「調合と配合」
ボッフン
地下牢の魔法薬学教室に間抜けな爆発が響き渡った。
教室内の生徒達が一斉に音がした方へと振り向く。
もしこの爆発があのネビル・ロングボトムによるものだったら、もっとすさまじい爆発が起こったであろう。
しかしその爆発は生徒一人でも処理できるくらいのものだ。それは生徒達の落ち着いた表情からも容易に伺える。
爆発を起こした鍋からはもくもくとピンク色の煙が吐き出されている。
大鍋の前では爆発を起こした人物、・が「あちゃー」と顔を顰め、
長く美しい黒髪を讃えた頭を無造作にかいていた。
「むぅ・・なんで失敗するかなぁ〜」
「また君かねミス・」
洋皮紙を手に取りアクアマリン色の可愛らしい瞳をスッと細め睨みつけながら、
陳列された薬品と分量を確認しているの頭上で不意に、いや、予想通りに冷たく低い声が降ってきた。
「いつになったら薬を完成させることができるのやら」
大袈裟に吐き出された溜息にの肩がぴくりと揺れる。ゆっくりと見上げれば、
魔法薬学の担当教授であるスネイプが、意地の悪い笑みを浮かべながらを見下ろしていた。
スネイプの後の方で銀と緑のネクタイをした生徒達がクスクスと笑っている。
しかし、は薄ら笑いを浮かべているスネイプ、そしてその後ろで笑っている生徒達にも気にせず、のんびりと口を開いた。
「卒業するまでに三つ完成できたら、いいんですけどねー」
懐から杖を取り出し大鍋からもくもくと吐き出ている煙に一振りしてきれいに消すと、再び薬瓶へと手を伸ばす。
「ふん、貴様の無能さなら一つ完成するかしないかだな。グリフィンドールから10・・・「じゃあ目標は一つに変更〜」
計量スプーンに盛られた粉薬をていねいに切り揃えながら、やんわりとスネイプの言葉を遮る。
自分の言葉を遮られ、眉間の皺をさらに濃くしたスネイプだが、はすでに調合に集中している。
それを邪魔することは大変危険なのは担当の教師なら百も承知だ。
スネイプは苦々しくを見据えると、教壇へと踵を返した。
ボッフン
足を進めると同時に背後から聞こえた二度目の失敗音に、スネイプ呆れたように右手で顔を覆った。
「・・・グリフィンドール15減点。ミス・は夕食後に処罰をうけてもらう」
「むぅ・・・はーい」
「ねえっ!ほっんとーにわざとじゃないの?!」
「あたりまえだよ〜。個人減点ならまだしもさー、寮減点でわざと失敗する阿呆がいるかい」
昼食時間の大広間。
のんびりとスコーンにツナディップを乗せているの横で、ハーマイオニーは厳しくを咎めた。
五年生となったというのに、の調合は一度たりとも成功した試しがないのである。
そんなが何故留年にならないのか、それは筆記や口頭質疑、レポートはトップクラスだからで。
もっといえば変身術・飛行術・魔法動物飼育学など、どの教科もトップレベルだ。
そんな優等生な彼女をみればわざと失敗しているようにしか見えないのだが、魔法薬学の調合となると本当に八方塞がりなのである。
前の席のハリーとロンはしばらく黙って二人の会話を見守っていたが、ふとハリーは思い出したように口を開いた。
「にしてもさ、処罰って初めてじゃない?」
「あっそういえばね」
もほんの少し不思議そうに首を傾げた。
今まで何十回と調合を失敗してきたのだが、は一度も処罰を受けたことがなかったのである。
なぜ今まで処罰がなかったのかが不思議なくらいだが、今になって突然処罰というのはどうも不自然すぎる。
「今までのつけじゃないのか?」
ロンがのんびりと口を開いた。
ハーマイオニーとハリーもなんでだろとも考え黙りこくっている。
しかし当の本人であるはロンの呟きに「そうかもね〜」のんびりと返し、オレンジジュースを一口飲んだ。
一日はあっという間に終わり、夕食を早めにとったは三人にまた明日ねと告げると席を立った。
ハーマイオニー達はまだ教師席にスネイプが食事しているのを見て、「もう?」と首を傾げていたが
は寄るところがあるからと手をひらひらさせ、軽やかな足取りで大広間を後にした。
それから一時間ほど過ぎた頃、地下牢にスネイプの研究室の重々しい扉をノックする音が響く。
「グリフィンドールのでっすー」
「入れ」
数秒置かれて帰ってきた低い声に、ゆっくりと扉を開ける。
重厚なドアの古く重々しい音が冷たい廊下に、そして不気味に響き渡る。
中は薄暗く、暖炉の炎が勢いよく燃えている。広い部屋だが部屋の中央に置かれた台には大鍋が3つ陳列され、
大きな濾過器のようなものがチューブをつたい、フラスコへと取り付けられていたりと
様々な器具や得体の知れぬものがおかれていて、とても狭く感じた。
壁一面に並べられた棚には名前の分からない、いや知りたくもない薬品がところ狭しと並べられていて、
それらに暖炉の炎の揺らめきが反射され、さらに不気味さを醸し出していた。
しかしこの部屋で一番不気味なのは、この息苦しい部屋の隅に大きなデスクを構え鎮座している
