「生き残された悪夢」
「っ・・はぁっ・・はあっ・・・くっ!」
一人の少女が陽が沈みかけた森を駆けてゆく。
漆黒の腰まで伸びた髪を振り乱しながら、木から木へと移り飛ぶ。
白く陶器のようななめらかな肌にすらりと伸びた手足。
子供から大人へと成長段階の容姿は、普通にしていればかなり美人な枠に入る。
だが少女の体には、至るところに切傷が白い肌を赤く染めあげていた。
腹部から流れでる大量の血が彼女の体力をどんどん奪ってゆく。
「ちっきしょ・・血がたりね・・」
木から木へと飛び移るだけでもかなりの体力を消耗する、
かれこれ一時間はこの状態だ、そろそろ体力的にやばい・・・・
ぐら
視界が歪み、次の木に飛び移ることはできなかった。
「しまっ・・!」
少女の体は重力の法則に従って真っ逆様に地面に叩きつけられる。
寸前のところで体制を立て直し、何とか地面への激突は免れたがべしゃりと崩れ落ちた。
そのまま立つことはできずに木の根元にもたれかかる。
「っつう・・・」
腹部を押さえ込み止血を施すが血は止まらない。視界が揺らぐ、力もほとんど残っていない。
ここで奴等に見つかれば命はない。
ザザザザザ
木の上から葉をこする音が聞こえて少女ははっと見上げる。
その瞬間空からそらから五つの黒い物体が勢いよく降ってきて、その一つが少女を地面に押さえつけた。
「っつ!」
「散々手間かけさせがって!その足切り落としてやろうか!?」
「よせ、ラジス。この娘は殺すなとのご主人様からの命令だ。死なない程度に生かして連れて来いと・・」
「うっせぇ!・・・・・・・へっ!ハルツ、いいんだよ!・・・・抵抗したから殺した。それでいいんだよ!」
「やめろ!ラジス!」
少女を押さえつける黒いローブの男が杖を高々に振り上げた、止めようとしたハルツと呼ばれた男がガッと杖を取り出すが
間に合いそうにない、少女はこれまでかとギュッと目を閉じた。
ドン!
大きな爆発音があたりに響く、少女は目を閉ざしながら「あぁ・・やられた」そうぼんやり思った。
だが、一向に意識が遠のくことはなかった。そして次の瞬間、聞えてきたのは
「ぐわあああ!!」
男のうめき声だった。弱々しく顔を上げると少女を押さえつけていた男が地面を転がりながら苦しんでいた。
「助かった・・」そう安心したのは束の間、少女の耳に聞えてきた声に少女は自分は確実にここで死ぬのだと悟った。
「命令を聞いていなかったのか?え?主人の言いつけを破るとはいい度胸だ」
少女の目の前には、数人いる黒ローブのうち唯一フードをしていない赤い目の男が立っていた。
「ヴォルデモート・・・・・」
少女は動かない体のまま、キッと赤い目の男ーヴォルデモートを睨みつけた。
黒ローブの男達が一斉に膝まづく。ハルツと呼ばれていた男が少女の体を支えて気の根元に寄りかからせた。
ヴォルデモートは嘲るような笑みを浮かべて少女の前に立ちはだかる。
「逃げたい」。だけど、体が思うように動かない。少女は恐怖心を悟られぬようにキッとヴォルデモートを睨み返した。
「やれやれ・・・・・・・お前は本当に手のかかる子だ・・・・しかし・・・・・」
ヴォルデモートは杖先で少女の顎を上げさせ、その顔を覗きこんだ。
少女の黒い瞳に赤い目がギラリと写りこむ。少女の肩は徐々に震えだし必死にヴォルデモートを睨みつけていた。
一瞬、ヴォルデモートは先ほど少女を殺そうとした男を見やり、少女の髪を指に絡ませながら呟いた。
「ラジス」
「は・・・はっ!!」
ラジスと呼ばれた男はビクリと肩を揺らし、地面に平伏した。
「俺様はこの娘を生かして連れて来いと言った」
「は・・・はあっ!!」
静かに囁くヴォルデモートだが、その周りを包む空気はひどく息苦しいもので
少女はヴォルデモートの手を振りほどくこともできずに、その空気に押し潰されぬように体を支えるの精一杯だった。
「貴様、殺そうとしたな」
「い・・いえ!!けっしてそんなことー」
「黙れ!」
「ぎゃあああああ!」
ヴォルデモートは赤い目を見開き声を張り上げた。それと同時ヴォルデモートの杖から
緑色の光が溢れだし、ラジスの体を射抜く。耳に痛く響く機械音のような音とラジスのこの世の物とは思えない
