失われた・・
「lost graduation」
忘れないで・・・・忘れないで・・・・・・
冷たい地下牢の研究室でスネイプはゆっくりと瞼を開いた。
ホグワーツはまもなく卒業式を迎える。卒業する者、送り出す者・・・
学校全体が落ち着かない気配で・・・・
この時期になると必ず思い出す。忘れていたわけじゃない・・忘れるはずがない
ただ、この時期になると・・・・鮮明に甦る記憶。
忘れないで・・・・
「忘れるはずがない・・・」
スネイプは一人呟いた。その声は冷たい空間に木霊する。
「・・・残念ですが、彼女にはもう・・・私達の力ではどうしようにもありせん・・・」
病院の廊下−
白い白衣を着た中年の男が彼らにそう告げた。
ダンブルドアは悲しそうに深い溜息を吐き、彼女の母親であろう女性は声をあげ泣き叫びその夫が妻を抱き支える・・・
ジェームズ・リリー・リーマス・シリウス・ピーター・・・・・・そしてセブルスはただ呆然と立ち尽くした。
まもなく卒業式を迎える時期に−
シリウスは男の胸倉を掴んで大声を上げた。
「どうしようもないだと!?てめぇ!それでも医者かよ!!」
今にも殴りかかりそうな剣幕にジェームズたちは慌ててシリウスを止める。
「やめるんだ!シリウス!この人は悪くないだろ!?」
「そうよ?シリウス!おねがいだからやめて!」
「落ち着くんだ・・シリウス」
「やっやめてよ・・・」
「離せよ!こいつらっ!がここに入れば必ず治るって断言したんだぞ!
それを・・あの呪いの解明だかなんだか知らねえが!実験台にしやがって!」
シリウスはキッと白衣の男を睨みつける。男は「ヒッ」と凍りついた。
「頼む・・・ブラック。それ以上は何も言わないでくれ・・・・」
シリウス達から少し離れた所でセブルスは呟いた。
精気が抜けた表情で・・・虚ろな瞳で・・・
シリウスはしばらく無言でセブルスを睨みつけていたが、
「ちっ」と舌打ちをして出口へと続く廊下を早歩きで歩いて行った。
ジェームズは深い溜息を吐き
「セブルス・・・今日は・・僕達帰るよ・・についてあげてくれ・・」
「当たり前だ」
そう冷たく言い放ったがその瞳は違っていた。
「礼をいう。ポッター」
ジェームズは淋しそうに笑ってリリー・リーマスそしてピーターとシリウスが歩いていった方向へ消えていった。
「セブルス君。今の・・妻の状態では病院に迷惑をかけてしまう・・悪いが今日は娘の面倒みてもらえないかね・・」
泣き崩れ、放心状態の妻を抱きかかえ男はセブルスに懇願する。
セブルスが「はい」小さく頷くと男は深々と頭を下げ去っていった。
ダンブルドアは、途中事故などを起こさぬようにと夫婦を送り届けるといって一緒に行ってしまい・・・
セブルスはしばらく立ち尽くしていたが、頭をぶんぶんと横に振り病室へ入っていった。
「あれ?・・・・セブルス皆は?」
淡いグリーンで統一された病室。
ベッドに身を横たえ、でも顔はセブルスに向けは微笑んだ。
ほのかにピンク色だった肌は真っ白に痩せ細り、艶やかだった長い黒髪は白髪にまみれぱさついて・・
そんな姿になっても微笑むことを忘れないにセブルスの胸が痛んだ。
「ご両親は・・・また明日来るそうだ。校長が送って行った。
ポッター共はうるさいから追い返した。」
とベッドサイドの椅子にすわりイタズラっぽく笑ってみせる。
もクスッと「けっこう良い人たちなのよ?」と言って笑った。
(あぁ、しってるさ)
はふっと笑うことをやめ、左袖を捲くった。
彼女の左腕には十字架に貼り付けられた骸骨の印が刻印されている・・
その骸骨には大蛇が絡み付いていて・・・・
「私ね?知っているんだ・・・自分があとどれくらい生きられるか」
セブルスは凍りついた。まさか・・・廊下での話しを聞いていたのか?