スネイプ自身であろうとは思った。
(こんな部屋にいて平然といられる方がずえーったいおかしいよ)
「座りたまえ」
スネイプは顎でしゃくりながら、スネイプのデスクの前横につけられたやや小さめ机につけと促した。
は机の横にカバンを下ろし、手にしていた白い箱を邪魔にならないように机の隅に置くと、
横目でちらりとスネイプを見る。
「さて、なぜ呼ばれたかはわかっておるな?」
「えーと・・・・立て続けに2回失敗したから?」
「貴様の失敗は100回以上だ、たわけ」
「うお・・三桁台・・」
ぴしゃりと言い放たれた言葉に、は小さく肩を窄めた。
あまり反省の色が見えないに、スッと目を細めると同時小さく溜息をつく。
「まったく、五学年にもなり調合が1回も成功しない生徒は初めてだ。
・・・まさか貴様、わざとではあるまいな?」
ゆっくりとへと身を乗り出し、眉間の皺を濃くするスネイプにはフルフルと首を振った。
まったく怖がっていない様子をみると、わざとではないらしいがスネイプはまだ疑惑の目で
を見据えている。そんなスネイプには「むぅ」と溜息をつくと、
椅子に座ったままスネイプへと向き直った。
「本当にわざとじゃないんですよー。これでも予習だってしてきてるんですよー?
ハーマイオニーにコツを教わったり、薬品だってちゃんと測ってスネイプ教授の
指導通りにやっているもんー」
そこまでやっているのに一度も成功したことがないということは、もはやこの娘には
調合は根本的に合わないということかと、スネイプは心の隅で僅かに確信した。
他の口頭質疑やレポートは優秀である。だが・・
「実技が一度も成功しないというのは問題だ」
「むぅ〜・・・」
多少は気にしているらしい。は頬を膨らまして顔を顰めると自分の靴へと視線を落としてしまった。
しかし、すぐ何か思いついたように顔を上げる。
その嬉々とした表情にスネイプは一株の不安を覚えた。
「じゃあさ!教授一緒に調合やってよ!スネイプ教授と一緒に調合すれば
失敗しないっしょ?」
「・・・・・貴様につきっきりで教える義理などない」
冷たく突き放すスネイプに、今度はがスネイプへと身を乗りだす。
「っかー!これだからスリザリンは!
夕食終わって就寝時間まででいいから!ねっいいでしょ?!
私だって1回ちゃんと成功させたいもん!!!」
「我輩にも都合というものがある」
「もー!!合わせてよそれくらい!教授は徹夜くらいしたってどうってことないじゃん!」
「・・・貴様;我輩をなんだと思っている」
「万年陰険根暗!」
「・・・・(怒)」
結局、一気に捲くし立ててきたに負け、特別に指導するはめになった。
処罰という名目で呼び出したにも関わらず、まったく処罰できなかった自分に
スネイプはうんざりした表情で溜息をつく。そんなスネイプににっこりと笑うと、
思い出したように隅に置いていた包みを抱えスネイプへと差し出した。
「・・と、ちゃんの特別指導も決まったことだし、お茶しよーv」
「何?」
まったく処罰ができていないのに茶だと?といいたげなスネイプの表情を察したのか
はフフーンと得意げに笑って見せると、包みを開いてみせた。
そこには小ぶりのチョコレートケーキが鎮座されている。
目を細めてそれを凝視しているスネイプに、は疑惑の目でスネイプを見つめた。
「ひょっとして教授・・今日何の日だかわかってる?」
「知らん」
即返される返事に、は目を見開いた。
そんな様子にスネイプの眉間の皺がさらに寄せられ、「何だ」と唸る。
「信じらんない!!ふっつー忘れないよ?!」
「だから何だと聞いている!」
さも呆れたように溜息をつきながら首を振るに、さらに苛立ちが募り声を荒げた。
はもう一度溜息をつくと、包みの中から皿2枚とナイフ、フォークを取りだし
二切れ切り分け一皿をスネイプの前へとよこした。
まだ、わかっていない表情のスネイプに呆れ顔で天井をちらりと仰ぐと、ずいっと
スネイプへと身を乗り出す。
「本当に魔法薬馬鹿なんですか!?教授って!!」
「だから知らんといっておるだろう!」
「うわっ最悪!自分の誕生日を忘れるなんて!!」
「煩い!?・・・・・?誕生日?」
「・・・・ま・・まじ忘れ?;」
はたりと動きを止めるとスネイプは考え込むように目の前に置かれたケーキに視線を落とした。
そんなスネイプに満足したようににっこりと笑うと、カバンの中から魔法瓶を取り出し、
カップに紅茶をそそぐとそっとスネイプへと差し出す。
やや放心状態で受け取り、口元へ運べば紅茶の香ばしい薫りが鼻先を掠める。
口内に広がる優しい味にようやく落ち着いたように、を見つめた。
眉間に皺は寄せられているが、その表情にはいつも見せる厳しさは見当たらない。
「なぜ、今日が我輩の生まれた日だと知っている」
「んー?学校の掲示板に出てたんだもん。今月生まれな人リストが」
(いちいち教師の名前まで出すな!ダンブルドア!!)
