「とりあえず、これだけは覚えておいてもらえるかな?
その他細々したものは慣れながら覚えてくれればいいよ」


「はい」


そういってツナさんは私にメイドマニュアルなるものを手渡した。
革張りの重厚なファイルの表紙には銀細工でボンゴレのエンブレムが
施されていて、ボンゴレ代々に携わるメイドがいかに重要かつ
いい加減な気持ちではいけないものかと思い知らされる。

だけど・・・


これだけと簡単に仰りますが・・・


このファイルの厚さ・・タウ○ページ並!!





それにしても、ボンゴレのメイドに対する対応は半端ないような気がしてならない。
夕食後、案内されたメイド部屋に入ると同時に私は唖然とした。
あ、和食を所望された夕食の席で、ボス・十代目・ご主人様そして幹部の方々に様づけで呼ぶことを禁止された。
それならと苗字でお呼びしたら、「名前で呼んでよ」ときれいにはもった返答があって。
若干名、様をつけられることに喜びを感じ、禁止になったことに相当口を尖らせていたけれど、
すぐさまツナさんの飛び蹴りが炸裂していた。グローブをはめながらなぜか飛び蹴り。
骸さん、二度も蹴られて体大丈夫でしょうか?その前にはなにやら鼻血を出して気絶してたし。

と・・そうそう私の部屋はツナさんや幹部の皆さんの私室がある階の一番隅。
鍵を渡された際、ツナさんは申し訳なさそうに

「一番隅でしかも狭くてごめんね」

と言ってたけど・・・




とんでもないぃぃぃ!!



なんなの高級マンション最上階も真っ青なこの間取り!!
古城を改築して使っているけど、内装は現代的に改装されつつも
アンティークを基調としていて、壁はベージュ地に薔薇のモチーフが散りばめられた壁紙。
家具は全て使い込まれ美しい光沢を放つアンティークで揃えられていた。
インテリア会社に勤めてた私は、ちょっとだけど家具の年代やその良さが見分けられる。
このお部屋の家具・・イタリアで最高級のアンティークメーカーのものだよっ
だってだって!取っ手は燻銀のアイアンで、このフォルムはメーカー特有のものだもん!!
おそるおそる寝室への扉を開けてさらにびっくり。
ベッドも同メーカーの・・・ししししししかもクィーンサイズで天蓋付き!
ふわっふわの羽毛布団のカバーにも薔薇が取り入れられていて、
サイドテーブルのこの照明も・・た・たしかン百万はするほど希少なものじゃない!!

開いた口が塞がらないっ


じゃ・・じゃあ洗面室や浴室は??
意を決して浴室を覗いたら、っひゃー!!どっどうしよう!
女の子なら一度は憧れたよね?!映画や海外ドラマでそんなシーンを
見ては「あー私も入ってみたーい」と胸焦がれた・・・


猫足のバスタブー!!!


やーん!日本じゃ滅多にないお風呂!!しかもアパートだったから余計ね!
これはもうっ映画で夢見た泡風呂や薔薇の花びらを浮かべるしかないよね?!
バスタブも縁が凝った加工がされていて、壁は日本ではパネルが主流になってきているのに
総タイル張り!!ここにも薔薇のモザイクが施されているの!!




え・・ちょっと待って?
どこが狭いんですか?セレブでもこんなお部屋はなかなかないよきっと!!
ツナさん・・・ひょっとしてお部屋間違えたんじゃ・・・・・

そうマニュアルを両手で抱きしめたまま青ざめていると・・



「どう?気に入った?」


「!ツナさん!!」



パッと振り返ると、開け放たれた浴室のドアの枠に腕を組んで寄りかかり、
楽しげな笑みを浮かべているツナさん。
もっもしかしてポカンと圧倒されている間抜けな顔を見られてた?!
そう思った瞬間急に頬が熱くなって、わたわたとファイルを抱え直す。



「ツッツナさん!このお部屋他の方と間違えているんじゃありませんか??!!」


このお部屋広いってもんじゃないですよ!


