+己戒 〜けじめ〜+


















 その夜は昼の雨などなかったように晴れ渡っていた。
墨壷をひっくり返したかのような、あるいは高級な漆器を思わせる漆黒の空に
煌く星々は金平糖の如く愛嬌たっぷりに光を放ち。
純粋無垢な童は皆その可愛げな星々に顔を綻ばせ無邪気に空へと伸ばすことだろう。
しかし、久方振りに漆黒の闇が煌々と星たちによって照らされたにも関わらず、
洛中はまるで死んだかのようにひっそりとしていた。
この時刻ならばまだどの店も生き生きと光を灯し、人々が忙しなく行き交うにも関わらず、
大通りをはじめとするすべての家々は蟻一匹の侵入すら拒むかのように固く戸を閉ざし、
明かりも消し互いに息を殺していた。

それは記憶に新しい禁門の変の火がいまだに心から拭えぬものであるとか、壬生に住まう
狼や長州人などを恐れるものとはまた違う空気。
まるで人外の気配を恐れるかのような静けさが渦巻いていた。

そう、彼らが畏怖したのは、ゆらりと不気味に浮かぶとてつもなくでかい赤い満月。

 


千年王城




京の都に住まう者にとって赤の満月は不吉な象徴であった。
陰陽師が政に携わっていた頃より語り継がれる異譚。
赤の月が昇る時は異界の門が開きそこから鬼が現れ、人を喰らう。
奇病の兆候、飢饉、戦。
赤い満月に関わる不吉な影はいつどの時代でも同じ。
冬だというのにどこか生ぬるい空気が漂う中、新撰組屯所は煌々と明かりが灯されていた。
たとえ不吉の兆候である赤の満月が空を舞おうと、彼らの職務は変わらない。
京の治安を維持するため、幕府をまもるため・・・。
壬生狼と称される彼らだからこそ、牙を持つ者だからこそ不吉をもたらす使者に歯向かえるのかもしれない。
近藤は見回りをする二隊を見送ると、人気のない裏へと急ぎ足で踵を返した。
今夜はやけに胸騒ぎがする、それはまるで地上に住まう生物を嘲笑うかのように揺れ浮かぶ
赤の満月のせいだけではなかった。そう、今夜は彼らの一つの決着をつける夜でもある。
いつもは人気のない場所に数人の人だかりができていた。
黒い隊服に身を包んだ少女を取り囲むように立つ数人の男達。



「いいか、俺達はキメラを潰す。お前は斉木だけに集中しろ」


土崎のしっかりとした口調に、指貫の皮手袋をはめながらはゆっくりと頷いた。
高く結わえられた黒髪がしなやかに揺れる。
土崎の後ろには黒の隊服に身を包んだ、原塚と倉永そして山下がそれぞれ自分達の
武器のチェックをしていた。
真っ直ぐに視線を向け頷くに土崎もしっかりと頷いてみせると、傍らに控えている
沖田と斉藤へと視線をめぐらせる。


「沖田さん、斉藤さん。できれば貴方がたには傍観者として同行を願いたい。
極力キメラと対戦にならぬように・・」


本来ならば自分達で遂行するべきことだが、先日近藤と土方に傍観者としての
同行を求められた。見届けたい。
渋る土崎だったが、近藤に頭を下げられては断ることもできず、二人だけならばと承諾した。
そこで近藤と土方は、沖田と斉藤にその役目を与えたのだが、土崎はその人選が気に食わなかった。
腕を組み土崎の話を聞いていた斉藤は静かに腕を解くと、の前に立ちそっと両手で
あどけない頬を包み込んだ。ゆっくりと額と額をつけ諭すように呟く。


「勝て。そして俺のところに戻って来い」


その光景に土崎は不愉快に顔を顰めた。
昼間、雨が降り出したのでを探しに出かけ、斉藤の家で斉藤に抱かれながら穏やかに寝ているを見つけた時、
フツフツと煮えたぎるものが体の底から這い出てくるような感覚におそわれた。
愛しげにを髪を撫でるこの男に、の心を揺るがすこの男を、自分を嘲笑うように
見据えてくるこの男が腹立たしい。憎らしい。

 
「時間だ。


憂いを帯び、しっとりと目を伏せるに、ざわつくものを感じ
土崎は力任せにの腕を引っ張ると、原塚達の方へと踵を返した。
一瞬、土崎と斉藤の視線が激しく合わさる。斉藤はどこか挑戦的な笑みを土崎に向け、
その余裕な態度に土崎の心は荒れる一方で。
だが、今はそんなことにかまっている暇などない。
山下の手にある斉木へと取り付けた発信機の光は、すでに京の街へと現れている。



