「市村兄弟!今のうちに時代人を誘導しろ!」
「加納と野村は負傷した奴の手当てをっ早く!」
+時音〜絶たれた時の音〜 後編+
キメラとの激戦の中、の鋭い指示が飛ぶ。
新米隊士の兄弟がが指し示した森へと駆け込んで行くのを見とめると、山下はと背中合わせになり、
ガチャリと手にしていた銃を構え直した。
視界の隅で加納と野村が負傷した隊士に肩を貸しているのが伺え。
っと、加納達に黒い影が飛びかかり、山下サッと影へと銃を乱射する。
灰にとなって風に流されたそれを見やると、新たな銃弾を込めながら鋭く舌打ちして。
「キリがねぇなおい。また増えたんじゃねぇ?」
「奴らの召還装置まだ撃破できてないのか・・・何やってんだ五番隊はっ!」
も苦々しく呟いた。
この時代の新撰組を港で送った後、と山下の三番隊は副長の土崎と分かれると、
五番隊と合流してこの時代のキメラ殲滅へと乗り出した。
未来からこの時代へとキメラを転送する装置の破壊を五番隊に任せたはいいが、
一向にキメラの数は減らない。逆に増えているようにも見え、は鋭く舌打ちをする。
「っつ・・・・この分だと、第二次大戦と中近東テロにもかなり流れているわねっ」
「あー・・さっきアメリカのキメラ対策チームも動いたってよ、イギリス部隊の
消息が途絶えたらしい」
「ちっ・・・。奴ら本当に世界を滅ぼす気か」
互いに会話を交わしつつも、その手元は休むことなく柄を握りそして引き金を引く。
幾度と鳴く続くキメラの咆哮と、次々倒れていく仲間達。
キメラを操る組織との決戦を前にして、隊士達は通常の倍以上導入された。
政府はキメラの存在を明らかにし、それを殲滅するために徴兵を行ったのだ。
勇んできた者、拒んでいた者、弱腰の者。様々な意思を持った人間が兵役に就かされた。
新撰組・三番隊につかされた者の表情も多様で。しかし隊士達一人ひとりの意見を
聞いている余裕などにはもちろん、副長の土崎そして局長の近衛にさえすでになかった。
自分の生きる場所は自分で勝ち取れ
ただそれだけ、それだけしか最早かける言葉はない状況に追い込まれているのだ。
ふと、はキメラに引き裂かれ塵屑のように地面に崩れる隊士を視界に入れた。
あれはいつもぶつぶつと文句を言いながらも、武器の小太刀を両手に構えながら猛然とキメラに
立ち向かっていた隊士。
何かあればすぐ隊長であるにつっかかっていた、14歳のまだ子供。
ふと、地面に倒れこむ隊士と目が合った。
瞳孔が完全に開かれた無念な表情とカチリと目が合う。
(先逝ってんぜ、隊長ぉ・・・)
薄く上がった口角に、その力ない目がの脳へとダイレクトに語りかける。
一体のキメラを斬り裂きながらはクッと歯を食いしばる。
「っ・・・・・尾形ぁっ!!」
「馬鹿っ・・っ!!上だ!!!」
バッと体制を整え、尾形が倒れた方へと足を向けるがその瞬間いくつもの影がの頭上を
覆った。山下の鋭い鋭い声にハッとしては刀を構える。
降り注いで襲い掛かるキメラ達に、素早く刀を構えるとタンッと大地を蹴って跳躍した。
周りなど見ている余裕などすでになかった。
気づけば、あたりには新撰組の隊士達が折り重なるように倒れていたということ。
その隊士達の体には降り積もったような灰。
立っているのはと山下、そして先ほど戦地に紛れ込んでしまった時代人の警護を任せた市村兄弟。
たった四人だけだった。
カチンと音を立てて刀を納めると同時に、山下が懐からトランシーバーのようなものを取り出す。
「こちら三番隊。C地点は殲滅。至急殉死した隊士達の回収を頼む」
