存在するべき世界はこちらのはずなのに
貴方の住む世界に私の居場所はないはずなのに
どうしてだろうか
たまらなく貴方の世界が恋しいと思いを馳せてしまう
+切望+
薄暗い室内には明らかに人の気配があった。
荒々しい鼻息に歯ぎしり、ガムを噛み締める音。
様々な音が薄暗い闇の中でたっているにも関わらず、誰一人声を出すのは者はない。
目が闇に慣れてくると、微かだが周囲の様子を伺うことができ、
男は周囲の反応を気にしながらも大きなスクリーンに映し出された光景に手に汗を握りしめた。
角張った顔に太くて濃い眉、筋肉質な体を落ち着かないように革張りのスツールに身を預け、
新撰組局長・近衛裕は鋭い眼光をスクリーンへと向る。
スクリーンに映し出されたのは一人の少女。
黒の隊服を翻し、人の道を自ら踏み外したキメラと斬りかかる姿だった。
真っ直ぐに、かつての上司に斬り込む姿とその顔は固い決意に縁取られ、その太刀筋にも迷いがない。
キメラへと姿を変え始めた斎木の左腕がシュンッと風を斬り、鋼鉄の蛇が波を打ちに襲いかかる。
それを刀に巻き付かせ絡みついたところに、左手から小太刀を抜き斬り捨て。
斎木の人とも獣ともいえぬ絶叫が室内に響き、何人かが顔を背けたりハンカチを口元に当てたが、
近衛は逸らすことなく見守った。
も斎木も体中傷だらけだ。
激しい攻防が続いていく中で徐々にに斎木の瞳に人としての色が戻っていく。
両腕を失った斎木には攻撃する術はなく、の攻撃を防ぐだけしか手段はない。
やがて、ガクリと膝をつく斎木の首筋にの刀があてがわられ、
それを呆然と見上げる斎木がアップに映し出された。
正気に戻った瞳。だが、その体は異常な数のキメラが組み込まれたために、
均整が崩れ皮膚が溶け出していた。
穏やかに微笑む斎木に手を震わせるの表情は涙でぐちゃぐちゃだ。
「ありがとう。そしてすまない。」
「先・・生」
「最後くらい親子でいさせてくるないかい?大事な娘なんだから」
今までの狂気が嘘のような穏やかな笑顔に、は唇を震わせる。
刀を握る手が震え、かちゃかちゃと柄が細かな音を立てた。
「私は酷い父親だったね。戒めとしていたことに自ら堕ちてしまうなんて。
だからお前の手で私を終わらせてくれ」
「お・・父さん」
「お前は私の大切な娘だよ」
の刀が空へとゆっくり上がった瞬間、刀は風を切って斎木の首を跳ねた。
撥ね飛ばされた頭は地面へと落ちることはなく、それはさっと霧のように灰となってキラキラとへと舞い落ちる。
刀を構えたままはきつく目を閉じていた。
しかし銀色の雫まではせき止めることはできずに、とめどなく溢れ出す。
刀を落としガクリと膝をつくとは我を忘れたように灰をかき集めてはそれを胸に抱いて泣きじゃくった。
土崎らにどう声をかけたらいいのか立ち尽くしている。
やがて浅葱色の羽織を纏った、江戸時代の新撰組の人間が静かにに跪きそっと抱き寄せ、
その胸で泣きじゃくる。
その姿に一瞬室内にざわめきが起こるも、近衛はその強面の顔からは想像もつかないような優しい目で
スクリーンの中の部下を見つめた。
やがてスクリーンに移る者達は互いに笑いあったり、を挟んでにらみ合ったりしながら
新撰組屯所へと足を向けたところで映像は途切れた。
砂嵐が舞い上がる映像が数秒流れると、スクリーンは静かに巻き上がり、煌々とした光が室内に溢れる。
微かな痛みを瞳孔に覚え、近衛は眩し気にしぱしぱと瞬きをさせた。
「斎木の件は片づいた。くれぐれも公にならぬように」
スクリーンに向けられていた回転椅子を円卓へと戻しながら、白髪まみれの老人が唸るように口を開いた。
節くれのカサついた指で自慢の顎髭を撫でながら、円卓をギラリ見渡す。
円卓に息飲む沈黙が訪れ、この老人のいや、議長老の言葉に賛同した。
「それで?の処分はどうするのですかな?」
議長老の斜向かいにどっかりと腰を下ろした大男がふてぶてしく口を開いた。
