「うーわー。教授、まだしつこく調べているんだ―?」


「・・・何の用だ」













+変化+
























日が傾きかけた図書室で軽く本棚の角に寄りかかりながら、ぶ厚い本を開いているスネイプの耳元に聞きなれた声が響く。
怪訝そうに顔を上げればやはりで。
スネイプが手にしている本を覗き込んでくるに、目障りそうに冷たく言い放つ。
スネイプが読んでいた本は「闇魔法とその属性」という本で、ちょうど闇の力を使う者というページ。


「人のこと調べている暇があったら他のことやればいいのに〜」




本からスネイプへと視線を移し、にっかりと笑うにスネイプは眉間の皺を濃くさせた。
パタンと本を閉じて棚に戻すと、ゆっくりを見据える。






この少女。使う魔法に間違いなく闇の匂いがする。
闇の魔法はそこらへんの魔法使いでは使えない。使おうとなるとそれ相当の修行が必要になってくるのだ。
まだ二十歳という少女がいとも簡単に、しかもかなり高度な闇の力を繰り出すなど・・あり得ん。
だが彼女が奴の配下、つまりは死喰い人なら話は頷ける。
死喰い人は微量ながら主人から力を授かるからだ。
だが、この少女には死喰い人である印がなかった・・・


(そう・・我輩と同じ烙印がな)


はジッと自分を見つめて、深く考えているようなスネイプの顔を覗きこみ・・・






ビシッ







デコぴんをかました。



「っつ!何するかっ」





デコぴんをかまされたことにより、スネイプはハッと我に返り、キッとを睨みつけた。
額がじんわりと痛みの波紋を広げる。はにっこりと笑って、デコぴんをしたところを撫でた。




「へへーごめ〜ん。だって教授、ボケーとしてるからv」



そうちろっと舌をだして、肩をすぼめる仕草に一瞬胸が高鳴った。



(なっ何だ?)



必死に冷静さを保つが鼓動の高まりが治まらない。
そんなスネイプの様子をわかっているのかいないのか、はスネイプの前を横切り、目当ての本を探す。
「あっ」と小さく発するとは目当ての本が見つかったのであろう、自分よりやや上の方へと手を伸ばす。
が、届かない・・背伸びをして「む〜」と力いっぱい伸ばすが、あと少しのところというところで指先が掠る程度だった。
こんな時自分の背の小ささを心から呪う。
は頬膨らませて本を睨むと、何か台になるものはないかと辺りを見渡す。
けれど何も見あたらず、仕方なく再び本へと手を伸ばす。


「あ・・」


が手を伸ばすよりも先に別の手が延びてきて、本を手にする。
振り返ればスネイプが本を手に取り、それをじっと見つめていた。


それは参考書でも何かの資料でもない、架空の物語。


スネイプは小さく笑うと、に本を手渡す。
驚くだが途端に笑顔に変わり「ありがとうございます!」とスネイプにほほえんだ。
また鼓動が高鳴る。



「へへー読みたかったんですよ〜この本。ずっと貸し出ししてて・・ってあれれ?」





パラパラと本をめくり、一番後ろの借り出し者名リストを見ては目を丸くした。
その本はまだ一人の人物しか借り出してなかったのだ。そしてのただ一人の借り出しの名前・・



「教授、同姓同名の生徒がいるんですか?」

「おらん」




そうポケッと聞いてくるにスネイプの短い即答。
まだ一人しか借りだしてない本。その一番上には几帳面そうな、でも頭文字のSに特徴がある文字で。



「セブルス・スネイプ」



と明記されていた。
は意外だというような目でスネイプと本を交互に見つめる。
その動作がまるでリスのようで、こぼれそうになる笑みをぎゅっと噛み殺し、腕を組んだ。


「なんだ、その信じられんという目は」


そう冷たくを見おろせば、まだポカンとしたと目が合う。



「んー。スネイプ教授が小説を読むなんて驚きだなって。いつも難しそうな研究書とか、怪しい薬の本ばっかり読んでいそうだもん」


手にした本ペラペラとめくりながらは続ける。



「それに、この本はマグル界の本だよ?

「ルリー・クッカーの錬金術師」

右手甲に不思議な形の痣を持つ孤児の少年が、実は偉大な錬金術師の子孫で、
錬金術を学んで家族を殺した悪い奴と戦うファンタジーでしたよね。


教授こういうお話あまり好きそうじゃないしマグルの本なぞくだらん!とか思ってそうだし」



そう、スネイプへと顔を上げれば、少し恥ずかしそうにそっぽを向いていて。



「我輩が架空の本を読むなどおかしいかね。マグルのものなど興味はないが書物は別だ。」



そう、少し口を尖らせて言い放ち、踵を返していくスネイプのマントを「クン」と慌てて掴む。
「まだなにかあるのか」と顔を顰めて振り返れば、キラキラと目を輝かせたが見上げている。
その嬉しそうな目に思わず視線が釘付けになる。はにっこり笑うとブンブンと首を振った。



