「草壁哲矢ぁぁぁぁぁあ!!」




「ん?」



「死ねぇぇっぇぇぇぇぇえ!!」


「なっ!?」





ドゴォォォッ





「ワォ!いい飛び蹴りだね」

















+らぶだーりん+











爽やかな朝だった。
小鳥がさえずり、肌刺すような寒さではあるけれど、吐き出される息が白く染まるのさえ
どこか楽しく思えるそんな清々しい朝。
そして珍しく登校してくる生徒に違反が見られず、校門に寄りかかり腕を組んでいた雲雀恭弥は
実に良いことだと内心頷きながらもその反面退屈していた。

風紀委員長である彼にとって風紀を乱すものは万死に値し、重度の違反者には武力を持って制裁をあたえる。
けれども今朝に至ってはそれが全くなく、大変好ましいことなのであるが、
闘争心旺盛な彼にとって咬み殺す相手がいないのは実に物足りないものであり、
例えるなら「いちごがのっていない、いちごパフェ」のようなものだった。




(あ、いちごパフェ食べたいかも)





そう小さく溜息をついた時だった、
道の向こうから砂煙を上げてこちらへと向かってくる人間を目にしたのは。
ぼんやりとそれを眺めながらも、なにかおもしろいことが起きそうな胸騒ぎに思わず口端が
上がりそうになるのを押さえ込みながら、こちらへと全速力で向かってくる人に目を細める。


(殴りこみ?決闘かな?ワォ最高だね)


内心ウズウズしながら、向かってくる人が女と気づいた時、その女は校門に目当ての
人物を見出したのか、さらに速力を早めて目当ての人物であろう名前を叫んだ。
その叫ばれた名前は聞き覚えがあるもので、思わず固まる。
素早く視線を校門前へと走らせれば、登校してくる生徒を鋭い視線でチェックしている自分の部下。
副委員長の草壁哲矢は叫ばれた自分の名前に不思議そうに顔を上げ、ハッとした表情を浮かべた瞬間には
吹っ飛ばされ、そのきれいな飛び蹴りに雲雀は思わず拍手をしていた。

ザザーとその巨体が学校敷地内へと蹴飛ばされ、その前に蹴飛ばした少女が両手を腰に当てて立ちはだかる。







「死んだか哲矢!!死んだら返事しな!!」



「っの・・バカかっ!お前バカかっ!!!死んだら返事できんだろう!!
なんでお前が並中にいる!!というかなぜ俺を蹴る!!!!」




「哲矢だから」



「意味がわからん!!」



すぐさま復活した草壁は仁王立ちしている少女を睨みつけた。
普通の生徒なら即気絶なり大怪我をしていただろうが、そこは流石風紀副委員長というところか。
草壁は蹴られた腹を摩りながらも立ち上がると、自分よりはるかに小さい少女を苦々しく見下ろす。
少女はここ並盛中学校のものではない制服に身を包んでいて、それは隣町の、黒曜中学校のものだった。


「まったく・・・・相変わらずだなは」

「へへっ」


飛び蹴りをかました少女−は先ほどの凄まじい殺気はどこへやら、草壁に溜息混じりに名前を
呼ばれるとキラキラと目を輝かせて微笑んだ。それにつられて草壁も思わず小さく笑う。



二人の間にのんびりとした空気が流れると同時に




二人の周りでが一気にブリザードが吹き荒れた






後日聞いてみると


「びっくりしたよ!!あの草壁さんをいきなり蹴り飛ばすなんてあの子普通じゃないよ!」
↑二年生T・S君


「そしたらよ、いきなり恋人ムードじゃねぇか!あの風紀員の草壁がだぜ??!!」
↑二年生H・G君


「あの草壁さんが顔赤くしてるのなーv」
↑二年生T・Y君


「なんかそこだけ極限に花咲く野原が広がってたな!」
↑三年生R・S君


そう、泣く子さえも死に至らしめると恐れられている堅物だらけの、恋愛なんて鼻先であしらっていそうな
風紀員の副委員長と、絶大な威力を見せ付けた飛び蹴りはこの際見なかったことにしておいて、
勝気そうだがまたそれがかわいらしい少女の組み合わせは生徒達に多大なるショックを与えたらしい。
そしてここにもいろんな意味でショックを受けた人物が一人。