政府直属の軍隊・総監提督の山縣だ。
隣で鋭く睨み付けくる近衛を挑発するように鼻で笑うと、わざとらしく声を大にする。
「新撰組の、13あるうち12の条例を破っておる。これは大問題だろう。」
「だが、斎木を粛正した」
議長老の隣、丸眼鏡をかけたひょろりとした初老の男が山縣に食ってかかるように睨みつける。
「違反は違反だ」
「たがこれであの組織の全貌が見えてきた」
「そもそも斎木は新撰組の人間、あれをあそこまで野放しにしたのは新撰組の責任であろう」
山縣の言葉で円卓から次々に声をあがる。
丸眼鏡−市警隊隊長・吉沢をはじめとする数人がと新撰組の功績を称える一方で、
山縣をはじめとする軍事関係者はまるで待っていましたといわんばかりに非難の言葉を吐き捨てる。
新撰組は警察機構の一環として設立されたもので、正しくは警視庁特殊部隊の一つである。
突撃隊のSAT、交渉を専門とするSITと並び、対キメラとしてここに新撰組が組み込まれているのだ。
そして警察機構と軍はとてつもなく相性が悪い。
特に新撰組はキメラ対策として、どの機関よりも早く設立された上に、構成されている隊員の
ほとんどが警察の者ではないためバッシングの嵐となったのだ。
しかし、新撰組の功績は瞬く間に広がり渋々ながらも認める他なく。
だからこそ、これ幸いと軍をはじめとする反新撰組の者は嬉々としてネチネチとつつくのである。
目の前で繰り広げられる低レベルな口論に近衛は深々と息を吐き出した。
結局のところ、お偉方の実態のわからぬ口だけの争いなのだ。
現場で死闘を繰り広げているのは自分達だというのに。
眉を顰め目を頑なに閉じる近衛に、議長老の目が険に細められた。
カンカンとよく響く音が円卓に響き渡る。
シンと静まる円卓を溜息混じりに見渡すと、手元の書類を持ち上げた。
「今回の斉木の件で、組織の上層部まで喰らいつくことができた。
には引き続き三番隊隊長の任務を遂行してもらう。
新撰組には全力でキメラの殲滅にあたってもらう。軍隊にも組織の所有する
基地を片っ端から破壊する作戦を引き続き遂行してもらう。以上だ。」
まだ興奮が収まりきれない様子の軍関係者は不満そうに声を漏らしていたが、
議長老の鋭い睨みに口を噤み、足早に会議室を後にしていった。
近衛は最後に警察関係者が出て行ったのを見送ると、気だるそうに体を椅子から起こし
目の前の議長老を見つめる。
議長老は相変わらず手元の資料に視線を落としているが、すでに近衛以外の人がすべて
払われていることに気づいているのだろう。
静かに呟かれたその言葉は静まり返った会議室にきんと鋭く響いた。
「近衛。君の容態はどうだね」
ついと議長老の顔が資料から近衛へと向けられる、先ほどの鋭い眼差しは和らぎ
どこか父親を思わせる空気を感じさせながら、近衛も幾分表情を和らげて小さく息を吐き出した。
「少し体力を消耗しておりまして・・・。まだメンテナンスのため溶液に。
そろそろ終わる頃だと思いますが、すぐにでも任務に復帰できるかと」
「そうか・・・」
深々と息を吐く議長老の姿は先ほどの威厳のある表情は消え去り、疲れきった老人そのものだ。
近衛はそんな議長老に顔を顰めて小さく笑うと、ギシリと音を立てながら立ちあがった。
「そう懸念しないでください、松戸様。
政府には人類存続という膨大な役目があるのです。
公安が反政の動きを監視する役目があるように、SATやSITが対テロや犯罪に
全力を尽くすように、我々新撰組はキメラの殲滅に誇りを持ってあたっています。
もそうです」
「わかっている。君たち新撰組は皆そんな真っ直ぐな奴らばかりだ。
だがあいつらはっあいつらはなんだ!上がってくる報告を待つだけで、
現状を省みようともせんっ!!」
顔を赤くさせ悔しがるように憤慨する松戸に、近衛は小さく笑ってみせる。