叫び声に少女は耳を塞ぎギュッと目を瞑った。
やがて辺りが静かになったのを感じて目をそっと開けると
「ひっ!!」
少女は顔を真っ青にさせて体を強張らせた。少女の足元には先ほどの男が白目を向いて
転がっていた。死んでいる・・・・・辺りには鼻が曲がりそうな異臭が立ち込めて・・・
「うっ・・・かはっ・・ごふっ」
少女は思わず、口を手で覆い咳き込んだ。
その仕草に、ヴォルデモートは気がついたように死んだ男の体を少女の前から蹴りどかした。
「おやおや・・・すまんな・・・。こんな下衆をお前の前に転がしてしまった」
ヴォルデモートはハルツという男に、顎をしゃくる。
ハルツは頭を深く下げ少女の下に膝まづいた。その男の手には
漆黒の、ヴォルデモートと同じローブが収まっている。男は少女の服の裾にそっとキスを落とすと
手にしていたローブをそっと少女にかけた。
「さて、では戻るとしよう」
「お待ちなさい!!」
踵を返そうとしたヴォルデモートの耳に、女性の突き刺すような声が響いた。
振り返るとそこには、少女と同じ黒いウェーブがかった髪に白い肌。だけどその体も
少女同様傷にまみれていて・・・
「お・・・かあさん・・・・」
少女はハルツという男に抱きかかえらながら、母親を見つめた。
ヴォルデモートはニヤリと笑い少女の前に立ちはだかる。
少女同様、全身に傷を負った母親は今では立っているのがやっとで
背中を木にもたれかけさせながら、ヴォルデモートを睨みつけていた。
「・・・・まだ生きていたのか。ハルツしくじったな」
「も・・・申し訳ありません!」
少女を抱きかかえながらハルツは声を震わせた。彼にも先ほどの男のように杖が
突きつけられるのであろうか。
だが、ヴォルデモートは薄ら笑いを浮かべたまま少女の母親を見据えている。
「まあいい。何しにきた」
「とぼけたことを!!その子を・・を返しなさい!!!」
少女の母親は短剣のような鋭い小刀を数本構えると、少女に当らぬように
それを放った。数人の黒ローブにあたり呻き声と共に、黒ローブが倒れていく。
どうやらその小刀には強力な毒が盛られているようだ。
立っているのはヴォルデモートと少女、そしてその少女を抱きかかえる男。
ヴォルデモートは倒れている自分の下僕を冷たく見やると、落胆の溜息を落とした。
「やれやれ・・・このくらいでくたばるとは・・・」
そして杖を少女の母親へと突きつける。
少女の脳裏に先ほどの光景が甦る。
「いや・・・やめてぇ!!!」
体に走る痛みを忘れて少女は叫んだ。
少女の母親はさらに小刀と札のようなものを手に構えて、ヴォルデモートへと飛び掛っていく。
ヴォルデモートの杖から緑色の光が溢れていく。
「だめぇぇぇっ!!」
やがて・・・・少女の目に映りこんできたのは・・・・・・・・・・・
「いやあああああああ!!」
少女の瞳に写ったのは変わり果てた母親の姿。
ヴォルデモートの高い笑い声が響き渡る。
少女は泣き叫び声が木々を震わせた。少女の体から金色の光があふれ出す。
「!!こっ!!これは!!!ぐわあっ」
ハルツが驚きの声をあげた瞬間、その体は少女からはじき飛ばされた。
ヴォルデモートはハッとした様に、少女を掴もうとする。
「貴様!!!逃がすか!!!」
だが、ヴォルデモートの手は少女を捕まえることは叶わなかった。
少女は金色の光と共に、忽然と姿が消えた。
辺りには木々のざわめきがだけが響く。
「ご主人様」
ハルツが恐怖を押さえ込んだような声で、ヴォルデモートに膝まついた。
ヴォルモデートは腕を組んで空を見上げる。すでに暗くなった空には
この惨劇を知らぬかのように幾千の星を輝かせていた。
「ふん、まあいい。この俺様から逃れられん。お前の運命だ」
ヴォルデモートはローブを翻しながら姿くらましをした。そのあとに続いてハルツも姿くらましをする。
あとに残ったのは、焼き払われた木々・無数の死体・・・・・
森の向こうで殺された彼らのの村が今もまだ燃え盛っていた。
「グリフィンドール3点減点。また貴様かポッター」
昼下がりの誰もいない廊下で、スネイプは嫌味たっぷりの笑みでハリーを見下ろしていた。