市村の兄・辰哉が呆然と辺りを見渡した。弟の鉄哉がの腕が負傷しているのに気づいて
慌てて駆け寄ってくる。
止血を施してくれた鉄哉に礼を言うと、鉄哉は恥ずかしそうに頭をかいた。
兄の辰哉も何か覚悟を決めたようにたちへと踵を返す。
これからどうするのかと指示を仰ぐ辰哉には小さく息を吐き出すと「そうだな」と呟いた。
「一度、キメラ転送装置破壊を任された五番隊と落ち合おう」
「そうだな・・少しでも大人数でいた方がいい。森の中を通った方がいいだろ」
の意見に首を振る者はいなかった。山下がの傷を気遣って隠れることのできる森を行こうと提案し、
一向は森へと入っていった。
何かあったら隠れられる、確かにいい方法であるが逆にキメラも隠れられる格好の場所であることにも
違いない。一向は極力音を立てずに慎重に足を進めていった。
しかし、森へ入ったのはまさにキメラの巣に入っていくものであった。
五体満足とはいえ、全員が無傷というわけではない。
は腕を負傷していたし、山下も大きな負傷はないにしろ体中に切り傷がいくつも作られていて、
市村辰哉は太腿に、弟の鉄哉は頭に包帯を巻いていてどちらも血が滲んでいた。
キメラは血の匂いに敏感だ。達の血の匂いにすぐさま反応して森を駆け抜けてくる。
選択を間違ったと気づく頃にはすでに十数体のキメラに囲まれた時だった。
それぞれ背中合わせになりながら、武器を構える。
皆体力も限界に近づいていたが、「生きたい」その想いだけを糧にキメラへと踏み込んでいった。
森にキメラの咆哮と、刀と爪が交わる音、銃声が幾度となく続く。
は猿の顔に虎の体をしたキメラを相手に苦戦していた。
けったいな合成生物を作って!と心の中で悪態をつきキメラを睨みつける。
が、このキメラはなんと尻尾が蛇で、虎の爪を防げば尻尾の蛇が襲い掛かってくるという、連続の攻撃には苦戦を強いられていた。
目の前のキメラに注意を払いつつも、視界の隅で山下と市村兄弟の安否を気遣う。
山下の持っている銃の音は絶え間なく続いているのでまだ無事のようだ。
兄弟の方も二人の声が鼓膜を刺激している。どうやら二人で一匹のキメラに挑んでいるようだ。
まだ仲間は生きている。そうわかっただけで妙に力がこみ上げてくる。
再び襲い掛かる猿の顔を持った虎の爪。それを受け止めると同時に襲い掛かる尻尾の蛇。
はすかさず腰に携えていた小太刀を抜くと、ザッと蛇を切り落とした。
「ぴぎゃああっ」と猿の顔が苦痛に歪むのをは怯むことなく刀を振りおろした。
ザッと風に流れた灰を目を細めてやり過ごすと、サッと仲間達の方へ視線を走らせる。
刹那、に冷たいものが駆け巡った。
「勉!!後ろぉぉぉ!!」
が視界にとらえた光景は、一匹のキメラを撃ち抜いた山下の姿。
そして、その背後から襲いかかるもう一匹のキメラ。
の声にハッと振り返る山下に、鋭い爪をもったキメラが歓喜の雄叫びを上げて飛び掛った。
ザシュッと鈍い音が辺りに響くと同時に、後姿の山下から吹き出る赤い血飛沫。
グラリと山下の体が傾き崩れていくのが妙にスローモーションに流れて。
次の瞬間、は叫びながら一足飛びで再び山下へその鋭い爪を振り下ろそうとしているキメラへと飛び込んでいった。
ザンッとそれが灰となり流れると、はこちらへと突進してくるキメラに刀を構えながら
声を山下へと向ける。
「勉!!生きているなら返事しろっ、どこをやられたぁ!!」
「・・う・・くっ・・・目が・・・見えねっ・・・」
顔をやられたのかっ!!