ポンポンと宥めるように松戸の肩を軽く叩くと、静かに部屋から出て行った。
「あなたがそう言ってくれるだけで俺達は十分に救われてますよ」
廊下は先ほどいた会議室以上に煌々と明かりが灯っていて、近衛は僅かに目を細めた。
ふうっと小さく息を吐き出すと、エレベーターホールへ足を向ける。
先ほど近衛がいた会議室は政府中枢を担う幹部の者しか入ることの許されない場所であり、
その会議室があるこの建物は警察機構・軍隊など政府が管理する機関を統括するところである。
この建物を囲うように警察機構・軍隊・厚生機関などのタワービルが建ち並んでいる。
なんでも300年前まであったアメリカの五角形の政府機関を模したものらしく、近衛がいる全ての機関を管理する
このビルをセンターに警察などの政府に関連する機構のタワービルが五角形になるように
建てられているのだ。ただの真似事かと思いきや、遥か古来から伝わる日本の伝承や、
タワービルが建てられた箇所は地脈という、地球の血管ともいうべきものが走っており、
その上に建てることにより、政府の結束力を強めるとか・・・
そんなことをぼんやりと思い出しながらも近衛は、その考えは的外れだったのではと
思わずにはいられなかった。
地脈の上に政府機関を建てたのなら、ここまで警察と軍隊はいがみ合わないだろうし
もっとましな情勢にできただろうに。
ふと腕時計を見やればそろそろ終わる時刻かと小さく息を吐き出した。
がこちらに帰ってきた途端、ばったりと意識を失ってしまった。
向こうからこちらに戻ってくる際、時間のズレとともに僅かな重力が圧し掛かってくる。
それは向こうにいた時間が長いほど、大きくなるもので。
ほぼ一年、江戸の時代にいたにとってはかなりの負担となり、また斉木の件で弱っていた体に大きな
重力がかかり気絶してしまったのだ。
そのため、通常なら1時間ほどでかかるメンテナンスもその十倍の時間を要する羽目になったのである。
少しは休ませてあげた方がいいだろうと思いつつも、近衛は山済みになっている任務を
思い出し、軽く眩暈を覚えたのだった。
エレベーターで警察機関へのタワービルへと抜ける連絡通路がある階へと降りると、
近衛は真っ先にがメンテナンスを行っている新撰組フロアの一角へと向かった。
すると、目的の部屋からがひょっこりと出てきたのを見とめ、足を早める。
「!」
「あ、局長」
少し焦ったような口調に、はきょとんと振り向きにっこりと近衛に向き直った。
体調を問えば「もうすっかり」とにっこりと微笑むに、近衛もつられて笑う。
二人は並んで歩き出すと、近衛は先ほどの会議での様子を聞かせてやる。
も軍隊に対しては多少の不満を持っていて、軍の話になると少し顔を顰めていたが、
松戸がの体調を気にしていたと近衛が口を開けば、小さい笑みを浮かべる。
「松戸のおじいちゃんにそう言ってもらえるだけで私は救われてるもん。
あ、おじいちゃんにもお菓子買ってきたんだった。局長、またおじいちゃんに会う?」
手にしていた風呂敷包みを解きながら口開くに、近衛は興味ありげに
の手にする風呂敷を見つめた。
ほどけた風呂敷からあらわれたのは、今日では文献や写真でしかみることのできなくなった
ピンクやグリーンなどの色とりどりの金平糖に繊細な模様の干菓子。
「ルナちゃんにもv」と近衛の愛娘の分と紙袋を二つ受け取ると、近衛の表情は
一気にふやけた。ニマニマと嬉しそうに紙袋を見つめる近衛の表情は
いつもの新撰組局長の威厳ある表情はどこへやら、完璧に愛娘溺愛の父親の顔である。
そんな近衛に笑うと、は一つの紙袋を手に取った。
自力で起き上がることもできない同僚の儚い笑顔が脳裏によぎる。
「これ美咲さんの分なんだけど・・・・会える?」
どこか不安げな表情に、近衛の表情が一瞬強張る。
「沖の部屋に行ってみなさい」
「沖の部屋」その言葉にの目が見開かれた。
