(陰陽少女 特別番外編〜10年後〜)
+ありがとう+
雪が溶け、緑の草花が顔を出し、小川にさらさらと心地良い風が流れる。
梅の花が終わりをつげ、桃の花が芽吹きはじめた頃。
ホグワーツから遠く離れた東の国―日本。
深い山々に囲まれた平原には立っていた。ほんの少し冷たい風に、長い髪を遊ばせながら目を閉じて空気を感じる。
少し両の手を広げればサワサワと新緑の草原が音をたてた。
「気持ちいい・・」
そっと目を開ければ、穏やかな陽の光が差し込む。
ここはが生まれ育った場所、家族が静かに眠る場所。すがすがしい空気をおもいっきり吸い込むと、ゆっくりと振り返った。
「お母さん達にもこの草原が見えますか?」
黒い墓石。そこに刻まれた母親・父親・祖父の名前をそっとなぞると儚げには微笑んだ。
「あなた方とわかれて十度目の春になりました・・・」
コツンと墓石に額をつけば、ひんやりとした感触が伝わってくる。
それと同時に脳裏に浮かび上がる家族の笑顔。もうその笑顔に会えることはないけれど・・・
「お母様!」
一吹きの疾風とともに、鈴を転がしたようなかわいらしい声がの鼓膜を振動させた。
ふわりと振り返れば、にっこりと微笑み見上げてくる愛娘の姿。
と同じ黒い髪に、黒曜石のようなかわいらしくるんとした瞳。肩で切り揃えられた髪にはタンポポの花がつけられていた。
「お話終わった?皆待ってるよ!?」
「えぇ、今行くわヒミコ」
そう微笑んでヒミコの頭を撫でれば、嬉しそうにヒミコが目を細めた。母親の手をとりながら墓石ににっこりと微笑む。
「そろそろお母様返してねvお婆様、お爺様、曾お爺様!」
また来るからと、墓石にお辞儀をするヒミコに答えるようにサワサワと草原が揺れた。
母と娘、仲良く手を取り合って丘の上とゆっくり歩き出す。
ふと顔をあげるとの夫であり、ヒミコの父親であるセブルスがこちらに歩いてくるのが見えた。
「お父様v」
の手から離れて父親に抱きつき、「これから行くところだったのよ!」と微笑み見あげれば、
セブルスは優しく笑って、ヒミコの頭をかき撫でた。
「ジョン・ウィーズリーにカイル・マルフォイが待っているぞ?」
そうほんの少しだけ悪戯っぽく笑って促せば、「本当?」と少し焦ったように丘の上と走っていく。
「お母様とお父様も早くv」そうニッコリと振り返ってパタパタと駆けて行く、ヒミコのかわいらしい後姿を眺めながら、
セブルスはフッと笑った。
自分の手に温かい感触が伝わって、ふと振り返ればフワリと微笑んだの手が自分の手の中に納まっていて。
その笑顔に応えるように優しく握り返せば、そっとがセブルスに寄り添った。
2人、ゆっくりと丘の上へと歩き出す。
「気持ちいい風・・・」
「あぁ」
「でも、まだちょっと冷たいかな?」
「そうだな」
独り言のようなの呟きに、素っ気無いセブルスの返事。
けれども、2人を取り巻く空気は、辺り一面に広がる草原のようにとても穏やかだった。
遠くの方より、鶯の声が聞える。
サーッと駆け抜ける風がの長く黒い髪を美しくなびかせ上げた。
「セブルス」
「何かね?」
「ありがとう」
少し間をおいて紡がれたの言葉に、セブルスは眉を顰めてを見た。
美しい微笑をたたえながら、自分の手を握るの手がほんの少し強張った。
「?」
怪訝そうにの顔を覗き込めば、恥ずかしそうに頬を染めてが俯く。
「うん・・・あのね・・」
「おらあ!おせーぞ!セブルスッ!!早くしろ!!!