は下を行き、まっすぐ斉木へと迎え。俺と原塚、倉長は上から援護。に余計な消耗をさせるな。
キメラを全て叩き伏せろ。山下はの後ろから俺達の援護だ。
お前は戦闘員じゃねえからな死なない程度に無理をしろ」


達の表情は昼間とは程遠いもので、沖田と斉藤は一瞬を目を見合わせると、
それぞれの刀を握り締めた。
近藤と土方に激励の言葉を受け、は風を斬るかのよう外へと飛び出した。
山下に示された位置はすでに頭にインプットされている。
ふと、視界に入るギリギリの上空で黒い影が横切った。歪な巨体に角のようなものが数本。
それがへと襲い掛かる。
が、それは地上へ降り立つことなく、灰と化していく。
原塚の槍が角をへし折り巨体を串刺したのだ。それをみとめつつもの足は止まらず
地を蹴っていく。
彼女の前は今にも落ちてきそうな巨大な赤い満月。ゆらりと波立つ輪郭はまるで
月が哂っているかのようにも見え。
ふと、は目を細めた。
視線の先、赤い月を背負うかのように佇む一つの影がこちらを見ている。
金色の細い目がゆらゆらとを楽しげに見つめている。
白く抜けた髪、白く光る鱗状の肌。割れた口元は蜘蛛の巨大な毒牙とその口をなぞる牙。
右腕が肩口から抉れ、妙に細い左腕はダランとだらしなく垂れ奇妙に傾いて立ち尽くしていた。





「もはや人の形を保っているかも、自我があるかもわからねえ」




山下の声が脳裏に響く。










[・・・イタ・・・イ・・タ・・ス・・ケテ]




もはや人の口ではないそれから零れた機械のような言葉にはくっと歯を食いしばった。
























































−センセー−


、家にいる時は私は父親だよ?


−/////お・・・お父さん//−


はいvなんだい?




お父さんの笑顔はいつも穏やかで、優しくて。いまだ新しい家族に慣れない私を
困ったように笑いながら、優しく頭を撫でてくれた。















−キメラなんか大嫌い!!あれは私のお父さんとお母さんを・・・!!−



そうだね。でも?キメラもまた悲しい生き物なんだよ?







憎むことしかできなかったキメラの見方を変えてくれた。



























、全ての戦いが終わったらお父さんと世界旅行に行こう。
そうだな・・の大好きなイギリス・ギリシアからがいいね。


























。私の大切な宝物だよ。






































脳裏に穏やかな父の顔が浮かぶ。













どうして貴方は道を踏み外してしまったのだろうか














キメラを理解するあまりに狂ってしまったの?


















それなら









私が終わらせよう













「お父さん・・・」






視界が揺らぐのを堪えながら、は刀を抜いた。









































「ったく、すごい量だな」


「これじゃあ、土崎さんが言った「僕たちに戦わせたくない」というのは無理ですね」


「そうだな、これは刀の手入れが苦労する」


「「・・・・・・・・・・・」」



山になりつつある灰を見やって斉藤はさも疲れたように息を吐き出すと、
沖田もやや疲労気味な溜息を吐いて小さく笑う。
が、達はかなり先にいっているため二人しかいないはずの空間に第三者の返答があり、
斉藤と沖田は少し驚いたように、その人物を見やった。


「あれ?緋村さんどうしてここわかったんです?」


「山下が知らせてくれた」


「あの男・・・」



険を宿したまま答える緋村に、斉藤はここにはいない飄々とした男の顔を思い出して毒づいた。
あの山下という男の考えることは今ひとつ掴めない。土崎とよく行動しているため、
土崎の言いなりかと思えばそうでもない。
自分も政府に属しているというのに、平然とそれをけなしていたりと斉藤はどこか山下の
言動が気になっていた。
それは昼間、斉藤の家での出来事。いつも浮かべている飄々とした表情とは打って違って
憂いに満ちた笑みを浮かべながら零したあの言葉が気に掛かっているせいもあるかもしれない。