新撰組に入所すると一人一人に部屋があたえられる。自宅からの出勤は許されずに
また親類とも会えるのは年に数える程度。新撰組に在籍中はここが家であり家族である。
厳しい訓練に、キメラ殲滅の出動。過酷な状況下を行き抜く中で一人一人にあてられた
部屋が唯一のプライベートの空間となるのだ。
その自室にさえも沖は戻ることは許されていなかった。
沖がキメラ殲滅で赴いた場所で蔓延していたウイルスは感染症で、今は医療機関の奥深い場所、
局長である近衛でさえ何重にも手続きをしなければ見舞いをすることをゆるされない
集中治療室に隔離されているのだ。
そんな沖が部屋にいるとなると、それを示唆するのは二つある。
一つは完治。もう一つは死である。
しかし、がむこうの新撰組に世話になる際に土崎は沖のことを「覚悟しておけ」と
苦々しくに伝えていた。
が向こうで任務にあたっている間、こちら半月ほどの時が流れていたが、
はたして半月で容態がよくなるとは考えられない。それほど沖がかかったウイルスは
酷いものなのだ。
そうなると浮かんでくるのはもう一つの示唆。死だ。
そう考えが辿りつくと同時に、は沖の部屋へと走り出していた。
沖の肩で切りそろえられた髪、おだやかな笑顔。まるで日本人形のような美しい
姿がの瞳に涙を溢れさせた。
「一さん、伊東のかっちゃんのことどう思います?」
「・・・目上の者に軽々しくあだ名をつけるのはどうかと思うが。沖田君」
「そうそう、年上は敬わないいけないよ?。な?斎藤さんよ」
「800年後のガキをへつらって敬う気は毛頭ない」
蕎麦屋でのんびりと蕎麦をすする沖田に斎藤は呆れたように沖田を見やれば、
ポンポンと斎藤の肩を叩きながら、土埼が盛大に頷いた。
普段より鋭い目にさらに剣を宿し、馴れ馴れしく肩を叩く土埼の手を払いのける。
一瞬ムッとする土埼だが、思い出しように懐をあさった。
「あ〜そういえばから文を預かってきていたんだっけ?」
「!」
「そうだなあ、斎藤さんはいらないみたいだから、また持って帰るかあ」
「おい」
残念そうに手紙をまた懐にしまおうとする土埼の手首をガッと掴めば、爽やかな笑みが向けられ。
その笑みに斎藤のこめかみがピクリと震えた。
よこせとすごんでみれば、得意そうに見据えてきてさらに斎藤のこめかみが震える。
無言の攻防に沖田は交互に二人を見ながらクスクスと笑った。
「ほらほら年上にはちゃんと敬意を払わねばだね。斎藤さん」
「突いて削いで斬り落とし胴体だけになりたいか?」
「ははv剥いで切って三枚おろしにしてやろうか?」
チャリと互いにの刀の鯉口がなる。
冷気を伴った互いの笑みは寒気がするほど整っていて。
「で?にマジギレされて、半年以上口をきいてもらえなくなって凹むのな」
頭上から飄々とした声な降りかかり、ピシッと土埼が固まった。
沖田が首をめぐらすとそこには着流し姿の山下が長楊枝をくゆらせて呆れたように土埼を見下ろしていた。
ギギギと軋んだ音が聞こえそうなぎこちない動きで土埼は山下を見上げる。
彼の動揺している表情にどうやら、に口をきいてもらえなくなったことがあるらしい。
山下はそんな土埼に小さく息を吐き出すと、クイッと顎と視線で土埼の懐にある文を示した。
渋々と斎藤に渡すのを見やると沖田の隣へと腰をおろす。
沖田はニコニコと山下を見た。
「今回は長かったですね。さんは元気にしてましたか?」
「お〜元気元気。あいつ隊長だろ?斉木隊長の件も含めて
報告やらなんやらでヒーヒー駆けずり回ってるよ」
が未来に戻ってから二年の月日が過ぎていた、しかしむこうでは1ヶ月しかすぎてないという。
の体の慣らしは、期限がもギリギリのところだったことと、体力が予想以上に消耗していて
大幅に時間を要した上に今回はただのキメラ繊滅だけではなく、自分の上司でもあり親でもあった斎木の粛正。