ー!!早く来いよーvvv」
そっと口を開きかけたの声を、苛立った声が掻き消した。
セブルスはその声の主に、また愛しい妻の告白を邪魔されたことで眉間の皺を寄せて、
ギラリと丘の上を睨みつけた。
「五月蝿い、黙れ、そして消えろブラック」
「んだと!!」
「ふふふvダメよセブルス。せっかく皆集まってくれたのだから」
不機嫌さを全面に出してシリウスを威嚇するセブルスを宥めながら、はクスリと笑った。
丘の上で腕を組んで仁王立ちになりながら、見下ろしているシリウスに「今行くわ」と微笑めば、
「おう!」とシリウスがニッカリと笑う。
「なんであんな奴が来るのだ」とブツブツ文句を言っている夫に苦笑いをしながら、
行きましょうvと先導をきって手をひいた。
「やあっやっと来たねvもう挨拶は済んだのかい?」
丘の上に聳え立つ一本の大きな楠。
その下に大きなシートを広げて、お弁当を広げて、見慣れた顔ぶれが揃っていた。
皆集まってのピクニックも、もう毎年のこと。
桜の季節が来る前に行うのは、マグルに目立たぬようにしているから・・・
パーカーにジーンズとマグルの服を着込んだルーピンは、ゆったりと胡坐をかきながら
チョコレートを頬張っていた。
そんな少年っぽい姿に笑いながら、はにっこりと頷いた。
「よおし!なら始めようぜ!!」
をシートへと促しながらシリウスがパンパンと手を叩く。
「ちょっとシリウスおじさん!靴脱いで!!」
「ん?ぉお!」
土足のままシートへ上がろうとしたシリウスに慌ててハリーがビシッと靴を指差した。
「悪い悪い」と頭をかくシリウスに「まったく!」と溜息をつくハリー。
卒業後よりも背が伸びてグッと青年になったハリーだが、相変わらずクシャクシャな黒い髪に
キラキラとしたエメラルドグリーンの瞳。学生の頃の雰囲気がいまだに残っている。
唯一変わった・・というのであろうか?一つ上げるとすれば、
風に揺られて見え隠れする髪の下。・・学生の頃はくっきりとあった額の稲妻の傷跡が、
今では目を凝らして見なければわからぬほどに薄くなっていたということだ。
それは魔法界に安らぎが訪れた証でもあり、ハリーを覆っていた闇が拭いきれたという証拠だ。
「シリウスったら子どもみたいねv」
栗色の髪を風に遊ばせながら微笑んだのはハーマイオニー・ウィーズリー。
もつられて微笑みながら、ハーマイオニーの横に腰をおろした。
「ジョンといい勝負だぜ?」短く刈った赤い髪、シリウスと並ぶほどの長身のロンがケラケラと笑う。
その隣では長いプラチナブロンドの髪をゆるく縛った、ドラコが薄く笑った。
「だー!笑うなー!」
変わらぬ顔ぶれに、変わらぬ笑顔。
それでもハリーの笑顔が普段よりも明るいのは、もうすぐ彼の子どもが生まれるから。
あまり見ることの出来ない、ドラコの笑みが晴々としているのは家名に縛られることがなくなったから。
ドラコは二年前にマルフォイ家の栄光、名誉を全て捨て去り、ただのマルフォイ家の主として道を歩き出したのだ。
今は、彼の妻と息子。そしてこれから生まれくる家族の4人で静かに暮らしていくであろう・・
サンドイッチと温かい紅茶、アップルパイにハーブサラダ。
美味しい料理に会話が弾む。
シリウスがギャグを言えばハリーとルーピンの厳しく突っ込み、ルーピンが「僕とシリウスいまだに独身なんだよ〜」と
セブルスに泣きつけば、「我輩に言い寄るな!」とセブルスが怒鳴り。
セブルスがドラコの近況を真剣に聞いてくれることに、ドラコは安堵の表情を浮べ、
ロンがドラコと息子自慢の話で言い争いを始めたならば、ハーマイオニーが笑いながら怒り・・・
どんなに声を荒げても、のんびりとした空気が流れていうのは
お互い心を許し合える仲だから。
はふと空を見上げてみた。