そう続けようとした言葉はツナさんが私の前を横切ったことで飲み込まれてしまった。
私の慌て振りがおかしかったのか小さく噴出すと、浴室の壁際まで歩み寄ってきて
薔薇のモザイクのところをトントンと指で叩いてみせる。


「間違ってないよ、ほらこの薔薇がその証拠」

「薔薇?そういえばこのお部屋至る所に薔薇の模様がありました」


壁紙
ソファの背もたれ
クッション
布団カバー
カーテン
タッセル
トレー
カップソーサー
クローゼットなどの扉の浮き彫り・・・

これでもかってくらいに薔薇の模様が使われいる。



「うん、薔薇はね、ボンゴレではメイドに贈られる称号なんだ」







嫉妬






「―主に敬意を表し、愛情を持ち温かい心で仕え、主にふさわしいメイドであれ―

・・初代ボンゴレがメイドを雇った時にね、花言葉から引用してその花の称号を与えたんだ。
だから、明日から着てもらうメイドの服にも必ずその称号のブローチをつけてね」


そういってツナさんは私の手を取ると、その上にツナさんの手が被さりコロンと何かが転がってきた。
それは小さなブローチ。
ボンゴレのエンブレムだけれど、贈られてきた書類の表紙や抱えているメイドマニュアルの表紙の
エンブレムとはちょっと違っている。
そう、私の手に収まったそのブローチにはボンゴレエンブレムの周りを薔薇の蔦が囲っている
カメオのブローチだった。





「ボンゴレに相応しいメイドに・・ねv(訳・俺だけに敬意を表し、俺だけに愛情を注げばいいよ)



そうにっこり笑うツナさんに、なぜか背筋がちょっと肌寒かった。
なんでだろう?




























翌朝 AM7:00



「俺朝はトースト派なんだ」

「俺はシリアル」

「米と味噌汁があればいいのなー」

「俺はパンケーキ・・蜂蜜じゃなくてブドウのジャムでお願いします」

「卵かけご飯は譲らないよ」

「うむっ!朝は1日の活力だからな!極限腹に溜まるものがいいぞ!」

「うまければなんでもいいぞ」



食堂に来るなり上から
ツナさん
隼人さん
武さん
ランボさん
恭弥さん
了平さん
リボーンさん
の口からこぼれた言葉にピシリと固まる。


はい、今日の朝食

五穀米
大根のお味噌汁
厚焼き出し巻きたまご
お漬け物数種
ほうれん草のごま会え


一瞬不服そうな顔をした数人の人ににっこりと笑う。
手にしていたものをキュッと握りしめ。


「何かご文句でも??」


「「「あるわけないし!」」」


(今包丁持った手力込めたよな!絶対込めた!)


ツナと隼人、そしてランボは包丁を握りながら爽やかな笑みを浮かべるの背後に
斧を持った夜叉が見えたような気がした。
彼女は戦うことができないというから、おそらく難なく交わし包丁を取り上げることが
可能だろうが、昨日見たまるで瞬間移動のような駿足で目の前に迫られたら
こちらの反応が遅れるだろう。
ツナ達は微かに顔を引き攣らせて乾いた笑みを浮かべると、山本達へと視線を流す。



「おっ穀物入り飯か!久しぶりだな!」

「まあ、たまご焼きあるからいいか」

「これは極限にいいな!」

「味噌汁なんて久しぶりだな」


彼らはサッサと席について箸を進めていたのだった。
それを微かに半眼で見やるとツナも自分の席へを腰を下ろす。
同時に温かくおいしそうな湯気を昇らせる、穀物ご飯が差し出され、
手に取れば思わず食欲が掻き立てられた。




「極限におかわりだ!」

「はーい」


茶碗を差し出す了平にはにっこりと笑う。
昨日、メイド試験の場にいなかった笹川了平は任務のため不在しており、
今朝方戻ってきた。ツナは朝食前に簡単にを紹介し、それを受けて
は気持ちの良い挨拶をした。それが笹川了平に響いたようで、
それに加えて彼の舌にの朝食が合ったのだろう、彼はまるで今さっき
会ったとは思えないほどの人懐っこい口調で熱心にに話しかけている。
そんな姿に山本の笑みに微妙に黒いものが浮かび、雲雀のポーカーフェイスが
微かに不快気に歪んだのをリボーンは見逃さなかった。
チラリとツナへと視線を走らせれば、山本同様穏やかな笑みを浮かべているが
内なるドス黒いツナが背後にありありと見えているし、
獄寺もどこか不服そうに出し巻きたまごをつつきながら、了平を睨みつけている。
ランボもぴくりと動いた手が、スーツ胸ポケットにしまわれた角に伸ばしかけていて・・





(おもしろいことになりそうだな)