刀でキメラを制しながら、チラリと背後で蹲っている山下を見やる。
そこには顔が血だらけになった無残な姿。左半分だけ手で顔を覆っているということは
左目をやられたのか?
市村辰哉が「山下さん!!」と叫びながら駆けつける。
それに「まかせたよっ」と声をかけるとそこから距離を取るようにくようにキメラの腹部を蹴りつけた。
タンと弟の鉄哉がを援護するように背中に回りこむ。
キメラはまだ数匹残っていた。
鉄哉に「一気に片をつけるよっ!」と声を張り上げると、「はいっ!」と威勢の良い声が返ってくる。
それを背中で受け止めるとは飛び掛ってくるキメラを見据えた。
どのくらい経ったのだろうか?
地面の山になった灰を見つめながら、も鉄哉もゼイゼイと肩で息をしていた。
スッと辺りの様子を伺えば、どうやらここら辺のキメラは一掃したらしい。
遠くの方で水が流れる音が聞こえた。川でもあるのだろうか?そこで山下の手当てができるかもしれないと
考え付くと同時にはハッと顔を上げて、山下と辰哉がいる方へと急いで踵を返した。
山下の怪我はとても酷いものだった。
飄々とした涼しい顔立ちが売りでもあったその顔には、左頬骨辺りから左目にかけて三本の生々しい傷が
皮膚を裂いていた。おそらく左目は潰されただろう。は妙に冷静になりながら、痛みで意識が混濁している
山下の手をキュッと握った。
「右目は大丈夫です、血が入って一時的に見えないだけで。が・・左目は・・・
それに傷があまりにも酷い、今すぐ戻って治療しないと」
声を震わせる辰哉には黙って頷いた。
「うわあぁ!!」
が未来と連絡を取るための通信機を手にしたその時だった。
少し離れたところで鉄哉の叫び声がして、ハッとしてそちらへと視線を向ける。
そこにはまだ残っていたのか、一体のキメラの巨腕が鉄哉の体を払い飛ばしていた。
かなり高い位置から地面に叩きつけられた鉄哉は「かはっ」と血塊を吐き出すと、苦痛に体を丸める。
肋骨をやられたか、再び振り下ろされる巨腕には抜刀しながら飛び込んだ。
ずしりと重く圧し掛かるそれにはくうっと膝を折り堪える。
ニタアァと不気味に揺れるキメラの口。ブンッと空気を裂く音が響き、目を見開くと同時にの
腹部に激痛が走った。もう片方の巨腕が振り下ろされたのだ。
ザザザッと地面を摺り飛ばされ、顔を歪める。
遠のきそうになる意識をグッと堪えてキメラを捕らえれば、キメラはまだ地面に蹲っている
鉄哉へと方向を定めていた。
「いけない!!」そう体を起こすと同時に、はハッとキメラの背後に視線を走らせた。
どうやらいつの間にか崖縁まで追い詰められていたようで、キメラの後ろはかなり深く切り立ってそうな崖となっていた。
微かに水流の音が聞こえるからおそらくは水が流れているのかもしれない。
は体を走る痛みをグッと堪えると、助走をつけながらキメラへと向かっていった。
それに気づいたのは山下の傍にいた辰哉で。
弟に襲い掛かろうとしているキメラ、そしてそれに走りこんでいく隊長。
あのまま突進すればすぐそこまで迫った崖に落ちかねない。
ハッとしたように辰哉が立ち上がる。いきなり立ち上がった辰哉を気配で感じ取ったのだろうか
両目を閉じたままの山下が不思議そうに顔を上げる。
「市村どうした?何が起こってるんだ?!はっ?弟はど「隊長!!!だめです!!」
「落ちろぉぉぉぉぉ!!」
「隊長ぉぉぉ!!」
「はキメラと谷底へ。あの後三人で隈なく探したが見つからなくてな。
その間にもキメラに襲われ、兄弟は死亡。」
