「あ”〜お腹すいたぁ〜」




どよ〜んとした目で、作業台の上の、調合材料のトカゲを物欲しげに見つめていた。




















































+花より団子的少女の心を射止めたもの+












ぎゅぅるるるるるうぅ〜


緊迫した魔法薬学教室内に、地を這うかのような重低音が響きわたった。
教室内にいた生徒達は、一斉に声がした方へと振り向き、一瞬にてその表情を強張らせる。
彼らの視線の先には、赤と黄色のネクタイを締めた黒髪の美少女。
教室内全ての視線を一身に集める少女は、ぼんやりと腹部を擦りながら、じーっと作業台上の、
今この時間の調合で使用するトカゲの干物に釘付けだ。
教室内に、授業とはまた別の緊迫した空気が流れる。








ぎゅるり〜


「「「「「「;;;;;;」」」」」」」






















ぐぅ〜


「「「「「「;;;;;;」」」」」」」














































「っかー!!!」


「「「「「ぎゃーーー!!!??」」」」」







突然、黒髪の少女は叫びだし、作業台上のトカゲの干物へと襲いかかった。
ガシッと白いその手に、赤黒いトカゲの干物を掴み取り、それを勢いよく口へ運ぼうしたのだ。
が、それと同時に彼女の近くにいた生徒たちも、弾かれるようにして、黒髪の美少女を後ろから羽交い絞めにし、
彼女の行動を食い止める。がっしりと押さえつけられたのを確認すると、彼女から作業台上の薬物を
そろりと遠ざけた。



「っかー!!放せっハーマイオニー!!」


「いやー!!!だめよっ!そんなもの食べないでぇ!!」


を羽交い絞めにしているハーマイオニーは、栗色のふわふわの髪をブンブンと揺らしながら、
半分泣きが入った声で叫んだ。年頃の女の子が素手づかみでトカゲの干物を、というか
実験材料を食べようとするのはハーマイオニーには到底耐えられなかったのだ。




「むっ!!まさかハー子ったら私のトカゲっちvを横取りするつもりね!!絶対に譲らないから!」


「いらないわよ!!って!!実験材料を食べるおバカさんがどこにいるのよ!!」







(((((そこにいる!そこにいるよ!!)))






二人の揉み合いを眺めながら、周りの生徒達は強く心でつっこんだ。





「っきー!!もうひもじくて死にそうなのよ!!あんたっ私を餓死させるつもりぃ?!」


「魔法薬が終わったらすぐ夕食だから!!」


「あと40分もあるじゃない!!耐えられないわ!!こいつを食う!!」


「いやー!!!やめてー!!!」




この光景は度々、各授業で見られていた。
はホグワーツでは珍しいアジア出身の魔女で、黒い黒曜石を思わせる滑らかな腰まである髪に、
陶器のような美しい白い肌、背はスラリと高めで、一見妖精を思わせる空気を持った生徒だった。
多くの生徒達が彼女の虜になったが、には外見とは裏腹に、ものすっごい悪い癖があった。
それは・・・・





万年欠食児童




腹が減ったら目に入ったものは何でも食らう。





ことであったのだ。

以前の魔法薬の授業では、エキスを抽出するために溶液に漬け込んだコブラを、家から持参した
七輪で焼き食おうとしたし、薬草学ではあのマンドレイクの蒸し焼きを作ろうとし、
魔法生物飼育学では、希少価値の魔法省指定保存魔法生物をしゃぶしゃぶにしようとして、あのハグリッドが
顔面蒼白にしダンブルドアに泣きついた程である。いや、ハグリッドだけではない、
スネイプにスプラウト、そしてとうとう箒や変身材料まで食しようとし、マダムフーチや
マクゴナガルもダンブルドアに泣きついたのだ。





