+先生と私+
「むぅ・・」
春風が頬に心地よい昼休みの賑やかな廊下。
は同寮で大親友のハーマイオニーと午後からの教科教室へと歩いていた。
週末はホグズミード行きが決まっていて、たくさんお店を回ろうと盛り上がるものの、
は顔を顰めながらしきりに目を擦っている。
そんなを横目で見つつ「やめなさい?」とため息混じりに諭すが、
「うん・・」と頷きつつもは目を擦ることを止めない。
「こらぁ」
呆れ気味にため息をつきながら、の腕を掴んで擦る行為を強制終了させる。
両手を押さえつけ「さらに痒くなるわよ?」と軽く睨みながらの顔を覗きこめば、
ハーマイオニーより小柄なが目を真っ赤にさせて見上げてくる。
「ほらっこんなにも真っ赤!、花粉症でしょう?目薬はどうしたの?」
春は冬の厳しい寒さから解放してくれる、なんとも嬉しい季節だ。
が、花粉が舞い始める季節でもある。
そしては目に花粉症を持っていた。
花粉だけならば外に出るときに気をつければいいのだが、はハウスダストにも弱い。
埃や空気中を舞う目に見えないほどの塵にも敏感に反応してしまうのだ。
屋敷しもべ妖精達によって隅々まで綺麗にされたホグワーツではあるが、
けっしてすべての埃や塵がきれいさっぱりに掃かれてはいないだろう。
ハーマイオニーの気迫に少しおどおどしながら、は目を痒そうにしぱしぱと瞬きをさせた。
「うん・・目薬きれちゃったの。ちゃんときれる前に家にふくろう送ったけどまだこなくて・・」
よほど痒いのだろう、真っ赤なの目からポロポロと大粒の涙がこぼれた。
「痒いよぉ」と目を擦りたそうに手を動かすが、の両手はしっかりとハーマイオニーが押さえつけている。
痒いのはよくわかるが、目を擦らせてまた悪化させては大変だとハーマイオニーはしっかりとの手を掴む。
「ふう・・医務室に行きましょう?」
「うそ・・マダム不在なの?」
「そんなぁっ」
鍵がかかった医務室のドアノブをガチャガチャと動かしながら
呟いたハーマイオニーには落胆の声をあげた。
何度もノックをするが、医務室からは人の気配すら感じない。
「どうしよう」
困惑するハーマイオニーにはうーとため息をついて顔をあげた。
その目は痛々しそうに赤い。
「ハーマイオニー。午後の授業出よう?洗面所に寄って洗眼していくから、少しは大丈夫だからさ!」
「そう?・・・・本当にそれで大丈夫?」
「うん!急ごう?次は魔法薬だよ。遅れたら大変!」
「うぅ〜。やっぱりだめだったかなぁ・・」
ユラユラと教室中の大鍋から紫の煙が立ちこめている。
薬草を片手には顔を顰めながら目を閉じて、軽く指を押さえた。
隣でハーマイオニーが不安そうに見つめている。
目を洗眼すれば多少大丈夫だろうと考えていただが、それはとんだ推測違いだった。
地下の魔法薬学教室は窓が一つもない密室で、とても埃っぽいのだ。
空気が篭り、粉末状の薬を見るだけでも目が痒みを帯びさせて・・・
「むぅ・・・痒いぃ・・・・・きゃっ!」
「ちょっ!!!!!」
目を閉じた瞼を押さえつけてた、だがあまりの痒さにブンブンと首を振った。
その瞬間にバランスを崩してしまい、大鍋が置いてあるテーブルへと倒れそうになる。
慌ててハーマイオニーがの手を引き寄せようと手を伸ばすが、あと僅かなころとで空気を掴んだ。
あぁ・・次の瞬間にすごい爆音が響いて、怪我をしてしまう。
とハーマイオニーそう諦めて、ギュッと目を瞑った。
「・・・・あれ・・・・?」
「何をしているのかね君は」
大鍋の中の調合中の薬はかなり高温に達しているのに、ちょっとでも取り扱いを間違えれば
爆発を起こしてもおかしくないのに、一向に熱さと痛さを感じることはなく、
その逆に何か温かいものに抱きすくめられていて、は不思議そうにそっと目を開けた。
ふわりと薬品の匂いが鼻を掠めていて、辺りは真っ暗な闇だった。
頭のほうから、ため息交じりの呆れた声が降ってきてハッと顔を上げれば、
今この時間、魔法薬学の教師であるスネイプが眉間に皺を寄せてを睨み下ろしていた。
「あ・・;ス・・スネイプ先生;・・・・ありがとうございました;」
「我輩の授業で爆発実験でもする気か、気をつけたまえ」
「え・・あ・・・はい!すいませんでした」
てっきり減点されるかと思ったのに、スネイプはをそっと支え立たせると、
ポムッと軽くの頭に手を置いてそう言っただけで、また他のテーブルへと踵を返していった。