局長は一番隊の沖ととともに未来で戦死
原塚と倉永もあてられた歴史の中で戦死
そして副長の土崎も・・・・・
未来は崩壊し、政府は最後の手段としてすべての時代転送装置を破壊。
歴史へと散らばった者たちを見捨てて。
「俺だけが生き残っちまった」
深くソファにもたれ掛り天井を仰ぐ山下に、斉藤は目を伏せた。
かける言葉など見あたるはずもなかった。
地獄
斉藤自身も味わってきた。しかし命さえ繋ぐことさえできればなんとか生きて行ける。
それに斉藤には多くの仲間がいた。新撰組の生き残りも少なからずはいる。
しかし、山下は違う。自分がいるべき世界からはじき出されたのだ。
仲間はもちろん、見知った者もいない。そんな10年をよく自我を保って生きてこられたと思う。
そして脳裏を駆け巡るの花のような笑顔に、斉藤はクッと微かに声を漏らした。
生きて必ず会うと誓ったのに
いつの間にか拳を握り締めている斉藤に、山下は静かに目を伏せた。
「俺はよォ・・今上海にいんだ。機械技師ってやつ。未来がなくなろうが
俺はまだ生きてんだ。こうなったらとことん生き抜いてやるつもりさ」
そうヘヘッと鼻で笑う山下に、斉藤はスッと顔を上げた。
ここにきて初めて心の底から笑っているような山下の笑みに、「そうか」と小さく頷く。
飄々としている山下もまた苦しみ悩んだことだろう。
目の前で次々と仲間を失い、住むべき世界からはじき出されて。
だが、そこから自分の居場所を見つけ、生きている山下の姿に斉藤は少なからず安堵感を覚えた。
泰平の世とうたわれているものの、時代が変わり明治維新後発展する街並みとは裏腹に
維新前刀を持ち地位を持っていたいた侍達の多くが路頭に迷い、闇へと身を投じる者も少なくはないのだ。
「でもな」と山下は一旦言葉を区切って、顔を上げた。そこには先ほどとは違って鋭い眼光が灯されていて。
「俺はまだキメラ殲滅を諦めてはいねぇ。キメラは俺達がいた世界の代物だ。
この時代にあっちゃならねえもんなんだよ」
ココからが藤田さんよ、俺がわざわざ日本に赴いた理由だ。
そういって真っ直ぐに見据えてくる山下に、斎藤はスウッと琥珀の瞳を細めた。
山下の話はこうだ。
山下は一人になってもキメラ殲滅を諦めていなかった。
独自でキメラを探知する機械をこの時代にある最先端の機械を導入して作りあげ、
探知しては殲滅に赴いていたという。
この時代に流出したキメラは、転送装置が置かれていたのが日本であったためか
やはり日本で出没が多く、山下自身も日本へと向かおうとしていた矢先のこと。
「おかしいんだよ。確かにキメラを探知するんだが、すぐにそのキメラの生命反応が消えちまうんだ」
不思議に思って早速日本へと渡り調査へと乗り出す山下は、驚きにいつものポーカーフェイスを崩した。
キメラを探知するたびに急行するも、そこにあるのは灰の山だけで。
それが幾度となく続いた頃、山下はキメラを見たという目撃情報を得た。
その男はキメラを妖怪や物の怪の類と思っているようで、山下はまあ何も知らない
この時代の人間から見たらそうだろうとあえて何も言わず、自分は陰陽師の類だと名乗り
話を聞きだす。男は言った。
夕暮れ時。山に山菜を採りに入ったら、物の怪に襲われ、その鋭い爪が振り下ろされて
もうだめだと目を閉じても一向に痛みはやってこない。
ふと顔を上げると、一人の侍が物の怪の爪を刀で受け止めていた。その侍は身軽に体を翻すといとも簡単に
物の怪を斬ったと。