「「「「頼むから何とかしてくれ!!」」」」


「ふぉっふぉっふぉっv育ち盛りな子めぇv」



それらは未遂で終わっているものの、結局決定的な解決策は見つからぬまま、
今もは腹が空けば、目の前にあるものに容赦なく手を伸ばすのである。
それが人間ではないのが唯一の救いかもしれない。
しかし、今この時間にも彼女は発狂している状態だ。なんとかしなければならない!
目を爛々と輝かせながら、必死にトカゲを口に運ぼうとしているを、ハーマイオニーが必死で食い止める。
ハリーとロンも、なんとかの手からトカゲを取り上げようと必死になるが、なかなか思うようにいかない。


「くうっハリー!ロン!あんた達も私のトカゲ−ナを奪い上げるというの!!あんまりだわっ」

「いや、そんなもん僕は食べないし;」

「というか名前付けるなよ;」


ハーマイオニーの体力は限界に近づいている。がトカゲを口にするのはもはや時間の限界だった。




っとその時である。






「ミス・!!!」



低い声が教室中に響き渡り、一瞬にして教室内は静まり返った。
一斉に振り向けば、そこには魔法薬学の担当教授であるスネイプが、恐ろしい剣幕で
睨みつけていた。実験材料を食おうとした挙句に、見事なまでの授業妨害。
スネイプの怒りは絶頂であろう・・。グリフィンドールの生徒達は、50点の減点は下らないであろうと
表情を真っ青にさせ腹を括った。
しかし、スネイプの口から零れたのは嫌味でもなければ、減点を告げるものでもなかった。
足早にの目の前へと立ちはだかり、素早く干しトカゲを取り上げる。
「あー!!」と怒り混じった声を上げるに、スッと小さな紙包みを差し出した。




「干しトカゲではなく、これを食したまえ」



スネイプがに差し出した紙包みには、1センチ四方の茶色いブロックが数個入っていた。
は不思議な表情で、しばらく紙包みとスネイプを交互に見つめ・・


「全然足りないから」

「;;・・・・いいからっこれを食べなさい!!トカゲよりましであろう。(実験材料を食うな!!)」


「トカゲの方が栄養あると思うんだけど〜ミネラル分とか〜」と、ぐちぐち呟きながら、
スネイプから紙包みを受け取り一つ摘み上げると、ポンッと口へ放り込んだ。
もきゅもきゅと半分不貞腐れているように噛み締めているに、スネイプは深い溜息をつく。


(まったく・・年頃の娘が腹が減ったと大声で喚く時代がくるとは・・
しかも実験材料だぞ!!干しトカゲだぞ!!見てくれも悪いだろうが!!)







「あり?」





こくんと飲み込んだは、ふと首を傾げた。
目をぱちぱちさせ固まっている表情に、ハリー達は不思議そうな表情での顔を覗き込む。
スネイプは苦々しくを見据えると、の手にある紙包みを取り上げて小さく息を吐いた。



「お腹落ち着いたーv」


「ふん。万年欠食児童に実験材料を食い尽くされたらたまらんのでね。
これは我輩が調合した非常食のようなものだ。一個で数時間は腹が減らぬ。」



そう吐き捨てると「グリフィンドール50減点」とやはり減点をして、教壇へと踵を返していった。
その後、授業は平和に終了し、は思う存分夕食をたらふく食べたが、
その光景を見ていたスネイプは、呆れたように頭を抱えた。


(あの薬は効いている間は満腹同様・・なのになぜシェパーズパイを6皿も平らげられる!!)



それからスネイプは度々にその薬を与え、彼女が各授業で発狂することはなくなった。



平和の日々が続いていたある日のことだった。










































ぎゅるり〜


「「「「「「;;;;;;」」」」」」」





魔の音が授業で鳴り響いたのである。もちろん音の主は言うまでもなく。




「お腹・・空いたぁ・・・・」


「;;;;;。あなたスネイプ先生から非常食もらっているんでしょ?」


「うん・・・でも今それを作る材料が切れているって。今週分もらってないのぉ・・」


げっそりとしたの呟きに、ハーマイオニーや周りにいた生徒達は一気に凍りついた。
あの惨劇が再び目の前に繰り広げられるのか!?
今の授業は「闇の防衛術」・・・ハーマイオニーは恐る恐る教室内を見渡した。
水槽の中にはアレがいる。箪笥の中にはアレ。そして棚には得体のしれないものがいくつもある・・
がそれらを頭から食べている姿なんて見たくない!!というか想像すらも嫌!!
ハーマイオニーは恐る恐るを盗み見た。
の視線は熱く水槽へと注がれている。






(ピンチ!!!)