ハーマイオニーや周りにいた生徒達は、口をあんぐりと開けてスネイプの背中を凝視している。
はグリフィンドール寮の生徒だ。
そしてスネイプはグリフィンドールと対抗しているスリザリンの寮監で、あまりグリフィンドールの
生徒を好ましく思っていない。これはホグワーツでは知らない者はいないほど有名なことで。
隙あらば、目ざとくグリフィンドールから点数を引き、これ見よがしにと嫌味をネチネチ吐き出す。
今のだって「不注意」という口実で減点できたのに、嫌味を思う存分言えただろうに、
スネイプはを助け、注意をしただけで点数を引くことをしなかった。
ひょっとして、今日は機嫌がいいのか?スネイプ!?v
グリフィンドールの生徒からほんの希望が起こるが、ハリーのテーブルを
みやったスネイプがにやりと意地の悪い笑みを浮かべ、ハリーの大鍋の色が薄いと
ネチネチ嫌味を吐き出したので、いつものスネイプじゃん!と
心の中で毒づきながら再び各々の調合に集中していった。
やがて終業のベルが鳴り、器具を片付け終えた生徒達は急ぎ足に教室を後にする。
誰もがこんなところに長居はごめんだと言わんばかりに。
も使った器具を手早く片付けようとするが、目の痒みのせいでなかなか
片付けがはかどらない。ハーマイオニーが見かねての大鍋を洗おうと手を伸ばしたその時、
「グレンジャー、君は片付け終えたのだろう。早く出て行きたまえ」
後ろから冷たい声がして振り返ると、腕を組み冷たい目でスネイプがハーマイオニーを睨みつけていた。
ハーマイオニーは少しムッとして、スネイプを睨みつける。
「の片付けの手伝いをしているので」
「必要ない。出ていきなさい」
ハーマイオニーの言葉を遮って、言い放つスネイプの言葉にさすがにハーマイオニーもカチンと
きたらしい、何か反論しようとするがそれをが慌てて押しとめた。
「ハッハーマイオニー!先行ってて?自分で使った器具だしさv
それにすぐ片付くから!!ねっv」
いまだ赤い目でにっこりと笑顔を見せるに、ハーマイオニーは「でも・・」と渋るが
「大丈夫だからv」と背中を押されて渋々と、そしてスネイプを睨みながら教室から出て行った。
いつの間にか教室にはとスネイプしか残っていなかった。
「あわわ・・ごめんなさい!先生、すぐ終わらせ・・」
「置いておきなさい」
「え?」
大鍋を洗おうと、手に持ったスポンジをスネイプがサッと取り上げた。
驚きながらスネイプを見上げれば、ジッとを見下ろしている。
視線を逸らすことなく、見つめられほんの少し居心地が悪くなり頬をほんのり染めてそーっと
視線を大鍋へと落とせば、スネイプの深いため息が静まり返った教室に響いた。
「ついてきなさい」
そう呆れ気味に呟くスネイプは隣の準備室へとを案内した。
一面の壁に作りつけられた、大きな棚にはギッシリとでもきちんと薬瓶が並べられ、
部屋の中央には実験のためであろう作業台が置かれて、大鍋や特大なフラスコみたいなものが置かれていた。
そして準備室には大きな出窓が一つだけあり、その出窓の前に机が置かれている。
スネイプは机の椅子を引きを座らせると、そっとと同じ目線に屈みこんで
の目を覗き込んだ。
「花粉か?」
「・・・??」
「目が赤い。先ほども痒いと言っておったな」
「あ・・・はい。あと埃や塵もだめで・・」
「薬を切らしてしまって、マダム・ポンフリーに薬を出してもらおうとおもったのだけど、
不在で・・」と小さくため息をつきながら、また痒みが出始めた目をそっと擦った。
けれども、それをスネイプが止める。「さらに悪化するぞ」とため息をつくと
サッと立ち上がり、棚からいくつかの瓶を取り出して作業台へと向う。
アルコールランプから立ち込める淡い紫色の炎を調節しながら、大鍋にゆっくりと薬草を落としていく。
そんなスネイプをぼんやりと見つめながら、無意識に手が顔へと近づく。
「擦るな」
「はいぃっ!?」
スネイプの視線は大鍋へと注がれているのにも関わらず、の行動をびしりと注意する。
びっくりして声を上ずらせたに、クククと笑いながらスポイトのようなもので
大鍋から薬を吸いあげた。それを手にしながら、椅子にちょこんと座っているの元へ歩いてくる。
ポンと軽くの頭に手を乗せ、いままで見たことのない穏やかな笑みをに向けた。
その優しそうな表情に、思わずは釘付けになってしまう。
スネイプ先生ってこんな風に笑えるんだ・・そう、つられて笑顔になるに
「沁みるからな。歯を食いしばれ」