それも初めて組織の幹部クラスまでたどり着け、その事後処理や報告書類の製作にもかなりの時間をとられていた。
また新たに三番隊の隊士を編成しなければならなくなし、その新隊士の試験などにも
まったく休み暇がないと山下は漏らす。
本来ならは斎木を粛正した時点で達のあの時代での任務は終わるはずであったが、
斎木に関わっていた間にキメラが新たに侵入していたことが発覚。
土埼と山下そして倉永と原塚が交代で残っている。
もまた向こうで情報処理という任務を受けていてなかなかみ動きが取れないという。
時折未来へ帰ってくる土埼達から沖田と斎藤からの文や団子、蕎麦など土産にもらい、
話を聞くたびにはニコニコと微笑み、そして時の流れの違いをひしひしと思い知る。
「早くこちらに帰ってくこい」
流れるような文字には力強さも感じられ、文をもらう度に斎藤への思いが膨れ上がる。
自分の住む世界はこちらであるはずなのに、斎藤のいる世界が自分の帰るべき場所なのではないか。
そう思えてくるのだ。
斎藤の手紙を読む度には困ったように笑った。
また先代新撰組の者から土産をもらうという大事に近衛はたいそう喜びこれは挨拶にいかねばと勇み、
また斎藤一からの文を大事に抱きしめる部下に、優しくも複雑そうに見守っていた。
近衛の過ちからできた新撰組条例。
歴史を変えてはならない。
けれどもこのいたいけな少女の嬉しそえな表情を曇らしたくない。
近衛の悩みの種は尽きることはなかった。
「あと俺、三番隊配属になったんすよ。ほら三番隊はあいつしかいないし。」
山下は今までどの隊にも属してはいなかった。
情報処理という新撰組全体のサポートと武器の開発専門だ。
監察や情報収集を主に担当する三番隊なら情報処理専門に行っていた山下なら適応できるし、
何よりがぜひ山下を隊長補佐としてつけたいとの要望があった。
「ほー。お前もとうとう隊に属したかー」
「あ?・・まあな。それに周りでヒーヒー言われてたらこっちもまいっちまう」
土崎のにんまりした表情に、山下は胡散臭そうに見やり口を尖らせた。
「は組長になることを認めたのか」
文を開こうとした斎藤の手が止まり、少し驚いたように口を開いた。
今までも組長、の時代では隊長というがその地位にいたにも関わらずは頑なに隊長と名乗ることを拒んでいた。
斎木のこともあり、隊長という地位を拒んだのだろうしかし、
「あいつはあんまやりたがらなかったけどな。
新撰組の中では古株だし斎木隊長の隣にいたんだから要領も得ていいるし。
何よりあのじっさんの命令となれば逆らえねえだろ」
あのじっさん
山下の言葉に土埼が遠い目をする。
「じっさん?」と首を傾げる沖田に山下はん〜と一瞬考え込み
「沖田さん達からみれば松平容保公のような存在かな?」
「あーなるほどー」
沖田は納得したように頷くと、向かいの席で口元に微かな笑みを浮かべながら
からの文を読む斎斎をニコニコと見つめた。
「一さん嬉しそ〜ですね〜。さんからはなんて?」
そう少し黒い気配を漂わせ問えば、斎藤の顔が一瞬引きつるも黙って文を沖田へと差し出した。
きょとんと首を傾げる沖田に「俺と沖田さん宛てだ」と口開けばわあっと沖田の表情が綻ぶ。
ニコニコと手紙を読む沖田を見やりながら山下が思い出したように小さく声をあげた。
「忘れるところだった。斎藤さん、土方さんが話があるって言ってたぜ?」
長楊枝をくわえながらも器用に口を開く山下に、斎藤は少し緊張が走ったように瞬きをした。
「・・・そうか。では先に戻らせてもらおう」
静かに席を立ち店から出ていく斎藤に沖田は不思議そうに顔をあげる。
「一さんなんだか落ち着かない感じですね。土方さんと何かあったのかな?」
のほほんとした口調にちらりと土埼と山下の視線が合わさる。
「さあ・・」
「まっいいか。」
深く考えることをやめ、沖田は再びからの手紙に釘付けになった。
斎藤さん
沖田さん
先日はお団子ありがとう!
