+スノーマン+






























きゃらきゃらとかわいらしい笑い声が鼓膜を揺らし、引き寄せられるようにスネイプは羊皮紙から顔を上げた。
暖炉の前にクッションを敷き座り込んでいる少女は、にこにことペットの黒猫に猫じゃらしを揺らしている。
少女と同じ翡翠色の瞳を持った黒猫は、その大きな目を瞬きもさせずに猫じゃらしを見つめ、
それを掴まえる機会を伺っているようだ。
やがて「にゃっ」と短い鳴き声があがったと思うと同時に黒猫の体が飛んだ。
それは一瞬のできごとで、次の瞬間には猫じゃらしは黒猫によって捉えられている。


「ふふっシェックリンは本当に猫じゃらしが好きね」

「みゅわ〜」


黒猫ーシェックリンーを抱き上げながら少女はふわりと微笑み、シェックリンの喉元を軽く掻いた。
目を細めて嬉しそうにあがる鳴き声。
ふと、少女とスネイプの視線が重なり少女は「あ」と罰の悪そうに肩を窄めた。


「ごめんなさい・・・・うるさかった?」

「いや・・うるさくなどない、


「もう終わった」と書きかけの羊皮紙をそっとに悟られぬよう裏返しにする。
まだ辞書ほどの厚さの羊皮紙が残っていたのだが、スネイプの中にもはやそれを片付ける
気力は微塵も残っていなかった。
別段急を要するものではないが、期日が長いものでも早め早めに仕上げるのが彼の習慣だ。
むしろそれを誇りに思っているほどであるのに、今夜はその積まれた羊皮紙に手を伸ばすのが
苦しいというよりも面倒くさいものに感じ、またそう感じている己自身に驚いていた。
シェックリンを抱えたまま立ち上がると、やや小走り気味にスネイプの隣へと寄り添う。
長時間暖炉の前に腰を下ろしていたせいか、の頬はピンク色に火照っていた。
ふにゃりと翡翠色の瞳を細めて笑えば、スネイプもつられて小さく笑う。
黒曜石のようになめらかな光を放つ髪に暖炉の炎が幻想的に反射され、幼い顔立ちのに一種の
妖しさが彩られる。己の中に小さな揺らぎが生じるのを感じ戸惑うも、
それをに悟られぬよう、そっとその妖しい影が揺らめく髪を撫ぜた。
さらに肩を窄めてふにゃりと微笑むはまるで彼女の飼い猫を思わせる。


「ここに来る時にね、廊下を通ったのだけどまた雪が降っていたの。
明日の朝はさらに積もってるねv」


の腕の中に納まっていたシェックリンがもぞもぞと動き、スネイプの膝上へと飛び乗った。
ここ2〜3日前からしんしんと降り続いている雪。それらは静かに降り積もり、
ホグワーツを白銀の世界へと誘っていくのである。
シェックリンを左手に抱え、右腕で軽々とを抱きあげると、暖炉前のソファへと身を沈める。
その膝上にを乗せる。さきほどまでスネイプの膝上を占拠していたたシェックリンはちょっと不服そうに
暖炉前のクッションに飛び乗り、そこで大きな伸びを一つすると小さく丸まり目を閉じた。


「その口調から察するに、また明日も外へ出るつもりかな?」


は雪が大好き。同級生達が呆れるほどに。
雪が降り積もった景色を目にしたら、歓喜の声を上げて雪の中へと走っていくのである。
微かに意地の悪い笑みを浮かべての顔を覗き込めば、さらに頬を紅潮させたがはにかみながら笑った。
そして「あっ」と思い出したように小さい声をあげると、まんまるの瞳をわずかに見開いて
スネイプの顔を覗き込む。


「先生っ、先生はスノーマン知ってる?」

「スノーマン?」

あの帽子をかぶったマグルの世界のキャラクターのことかと、やや怪訝そうに顔を
顰めるスネイプの表情を察したのだろう、は小さく首を横に振った。


「えっと、ダンブルドア校長先生が教えてくださったの。
何日も雪が降り続けている間に、ピタリと雪が止んで静まり返った夜が一晩だけあるんだって。
それは夜空の向こうからスノーマンが現れる前触れで、スノーマンに会えたら願いことを一つ叶えてくれるんだって。」



キラキラと目を輝かせ、スノーマンに会ってみたいなぁとこぼすにスネイプの片眉が上がる。


「ほう?それでもしそのスノーマンとやらに会えたら、何を願うかね?」


楽しげにの顔を覗き込めば、真剣な表情で考えている横顔。
その横顔には暖炉の暖かい炎が移しだされている。しばらく「んー」と考えていただが、
目を輝かせて顔をあげると、その笑みをスネイプへと向けた。


「イルミネーションが見たいなぁ。だからそれをお願いするの!」


小さい手を握りしめ、にこにこと力説するの姿に一瞬目を見開くも、そのの願いを鼻で小さく笑い飛ばす。



「伝説の妖精にマグルのちゃらけた電飾を願うのか」


滑稽だなと喉の奥で笑えば、は顔を真っ赤にして俯いた。
先ほどまで力一杯に握られていた手をもじもじさせながら、恥ずかしげに小さく呟く。


「だって他に浮かばなかったんだもん・・・・」



それに、イルミネーション見たいんだもんっとますます消え入る声に、
スネイプは肩を竦めると膝上のをそっと抱き寄せた。


ホグワーツの雪は何日も降り続けた。
スノーマンの話に夢中だったも休暇中に出された課題の多さに溜息をこぼしつつ、それらに集中せざる得なかった。
スネイプが仕事をしている間、ちょこんとソファに身を沈めて課題とにらめっこをする。
どのくらい時間が過ぎたであろうか、スネイプは最後の洋皮紙へペンを滑らし終えると、小さな吐息をこぼし目頭を押さえた。
ふと顔を上げれば、くたびれた表情で羽ペンを片づけている。彼女の課題も終わったのだと確認すると立ち上がり、
棚から二脚のティカープを取り出しす。
一人の時なら杖ひと振りで済ましてしまうのだが、くたびれた表情ののためにとびきりの紅茶を淹れてやりたい。
ほのかな紅茶の香りが室内に漂い、はふと顔を上げた。