ふと、緋村の柳眉がぴくりと跳ね、斉藤は周りを取り囲むキメラたちが急に停止したことに
気づいた。斉藤達を喰らおうと飛び掛ろうとしていた猿のようなキメラがたたらを踏み留まり、
達が去っていった方角へと頭を向ける。
どこか怯えたようなキメラ達の動きに斉藤達は怪訝そうに顔を見合わせた。
突然その方角から突風が吹いてきて、斎藤は思わず目を瞑った。袖で風を避けつつ視線を
そちらへ向けるが、何も見えない。
が、その直後斎藤達を取り巻いていたキメラ達が次々に咆哮を上げて、空へと消えていった。
そしてあたりに静けさが戻ると同時に何かが吼える声が鼓膜を突く。
ハッとして駆け出す、咆哮が聞こえた先はが向かった場所。斉藤の顔に狼狽の色が走った。








































土崎達はそれぞれ武器を収めると灰となった斉木を抱きながら泣きじゃくる
を見つめていた。
玉のような涙をひっきりなしに零し、咽喉をしゃくり上げ、ぐちゃぐちゃになって泣くを。



「お父さん・・・っく・・お父さん」




新撰組を裏切り、人類を裏切った男


けれどもにとってはたった一人の家族。例え血の繋がりがなくとも。
にとってかけがえのない家族だったのだ。



三番隊を全滅させ、自分も殺そうとした親。



何度も憎もうと思ったことだろう。












駆けつけた斉藤達が見たものは、小さく蹲って泣きじゃくる少女だった。

まるで迷子になった子供が必死に親を求めるかのような仕草。
灰を何度も掻き集めては抱き、泣きじゃくる姿に斉藤はそっと足を踏み出した。
蹲り見ためよりも小さく震える背中を抱きしめ、そっと頭を撫でれば
ぐしゃぐしゃに泣きはらした真っ赤な目が見上げる。





「とても酷いことをした人だった・・・新撰組を裏切って、三番隊の皆を殺して

人の道さえも踏み外した・・


だけどっ


私にとっては大切な家族だったんだ。


そんな人を・・・私は・・・私は・・・・」






「ならば斉木も本望だろう」




引き付けを起こし始めたの体を強く抱き寄せ、体の震えを押さえ込むように
少し言葉を強く囁けば、目に涙を一杯浮かべたが不思議そうに斉藤を
覗き込む。





「慕われている者の手で死んだのだ」








揺れる視界


体を包む温かさ


強めに抱きしめるその腕がの呪縛を解いたようだった。













斉藤の腕の中では涙が枯れるまで泣いた。
そんな小さな少女をあやすようにたえることなく頭を撫でてやる。
灰と化したあの男は、にとってどれだけ大きな存在であるか、
話でしか知らないものに、斉藤は想像をするしかできなかったが、腕の中で
泣きじゃくる少女を見ればかけがえのない存在であったのだろうと察する。
そのかけがえのない者を自らの手にかける辛さは、本人でしか解り得ないものだろう。
他人がかける言葉などはない。いやかける言葉など必要ない。
黙し抱きとめてやるだけで十分だ。

徐々に落ち着きを取り戻すの顔を覗き込めば、それに答えるように小さく笑いかけてくる。
それはもう十分に泣いたありがとうと取れ。ゆっくりとを立たせると
土崎へと視線を走らせる。
一瞬ぴくりと眉を潜めるも、土崎はを引き寄せそっとその頭を撫でた。
原塚と倉永もへと駆け寄る。山下はゆっくりとの元へ歩み寄るとこつんと
軽めにの頭を小突く。




「辛い仕事をさせたな」


「ううん・・・部下として・・娘としてのけじめをつけさせてくれてありがとう・・副長」


「よおしっ!斉木隊長の墓はちゃんと作ってやるぞ!」


「あれだな、隊長が好きだった酒ちゃんと供えてな」


がしがしと原塚がの頭を掻き撫で、倉永はけらけらとの顔を覗きこむ。
その嫌味のない二人のやり取りに、はにっこりと笑った。
そして静かに斉藤へと振り返ると、ゆっくりと頭を下げる。


「斉藤さん。沖田さんそして緋村さん本当にありがとう」


目を赤くしながらも、やっと心の底から微笑んでいるかのような笑みに
斎藤達も静かに頷く。そしてスッとに手を指し伸ばした。


「帰るぞ」


一瞬目を丸くして斉藤を見やれば、小さく頷かれ。
は一瞬躊躇するも、ぎこちない笑みを浮かべてそっとその大きな手に手を伸ばした。



































ぱし。
















「世話になったな斉藤さん!!君達と別れるのは寂しい!いやっ本当っ」


「おい」



の手を取ろうと瞬間、横から別の手が伸び斉藤の手を掴んだ。土崎だ。
ぶんぶんと力任せに握手をしながら、カチカチな笑顔を浮かべて斉藤に微笑む。
ぱちくりと目を見開くに、原塚と倉永は呆気に取られたように口を開き、
山下は呆れたように息を吐き出した。
目を据わらせる斉藤を無視して、土崎はにっこりと微笑む。
その背後から何やら黒いものを醸し出して。