皆で美味しくいただきました。
実はとても嬉しいことがあったのです。
一番隊の美咲さんのことは以前お話しましたよね?
美咲さんは大変重い病で自分では起き上がることもできなかったのですが、
私がそちらいる間に、新たに薬が開発されてその薬のおかげで
美咲さんの容態が回復してきたんです!
まだ一人では立てませんが、布団の上で上体を起こしたり身を乗り出して
物をとったりするまでできるようになりました。
美咲さんは「金平糖のおかげよ」と笑っていますが、
実際、甘いものを適度にとるといいらしく、美咲さんは薬代わりに金平糖を
舐めています。
これも斉藤さんにお店を教えてくれた沖田さん、お店に案内してくれて斉藤さんの
おかげです!
もう少しで粗方仕事が片付きますので、そちらに伺いますね。
お体には十分きをつけてください。
「斎藤。お前を呼び出した理由はわかるな?」
「伊東甲子太郎が動きましたか」
背筋のを伸ばし鎮座する斉藤の前に、胡坐をかいた土方が苛立ち気に煙管を取り出した。
「ああ、奴は九州遊説中に御陵衛士をお上から賜ったそうだ。
数人とともに新撰組から分離する。狙い通り奴はお前を指名してきやがった。」
伊東の行動を探り、その懐に飛び込め。
伊東が新撰組に加入して少し過ぎた頃、斉藤はそう土方に耳打ちされた。
以後、伊東とよく行動を共にし正月早々嶋原に入り浸り、謹慎をくらうなど、
斉藤の行動は部下や周りの隊士を不安にさせていたのである。
しかし、それも全ては伊東の気を緩ませるため。
目論見通り、自分を指名してきたことに斉藤は真っ直ぐに土方を見返した。
「連絡は先日打ち合わせした通りだ。頼むぞ斎藤」
「はい」
それから数日後、斎藤は伊東らとともに新撰組を後にした。
斉藤が新撰組から去って1週間ほどたった頃だった。
西本願寺の境内で沖田と土崎は並んで腰を下ろしていた。
ふーっと沖田からやる気のない声が漏れる。
「はあ・・・一さんもいなくなっちゃってつまらないですねえ」
「そうですね。からかい相手がいないとおもしろくないですね」
うんうんと頷く土崎に沖田はカラカラと笑う。
斉藤と土崎はよく温度の低い言い争いにまでとはならないが、ネチネチと
言い合っているのを隣で沖田はよく聞いていた。
「にしてもあの簾前髪、邪魔じゃないんすかねえ」
うわ言のように漏らす土崎に沖田は思わず噴出す。
「あはは!!僕もそれ思ってました!永倉さんのはなしではあれで間合いを
計っているんじゃないかって言ってましたよ」
ケラケラと笑い声が境内に響く。
おそらくここにはいない、五条の善立寺にいる簾前髪の男が激しいくしゃみをしているのを
想像しながら。
「沖田さーん、副長〜!!」
目尻にたまった涙を指で拭う沖田の耳に、懐かしい声が飛び込んできて咄嗟に顔を上げた。
袴姿に髪を高め結わえた懐かしい姿が、ぶんぶんとこちらに手を振りながら小走りに向かってくる。
その後ろには見かけない男がやはり袴姿で、ニコニコとの後をついてきて。
「さん!!」
沖田の顔に嬉々とした色が差し込む。
「近藤さん!!土方さん!!!ちゃんが帰ってきました!!」
そう寺へと声を張り上げると、沖田はへと駆け寄りバッとを抱き寄せた。
一瞬驚きに声をあげるだが、小さく笑って沖田のしたいようにさせる。
「二年!!二年ですよ!元気そうで本当によかったっ」
怒っているのか笑っているのかどちらにも取れる表情で、沖田はの顔を覗きこむ。
「うおー!ーーーーーーーー!!!」
「久しぶりじゃーん!」
ふと砂塵を巻き上げて突進してくる熊が視界をかすめ、は驚いたように顔を上げた。
熊だと思ったのは別れたときよりもさらに鍛え上げられ一回り体が大きくなった原田で、
こちらに突進してくる。
その後ろから永倉がのんびりとした足取りで向かってきていて。
「くそうっ!二年も待たせやがって!!この二年まともな食事にありつけなかったんだぞう!!
