「あぁっ!もう〜わかんないよっ」




























+争えないかも+
















耳を掠めた小さな呟きに、スネイプはふと顔を上げた。
休日の図書館。
ほとんどの生徒がホグズミードへ出かけているこの時間は、スネイプにとって最も貴重な時間であった。
静まり返った図書室の一番奥、窓際の閲覧席はスネイプが学生の頃からの気に入っている場所だ。
春のやわらかな光が差込み、そこにゆったりと腰を落ち着かせるだけで、ひどく落ち着くのである。
しかもそれが生徒がいない時間となれば、スネイプにとってこの上ない安らぎを与え、それに浸りながら
古ぼけたなめし皮の厚い本を丁寧に捲っていく。
己の息づかいとページの捲れる乾いた音に、軽く酔いしれながら。

そこに飛び込んできた小さな声は、スネイプを不機嫌にさせるには十分であった。
そっと立ち上がり声のする方を伺えば、図書室の入り口近くの閲覧席で一人の女子生徒が必死の様子で
羊皮紙に何か書き込んでいる。
スネイプからその生徒はよく見えるが、今いるところは図書室の一番奥であり、生徒からは死角となる。
おそらくスネイプがいることに全く気づいてないであろう。
時折、小さな唸り声をあげては黒曜石のようにつややかな髪をそなえている、頭を無造作にかいていた。
赤と黄色のネクタイに腰まで伸ばされた黒い髪。スネイプはすぐその生徒の検討がついた。
担当する魔法薬学で、廊下で、大広間でよくみかける生徒。
いや、おそらくはいつの間にか目で探している生徒と言った方が正しいかもしれない。
声を聞いた時、スネイプは顔の表情ほどに不機嫌ではなかった。
その瞬間、スネイプは意地の悪い笑みを浮かべ、そっと棚の死角から死角へと生徒へと近づいていった。





「むぅ。違うなぁ;」



は苛立ち気に羊皮紙をくしゃくしゃに丸めると、大きく息を吐き出した。
気を取り直すように足を組み替え、新しい羊皮紙を取り出す。
睨みつけるように向けた視線の先には、ぶ厚い古ぼけた魔法薬の本。
開かれたページにはいくつかの図式と、調合記号がまるで呪文のように記されており、
は眉間に皺を作りながら本を覗き込み、羊皮紙にペンを走らせる。



「ったくさー。何この課題っ、わっけわかんない!」


頬を膨らましながらぶつぶつと小言を呟き始めたら、これはが苛立っているサインだ。



「もうっ!こんな課題を出した奴の顔が見てみたいわ!」


「我輩のことかね?」



一人だと思って吐き捨てた言葉に返答があり、はピタッと羊皮紙の上を軽やかに走らせていた
ペンの動きを止めた。そのまま視線を上げれば、いつの間に現れたのだろうスネイプが
意地の悪い笑みをたたえ、腕を組みを見据えていた。
他の生徒であれば顔面蒼白にし固まってしまうところだが、はシラッとした表情で
上体を上げた。


「わりと難しいよ、これ」


恐れる様子など微塵もない表情で口を尖らせば、ピクリとスネイプの方眉が上がる。
ゆっくりと腕を解き、に向かい合うように腰をおろし、開かれた本を取り上げた。
その項目文に僅かに目を見開き、深く息を吐き出す。


「あー、指示した範囲から外れているようだが?ミス・・」


「ぇえ!たったアレだけなの?!基礎中の基礎じゃない!!」


信じられない!と身を乗り出してくるに、さも疲れたように顔を覆い本を閉じる。
たしかに、今回出した課題内容は基礎中の基礎だ。
しかし、それはスネイプからしてみればの話。教授と呼ばれる者の立場からすれば、
なんの難しいことではないことだが、生徒からすれば普段学んでいることよりやや難題かもしれない。
あのハーマイオニーでさえ軽く頭を抱える内容を、は基礎中の基礎だとスネイプに
食ってかかったのだ。