「ねえ、ハーマイオニー・・・あの水槽にはたしかさー」

「やあ、。またお腹が空いたのかい?」

の体が水槽へと向きを変えたその時だった。
頭上の方から笑いがかった声が降ってきて、とハーマイオニーは顔を上げた。
そこにはこの授業の担任であるルーピンが、呆れたように笑いながらを見下ろしていたのである。



「うん、お腹空いたのルーピンセンセーv」

「そうかそうかvだーけどv水槽のものは食べちゃだめーv」

「むぅ・・・」

メッとの額を突付くルーピンに、はむうっと頬を膨らませた。
ルーピンは笑みをさらに深めると、懐から杖を取り出しの机へと軽く振り下ろす。


「じゃあ、これでも食べていなさい」



ポンッと軽い音を立てて現れたのは、お菓子の山!!
カエルチョコレートに百味ビーンズ、クッキーにキャンディーとの顔が埋もれるほどに。
周りにいた生徒達(特にロン)が羨ましげに声を上げ、ルーピンはニコニコとに微笑んだ。


「これだけあれば十分だねv」

「・・・・・・・・」

お菓子の山が出てきたというのに、は顔を強張らせたまま固まっている。
ハーマイオニーとルーピンは不思議そうに顔を見合わせて、の顔を覗き込んだ。
お腹を空かせているのなら、このお菓子の山はにとって目から鱗のはず。
それなのに、覗き込んだの表情は真っ青に青ざめて硬直していたのだ。


?」

「わたし・・・・ダメなの・・・・」

「どうかしたのかい?」



声を震わせるに、ハーマイオニーとルーピンは怪訝そうにの顔を覗き込んだ。




「わたし・・・・・」


「具合でも悪いのかい?」





「わたし・・・お菓子大嫌いなのぉ!!!」











の泣きがかった叫びに、一瞬にして教室内は静まり返った。
ロンとルーピンは信じられん!といった表情でを怪訝そうに見つめいている。


「あ・・そういえば。お菓子食べているところみたことないわ」


ロンと同様呆気に取られていたハーマイオニーが、思い出したようにパンと手を叩いた。
は顔を背けお菓子の山をロンの方へと押しやりながら、小さく頷いてみせる。
の表情は一気に青ざめていた。
そのの表情にルーピンの表情が不敵な笑みに変わる。


v好き嫌いはだめだよぉ?」

「ぴ;」


カエルチョコの箱を一つ手に取ると、それをの顔の前に近づけた。
の表情が一気に凍りつき、精一杯背中を反らしカエルチョコを拒絶する。
そんな仕草が妙にかわいらしく、ルーピンの表情はますます深い笑みになった。
一瞬クスリと笑ったハーマイオニーだが、のあまりの狼狽える様に、表情を曇らせる。


「さvーvちゃんと食べようね」

「いやー;;」

「あ・・先生?すっごい嫌がっているから・・」


しかし、ルーピンはハーマイオニーを優しく制すると、にっこりとに向き直り
身を乗り出した。彼の手にはカエルチョコが揺れている。


「僕はお菓子大好きなんだvにも食べてほしいなvね?v」

「いやぁ・・;」

「ルーピン先生・・嫌がっているって;」


楽しげに様子を見ていたハリー達も、オロオロし始めながら口を挟む。
ルーピンの手はいつの間にかの肩にまわされていて、カエルチョコが
鼻先にくっつくくらい前まで迫り、の中で何かが切れた音がした。
カクリと力が抜けたに、ルーピンは「えっ;」と慌てたようにの体を支えこんだ。