そう、一人ごちながらリボーンはニヤリと笑った。








「・・・・そういえば、骸さんは?」



は一つだけ空いた席を不思議そうに見やった。
山本の隣、そしてランボの向かい席である骸の席。
任務で出かけているならば、前もって知らされることになっているが
そんな連絡はなかった。もしかしてまだ寝ているのだろうかと
首を傾げていると、「あぁ」と思い出したようにランボは味噌汁から顔を上げた。



「骸さんはいつも朝ご飯食べないんですよ。極度の低血圧で起こそうならば
槍と幻術が襲ってきます」

「しかも実態のスキルのな」


少し顔を青くさせるランボに、獄寺が付け加える。
そんな獄寺も心なしか青ざめているようで、おそらく二人は
骸の餌食になったことがあるのだろう。
「そうですか・・」とは頷いて骸の席の器をさげた。

朝食が済み、いよいよ本格的にメイドの仕事へと取り掛かる。
昨晩ベッドの中で覚えたマニュアル仕事リストを頭の中で
反芻しながら廊下を歩いていると、カチャリとツナの部屋のドアが
開いた。


ちゃーん!あ、そこにいたんだねよかった。
ちょっとネクタイ上手く結べないんだ」

「これ新しいネクタイですね。
新しいものや、いつもと違う素材のものって結ぶ感覚違いますもんね」

「そうなんだよ、結んでくれる?」

「はい」






「なあ?俺のジッポ知らねーか?」


ツナのネクタイを結び終え再び廊下に出ると今度はその隣の部屋の
ドアが開きキョロキョロと下を気にしながら獄寺が出てきた。
を見つけると困ったように「気に入っているやつなんだと」と
付け加え。


「それでしたら、先ほど食堂で・・・・これですか?」

エプロンのポケットから先ほど皆が帰った後のテーブルで
見つけた、凝った模様を象ったジッポを取り出して見せれば、
パッと獄寺の顔が明るくなる。



「あー!それだ!!そうか忘れて来てたのか・・ありがとうな!!」


再び部屋に戻っていく獄寺を見送ると再び廊下を歩き出す。
ふと前方から任務に向かうのだろうか、山本が
スーツを着て出てきた。扉を閉めるその袖にふとの目がとまる。


「武さん、袖のボタンが取れかかってますね」

「お?本当だ。さっきまでちゃんとついてたのにどっかで引っ掛けたのかな?
そうだ、縫い付けてくんね?」

「はい、じゃあスーツ脱いでくれますか?」








さんさん!」

「はーいなんでしょうかランボさん」

「僕の角見ませんでした??!!」

「あら、先ほどメンテナンスに出されましたでしょう?」






「ねぇ、ヒバード見なかった?」

「えっと、たしか先ほど庭の・・・」



!!指切ってしまった!極限に消毒してくれ!!」

「わわっじゃあそこに座ってください!!」






「俺のグローブ片方知らない?」

「ボムの紙巻くの手伝ってくれないか?」

「バイクのキー忘れたのなーv」

「飴持ってませんか??」

「着物、糊付けしておいて」

「極限に腹が減ったぞー!!昼飯ー!」

「アルコールランプの燃料切れちまったぞ、俺はサイフォンでしか飲まねえからな」

「恭さんの茶菓子に何かないか?」

「お菓子なんかない??できれば駄菓子がいいぴょん」

「ニット帽のポンポン取れた・・つけて」

「あのね、骸様の好きなものはね甘いものなの。でね?辛い物がとても苦手なの」




「他の奴はいいからここにいなよv」

「いいか?他の奴はともかく十代目にはしっかりとだな・・」

『ははっ悪いないきなり電話してよ!声聞きたかったのなv』

「散歩に行きませんか?バスケットに飴をつめて」

「眠い、膝かして」

「うおー!教えてやろう!極限とはだな!」

「・・・スピー」

「いいか?恭さんの好みの茶はだな・・」

「ねー駄菓子巡りしたいぴょん!!いろいろ案内するぴょん!」

「それよりクラブの方がいいよね?」

「それでね、骸さんの好きな服は体のラインが出るものよ。だからあのチュニックは捨てて」









なんか・・違わない?私メイドだよね?
メイドとしてここにいるのよね?
まるでお守りしてる感覚なのは気のせい??しかもだんだん
メイドとは関係ない方向に行くし、新たに出会った恭弥さんお付きの
草壁さんは妙に恭弥さんのお話ばかりするし、
骸さんの部下のクロームさんは草壁さんとはまた違った、骸さんの
好みのお話ばかりでしかもそれを私に押し付けてくるし!!
息つく暇もないほど、駆け回ってるような;
先輩メイドがいると思ってた私が愚かだったわ!









