永倉!騒ぐなら出ていけ」
「まっ斉藤さんってば怖い顔っv」
「・・・・ほぉう?」
原田と永倉が腰を捻って手を頬にあて、上ずった声ではもった。
隣で腹を抱える少年をちらりと睨みつけると、一瞬米神をひくつかせ、腰の刀へと手をかける。
「貴様ら・・そこに直れ」
「きゃーっ私の闘争は法度よ〜v副長〜!局長〜!」
「おい原田ぁ、怪我人に響くぞ」
「ちったあ静かにしろ」
本格的に抜刀姿勢に入る男を止める少年はどこか楽しげだ。
が、騒がしくなる室内に深みのある声が響き、一同はぴたりとおとなしくなる。
目の前で騒いでる男達よりも年上の男が二人、呆れ顔で入ってきた。
刀に手をかけていた男は居住まいを正すと、すっとの傍から離れ
襖の方へ鎮座する。
先に入ってきた温厚そうな男が、さきほどの男がいた所にどっかりと座った。
「どうだね?気分は」
「あはっ近藤さん、お決まりの反応でしたよv」
さも嬉しそうに口を挟む沖田に、近藤と呼ばれた男が笑った。
「そうかそうか!いやー、斉藤の看病は看病というより肝試し並だからなあ」
「局長」
奥に鎮座していた斉藤と呼ばれた男が不服そうに近藤を見やる。
それを手のひらで交わすと再びへと視線を戻した。
「さて、目覚めた早々悪いんだが・・・・・と、どうした?」
近藤は目の前の少女が先ほどからびくともせず、青ざめていることに
首を傾げた。
沖田も心配そうに少女の顔を覗きこむ。
「まだ痛むのかい?」
斉藤一?
沖田君?
原田に永倉・・・・
局長・・・・近藤・・・・?
「ああああああの;」
「ん?水持ってくる?」
たらたらと冷や汗が背中を伝う。カタカタと震えだしたに
沖田は不安げに首を傾げた。
「今・・元治元年ですか?」
「あ、うんそうだね」
「池田屋襲撃がありましたよね?」
「うん、やったね」
「あの・・・ここって・・・・新撰組屯所ですか?」
「そだよv」
ぴしりと少女の体が固まり、周りにいた男達は顔を見合わせた。
ー・歴史を変えるべからず
一・時代人と関わるべからず
一・時代人を殺すべからず
そして
先代新撰組に関わるべからず
の中で新撰組条例がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
「あぁぁぁぁ〜・・・・副長にどやされるぅ・・・・」
「え?俺?」
へなへなと萎れる少女に、障子のところで立っていた男が意表を突かれたように
自分を指差した。