「ちょっ;?」

「うそっ!カエルチョコで気絶かよ!まじで?!」

「あーあ・・ルーピン先生だめじゃないかー」

「いや;まさかこれくらいで・・・?」




















「ふふふ・・・ははは・・・けけけけっけけけ・・・・・くふくふくふくふv」






の顔の覗き込んだルーピン達は一気に凍りついた。
目が据わったは不気味な笑みを浮かべながら、不気味な笑いを発していた。




「くふぉくふぉくふぉくふぉ〜vv」



((((ついに壊れた!!;;))))











その頃、スネイプはいつもどおりの不機嫌な表情を浮かべながら、「闇の防衛術」教室へと
歩いていていた。の非常食が完成したので、早く渡しておこうと思っていたのだ。
「闇の防衛術」の授業でも例の空腹が炸裂したら、大変なことになるであろう。






がったん!!





「?・・なんだ?」



もうすぐ教室という曲がり角で、何かが壊れるような音が響きスネイプは怪訝そうに顔を顰めた。
また、授業で使う幻獣が暴れだしたのであろうか。
足を止めて、聞き耳を立てていると、教室の方からルーピンたちの声がかすかに聞こえてきた。



(ハリー!!そっちじゃないっこっちだ!!)

(早く!抑え込んで!!)

(気をつけて!!)



「まったく・・・一体何を使っているんだ。奴は・・・」


呆れ染みた深い溜息を吐き出すと、そのまま踵を返しもときた道を引き返そうとした。
迷惑はごめんだといわんばかりに、足早にその場を後にする。






ばきゃあっ




「きゃっはーvv」


「!なっ・・・ミス・?」


「セブルス!!を掴まえてくれ!!」


「は?っつ・・ミス・・・」





踵を返した瞬間に、おそらくドアが壊れたであろう、音ともに同時に響く明るい声に
スネイプは弾かれるようにして振り返った。目を据わらせケタケタと笑っている
スネイプに向かって突進してきている。そのの後ろからルーピンが飛び出してきて叫んだ。
一瞬、何んのことかわからなかったスネイプだが、間一髪のところでを押さえつける。
ジタバタと暴れるを必死に抑えながら、ルーピンを見据えた。




「っつ!何事だっ」


問い詰めるような目つきで、ルーピンを見やればアハーvと空笑いしながら頭をかくルーピン。
そんなルーピンの姿にスネイプは嫌な予感が体を走った。


「まさか貴様。に菓子を与えようとしなかったか?」

「え・・・?なんでわかるの?」


(やはり・・・)


きょとんとしているルーピンに舌打ちをすると、懐から紙包みを取り出し、中から調合したての非常食を一個、
の口へと放り込んだ。
一瞬にしておとなしくなるに、安堵の溜息を零すとゆらりと立ち上がる。



「こいつは甘いのが大の苦手だ。そして限界値を超えると暴れだす」

「・・;;;それ・・もっと早くに教えてよぉ:」

「みー・・・・?あり?スネイプせんせー?」


石の床にぺたりと座り込んでいたは、意識を取り戻したのだろう、
不思議そうにスネイプを見上げていた。


「あれあれ?私授業中だったよね?なんで廊下に?ってなんでスネイプ先生?」


どうやら暴れていた時のことは覚えていないらしい。
スネイプは何度目かの溜息を吐くと、紙袋をへ差し出した。


「ほれ。約束の品だ」

「み?わvわーいありがとうvv」


満面の笑みを浮かべながら受け取るに、小さく笑うとそっとその頭を優しく撫でつける。
猫のように目を細めながら、首を竦めてみせると、キラキラと目を輝かせて紙袋を抱きしめた。


「この非常食大スキーvvシェパーズパイ味でしょ、ミネストローネ味にシーチキン味v」


そう笑みを深くするにスネイプは呆れたように笑っていた。
以後、の食事係はスネイプに一任されたとかされなかったとか・・・・



















久々のギャグです。しかも空腹時に書きました;
私も空腹になると見るものを手に取りそうな勢いに駆られます(危険)嘘です。