夜空に広がる天の川を仰ぎながら、少女は一人、遠く離れた男を想った。
+天の川+
7月7日 七夕
古来より中国に伝わる、彦星と織姫の天の川伝説。
一年にたった一晩だけ会うことを許された、男女の物語。
晴れ渡る夜空、天の川に橋がかかれば二人は幸せに胸を高鳴らせることであろう。
灼熱の太陽に、耳の奥までジンジンと差し込んでくる蝉の音。
けれども、陽が傾けば頬を撫でる風は心地良く、蟋蟀の重奏が昼間の暑さを和らげて。
夏休みを迎えたホグワーツより、故郷へと帰ってきたは
ポツリポツリと輝き始めた星々にふわりと微笑んだ。
雨になれば天の川に橋はかからず、彦星と織姫は会うことは叶わない。
ここ数年の七夕は湿気を帯びた雨続きだった。
ガラスに軽く打ち付ける窓辺にそっと立ちながら、残念そうに厚く雲で覆われた暗い空を仰いだものだ。
数年ぶりに晴れ渡った日に、は心を踊らせる。
屋根の上へと登り、夜風を味わいながら大きく広がった天を仰ぐ。
無数の星々の光の天河。
にっこりと少女特有の笑みを浮かべて見入っていただが、ふと表情を曇らせた。
「先生も天の川見たかなあ・・・」
ぽつりと呟いた言葉は小さく夜空へと消えていく。
どのくらい空を仰いでいたのだろう?
少女は小さい溜息を一つ、零すととそっと屋根から梯子を下ろして庭へと降り立った。
夜露が降りりはじめた芝生はひんやりと素足に心地良い。踏みしめればふわりと
草特有の青臭さが鼻先を掠めて。
家の裏にはサラサラと小さな小川が流れている。ユラユラと幻想的に飛び交う蛍達。
とても幻想的な光景なのに少女の表情は沈んでいくばかりだった。
夏休みを明日に控えた日
年上で秘密な関係の恋人に、一緒に天の川を見たいと願い出た。
眉間に皺を寄せ、なぜかと問う気難しい恋人に天の川にまつわる素敵な話を聞かせるも、
返事は鼻先で笑われて終わり。結局、はっきりとした返事をもらえぬまま、
少女はホグワーツを後にしたのだ。
川べりに腰を下ろし、チャプリと涼しげな音を立てて素足を水の中へ滑らせる。
「くだらない」と言われることは大方予想はついていた。けれども心の隅では
一緒に見れることを期待していた。
特別に何をするというわけではないけれど、夏の風物を一緒に過ごしてみたいと思うのは
バチあたりのことではないと思う。普段より、互いの関係を秘密に常に教師と生徒の立場を
守ってきた。恋人との時間の方がはるかに少ない。だから、少しでも
恋人の時間が作りたくて切り出したのに・・
「先生はロマンがないなあ・・・・」
「ほお」
独り言で零した言葉に。低い深みのある返答が静かに返ってくる。
弾かれたように顔を上げれば、小川の対岸に一緒に過ごしたいと切望していた男、セブルス・スネイプが、
やや不機嫌そうに、けれどもなにか企んでいるような笑みを浮かべながら少女を見下ろしていた。
驚きに目を丸くさせ、わたわたと立ち上がる様がよほど滑稽だったのだろうか、
男は小さく笑うと、小川に足をいれ自分がいる岸へと歩いてこようとする恋人を
軽く手を上げて制す。
「それは規則違反であろう。」
「え?・・・な・・何が?」
何を言っているのか分からず、まるで学校で紡ぐ言葉に少女はピクリと肩を強張らせる。
男はまた小さく笑うと、懐から杖を取り出し自分と少女の間の小川に軽く一振りした。
サラサラサラ
軽い可愛らしい音が、柔らかい光とともに男から少女へと光の橋をかけていく。
まるで伝説を演出しているかのような光景に、少女は目を見張り光の橋を見つめた。
ゆっくりとスネイプが光の橋を渡り、橋の途中で立ち止まる。
不思議そうに首をかしげているに手を差し出せば、恐る恐るも
光の橋にそっと素足を乗せて。
橋の中部で手を重ねた恋人の周りをふわりと蛍が舞う。
「七夕は橋を渡らねば、会うことは許されないのだろう?」
「スネイプ先生ぃ・・」
思わず零れそうになる涙を必死にこらえながら、少女はしっかりと男に抱きついた。
呆れたように溜息をつきながら、そっと愛しい恋人の頭を撫でれば、
大きな可愛らしい瞳にやや涙の膜を張り、嬉しそうな笑みを浮かべながら見上げてくる。
「先生と天の川見れるなんて、とても嬉しいよぉ」
「そうか」
それは良かったと、優しい笑みを浮かべながらそっと小さい恋人の背に己を腕を回し
抱き寄せた。
1年に何度も会える恋人だけれど、特別な日に特別な思い出を残したかった。
地上の彦星と織姫を、天の河がそっと照らしだしていた夏の一時。
突発書き出し七夕ドリーーーームッ。
ここ数年の七夕は雨でしたよね。今年は晴れてます。うんうんv
このドリームはお持ち帰り自由ですvできれば掲示板に一言書いてくださると
嬉しいですv (07・07・2004執筆)