「事後処理のため今夜はこのまま帰らせてもらうよ」

「ああ、さっさと帰れ、お前一人でな」


斉藤も負けじと外ヅラ用の笑みを浮かべて、1トーン低い声で応戦する。




ピシ



斉藤と土崎に亀裂が走った音を確かに達はきいた。
しかし、斉藤も土崎も妙に穏やかな笑みを浮かべたままだ。しかし、それから滲み出る気は
殺気染みていて。
土崎はさらに斉藤の手を握る力を込めながら、にっこりと笑みを深めた。


「ははっ、な〜に言っているんですか斉藤さん。皆連れて帰りますよ。
無論もね


「ほおう?屯所で帰りを待ちわびている近藤さんや土方さんに報告、挨拶なしで
帰るとは、未来の新撰組副長は礼儀知らずなことだな」



「っ・・・」


声を詰まらせる土崎に斉藤はニヤリと笑うと、思い出したように声をあげた。


「そういえば、君達が来てから随分と食物が不足してね?一人ならまだしも
4人増えたのはちょと苦しいと土方さんが漏らしていたか」(言ってない)


「っ;」


「ああ、あと人の家の敷地内に無断で侵入してくれたな。
あの家は人から借りているものでね。土崎さん、あんた庭の木を蹴り飛ばして
出て行ったでしょう。あの木が傷んでしまってね」(大嘘)


「ぐ;」



「まあ致し方ない。かなり無礼な者だったと言っておこう」


穏やかな笑みを浮かべる斉藤に、土崎の顔から見る見ると血の気が引いていく。
は二人の冷気を伴った言い合いに首を傾げると、山下へと振り向いた。


「ねえ?副長、斉藤さんと何かあったの?」


「・・・・・・自覚がねえなら、放っておけ」


「え?私?!」



慌てるに息を吐き出すと、山下は沖田へと視線を巡らせた。
その様子にクスクスと笑う沖田に、山下も疲れたように笑ってみせる。
そしての腕に抱きしめられている、原塚達に手伝われ小さな壷に収まった、
灰と化した斉木を見やって再び息をついた。





(ま、これで新撰組内は落ち着いたか)







「あ。まだ落ちつかねえか、こりゃ」



目の前で温度低い睨み合いをしている斉藤と土崎を見やると、山下は退屈そうに大きく
欠伸をした。









「ふ・・副長;斉藤さ〜ん;。落ち着いてぇ」


「案ずるな。今この無礼な副長殿に話しをつけているところだ」


「退け。お前に擦り寄る邪魔な虫はこの俺が排除してやるからな」




今にも抜刀しそうな勢いの二人に、はあたふたと斉藤と土崎の袖を引っ張るも
二人がに向ける眼差しは柔らかいもので。
しかし、再び互いに目を合わせた瞬間、周りの空気が一段と重くなり。
狼と鬼が睨み合い、餌食?となるであろう栗鼠が慌てている様子に
もう一匹の狼が小さくほくそ笑んだ。
ゆっくりとおどおどしている栗鼠に近づくと、ポンと軽く肩を叩く。


「沖田さん・・どうしよう〜・・・」


助けてといわんばかりに眉を潜める栗鼠−に、沖田はにっこりと笑う。


「うん、この場合はね放置しておくのが一番良いんだよv
疲れたでしょ?先に屯所に帰ろうねv」


そういってサッとの手を取ると、沖田はニコニコと笑いながら屯所の方へと
踵を返した。
原塚達にも「放っておいて帰りましょうv」と促すと、一瞬呆けるもすぐさまニヤリと
口端を上げ、原塚と倉永は沖田とに続く。
山下も付き合ってられないと鼻で笑うと、緋村の肩をポンポンと叩いて踵を返した。




「むっ!!おい、原塚っお前らどこへ行く!」


「どこへって新撰組の屯所ッすよ」


「夜遅いし、こっちで少し休んでから帰りましょうよ副長」


「あと、近所迷惑な。お二人さん」



土崎の問いに原塚と倉永がダルそうに答え、シラっと山下も相槌を討つ。
口端をぴくりと引き攣らせる土崎の横で、斉藤はの手をとる沖田を見つけた。
にっこりと沖田が斉藤へと振り返る。