心の中で激しく舌打ちをすると同時に、ケーキへと視線を落とす。
は得意げに胸を張って見せた。
「でね、まあ処罰になったということだし。厨房借りてケーキを作ったの!!
スネイプ教授甘いの嫌いそうだから甘め控えめにしたんだよー。食べてよ〜」
「あぁ」
「食べて食べて」とニコニコと促すにフォークを手にする。
が・・・・
「待て。貴様、調合はいつも失敗しておるな?」
「それが何?」
「・・・・・・・喰えるのか?これ」
「・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・」
「っひどーい!せっかく教授のために作ってきたのに!!
あんまりな言い方じゃない?!?」
「死にたくないのでな」
「っきー!!最低!!」
薄ら笑いを浮かべながら意地悪そうに見据えてくるスネイプに、はむうっと頬を膨らませガタンと立ち上がった。
しかし言葉とは裏腹にスネイプはケーキを一口大に切り、それを己の口へと運ぶ。
呆気に取られているに、小さく笑うとまたケーキをすくい上げへの口へと運んだ。
恥ずかしそうに頬をピンク色に染めながら、スネイプが差し出したケーキを口に入れれば
ふんわりとチョコレートの香りが口内いっぱいに広がる。
「みゅ。おいしっ」
「まあ喰える」
「っっきー・・・」
まだ頬を紅潮させたままスネイプを睨みつければ、素知らぬ顔でケーキを口に運んでいる。
そんな横顔には魅入られたままへたりと椅子へ腰を下ろした。
「菓子が作れてなぜ薬の調合ができんのか・・・不思議だな」
「う;・・むぅ・・・だってそれは・・・・」
「?」
横目でちらりと嫌味を紡げば、は声を詰まらせて俯いてしまっている。
その顔はトマトのように真っ赤で。
怪訝そうにを見据えて紅茶で喉を潤す。
「それは・・・・」
「それは?何か不都合でもあるのかね?」
「それは・・・」
「あんな薄暗くて不気味な教室でさ!!平常心で調合できないもん!!」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「グリフィンドール5減点(怒)」
「むぅ;」
勢い良く撒くしあてるに一瞬驚きに目を見開くも、額に薄っすらと青筋を立たせて
容赦なく減点をすれば、頬を膨らませて椅子へ座り戻る少女。
そんなを横目で盗み見スネイプはに聞こえぬように心の中で小さく溜息をついた。
「まあ良い。週に一度特訓してやるから必ず来なさい」
「!?・・・・うんv」
呆れたように呟けば、一瞬にして顔をほころばせたが顔を上げてにっこりと頷いた。
その変わりようにスネイプは僅かに眉をひそめたが、嬉しそうにケーキを口を運ぶの
姿に口を開くのを抑えた。
「へへーvv作戦成功v」
「何?」
「ヴっ;なんでもないですよ!!」
慌てて首を振り紅茶で喉を潤すを横目に、スネイプも小さく勝ち誇ったように笑うと
もう一口ケーキを切り口へと運んだ。
スネイプはまだ知らない。
がなぜ今まで薬の調合が成功しなかった理由を。
またもまだ知らない。
スネイプがなぜ初めて処罰を言い渡したのかを。
それは、お互いに好意が持っていたからとわかるのはもう少したってから。
そう、きっとそれはの調合が成功した日かもしれない。
「あ、教授」
「なんだ」
「ハッピーバースディっすv」
「//////・・・・ん」
やっと仕上げたよ1月9日(だったよね?;)スネイプ教授生誕ドリーム;
書き終わってから気づいたのですが、この時期ってまだ学校休みじゃねえ?・・・・・・(冷や汗)
えと・・・まあ・・・・そこらへんはすっ飛ばしてください;
軽くヒロインに振り回される教授が書いて見たかったのですが;
そんでもって、お正月フリードリーム書く予定だったのですが、急遽このドリームがフリー配布になります。
気に入ってくださったらぜひお持ち帰ってやってください。
掲示板に一言書いてもらえると嬉しいですv。
教授お誕生日おめでとうv
03/02/2005