「え・・・;ぇえ?!」
「騒ぐな。動くな。逃げるな。目を瞑るな。我輩の手を掴むな。・・・・・飲ませるぞ(怒)」
「やだやだやだやだやだぁ!沁みるのいやぁ〜飲むのも嫌ですー!」
「煩い。黙れ。我輩自ら調合したのだ。ありがたく思え」
「いやー!?」
必死にもがくも、小柄なが大柄なスネイプに敵う筈もなく。
簡単に押さえつけられて、赤い目に薄緑色の水滴が落ちた。
「きゅ〜っ・・・沁みるよぉ・・・・」
「擦り過ぎたからだ。阿呆が」
「うぅ〜・・」
目をきゅうっと瞑りながら、頬を両手で覆う姿にスネイプは小さく笑うと
しばらく目を閉じていたまえと立ち上がり、器具を片付けはじめる。
目を閉じたままのの耳に、カチャカチャと乾いた音が響く。
しばらくして、音が静まり返りスネイプがの前に立つ気配を感じた。
「目を開けてみなさい」
「・・・・・あれ・・痒くない・・」
そっと目を開けたは、目の痒みが取れていることに驚いてパチパチと瞬きをした。
「充血も治っている」そうよかったなとほんの少し口端を上げるスネイプに、
は嬉しそうに「はいv」と微笑んだ。
「あの・・ありがとうございました!!」
「ふん。大事な教室や器具を壊されたくないのでな。
持続性があるものだ。朝昼、そして夜寝る前に使いなさい。」
そう嫌味を言いつつも、薬が入った小さなかわいらしい小瓶をに手渡す。
は嬉しそうに受け取ると、にっこりとスネイプに頭を下げた。
そのかわいらしい姿に、思わず頬が緩んでしまいそうになる。
「本当にありがとうございました!!それでは失礼しますv」
「あぁ」
パタンと静かに準備室のドアが閉められると、スネイプはフーッ小さくため息を吐き出した。
「やれやれ・・生徒一人のために薬を作ってやるなど・・」
そう自嘲気味に笑みをこぼして、の座っていた椅子に腰を下ろす。
一人の生徒に、それもグリフィンドールの生徒にだ。
けれども、辛そうに目を赤く充血させているのをなぜか放っておけなくて・・
カチャカチャカチャ
教室の方から、器具が軽く擦りあう音が聞こえる。
不思議に思って立ち上がり、教室を覗き込めば帰ったはずのが自分の器具を片付けていた。
目の痒みがすっかり取れたようで、ニコニコとスポンジを泡立てている。
そのかわいらしい姿に、薄く笑いながら静かにのところへ歩みよる。
「片付けはいいと言ったはずだが?」
「にゃっ!」
急に背後でスネイプの声がして、はびっくりして肩をびくつかせた。
その瞬間に試験管が泡にまみれた手から滑り落ちて、カチャンと乾いた音を立てて割れる。
「あわわわ・・先生急に声かけないでください!!心臓に悪いです!!ってししし試験管割れちゃったよぉ!
先生ごめんなさい!!すぐ片付けます!!」
「あーそのままでいい。怪我をする・・・」
「いたいぃ・・・(泣)」
「(言ったさきからこの小娘が・・・・)おい;」
泡まみれの指から、じんわりと赤い血が流れては泣きそうになりながら
スネイプを見上げた。その情けない表情に呆れたように天井を仰ぐと、深いため息をつく。
「阿呆そのものだな」
「うぅ・・」
「見せてみなさい」
「うー・・グリフィンドールから1点げーんてーん・・・」
「ククク・・・君の阿呆さ加減にな」
「えー?!」
結局が寮に戻ってきたのは、すべての講義が終わった夕食前の時間で、
ハーマイオニーやハリー達に何か酷いことされたのではないかと、すごい勢いで心配された。
けれどもはそんなハーマイオニー達に
「スネイプ先生って優しいねv」
とにっこり笑ってみせた。それから度々、廊下や授業後の教室でスネイプに駆け寄るの姿に
ハーマイオニー達が絶句したのはしばらくたってからのこと。
「先生ー。さっきのここの所なんですけど」
「何、分からなかったのか。阿呆が」
「ひ・・酷い・・;」
「羊皮紙を出してみろ」
「はいv」
本当に久々の更新です;しかも甘くもなんともありません;
ただただ、生徒と教師というドリームを書いてみたかったのです。
ちょっと仲のいい感じで(微妙)目の花粉症・・じつはおいらだったりしますー;
花粉症・・といってもあまり花粉に影響されませんけど、ハウスダスト・・
埃や塵が本当にだめですね;もう痒くてたまりません!
そして、サイト放置しすぎたということでフリードリームだったりします。気にいってくださった方は
ぜひ、お持ち帰ってくださいvその際、掲示板にご報告してくださるととても嬉しいです。