「頼むから、範囲内で提出してくれ

そう深々と溜息をつくと、の羊皮紙を一枚取り上げた。
細かく丁寧にまとめられた文字と図式の羅列は、スネイプの脳へとダイレクトに伝わってくるほど
よくできたものだった。
それはの魔法薬学のレベルが他の生徒よりはるかに優れていると、裏づけするものでもある。
思わず笑みが零れるスネイプに大きく息を吐き出すと、机に広げていた本や羊皮紙を片付け始めた。



「むぅ・・・こんなならハリー達とホグズミードに行けばよかったなー」



ハリーと聞いて僅かにスネイプの眉が上がったが、はかまわずインク瓶の蓋をキュッと閉めた。
スネイプから羊皮紙を半分ひったくるように、取り上げるとカタンと立ち上がり、出口へと踵を返す。
それに従うようにスネイプも立ち上がり、とともに廊下へと出た。




「どうせポッターとウィ−ズリーはくだらん菓子屋に入り浸るのがオチだろうが」


「あー、バカにしたなー。あそこのビッツアイスは美味しいんだぞー」


「・・・・・・・・・バカな、あそこはチョコベリーダイスが絶品だ」


「くだらなくないんじゃん」


「うるさい」



チラッと横目でを睨みつけると、サッとその手から重そうな革鞄を取り上げた。
一瞬驚くだが、すぐににっこりとその笑みをスネイプへと向ける。
そんなにふんっと鼻で笑うと、足早に歩き始めた。
この方向だとおそらく地下牢のスネイプの自室だろう。もスネイプの後に続く。
フワリと薬品の香りとともに揺れる黒いスネイプのマント。



「ね、今度一緒に行こうよーホグズミードv」



フワリと揺れるの黒く美しい髪。



「ポッター共と行けばいいであろう」



玄関ホールが騒がしくなってきた。
ホグズミードへ出かけていた生徒達が帰ってきたのであろう。




「あれ?ヤキモチ〜?」


「減点するぞ」


「む、職権乱用だー。昔はよく連れて行ってくれたじゃんかー」



楽しげにスネイプの顔を覗き込めば、目を細め睨みつけられる。
さも怖いように軽く肩を窄め、ちょろりと舌を出すと、くいくいとスネイプのマントを軽く引いた。



「あんまり冷たいとグレるかんね、スネイプ教授v」


「ほお?その時は生活指導するまでだ、ミス・スネイプ」


自信たっぷりの笑みは余裕の笑みで返され、さらには笑みを深めた。
「寮に戻るわ」とスネイプから革鞄を受け取ると、スネイプの逆方向へと踵を返す。
玄関ホールにいれば帰ってきたハリー達と会えるだろう。



「あぁ・・・・

「うん?」




呼び止められた言葉に穏やかな笑みで振り返れば、ちょいちょいと手招きされる。
首を傾げてまたスネイプへと足を向ければ、そっと眉間に人差し指を押し当てられた。


「ほえ??;;;」

「あまり皺を寄せるな。残るぞ」


課題をまとめることに夢中だったは、自分が眉間に皺を作っていたなんて
気づきもしなかった。
少し焦ったように眉間を擦る。そんな様子にスネイプは小さく笑うとポンッとの頭に
軽く手を置き地下牢へと足を進めた。



「むー;お父さんっ。皺になっちゃたら直す薬作ってねっ」


「;そんなものはない」


「うそっ。いやよー私っお父さんと同じ眉間皺なんて!!親子皺じゃない!」


「・・・・・・五点減点」


「む;」



玄関ホールからロンの笑い声が聞こえた。
ロンにお土産を頼んでおいたからと、スネイプににっこりと微笑むと
今度こそ玄関ホールへと踵を返す。その後ろ姿を優しく見送ると、スネイプも踵を返した。






「ハリー、ロンッ!ハーマイオニーvおっかえりー」

「あっ、ただいまー!お土産買ってきたよー」






そんなある日の出来事でした。


















なんとなーく親子夢。(何)
きっと血は争えないんじゃないかなーと思っているんですね。いろいろな面で。
でもきっと暗くはない!!(希望ともいう)