斬られた物の怪は灰のようになってしまったと聞いて間違いなくそれはキメラであると突き止める。
山下は根気よく、そのキメラを倒した人物について聞き出した。
それは黒い単に黒い袴の細い侍だったという。
キメラを倒すとそのままこちらに見向きをせずに、山の奥へと消えてしまったので顔は見ていないが、
髪は長く高い位置に結わえていた。
「まあ廃刀令のこのご時世ですからねえ。きっと刀を持っていることを懸念して
顔を見せずにそのまま消えたんだと思うんですが・・いやあでもわしはあのお侍さんには
感謝しきれないほど恩を感じてるんですがね!!」
一刀でキメラを仕留められる刀。
山下は腑に落ちなかった。自分達がキメラと戦っている頃、自分達の武器には
形状問わずすべてに銀が使われていた。刀なら刀身に銀を打ち込み、銃なら銃弾に銀を。
なぜならキメラは銀に弱い生き物だったからだ。
それを普通の刀で対峙するとなるとかなり手厳しいものがある、まして一刀でなど無理に近い。
それからも山下は捜索を行った。
キメラを追いかけているうちに、それを一刀したという侍に一つの心当たりを見出す。
「キメラと対峙して臆しない奴なんてそうはいない。ましてそれを一刀で仕留めるなんざな。」
「・・ま・・・さか・・・」
山下の鋭い眼差しに、斉藤は微かに声を震わせた。
さっきまで深い悲しみにまみれた感情に、ぽつりと小さな灯火が灯る。
あいつの遺体だけが上がらなかった。
ぽつりとだが確かめるように呟く山下に、斉藤はギュッと拳を握る。
「はおそらく生きている。キメラを倒しまくっているのはだ」
そういって山下は懐から小さく折りたたんだ紙を差し出した、無言で渡してくるのに小さく首を傾げながら
ゆっくりとそれを開く。それには
京都
南紀
駿河
盛岡
草津
小田原
と書かれていた。意味がわからないのだがと顔を上げる斎藤に山下はそれは
キメラが探知された場所を順にあげたものだと答え、再びその紙へと視線を落とす。
「は俺とは違って剣客だ。キメラの気を察することができる」
おそらくキメラの気を察して飛び回っているのだろう。
「ちょっと待て」
続けて口を開こうとする山下を、斎藤の硬質な口調が遮った。
「あ?」と顔を上げれば、眉間に皺を寄せて渡した紙を見て・・いや睨みつけている。
「なんだよ」と口開くと、斎藤はサッと立ち上がり自分のデスクへと足を向けると何かの書類を
手に取りソファへと踵を返した。
パラパラと頁を捲ると目当ての場所を開き、山下へと差し出す。
怪訝な表情の山下を真っ直ぐに見据えて。
「今追っているヤマに匿名の情報が入っていてな。
その情報の投函場所とこの覚書を比べてみろ」
分厚い書類を受け取ると、指し示された箇所へと視線を流し僅かに山下の目が開かれた。
最初に投函が確認されたのを順に
京都
大坂
駿河
多摩
仙台
会津
そして
小田原
「なんだこれは・・・」
山下も驚いているようだった。
いくつか場所はずれているものの、そう大して離れている距離ではないと思う。
このあまりにも偶然な一致に山下は多少なりとも頭が混乱したようだった。
山下が書類に目を通しているうちに斎藤は考えをまとめていたようで、真っ直ぐに山下を見据える。
「もしもだ、キメラを斬っている奴と情報を流している奴が同一人物だったら・・」
「・・ますますの可能性が高いな。もともと三番隊は情報収集に長けている部隊だった。
その中でもの収集力と分析力は新撰組一だった。」
は生きている!!