「良い香り〜」

嬉しそうに目を細めるに小さく笑うと、カップを手にの隣へと腰をおろす。
にこにことカップを受け取ると二人静かなティータイムが始まった。
暖炉の薪がパチンとはじけ、そのたびにシェックリンの体が飛び上がる。
両手で包むようにカップを持ち、嬉しそうに紅茶を飲むを見つめながら
スネイプはふと考え込んだ。その思考は一瞬の内に決まり、が紅茶を飲み終えたのを確認すると
同時に腰を上げ、出かけ用の厚いローブを着込む。
不思議そうに首を傾げ見上げてくるに意味ありげな笑みを浮かべると、
彼女にもローブを着るように促し共に外へ出た。
静まり返った廊下はとても冷え切っていて、寒さに肩を竦めると、は赤と黄色のボーダーのマフラーを
しっかりと巻きつけゆっくりと歩き出した。
もう寮へ戻るものだと思っていたのでいつもの角を曲がろうとするを、スネイプが静かに制す。
不思議そうに目を丸くしているに笑ってみせると、そのままを連れて反対の曲がり角を曲がった。
スネイプの表情を伺うも、彼の表情はいつもと変わらないものでには見当もつかない。
やがて、裏庭が左手に開けて見えてきて冷たい夜風がサッとの頬を刺し吹き、思わず目を細めた。
とても静かな夜だった。ずっと降り続いていた雪が嘘のようにやんでいる。
深い闇色の夜空を眺めながら、ふと以前ダンブルドアから聞いたスノーマンのことを思い出した。


、乗りなさい」


不意に声を掛けられ慌ててスネイプの方へと視線を走らせれば、いつの間に持ってきたのであろうか?
箒に跨りへと手を差し伸べている。恐る恐るその後ろへ跨れば「しっかり捕まっていろ」と
促された言葉とともに体中に走る浮遊感がの体を硬直させた。
夜空へと目指し、ゆっくりと上昇していく。空へ近づくほど冷気を伴った風がの体温を奪っていく。
小刻みに震えていたのが伝わったのだろうか?スネイプはそっと振り返るとに何か小さく呟いた。
その呪文と同時にの体に纏わりついていた冷気が急に温かい空気へと変わり、は小さく笑って
「ありがとう」とスネイプの背中に回していた腕にキュッと力を込めた。
やがて、ホグワーツ城が下の方に小さくなってしまった頃、やっとスネイプは動きを止めた。
ヒューヒューと冬の風が音を立てている。
上空から見た下界は白銀の世界に染まっていた。湖は凍りまるで鏡のようだった。
谷も森も見分けがつかないほどに真っ白だ。その白銀の世界に色があるとすればそれは
ホグワーツ城のところどころに灯っている明かりだけだ。普段滅多に見れない光景なだけにに口から感動の溜息を零れる。


「わ〜・・・真っ白・・・」

「さて、驚くのはまだ早いぞ」

「え?」


得意げな笑みを浮かべているスネイプに、は何度目かの不思議そうな表情をスネイプに向けた。
杖を取り出し大きい円と小さい円を下界へと向かった振りかざす。
次の瞬間、白銀の世界にキラキラと幾筋もの光が流れ出し、その光はまるで生きているかのように
谷や森を縦横無尽に駆け巡る。ホグワーツ城全体に赤や緑の光が溢れ、凍った湖にはが見たことのない
オーロラが優雅に映し出された。ポカンと口を開けたまま固まっているにさらに追い討ちを掛けるように
スネイプは杖を振った。闇色一色だった空に様々な色の光が駆け巡り、の回りを飛び交う。


「ひゃあvv」

の顔から満面の笑みが零れ、そっとかざされた小さな手に光が舞い降りていく。


「すごーい!!すごいよ!先生!!」

「ふん、マグルの電飾よりこちらの方が数段良いであろう?」


得意げな笑みにはにっこりと頷く。
ホグワーツ城が巨大なクリスマスツリーへと変わり、その周りを飛び交う光はまるで妖精のようだった。


「スノーマンって本当にいるんだねv」

「?」


不意に紡がれたの言葉にスネイプは怪訝そうに首を傾げた。
そんなスネイプににっこりと微笑む。


「とっても素敵なスノーマンだよ!!先生は!!」

「・・・ほう」


再び光の競演に歓喜の声を上げるの横顔を、優しい笑みを称えたスネイプが見つめていた。
最高のプレゼントをしてくれたスノーマンに、少女はいつまでの魔法のイルミネーションを楽しんだ。


まだとうぶん雪は降りそうにない。

























2004年度、いい迷惑押し付けクリスマスドリームのハリーポッター版です。
じつはスネイプ教授夢がまったく書けない過去最大のスランプになってました;。
やっと思いついたとおもったら・・・スノーマン・・・;
落ち見え見えじゃん!?でも魔法のイルミネーション・・・もしホグワーツで
イルミネーションやったらそらすっごいだろうーなーって。


この押し付けドリームは11月〜12月15日掲示板に書き込みしていただき、
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