+正体+














「げ」


「げ。とはなんだ。貴様」


昼休みの廊下。午後からの授業準備のために、白い羽をたくさん詰めた箱を担いで足早に急ぐ
曲がり角でばったりとスネイプと鉢合わせした。おもいっきり嫌そうに顔を顰めるに、
普段から不機嫌そうなスネイプの顔が、一層濃く不機嫌に変わった。
ガッとの行く方向を遮り、ゆっくりと腕を組む。一瞬、顔が強ばるにニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて。
そんなスネイプの仕草にの背中にヒヤリと冷たいものが走った。


「なっなんですかい!」


少し声を振るわせ、キッと見上げてくる仕草はまるで親に怒られ不貞腐れた子供のようで・・・スネイプは表情に出さぬように笑った。


「我輩に向かって「げ」とはどういうことかね…」



そう、余裕の笑みでに一歩踏み出す。

(わかっているくせに!)


の手の件からスネイプはしつこくのことを問いただすようになったのだ。それは毎回同じ問い。






「貴様の操る術は闇の匂いがする。どこで覚えた」





スネイプと顔を合わせる度にしつこく問いただされ・・問いただされる度には何かと理由をつけて逃げきってきた。




自分のこと。


とくに自分の用いる魔法のことは語らぬよう、ダンブルドアに言いつけられている。
そして極力魔法を使わぬように心がけてみてみるものの、ここホグワーツの生徒はなかなか粋なことをしでかしてくれるので、
しょっちゅう力を使うはめに・・そしてその度にスネイプが現れて・・
そんな日が何日も続けば、が「げ」と顔を顰めるのもも頷ける。
一歩、また一歩と踏み出してくるスネイプにも一歩ずつ後ずさりをする。


(うぅ・・またぁ?)



しばらく睨み合いが続いたが、やがてスネイプは長く深いため息をついて踵を返した。一瞬、立ち止まって振り返る。
その表情はとても冷たいー



「我輩は諦めんぞ。貴様の正体必ず暴いてやる」




そう冷たく言い放つとバサッとマントを翻し、規則的な靴音を立てて廊下へ消えて行った。
表情を強ばらせたが我に返ったのは始業のベルが鳴ってからだった。




























「はぁ・・」


仕事が一段落したは、フィルチから暇をもらって図書室で本を開いていた。
ホグワーツの図書館は本の所持数はもちろん、その内容もかなり充実していて
読書が好きなにとってはなんとも嬉しい場所である。
それなのに、はの視点は定まらないまま本の上を彷徨い、手持ちぶたさにパラパラとページをめくる・・・




(貴様の正体必ず暴いてやる)



さきほどのスネイプの声が脳裏から離れない。
そしてあの冷たい目・・・・おそらく本気でのことを調べているのであろう・・


はギュッと目を瞑ってパタンと本を閉じた。肘をついた手にペチと額を置く。


「私の正体・・・・・ふふ・・・・知った時の顔が見ものね・・・・」


そう自嘲気味に笑って、小さく溜息を零す。


あの男・・・なんとなくだけど・・間違いない・・

「一時でも闇に身を置いていたことがある・・だからか・・・」

そう呟いてはゆっくりと顔を上げた。

両手の平をジッと眺める。

「だから・・私のことも気づいたのね・・・・でも・・・・言えないの・・・言ったら・・・・・私・・・」



そう呟いた瞬間、はハッとして口を手に置いた。


「言ったら・・何なのよ・・自分を守りたいだけじゃん・・言ったら・・ここにいられなくなるからだ。
逃げる場所が失うのが怖いだいけなんだ・・・・・」


グッと拳を握り締めて、そこにはいない誰かをキッと睨む。


「・・・カッコ悪・・・・」



いつかは言わなければいけないかもしれない・・・だけど・・今は言えないんだ・・・




























「さて・・・・これでいいか・・・・」


図書室の一番奥。難しそうな本棚の前で数冊を目を通してスネイプが頷いた。
貸し出しの手続きを済ませ、出て行こうと踵を返した瞬間、窓際の机に何かあるのが目に入った。
一体なんだったのかと不思議に思い、もう一度振り返ってみる。どうやら生徒が机に突っ伏せて寝ているようだった。