大きな楠の枝が、ざわざわと音を立てて揺れている。
青い空にのんびりと流れる白い雲。
素晴らしい天気に、素晴らしい仲間達。
共に暗く冷え切った闇の中を、戦い抜いた大切な仲間達。
傷つき何度も倒れそうになるたびに、手を差し伸べてくれたかけがえのない仲間。
永遠に離れ離れになった同窓生もいる。闇に身を投じてアズカバンに入った者も・・
そっと瞼を閉じれば、昨日のことのように思い出される暗黒の日々。
どれだけの血が流れたのだろう・・・・
は闇の帝王の最後を、闇との戦いに重症を負って入院していた病院で知った。
多くの仲間が犠牲になった闇との攻防。
私は今・・・生きている・・・・。
「?」
静かに瞼を閉じているの耳に、ハーマイオニーの声が木霊した。
目を開けて「ん?」と首を傾げてみれば、「どうしたの?」とやや心配したハーマイオニーの顔が瞳に映し出される。
その表情に「いい天気よね」と笑ってみせれば、ハーマイオニーも「そうねv」と微笑み返した。
大切な仲間・・・もう離れたりしないように・・・・
ハーマイオニーと家の話しなどをしながら、は心の中で小さく、けれども強く願いながら呟いた。
「お父様ーv」
ヒミコがパタパタとセブルスへと駆け寄ってきた。
「どうした?」と優しくこたえれば、二ヘラと笑ってセブルスの頭の上にポンと白い花で
作られた冠を置く。
ふわりと花の冠から甘い香りが流れてくる。
「ありがとう」と優しく微笑み、ヒミコの額にキスをすればほんのりと頬を染めたヒミコが
嬉しそうに子猫のように目を細めて微笑んだ。
「へへーvお父様はこの丘の王様ーvv」
「そ・・そうなのか?」
「うん!」
「じゃー。僕とシリウスはさしずめ王様の側近ってところかな?」
ルーピンがニッコリとヒミコに笑いかければ、「そうかもv」と笑い返す。
「いやあv俺はヒミコ姫の王子様がいいなあv」
「かわいいお嫁さんだなー」そうシリウスが笑えば・・
「おい、貴様」
とセブルスの目が光った。
「かわいい娘を誰が貴様にやるか!」
ヒミコを抱き寄せながら、ギラリとシリウスを睨みつける。
シリウスが「んだと、コラ。俺はまじだ!」と食い下がるのをルーピンが殴り飛ばしながら、「ははーv何言ってるのシリウスv」と笑う。
そしてにっこりとヒミコへと視線を移して、「でも・・」と付け加えた。
「お妃様の冠はないのかい?」
そうに視線を走らせながら、悪戯っぽく笑うルーピンにヒミコが「アッ」と声を上げた。
「これから作るのv」そう声をあげるヒミコのもとに2人の少年が駆け寄ってくる。
「ヒミコ!早く来いって!」
そう急かすのは、赤茶色の髪にそばかす。ジョン・ウィーズリー。
「リスもいたよ!」
ブロンドの髪に今日の空と同じスカイブルーの瞳のカイル・マルフォイ。
ヒミコとジョン、そしてカイルは皆同じ9歳。
ジョンとカイルに手を引かれながら、駆けて行くヒミコを見送りながらルーピンがにっこりと微笑む。
「微笑ましい光景だね〜vいつかは結婚なのかねv」
その言葉にセブルスの顔に刻まれる、眉間の深い皺。
「貴様らっ!娘に手を出したらただでは済まさん!」
「だー!!!スネイプ先生!!落ち着けって!!!」
「そうですよ!!まだ子供なんですから!!!」
すごい剣幕でヒミコたちを追いかけようとするセブルスを慌ててロンとドラコが止める。
クスクス笑うルーピンにハリーは「リーマスおじさん・・タチ悪い」と溜息をついた。
丘の上からは咲き誇った桃の花が一望でき、まるで絨毯のように輝いている。
途切れることのない笑い声・・・・・・・・・
陽が傾きかけ、肌にかかる風が少し痛み始めた頃。
それはピクニックの終わりを告げる合図。
名残おしそうに、今度夏に会いましょうとそれぞれの家に戻っていく。
とセブルス、そしてヒミコは今晩近くの人里に泊まっていくことになっていた。