はそんなセブルスの表情を悟ったのか首を横に振った。
「違うわ・・セブルス・・・前から知っていたのよ・・この烙印が死ぬ日を・・・宣告するの・・・」
今まで彼女に腕にはそんな印はなかった。最終学年のクリスマス休暇の前までは−
彼女がクリスマスで帰郷していた時、魔法界至上最強にして最悪の魔法使い・・・
例のあの人ーヴォルデモートが彼女の前に現われたのだ。
ヴォルデモートはいきなり彼女に呪いをかけた。
一体何のために・・・彼女が何をした?
死を予告するその印・・・死が近くなるたびに彼女は衰えていった・・・
今はもう・・・立ち上がることもできない・・・
その呪いを解く方法は何もなかった、セブルスが得意とする魔法薬も役には立たず。
セブルスは黙ったままの手を握り締めた。だがには握り返す力も残ってはいない・・。
「まだ・・・逝くな・・・」
"助かる"・・そんな言葉はもはや意味がない。そんな言葉はかえってを追い詰めてしまうだけ。
やがて
は細く微笑み、そして何か決心したような表情でセブルスをみつめた。
−胸がざわめく−
「忘れないでね?・・・・・忘れないで・・・」
の目から涙が溢れ出す。セブルスは悟った・・・・時が来たのだと。
慌ててダンブルドアを呼び戻しに行こうと立ち上がるが
「行かないで・・・・そばにいて・・・」
弱々しくも必死に懇願するにセブルスは躊躇するが、再び腰を下ろした。
「ここにいるよ」
「・・・ありがとう・・・・・・・・・・・・ねぇ・・セブルス?」
「なんだ?」
「憧れてた・・・あの情景・・・」
「・・・・・・・?」
「皆と・・・セブルスと・・・一緒に・・卒業する・・・・景色・・・」
から発せられる声が徐々に弱くなる。セブルスの瞳からも涙が落ちた
「・・・・まだ・・・逝くのは・・早いぞ・・」
「・・・忘れないでね・・・・たまには思い出してね・・・」
の涙は止まらない。愛しい人−セブルスの顔を焼き付けておきたいのに。
涙で視界が歪んでしまう
「・・・・・!?」
は目を見開き驚いた。セブルスが覆いかぶさって、彼の顔が目の前に・・
そしてセブルスの口唇との口唇が重なったから・・・・・・
やがてセブルスは顔を上げ、の耳元に囁いた
「忘れるものか・・・」
「あ・・り・・・がと・・・」
声が消え入りそうに小さくなっていく。
逝ってしまうのか
セブルスは何か決心したように・・・否、告げるべき想いを囁いた。
「愛している」
「・・・・う・・・・れ・・・しい・・・・」
憧れてた・・・・あの情景
「セ・・・・ブ・・・・ル・・・ス」
「何だ?」
叶わぬままに・・・・・
「あい・・・・・し・・・て・・・・る・・・・」
それからしばらくして・・・セブルスはホグワーツを卒業した。
彼は漆黒のローブを身に纏う・・・・・
彼女へ誓う永遠の想いとして
孤独な足跡が響く・・・
左腕には彼女とは違うが・・・呪いの烙印・・・
仮面をつけ・・・・
愛しい者を奪い去った悪魔の元へ・・・・
憧れてた あの情景
叶わぬままに 時は去り
そして少年は闇へと染まっていく・・・・・
心だけは染まらずに・・・・・・・・・・・・・・・・
憎しみの念だけで。
忘れないで・・・・
冷たい地下牢の研究室でスネイプはゆっくりと瞼を開いた。
この時期になると必ず思い出す。忘れていたわけじゃない・・忘れるはずがない
ただ、この時期になると・・・・鮮明に甦る記憶。
忘れないで・・・
「忘れられるものか・・・・・」
その声は冷たい空間に木霊する。
何?・・・・ええ、もう意味不明です。
えっと。気づいた方もいらっしゃると思いますが、
このお話のタイトル「lost guradiation」は私がよく聞いている
Raphaelの曲です。ところどころに歌詞を散りばめたのでピンと来た方もいらっしゃるのでは・・
ただ、歌詞とこの話の内容は・・んー何気に違うのですが・・・
叶わなかった情景。思いつきでハリポタにリンクさせてみました(汗)
興味がある方はぜひ!曲の方も聴いてほしいです!
卒業シーズンということで2話作りました。
もう1話は明るめの卒業でフリー配布です。
どうしてスネイプが「死喰い人」になったのか・・気になる所ですな!
この話では愛しい人を奪われ、ヴォルデモートに復讐を誓うのです!
仲間と見せかけ、実はダンブルドアの手先!!
うっわ・・・・強引な設定・・・(滅)