「おかしくなんかありませんよ!ちょっぴり意外だっただけ!
あの・・「ルリー・クッカー番外編・氷燈の錬金術師」は・・読まれ・・ました?」



その本のタイトルを聞いてスネイプは目を見開き、へと向き直る。

「あぁ、少年の好敵手を主人公した話かね。あぁ、読んだ。
水や蒸気を用いての錬成は想像力をかき立てられるな。あの植物からつくられた・・」


スネイプの表情が生き生きとして見えるのは気のせいではないだろう。


どれくらい時が過ぎたのであろうか。ふと外を見やれば、すっかりと暗くなり星が光り始めている。
とスネイプは好きな本が同じだったということから始まり、また読書が好きだということから大いに話が弾んだ。



そんな様子を校長室の水晶から、ダンブルドアがにっこりと微笑んで見ていたというのは2人には内緒のこと。





























図書室でスネイプと別れた後、は軽い足取りで自室へと向かう。
その胸元にはさきほど借りだした本をしっかりと大事に両手で握りしめ。
さきほどのことを考えるだけでにへらと笑みがこぼれてくる。




「へへ・・意外とはなせる人なんだね〜教授」



いつも不機嫌そうに、とくにに対しては敏感に対応してきていたスネイプと楽しく話しができたなんて、
こんなに驚いて嬉しいことは久しぶりだ。嬉しそうに目を細めてキュッと本を抱きしめる。
自室のドアを開けて入り、後ろ手で閉める。もう部屋の中は真っ暗だった。
は懐から杖を取り出し部屋の中に明かりを灯す。



そして顔を真っ青にして抱きしめていた本を落とした。





部屋の中は黒い羽で埋め尽くされていた。
ドアを開けた風圧により何枚かの羽がふわりと舞う。まるで生きているかのようなその動きにの脳裏に何かがよぎった。





「・・や・・思い出させないで・・」




忘れたとは言わせんぞ


の頭の奥底から不気味な声が響く。
低く幾重の声が重なったように止むことなく反響する。



お前は逃げられん運命だ。



耳を塞ぎ、きつく目を閉じても不気味な声は鳴り響いて。
は耐えきれずにその場にうずくまる。



「や・・やめて・・もういやだ!」



お前も同じだ



「いやあ!」


































「気に入るか分からんが・・・」



スネイプは珍しく穏やかな表情で、の自室へと向かっていた。
その手には一冊の本がしっかりと握り締められ・・

図書室でばったりと会った
最初は苦々しそうに睨みつけたが、が本好きということがわかり
おおいに話が盛り上がった。

そういえば彼女とまともに話をしたのは初めてかもしれない・・

たしかに彼女の力のことは気になるが、
きっと闇の力を使うだけで、心も闇に投じているわけではなさそうだった。
と別れて一旦、自室へ帰ったものの、との話があまりにも有意義で
スネイプは柄にもなく落ち着かなかったのだ。
彼が特に気に入っている小説をに読んでもらおうと、足早に部屋を後にする。


の自室まであと数歩。
ノックをしようと扉に手を近づけた瞬間、


バン!!


と勢い良くドアが開いた。
驚きに目を見開くスネイプに、が蒼白な表情で泣きながら飛び出てきた。
思いっきりスネイプの懐に飛び込む形になり、スネイプはやっとのところでを抱きとめた。
だが、は錯乱しているのか、スネイプがの肩を掴んだ瞬間暴れだしたのだ。


「や・・やあ!!放して!?いやだ!!!」

「お・・落ち着け!!!」


ガシッとの肩を掴み、落ち着かせるがは定まらない目で、怯えたように首を振る。



「放して!!あんなところに戻るもんか!!」

!!我輩だ!!」


先ほどより強く肩を揺さぶり、の顔を覗きこむ。
は弾かれたように目を見開き、暴れるのを止めた。
の見開かれた瞳に、スネイプの心配そうな表情が写りこんでいる・・


「きょ・・うじゅ?」

「あぁ・・・どうした?」

「ふぇ・・・・」

スネイプの姿を認めて落ち着いたのか、スネイプの優しい声に意識を取り戻した。
キュッとスネイプの胸に顔を埋めてすすり泣く。その瞬間にの膝が崩れ落ちた。
慌てて体を支えるが、スネイプも一緒にしゃがみこむ羽目になってしまった。
こんなに顔を真っ青にさせ、恐怖を露にするなぞ・・・
初めてみる弱々しい姿に、スネイプはただ黙っての頭を撫でるしかできなかった・・



ふと・・開け放たれた扉からの室内を見やり、スネイプは表情を強張らせた。



「これは・・一体・・・・なんだ?」






部屋中あたり一面には黒い羽根が敷き詰められていた。
そして、一番奥の壁に・・赤い文字がスネイプを釘付けにする。





「逃げられると思っているのか、黒き天の狗よ」






バタバタと廊下に慌しい足音が響いてくる。
ダンブルドアとマクゴナガルが血相を変えての元に走りよった。






「もう・・・・誰も・・・・・殺したくないの・・・・・」





走りよってくるダンブルドア達を虚ろ気な表情で眺めながら、は小さく呟いた。
その言葉はスネイプの耳に届き・・・怪訝そうに眉を顰めての顔を覗きこめば、
はフッと意識を失い、スネイプの胸にフワリともたれかかった。







「君は・・本当に何者なのだ・・・









へへ・・・途中に出てくる「ルリー・クッカーの錬金術師」。
ばっちりハリーポッターと鋼の錬金術師が元です;
ここまで鋼を持ち込むなー;