「一さんvどうぞごゆっくり〜v」

「なっ・・っ・・・」


ニコニコとを手を取りサッサと帰ってしまう沖田と半ば引きずられるように歩き出すに、
斉藤も足早に足を踏み出す。沖田と斉藤の様子に土崎はさらに口を引き攣らせた。


「おいおい・・・まさかあ・・・あの沖田さんまでを狙っているのか?」



斉藤が沖田(と沖田に手をつながれている状態で走らされている)を追いかける
姿に土崎も慌てて駆け出す。

その様子をゲラゲラと見やる原塚と倉永。
山下は「あーうっせー」と欠伸をしながら、隣を歩く緋村を見やった。



「で?そっちの方はなんとかなりそうか?」


「ああ、桂さんも斉木に対して随分警戒していたからな。
これでまた彼らとは敵同士に戻るさ」




斉藤と沖田のやりとりを眺めながらどこか寂しげに笑う緋村に
「ふーん」と横目で緋村を見やりながら山下は気のない相槌を打った。



「まっいいか」


「?・・何か言ったか?」


「いんや?」






こいつに会うのはこれで最後だろう

数年後に迎える新しい時代へと生き残る男。

俺達が来たことでその命が縮まらないことを祈ってるか。



ぽりぽりと頬を掻きながら、山下はポンッと緋村の肩に手を置いた。




「まっ縁があったらまた会おうや」


「?・・・・あぁ、そうだな」



ニヤリと笑う山下に一瞬不思議そうに目をしばたかせるも、小さくも
本当に嬉しそうに緋村は笑った。

空を支配していた赤い月がいつの間にか、純白の神々しい光を放つ
美しい満月に変わっていた。
斉藤達を気にしつつも、土崎はそっと美しい満月を仰ぎこれで一つの役目が
終えたことを再認識する。








「これであとはあの組織の殲滅か・・・・決着は鳥羽伏見になるかもな」




これで全てを終えたわけではない。
斉木は組織にとってたった一つの部品にしか過ぎなかったのを、土崎は
調査で知った。組織は確実に勢力を伸ばしその威力は未来の世界を滅ぼす。
そうだ、自分達の戦いはまだ始まったばかりなのだ。


それでも


そう言葉を詰まらすと土崎はすっと沖田に手を引っ張られている
それを見てゲラゲラ笑っている原塚と倉永、
そして緋村と珍しく楽しげに笑っている山下を眺めた。
この時代に来る前の達はどこか憔悴しきっていた、笑ったり冗談を言ったりもしていたが
決して心の底から楽しそうには思えず、どこか疲れを漂わせていた。
そしてこの時代に来て達は本当に楽しそうに笑っている。
ここは本当に居心地がいいのだろう、土崎自身もその居心地さに心を落ちつかせていた。



フッと小さく笑い、コートの衿をしっかりと立たせる。








少しだけ


ほんの少しだけ


刀を握る力を弱めて


心地よい陽の光を浴びるのは罪ではないだろう



そう



少しだけなら











!お前条例12破ってるからな、帰ったら覚えてろよ!
局長の説教スペシャルコースだ」


「うそおっ!!」


「安心しろ、お前はもう戻る必要はない」


「そうそうvずーっと僕とお団子食べれるからねv」


「そういやあ、買ってきてもらった団子まだ食ってねえや」


「おっ!団子あるのか?!食ってみてぇ!」


「それよか酒だろ?酒。かっくらって寝てえ気分だぜ俺はよ」


「それなら薦めのものがあるぞ、原塚殿」


「本当か?!緋村っち!」


「緋村っち・・・」











空の隅が徐々に白んでいく。


斉藤達のやりとりににっこりと笑いながら、はきゅっと灰壷をしっかりと抱き寄せた。










お父さん?


私は戦います。


キメラは悲しい生き物 存在してはならないもの


お父さんもまた悲しい存在だった


だから


これ以上悲しくならないために



私は



戦います。








どうか黄泉の世界から見ていてください






























後書きという名のちょろ書き

どうもっ、はよう本腰いれたくて飛ばし気味に感じているKirisaです。
これでやっとっやっと!歴史にそった話しに繋げられる。はず(おい)
WEB拍手でたくさんのメッセージをいただき、本当に嬉しく思います。
かんなり特殊な設定の連載だと自分でも思っているので、最初は
引かれた方もいらっしゃるようですが、それでも続きを早く!と
お言葉をいただけると本当に嬉しいです活力です!
そんなわけでもっと早く更新しような自分!

2006年7月5日執筆