山下と斎藤は確かな手ごたえを感じて、顔を見合わせた。
その手紙見せてもらえるか?という山下に、斎藤はもちろんと頷くとそれを手渡す。
極秘書類には間違いないのは確かだが、山下なら問題ない。
手紙に目を通す山下の表情はどんどんいつもの飄々とした表情になっていく。
そして一通の手紙を読み終える頃には肩を震わせ、そのうちには手を顔にあてて
声を出して笑い始めた。
「山下?」と怪訝に声をかければ、わりぃわりぃと手をヒラヒラさせ上体を起こす。
「間違いねぇ、こらあの字だ。それにこの書き方もな、あの馬鹿生きてやがった」
どこまで万年迷子決め込んでんだよ
くつくつと笑う山下の右目が微かに潤んでいることに気づくも、斎藤はそれを見ないようにつとめた。
「ってよ、あんたから文もらったことあんのに気づかなかったのか?」
「いや;大体が沖田君と俺宛だったからな、文はすべて沖田君が持っていってしまった」
ケラケラと笑う山下に斎藤は気恥ずかしそうに目を反らす。だがとても落ち着かなかった。
今すぐにでもここを飛び出して、を探しに行きたい衝動に駆られる。
「なあ?あんたのこと探すんだろ?」
「当たり前だ。10年も待ったんだぞ、詫びの一つくらいあってもいいだろう」
「まあなぁ。俺にも散々捜索させた苦労を労ってもらいてえよ」
でも時間がねえと鼻で笑うと、懐からまた紙を取り出した。
先ほどとは違ってとても厚い紙束だ。それを斎藤の前へと出す。
「俺達新撰組のこと、未来のことありのままを記してある。に渡してやってくれ。
俺はすぐに上海に戻らなきゃなんねえんだ。あんたのことだ執念深くを探し出すだろうよ」
ニタリと笑う山下を鼻で笑い飛ばすと、それを受け取る。
と、山下は思い出したようにもう一枚紙切れを取り出した。何か用があれば文でも訪ねでもしてこいと
住所を書き留める。それを手渡すとサッと山下は立ち上がった。
「なあを見つけたら、あいつに住むところと職をやってくんねえか?
あいつだっていつまでもフラフラしてはらんねえだろうしよ」
「あぁ。だが住むところは心配ないだろう。俺のところに住めばなんの問題ない」
「・・・・おいおい、所帯持ちが何言ってんだよ。奥さん子供がいんだろうーがあんた」
「俺は独り者だが?」
「・・・・・マジか?」
「嘘言ってどうする」
ドアの取っ手に手を伸ばしたまま、ピシリと固まった山下に斉藤はシラッと返す。
本当に嘘は言ってない斉藤に表情に、山下はうーんと唸った。
「微妙に変わったんだな歴史」
「ふん、未来は崩壊したのだろう?ならそんなことはもう関係ない。
俺はを必ず見つけて、今度こそ俺のそばにおいて置く」
真っ直ぐに偽りのない斉藤の視線。それに山下は満足したように頷くとじゃあなと手を翻して
出て行った。
胸袋から煙草を取り出し、燐寸を擦る。ぷんと独特な音が鼻腔を擽り、煙草を深く吹かす。
「、今度こそ手放さん」
ふと外に異様な気配を感じ取った緋村剣心は、横においておいた逆刃刀を手に取ると
素早く外へと走り出た。
奴か。
いや、しかしこの異様なほど禍々しい気配は人と呼べるものなのだろうか?
小川沿いを走り抜けると同時に素早く鯉口を切る。
視界に捉えたのは異様な形の影。あれは・・・まさかっ!!
剣心の表情が俄かに凍りついた。その瞬間その異形が忽然と姿を消した。
続けて起こる何かが倒れる音。
ドサッ
手はまだ柄へと添えたまま、そろりと足を向ける。
そこには一人の侍が刀を手にしたまま倒れていた。慌てて駆け寄り膝まづく。
「しっかりするでござるっ!!・・・・・・・お・・お主はっ」
「っ・・う・・・・」
満月に照らされたその表情に剣心は驚愕の色を露にした。
時が動き出す音が微かに響いた。
うおおお・・・長ーい。こんなに長かったっけ?よかった区切っておいてっ。
危うくまた区切るところでしたけど、「やっもういい加減サノとか出したいんで頑張れ自分っ!」と
自分で自分を叱咤激励しつつ、1話を終わらせてみた。
ここまでが二部の一話ってすっごい長いんですけどぉ!
オリキャラ出ばりまくりじゃ。次話からは原作に沿った内容になります。といってもあんまり原作沿いに
すると台詞までも沿っちゃって、あれなんでそうならないようにしたいです。
2007年2月4日執筆