楽しい一日に疲れたのか、ヒミコはセブルスにおんぶされながら、小さい寝息をたてている。
一番星が輝くのを眺めながら、とセブルスは並んでゆっくりと丘を降りていった。
「楽しかったv」
「あぁ、騒がしすぎるくらいにな」
そう静かに呟いたに、呆れ気味に呟くセブルス。クスクスと笑えばセブルスが怪訝そうに
「何がおかしいのかね」とを見つめる。
「だって・・ヒミコがジョンとカイルと遊んでいる時のあなたの顔ときたら・・」
とてもおもしろかったわvと微笑むに、スネイプは深い溜息をついて苦笑いをした。
人里の灯が眼下に見えてきた頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
背中にぴったりとくっついて眠っているヒミコを背負っているために、セブルスがほんの少し疲れたように溜息をつけば、
がそっとヒミコを揺り起こす。
「ヒミコ。起きなさい?」
「ん〜にゅう・・・」
「もう着くから・・歩きなさい?」
「にゅー・・はーいv」
コシコシと目を擦るヒミコをそっと降ろしてやれば、「ありがとう!」と父親ににっこりとお礼を言う。
タッと軽い足音を立てて、先を走っていくヒミコを眺めながらまた2人並んで歩き出す。
「お母様!先にお宿に行ってもいい!?」
「転ばないようにね」
「はーい!」
そよそよと風が揺れる。
いつの間にか空には一面に星が広がっていた。
セブルスがそっとの手を握れば、驚いたようにが顔を上げる。
優しく微笑み見つめてくるセブルスと目が合うと、もつられて微笑んだ。
「そういえば・・・先ほど"ありがとう"と言ったが・・・・」
思いだしたように呟くセブルスに、は「あっ」と声を上げた。
そして頬に差込む、ほのかな朱色。
「やだ・・覚えてたの?」そう呟きながらも、は小さく息を吸って空を仰いだ。
「ありがとう・・・本当にありがとうなの・・・。
いつも傍にいてくれて、支えてくれて、窘めてくれて・・・
こんなちっぽけな私が、あなたの奥さんなんて・・・・私幸せすぎて・・・・」
ありがとう
もう一度、そう呟けば。「そんな他愛もないことで・・」とセブルスが苦笑いをする。
私にとっては大事なの!ほんの少し頬を膨らませてセブルスを見やれば、
そっとセブルスの手がの頬に添えられた。
驚くを見つめながらセブルスが囁く。
ありがとう
ほんの些細なこと。けれどもそれはかけがえのないことであって。
なんでもない、そのまま流されてしまうようなことも、どんなに大切なことか・・・
は知っている、どんなに小さなことがどんなに幸せなのかを。
セブルスも知っている、その幸せが妻と娘がいるから感じられることを。
「これからも長い道を共に」
そう呟きながらそっと口唇を重ねれば、こたえるようにがそっとセブルスに寄り添った。
2人を包む、二つの花冠の甘い香り。星空が丘の王と后を見守るようにそっと輝いた。
それから3年後、2人の愛娘が幼馴染のジョンとカイルとともにホグワーツに入学する。
穏やかな魔法界。
その3人に手を焼くスネイプ教授だけど、そのお話は機会があったらまたどこかで・・・
ずっと書きたいと思っていた「陰陽少女」のその後!
何を今更・・・(自嘲の溜息)
えぇ、もうオリジナルもいいところで申しわけありません。
まずはお2人の娘を絶対出したかったのです。
時期はちょうど今ぐらいですね。桃の花の季節で!
桜なお話は多いと思うんですけど、桃の花にちなんだ話はないかなとか。
って、ちなんでないじゃん!
いいんです。桃の花と書ければ(ぉおい)
のーんびーりな感じで。(大無理)
そしてこのサイトもなんとか1周年を!!(ぱんぱかぱーん)
いつもお越しくださる皆様に「ありがとう」の心を込めて・・