うそぉぉー!!
あの草壁だよ?!腐ってもあの草壁を蹴り飛ばした上に
なにこのあと一歩で青春ドラマに突入しそうなこの空気!!
ちょっと他の生徒見てるよ草壁!
風紀を乱す奴らを取り取り締まる君が一番乱してどーすんの!!
あれ、なんか僕放置?ちょっとムカつくんだけど、寂しいんだけど。
咬み殺していいかな
あ、でももし草壁の彼女であとで恨まれたら厄介だな。
それに茶菓子出してくれなくなったらヤだし・・。)



と内心トルネードを巻き起こしていた雲雀は寄りかかっていた
壁から離れると、ゆったりとした歩調で二人へと近づいていった。







しつこいようだが、もちろん内心は激しく葛藤中。







「草壁」


「委員長!!申し訳ありませんっ。・・とこいつは」


「よ!雲雀恭弥だろ?哲矢からあんたのことよく聞いてるよ」


「おいっっ」


「?・・ふぅん」

























+++++++++++++++++++++++++







「で、何しにきたんだお前は」



これ以上騒ぎが起こるのを懸念して、雲雀は渋々ながらもと草壁を応接室へと
促した。
応接室に着くと草壁は改めてと呼ばれた少女を雲雀に紹介する。



 

幼馴染で家が隣同士。

二人とも空手をやっていて、小さい頃から道場に通っている。

ワォ、草壁武術やってたんだね、どうりで他の委員とは違うはずだよ



「隣同士?だったらなんで君は黒曜中学校に通っているの?」


区画によって通う学校が指定されている。草壁の隣家ならば
並盛中学校に通っているはずだろう。
そう意見を述べる雲雀の問いに草壁とを顔を見合わせた。


「私と哲矢の家の間が丁度並盛と黒曜の境なんだよ」

「何その微妙なライン!」

「委員長もそう思いますか?自分も思います。」


とりあえず、お隣さんというのはわかった。ではなぜ彼女はここにきたのだろうか。
そう問う前に草壁がをチラリと見やって問いただす。
草壁の問いに本来の目的を思い出したのか、はむうと頬を膨らませた。



「だってだって!!哲矢最近ぜーんぜん道場に来ないんだもん!!」


「・・・・・あぁ・・そのことか」


「そんな簡単に言わないでよね!私と哲矢が一番長いから
哲矢がいないと組み手にならないし、師匠からは力を半分以下にして出すようにと釘刺されちゃうし、
それにそれに・・・道場の帰り道哲矢がいないと寂しいんだもん!!」







哲矢がいないと寂しいんだもん


哲矢がいないと寂しいんだもん


哲矢がいないと寂しいんだもん


哲矢がいないと寂しいんだもん(以下壊れたテープレコーダーよろしくエンドレス+エコー付き)







「・・・////おまっ・・っったく・・委員会の仕事があってな、なかなか顔を出せんのだ」


「委員会って風紀の?」


「あぁ、師匠にはちゃんと連絡してある」


「うん、知ってるよ。でも・・でもね!哲矢は学校行くのいつも早いし
帰りもすっごい遅くて、道場にも来ない・・・日曜日も学校に行っている
みたいで全然に会えないしさ。
いつも二人で食べてたあのたい焼き屋さんのたい焼き、一人で食べても全然おいしくないっ。
・・それにそれに・・・いつもならさっきの蹴りくらい簡単に回避できる哲矢がっ
あんなにも
あんなにも
あーんなにも
無様に吹っ飛ぶなんて!!!
だめ!!哲矢っちゃんと道場に来なきゃだめだよ!!
私より弱い哲矢だなんて、ただのリーゼントの塊だよぉ!!」


「・・・そうだな、最近どうも鈍っている。しかし」

「しかしもでももなーい!!!」


口ごもる草壁にスパンとが声を張り上げた。
同時に勢いよく立ち上がったに草壁はただただ目を丸くする。
この雰囲気からすると、次に右ストレートが飛んでくるだろう。そう若干
身構えるが次の瞬間はそのかわいらしい顔に影を宿した。



「そんなんだから・・この間みたいに・・黒曜中の生徒に襲われるんだよぉ?」



きゅっとスカートを握る手が微かに震えている。



「・・・すまん、。俺はに心配かけさせてばかりだな」


「そーだよ!!哲矢が犬ちゃんに襲撃された時はもう気が気じゃなかったんだからぁっ」


ガバッとは草壁に抱きつく。
草壁は小さく笑いながら優しくの頭を撫でると、目を潤わせた可愛らしい瞳がうるるっと草壁を見上げた。




「だからねっ道場に来てよぉ」




哲矢と組み手したいよ






「あぁ。だがなぁ」


「そんなに風紀委員の仕事が大事?」


?」



困った顔を顰める草壁に、の目が僅かに細められた。
心なしかから冷気を伴った怒気が漂っている気がしないでもないが、
気のせいではないであろう。
可愛らしく潤ませられていた瞳は瞬時に冷たいものへと変わり、草壁をまっすぐに見上げている。



