ぴっちぴっちちゃぷちゃぷらんらんらん














+雨遊び+




























ぱちゃぱちゃ


今日のホグワーツの休日は生憎の雨模様となり、ほとんどの生徒達は寮に静かな休日を過ごしていた。
けれどもこんな雨の日、にこにこと外へ飛び出す生徒が一人。

スネイプはいつもと同じ、不機嫌そうな空気を醸し出しながら自室へと向かっていた。
どこか具合が悪いのでは?と思えるほどの土気色の顔に、眉間に刻まれた数本ものの深い皺。
どこか憂い帯びた深い闇色の瞳を持ち、肩につくかつかないくらいまでに伸ばされた黒い髪に全身黒装束。
足早に歩く姿はまさに全身から不機嫌そうなオーラが流れているが、別段、スネイプは不機嫌ではなかった。
これが彼の普段通りのことなのだ。
その逆でスネイプは今非常に心穏やかだった。
ふと、左手に開けてきたところでスネイプは足を止めた。左手には裏庭が広がっており、強くもなく弱くもない、
ちょうどよい雨が静まり返った裏庭に降り注いでいた。
まるで心が洗われるようでそっと瞳を閉じしばし雨音を堪能する。騒がしい生徒やけたたましいゴーストのいない静かな廊下、
ひんやりと頬を掠める冷気。まるでこの世界に己ただ一人しか存在していないのではないかとも思えるほどで、
そんなことを考える自分にスネイプは目を閉じたまま小さく笑った。





サーサーサー




ぽたっぽたたたんっぽたっ
















耳に優しく響く雨のオーケストラ。


























ぴちゃんっぽちゃん


















































ぱっしゃあん!「きゃはっ!」





















子供の声がアクセントに入り、スネイプは弾かれたように目を開いた。
サッと裏庭に目をこらせば、さきほどは木の陰で見えなかったのだろうか?
一人の少女が傘をさしながら、ちょこちょこと動き回っているのが目に飛び込んできた。
水色のレインコートに赤色の長靴で雨対策を施し、楽しげに雨滴のついた木の葉を指で弾いたり、
水溜まりの中へ勢いよくジャンプしたりしている。その楽しそうな横顔にスネイプは深いため息をついた。
それは授業でそして廊下や大広間でたびたび目にする生徒。



(まったくこの生徒は・・)



手にしている傘はグリフィンドールのものだから間違いないだろう。


「ミス・何をしている。」


「あっスネイプ先生、今日は!」



さも呆れたように問いかければ、傘をちょこりと上げ、にっこりと少女が微笑む。
そんな少女に小さくため息を付き手招きをして呼び寄せれば、ピチャピチャと水音をたてながら少女はスネイプの元へと歩いてきた。

「こんな雨の日に何をしているのだね」


パンパンと赤色の傘の骨組みの根本を持ち、水滴を落とし傘を閉じる仕草を眺めながら問えば、
はにぱあとスネイプを見上げた。



「雨と遊んでいたの!」



いつもと同じ、親しげに話す口調。
前髪についた水滴が反動で跳ねた。

は変わった生徒だ。
黒く長い髪に焦茶色の瞳。同学年の生徒達より幼く見える容姿。
ここまではいい、かわいらしい生徒といえば誰でも頷かずにはいられないだろう。
目に引くのはその性格というのであろうか、その感性。



「雨と遊んでいただと?」



怪訝そうな空気を押し出し、答えれた問いをそのまま返せば、はこくんと元気よく頷いた。



「うんっそうなの!雨が作った水溜まりや木についた雨滴を弾いたり、そうそう雨で土の香りがとてもすがすがしいの!」


他の生徒ならば、皆何が嬉しくてこの雨の中を外に出るのだと顔を顰めるであろう。
けれども目の前の少女は嬉々として再び、パンッと傘を開いて雨の裏庭へと踵を返していく。

この少女はいつもこうである。
魔法薬の授業で濃い緑となるはずの薬を見事なエメラルドグリーン色に仕上げたとき。
意地悪く指摘してもは「だってこっちの色の方がきれいなんだもん!」とふわりと微笑む始末。
しかもその調合物の成分は完成品と変わりないのでさらに始末が悪い。
また、いつだか廊下で見かけた時は窓の隙間から差し込んでくる風の音に喜び、
窓を細目に開けたりとその音の変化を楽しんでいてに、同級生のハーマイオニーが「早く行くわよ!」と
必死にその腕を引っ張っていた。
空を見上げては感動の溜息を零し、降り積もった雪景色を眺めてはそわそわと手袋をはめて雪原の中にダイビングしていた。
はなんとも変わった生徒だった。
だが、そんなをスネイプは疎ましいなど微塵も思っていなかった。
その反対で、この雨を彼も少なからず楽しんでいたのだから、それに共感しているに好意さえ感じていた。
滴り落ちる雨滴に耳を澄まし、「おもしろい音〜」にへらぁ と笑うにスネイプも思わず表情が緩む。



「風邪をひかぬように」


「はあい」



止めていた足を再び動かせば、ふわりと金木犀の甘い香りが鼻先を掠めた。













「くしゅっ」



背後でかわいらしいくしゃみが起こり、やや呆れ気味に振り返れば、まだ雨の中楽しげに飛び回っていた少女が、
小さく鼻をすすり上げていた。
ふと、視線が合いばつの悪そうににへらと笑うにスネイプは盛大にため息を付き、再度裏庭のへと向き直る。


「明日の授業に風邪を引き連れてきたら減点だ」

「うっ・・大丈夫だもんっ」


そう、少し意地悪く笑えばほんの少しだけ肩を強ばらせながら、グッとガッツポーズをとって見せる。



翌日、ちょっぴり鼻声な声で教室に入ってきたに、楽しげにあらかじめ調合していた
風邪薬を渡すスネイプに他の生徒達は不思議そうな顔をし、それを満面の笑みで受け取るにさらに首を傾げていた。


「それで?何点減点してほしいかね?」

「うぅ・・・・だってだって、本当に楽しい音だったの!」


むうっと頬を膨らませながら薬を受け取るに、次は何に興味を示すか見物だとスネイプは小さく笑った。

それから何か見つけては、それを楽しそうにスネイプに教えにくるようになるのはもう少したってから。





















しばらく雨が降り続いていたのを、部屋中でぼけーと眺めながら
思いついた作品。えと・・雨が降るたびに外に飛び出していたのは・・・
紛れもなくこの私です;雨が降った時の土の匂いが好きなんですってば!(変)
なんとなくのほほんとした気分を感じてもらえたら嬉しいですv

2004年10月15日 執筆