なんでもいいから飯作れー!!」
沖田が抱きついたままに気づいていないのか、原田はと沖田をそのまま太い腕に抱き寄せると
だばーっと滝のような涙を流し、その後で顔を引き攣らせている永倉がいた。
「てめえ・・・俺の作った飯に文句つけるっつーのかい・・・」
「おい原田。総司とがあと一歩で圧死するぞ」
「おー、やっと来たかー!!」
呆れ顔の土方とニコニコした近藤が顔を出し、原田は慌ててと沖田を解放する。
ケホケホと少しむせながらもは土方と近藤に笑って頭を下げた。
「近藤さん、土方さんお久しぶりです。今日は私達の局長と挨拶に伺いました」
「局長?」
近藤たちの表情に僅かな緊張が走る。一同の視線はの後ろへと向けられた。
そこには穏やかな笑みを浮かべた近衛の姿。
近衛はの横に立つと、深々と頭を下げた。
「挨拶が遅れて申し訳ない、が大変世話になりました。
私は新撰組局長・近衛 裕。貴方方のお話は土崎や山下からよく聞いています」
礼儀正しい挨拶、そして近衛から滲み出る穏やかな気に、近藤は破顔して近衛と固い握手を交わした。
立ち話もなんだからとと近衛を寺の中へと案内する。
以前の屯所とは違い広い敷地には新撰組が大規模になったのだなと実感する。
近藤と近衛が何やら楽しげに話しているのを先頭に、は沖田と原田そして永倉と楽しげに
話しをしながら歩いているのを見やりながら、土方は僅かに目を細めた。
それを不思議そうに土崎は土方を見やる。
座敷に通された一同は茶菓子を持ち寄り、局長・副長・助勤関係なく円陣となり
談笑をしていた。
の正式な三番隊就任に祝いの言葉を送り、がいない二年に何が起こったのかを
教えてもらい、またキメラの状況など話は尽きることなく続いた。
やがて、原田と永倉が見回りのため後ろ髪を引かれながら出かけ、沖田も少し横になると
部屋を出て行った頃。
土方は近藤にいくつかの言葉を耳打ちした。その言葉に近藤は「おお」と小さく声をあげ
をちらりと見やる。
不思議そうに首を傾げる未来の新撰組の面々に土方は咳払いをひとつすると、
真っ直ぐにを見つめた。
おーひさしぶりです!一ヶ月振りな更新です!!
でも未来設定上も斉木を粛清してから一ヵ月後のお話なんで、丁度いいじゃん?
みたいなv(回蹴)
斉木粛清のお話の後たくさんの拍手コメントをいただきまして、
その中に「ぜひ、斉木との戦いのお話を」とというリクエストもいくつかいただきました。
まさか番外編でも!とリクエストしていただけるなんて思いもよらず、またオリジナルのキャラクターに
ここまで反響がくるとは思いもせず、本当にうれしい限りです。
番外とも考えたのですが、続きのお話は未来の新撰組から始まるため、
スクリーンという映像を使っての再現をさせていただきました。
一ヶ月振りな更新でいきなり未来、しかもちゃん斎藤さんに会えてないよ!
ですけど、未来の状況を知る上で自分の中では欠かせないお話となっています。
実は今回もかなり書き直しました;。
未来の新撰組で五番隊が出てくるシーンがあるのですが、これはなんの脈略もないので
省いたのですが、個人的には気にって入るキャラだったのでどこかで出せたらなあと
思ったり思わなかったり。
未来の五番隊隊長は武田坂 瑳柳。細い体に長身。自分好きの超ナルシストで
男女・物関わらずかわいいと思ったものには過剰な愛情表現をする。
自称・の良き理解者かつ信奉者。
所構わずちゃんに抱きついてはいつも蹴りを喰らわせられ、笑顔で撃沈。
こんな美味しいキャラっ絶対どこかで使ってやる!!(思い込み)
また一番隊の沖との絡みもあったのですが、こちらも省き。はぶはぶはぶはぶ(キシャーッ)
省いても全然まとまらない阿呆文才・・・うぅ・・・。
読んでくださり、ありがとうございます!
2006/08/17執筆