「朝早くて帰りは遅い上に休みもままならないなんて、風紀委員を仕切ってる俺様な奴はどこのどいつかしら」


「おまっ何言ってっ!?」



ギンッとは鋭い視線を窓に寄りかかっている雲雀へと突き刺した。
突然のの発言に草壁の全身が一気に凍りつく。今目の前の幼馴染はなんていった?
はゆっくり草壁から離れると、雲雀へと体を向ける。



「そうよ、あんたよ雲雀恭弥。
哲矢を束縛するにもほどがあるわ!何が並盛の秩序よ!ただの我が儘坊やじゃない!」


「やっ・・やめんか!」

「哲矢は黙ってて!」

ぴしゃしと草壁の言葉を遮る。



「勝負よ雲雀恭弥。
私が勝ったら哲矢を道情に行かせるの。どう」


「別に草壁が進んで仕事しているんだから、僕を責めるのはお門違いもいいところなんだけど、
いいよ闘ってあげる。
君の言うとおり君が勝てば草壁に道場へ通う時間は免除するよ。」


















































「いっ委員長待ってください!!お前もやめんか!!」


「哲矢、審判して」


「草壁、僕が勝ったらヒバードの世話も頼むよ」


「だからやめてくださいってばぁぁぁぁ!!」





(大体ね、この僕を差し置いて僕の応接室で何堂々と二人の世界繰り広げて
いるんだよ。あれでしょ、絶対僕の存在忘れてたでしょ?
ヒバードが音をはずしまくった校歌を21回もリピートしてたのに気づいていなかったでしょ?
それを聞き抜いた僕の身になってよね。
何度も「草壁ーお茶ー」とか「お腹空いたー」って言ってたのにぃ!!
ワォ無視だよ無視!この僕を無視だなんて草壁のくせにぃぃぃ!!
許せないよねぇ!!
咬み殺すしかないよねぇ!!
もうっすっごいイライラしてた時に、喧嘩売られたら買うしかないよね?
断る奴がどこにいる?
やったね僕!今日やっとトンファー出せるーvv)



つまりは不貞腐れて寂しかった雲雀君なのであった。
応接室では狭いし備品を壊したら後々面倒だということで、
場所を屋上へと移し、と雲雀は対峙していた。
その間で草壁はオロオロと狼狽えながらも、なんとか二人の決闘を
やめさせようと試みてみるものの、二人は草壁が目に入らないのか
互いを睨みつけたまま。

チャッ

と、微かな金属音がして草壁の顔色が一気に青ざめる。
その音は何度も聞いた音・・・雲雀のトンファーが構えられた音だ。

「きなよ」

「うわ・・なにあんたえっらそ!!」



雲雀の声にカチンときたはタンッと地を蹴った。
草壁を押しのけることでさらに助走をつけて雲雀の懐へと突っ込んでいく、
不敵な笑みを浮かべて雲雀はトンファーの持ち手に力を込めて、上体を捻った。


「正直すぎるほど真っ直ぐに突っ込んでくるね・・でもそんなんじゃ・・・なっ!!」


「隙がありすぎだよ」
そう続けようとした言葉を雲雀は驚きで飲み込んだ。微かに見開かれた瞳に映ったのは
振り下ろしたトンファーの持ち手を両手で押さえ込みながらニッと笑う
はそのままトンファーを持つ雲雀の手を押さえ込んだまま、再び地を蹴ると
雲雀の上を飛び越え、着地寸前に遠心力を用いて雲雀の背中を蹴りつけた。
「くっ」と小さな呻き声とともに雲雀の体が前のめりになるが、倒れることはなく
ダンと踏み出した足に力を入れて堪える。が、瞬時に雲雀も体制を整え方向転換すると
着地した咲夜へと再びトンファーを振り下ろした。


押して引いて、そして引いて押しての攻防がどのくらい続いただろうか。
・雲雀の両者は疲れることを知らぬかのように互角に戦っていた。
最初はの一方的な感情が強かったが、今はどちらも闘いを楽しんでいるかのようで
草壁も止めることを諦め、ただ目の前で繰り広げられている闘いに釘付けになっていた。