「いつまでも成長せん奴だ」
ハリーは歯を食いしばりながらスネイプを睨みつけるが、スネイプは腕を組みハリーを見据える。
「言いたいことがあったら言えばいいだろう」
「・・・・・ありません」
口応えをすれば、また点数を引かれるのは目に見えている。
ハリーはスネイプの病気と思えるような血色の悪い顔を、蹴り上げたくなるのを必死押さえ込みながら
拳をぐっと握り締めていた。
口応えしないのをこれ見よがしに、スネイプはネチネチと嫌味をハリーにぶつける。
「少しは我が寮のミスター・マルフォイを見習って欲しいものですなぁ・・・彼の爪の垢でも煎じて・・・・」
バチバチバチバチバチバチ
突然廊下に、火花が散るような音がしてスネイプは口を閉ざし怪訝そうに廊下を見渡した。
ハリーもその音を聞き、不思議そうにあたりを見渡す。
「なんだ?」
スネイプは眉間に皺を寄せるが、響くの火花を散らした音だけ。
廊下はいつもと変わらない風景だ。
「あ・・・・あれ・・・・」
ハリーは声を震わせて、スネイプの後ろの方を指差した。
スネイプは怪訝そうにハリーを見やって後ろを振り返った。
「!!!」
そこには全身血にまみれた少女が倒れていた。慌てて少女に駆け寄るスネイプとハリー。
「・・・・っつ・・・・うぅ・・・・・・」
「生きてる・・」
「っつ!!ポッター!!マダムポンフリーとダンブルドアを!!!早く!!」
スネイプの怒鳴り声にハリーは一瞬、肩をビクつかせたが、サッと立ち上がって走っていった。
「ここは・・・・っつ・・・・ど・・・こ・・・・・・」
「しゃべるな!!」
起き上がろうとする少女を制して、おそらく自分でも止血を施したのであろう・・
スネイプは杖を取り出し再び開きかけている腹部に止血を施した。
腹部の傷は塞がったが、あまりにも血が流れすぎたのか少女は虚ろな表情でスネイプを見つめている。
スネイプはマントを脱いで少女の体を包んだ。
「わ・・・・たし・・・・・あなた・・・・は・・っ・・ごほっ・・・・・・」
「しゃべるな」
「!!!」
スネイプの後方からダンブルドアの声が響いた。振りかえればハリーを先頭に
血相を変えたダンブルドア・マダムプンフリー、そしてマクゴナガルが走ってくる。
スネイプはマダムポンフリーに少女を預けながら「止血は施した」と告げて立ち上がった。
マダムは黙って頷くと、少女へと屈みこんだ。
「?!・・・まさか、アルバス!!!」
マクゴナガルが真っ青になりながら少女を見つめて叫んだ。
スネイプとハリーは顔を見合わせてマクゴナガルを見つめた。
(知っているのか?)
ダンブルドアは険しい表情で、少女に屈みこむ。
「」
「ダンブ・・ル・・・ドア・・・のおじ・・・い・・ちゃ・・・・・・・・・」
「しゃべるでない。ここはもう安全じゃ心配するな」
「ダンブルドア校長先生、一刻もはやく彼女を医務室に」
マダムの言葉にダンブルドアは険しく頷くと、杖を取り出して担架を呼び寄せた。
ヴォルデモート卿の復活により、魔法界は再び混沌の渦へと飲み込まれようとしていた。
魔法省はヴォルデモートに対抗しうる種族と同盟を結び、結束を強める。
また多くの闇払いを動員して主要の待ちから守りを固めていった。
魔法界をはじめ、ヴォルデモート卿に抵抗する種族界は今これから訪れるであろう暗黒の時代に恐怖心が隠せないでいた。
そんな折、一つの村がヴォルデモートとその配下により滅ばされた。
イギリスから遠く離れた東の国ー日本ーという国で。
すぐさま、魔法省が調査に乗り出した。襲われた村は深い山奥にあり、そこは魔法使いが住む村で。
村人は皆、殺され村は焼き払われていた。
唯一の生存者は突如、ホグワーツに現われてた少女だけだった。
ダンブルドアの話によれば彼女は村を治める長の一人娘で、
優れた力を持つ少女だという。
彼女の名は
・
この時はまだ、これが悲劇の始まりだとは我輩はもちろん誰も知る由はなかった。
始まりました〜!新連載「傷だらけの光」ってのっけからダークだし!!
ヴォル様めっちゃくちゃ悪役だし!!!
これも長くなるのかそれともいい具合で終わるのか・・・
すごい怪しいですが、是非!!お付き合いしてください!!