「ここをなんだと思っている・・・」

図書室で居眠りをこくなど、読書好きのスネイプからすれば失礼極まりないことだ。
眉を顰めて、ガッと窓際へ歩み寄る。



「・・・・・・・・貴様か」


生徒だと思って目の前に立ちはだかったスネイプの顔が、ピクリと一瞬歪んだ。
険しかった表情がさらに険しくなっているのは気のせいではないであろう。
寝ていたのはだった。小さな寝息をたて自分の右腕を枕にし・・・・


「おい。起きろ」


そう乱暴に揺り起こすが、は起きようとしない。
眉を顰めて舌打ちをするスネイプ。ふとの横に置いてある本に目を向けた。



「闇魔法に打ち勝つ術?・・・・・・が読んでいたのか?」


そう首を傾げながら、その本を手にする。どうやら読みかけらしく途中にしおりが挟まれていた。
しおりのページを開いた瞬間、スネイプは声にならない小さな悲鳴を発した。
スネイプの決して健康とはいえない表情がさらに、白くなる。
しおりが挟まれていたページは・・・


死喰い人とは


という説明文であった。スネイプも何度もこの本を手にしている。
何度もこのページを読んだことか・・・拭いきれない烙印を無駄な足掻きで何度消そうと試みた?
ふと左腕に痛みが走るのを感じて、スネイプはバンッと本を机の上に置いた。
息が荒くなっている。ハッとしてを見やれば、はまだ寝ていた。
ホッとしたように胸を撫で下ろし、置いた本をジッと見つめる。


は・・死喰い人の何を・・・・・・・・・・まさか!」


そうハッとしたようにを見つめる。


(やはりそうか・・・・それならば全て話しがつながる。ダンブルドアが話さなかった理由もが外に出ようとしなかったことも)


スネイプは意を決したように、無謀に置かれているの左腕の袖をそっと捲り上げた。
もし、自分の考えが正しければ・・の左腕には・・・あるものがあるはず・・
そう・・自分と同じ烙印が・・・・・・・




「な・・んだと・・・・?」



だが、の腕にはスネイプと同じ烙印はなかった。
白い腕が暗くなりかけている図書室に薄っすらと浮かび上がる。



「死喰い人ではないのか・・ならば・・・・・・君は一体何者なのだ・・・・」


の腕に何もなかったことに安心したような・・でも意外なような複雑な心境で
小さく呟いた。そして小さく溜息をつくとマントを脱いでにかけてやる。
ジッとの顔を見つめたあと、借りた本を手にスネイプは図書室から出て行った。



「・・・やっぱり・・疑ってたか・・・・・」


スネイプが出て行った後うっすらと目を開け、定まらない視線でぽつりとは呟いた。
そっと体を起こし、頬杖を突く。ふとマントに目をやって少し驚いたように目を丸くした。


「うそ・・何気に優しい?;」



マントを脱いで綺麗に畳み、読みかけの本を借りる手続きをする。



「死喰い人じゃ・・ないんだよ・・私はね・・。スネイプ教授?」



大広間へと向かう廊下では寂しそうに小さく呟いた。









































夕食の時間ー



「スネイプ教授ー。はい。これ」

「・・・・・・・・・・・あぁ・・・」


席に座る前にスネイプの前に寄り、マントを差し出す。
スネイプは少し驚いたようにを見つめて、気のない返事でマントを受け取った。
その表情は何かを聞きたそうにしていて・・・


「にしても。なんで教授のマントが私にかかっていたのですかねー?ミステリーですよねーv」

「さあな。」


そう、マントを羽織ると何事もなかったように再び席につく。
から視線を逸らし、いつもに接するような威圧感がどこにも見当たらない。
は苦笑いをして溜息をつくと、そっとスネイプの耳に呟いた。



「っ!!?」


スネイプは目を見開いて顔を上げた。
驚きの色が隠せないスネイプの表情には小さく笑って頷く。


(起きていたのか!)



「じゃーにv」


軽く手を振って踵を返すと、は自分の席へ腰を下ろしたがスネイプはまだを見つめていた。















(死喰い人でないことは確かよ?)