メイド私一人だけ!









私の知識では
書類整理には秘書がいて
料理は料理人がいて
メイドはその他の細々したものだと思ってたんだけど!


書類整理も
料理も
掃除洗濯家事全般
全て私一人ー!
10時と15時にちゃんとお菓子タイムがあるマフィアなんて聞いたことないよ!
うん、今わかった。すっごいわかった。
ボンゴレのメイドさんがなぜ長続きにしないのか一日目ドーンとわかったよ!









っ。ああ、そこにいたんですね!?」


「?・・・・骸さん?」


廊下でひっそりとうなだれていると、向こうの方から


キラキラと


キラキラと



満面の笑みを振りまきながら
全力疾走してくる骸さんが近づいて


近づいて


近づいて


近づい・・ドンッ



「うっ」


速度を落とさないまま私に抱きついた。


うぅ、すごい衝撃ぃ・・


骸さんはというと、なんだかもう幸せ満ち足りた表情で抱きしめてきて私の頬に頬に


頬摺りしてるのぉぉぉ!



「ちょっむっ骸さん?!」



「あぁっ会いたかったですよ咲夜!早く貴女に会いたくて一週間かかるところの任務を
二時間ほどで終わらせてきました!」


「そっそうなんですか;骸さんすごいですね」


「んー、これも愛故ですかねv」


満ち足りた表情で咲夜に擦り寄っていた骸はいい子いい子と
の頭を撫でパッと前に立つと、ニッコリと整った顔に笑みを浮かべての顔を覗きこんだ。
それに少しばかり後ずさりして、も負けじと柔らかい笑みを浮かべてみせる。


「はあ・・それよりツナさんに報告しなくていいんですか?」

「えーいいんですよっそんなの後にすれば」

「よくねーよナポー」



ぷうっと頬を膨らませてみせる骸の後ろから低い声が響いた。
ひょこんと骸の影から顔を出せば、グローブをはめながらツカツカと
歩み寄ってくるツナ。



「骸、お前また勝手に始末つけてきただろう。今回は時間をかけなければ
結果がでないってあれほど・・
「だって!そんなことしたら咲夜に会えなくなるじゃないですか!!
も僕に会えなくなるなんて寂しいですよね??ね?」

・・・うん、お前いっぺん死んでこいよほんとv」




ギリギリとグローブをはめたツナの手が骸の頭を鷲掴みにする。 微かにミシミシと軋んだ後が響いて、「いたたたっ」と顔を歪め本格的に痛がる骸。
それを冷たく見やると、ツナはニッコリとした笑みをへと向けた。



「こいつはいいから、他のことやってて?」

「あ・・はい」

「ちょっ!!ダメですよっ、僕まだランチを食べてないんです!」

「お前のランチは俺の部屋の湿気たクラッカーを与えてやるよ。さっさと来い!」








「不思議な子ですね」

「何が」



浅く頭を下げ去っていくの後姿を、ツナに首根っこを掴まれたまま寂しく眺めていた
骸だったが、の姿が完全に見えなくなるとやれやれと諦めにも似た溜息をついて
薄く笑う。
ツナの手が緩むのを感じで、そう呟けばツナは怪訝そうに骸を見やった。







「今までの子は僕が抱きついたら、気絶するか舞い上がって
抱きつき返してきていたのに・・
もしかして僕のフェロモンに魅力を感じないとか?!!
ちょっどう思います?!綱吉!!彼女大丈夫でしょうか?!」


「うん、お前が大丈夫か」


「これは一大事ですよ!!」と真剣に悩む骸の頭をかち割って
構造を見てみたいととこれほどに思ったのは初めてかもしれないと、
ツナは疲労感を露に息を吐き出す。
そんなツナに気に止めることなく、骸の顔には不敵な笑みが浮かび。


「クフフv今までのとは違いますね。彼女なんというか・・・」


「?・・・骸?」


微かに、だがどこか儚さと嬉しさを含めた笑みを浮かべている骸に、
ツナは顔には出さないが僅かに首を傾げてた。
ツナの問いには答えず、しばしそんな様子でが消えた廊下の角を
見つめていた骸だったが・・



「・・・・いえ、なんでも。・・・あぁ、報告でしたね」


「あぁ。頼むよ」




二人は並んで静まり返った廊下を進んでいった。




















彼女には



どこか



闇を思わせるものを感じられるんです



















08年1月22日執筆 ここまで序章とかいって。長いよ。