譲らない闘いに終わりは来るのだろうか。



終わりは呆気なく訪れた。



激しい攻防が続く中、突然の視界に黄色い物体が覆った。



「ダメ!ダメ!!ヒバリイジメル、ダメ!!」


「きゃっ。ちょっ・・何この鳥ぃぃ!!」


「カミコロスヨ!カミコロスヨ!」


「チャンスってやつかなv」


「!!?っしまっ・・・」


小鳥が何か一生懸命に叫びながら、ぺしぺしと羽での顔を叩く。
痛くはないが、の視界を遮り躊躇させるには十分な威力で、
小鳥に気を取られたは雲雀の目が好機に光ったことに身を強張らせた。
ギラリと光るトンファーが自分へを振り下ろされる瞬間、
訪れる痛みを覚悟して目をギュッと瞑った。




















いつまでも訪れない衝撃と痛みにうっすらを目を開けたは目を見張った。
しゃがみこんだ自分の目の前には黒くて大きな背中。






「哲・・矢?」



草壁がを庇い、その額からは一筋の血が流れていた。
それを淡々と見下ろす雲雀。






「何のつもり草壁」


「っつ・・いくら委員長といえどもを傷つけるのは我慢なりません」


「・・それで庇って自分が怪我したら元も子もないんじゃない?」


が怪我がないなら俺はそれでいいんです」


「ふうん・・・・つまらない、やめた」



カツンを踵を返して歩きだす雲雀に、は慌てて草壁の前に回りこむ。



「哲矢っ・・血が出てる!!」


「お前は怪我ないな?」


「っ・・バカ哲矢!!なんで出てきたりしたの!!」


「バカとはなんだバカとは!!お前に怪我でもされてみろこっちの身がもたん!」


「!?・・・哲矢ぁ・・」


「っとにお前は相変わらずだなぁ」












「草壁、道場に行くことだね」

「え」

「委員長?」






の手を借りて立ち上がると同時に、雲雀の思いもよらない言葉が
零れ、と草壁はきょとんと顔を見合わせると雲雀を見やった。
先ほどを襲った小鳥が雲雀の肩に止まり、それを眺めながら雲雀は腕を組む。



「確かにここ最近の草壁は腕が鈍っている。そんなんじゃ副委員長は勤まらないし、
僕としても弱い君なんか置いておきたくない。いい?これは命令だよ。
道場に出て腕磨いてきなよ」


「委員長・・ありがとうございます!」


「勘違いしないでよね、僕は弱い風紀員なんかいらない。それだけだ」


そう吐き捨てると今度こそ雲雀は踵を返して、校内へと消えていった。
キュッと抱きついてくるに小さく笑うと、その手をとって校内へと促す。


「見てろよ、すぐにお前よりずっと強くなってみせるからな」

「む、私だって哲矢に負けないよ!!」


「バカか本当にお前は・・・・」

「なっ・・何よ!!」














「お前が俺より強すぎたら、お前を守れんだろう」


「・・・・・・哲矢ぁぁvv」












きゅっと草壁に飛びつくに呆れたように笑って、そっと
小さな背中に腕を回した。
二人の上では青空が広がり、ヒバードが悠々と飛び回っていた。
























〜おまけ〜






「はい、あーんv」

「んv」







パク







「ん。うまいな味噌味か?」

「うんv あと生姜をいれたのよ、このつくね!」

ますます腕あげたじゃないか。・・それは?」

「かぼちゃ茶巾だよv」

「食わせてくれv」

「うんv」







「おいしい?」

「おいしいv」





















ボキッ













「あ・の・さ!」

「?恭さんどうしましたか」

「何よ恭弥ぁ」


「人が書類整理している前で夫婦睦まじく弁当広げないでくれる?他で食べてよね」



「「えー」」



「えーじゃないよ!ここ仕事場なんだけど!」




僕は十年たってもこのバカップルな部下2人に振り回されていたりする


「ヒバリヒバリ、オッカレサン」


「うん、本当お疲れだよ」


「ハードッコラショット」


「・・・・・・君ね;」










哲矢大好きです。風紀が好きです。
ヒバードも風紀員の一員だと疑いません。
本誌に哲矢が出るたびに悶えます。

重症だよお前。


本当は後半に黒曜トリオが出てきてたんです。

草壁君が襲われ頭きたヒロインちゃんはクラスメイトだった骸達を
ボコし病院送りにして、骸達に恐怖を植え付けるっつーなんとも
バイオレンスなヒロインでギャグ終わりだったんですけど
あまりにも長くなるのでカット。
でも、ヒロインに怯えるトリオという図がすっごい気に入っているので
何かの機会で書けたらいいなと思います。

2007年12月13日執筆