「よ、お主のことは誰にも話してはならんぞ?まだ時期ではない。
セブルスが何か感づいているようじゃが・・極力二人きりにならんようにの」
と今朝、ダンブルドアのおじいちゃんが言ってたっけ?
はソファに座らされポケーと定まらない視線で遠くを見つめていた。
(ははー。言われた早々二人きりなうえになんかこの人の部屋だよ―!おじいちゃ〜ん!)
+嫌な奴!+
スネイプに引きずられてついた部屋は・・・なんと!!スネイプの自室兼研究室だった。
「いやだぁ〜怖い〜!不気味なホルマリンだらけの陰気悪趣味部屋に入れるかぁ!」
「誰が悪趣味だ!だいたい貴様、来たことはないであろうが!」
逃げ帰ろうとするの頭をぐわしぃっ!と掴みながらスネイプが苦々しく唸った。
けれどもは必死に逃げようとする。
この扉の向こうに入ってしまったら・・
「だって、学校中の噂だもん!陰険根暗万年蒼白顔スネイプの部屋は入ったら最後!
生きては出れない!不気味なホルマリンだらけの棚をほくそ笑みながら毎晩眺めているって!
きっと入った人間はホルマリン漬けにされちゃうんだぁ!!」
「我輩を何だと思っている!この阿呆が!!」
スネイプと二人きりになってしまったら、何を問いつめられるか!必死に逃げようとするが・・・
「きゃう!」
まるで小動物を掴みあげるように首根っこを掴まれた。
足がぶらーんぶらーんと床から離れて無様に揺れている。
スネイプはを掴みあげたまま素早く自室に入ると、ソファに「ぺいっ」とを放り投げた。
「薬を作る。しばらくそこでおとなしくしていたまえ」
そう吐き捨てると棚からいくつかの薬瓶を取り出し、大鍋に火をつけた。
ふと、顔をあげてニヤリとを見据える。
「鍵をかけた。無論、我輩にしか解けん。おとなしく待っていることだ」
「あう;」
ドアノブに手をかけながら、必死に開けようとしていたの表情が強ばった。
ギギギと音が聞こえそうに震えながらゆっくりと振り返ると、
わざとらしく小瓶を揺らしながら不敵な笑みを浮かべているスネイプが・・
ピシリと青ざめながらが固まるのをおもしろそうに眺めると、小瓶の蓋を開けて少しずつ大鍋に落としていく。
「座っていたまえ。手も痛むであろう?」
大鍋に視線を落としたままスネイプが静かに言った。
その通りだった。
必死に部屋に入るまいとしてた時も、スネイプに引きずられているときも。
手の焼けるような痛みはとても辛かった。
はそんなスネイプの言葉に「むう」と口を尖らせると、おとなしくソファに腰をおろした。
何気なくスネイプの部屋を見渡してみる。
地下の研究室には薄暗く、唯一明かりを取るために壁に小さな窓が一つあるだけ。壁にはぎっしりと棚が作りつけられ。
そしてスネイプの性格を象徴するかのように、几帳面に、神経質にきっちりと本や薬品の瓶が並べられていた。
隅々まで整頓されているせいか、得体の知れない薬品やホルマリンがずらりと並んでいてもさほど不気味さは感じられない。
ポケーと部屋を見渡しているに、スネイプは横目で見ながら小さく笑った。
(そうおとなしくしていれば可愛気もあるというのに・・・)
そう思った瞬間、スネイプは顔を顰めて固まった。
(小娘相手に何を考えているのだ我輩は!)
「っつ!・・ってぇ〜・・・」
そう自問しているスネイプの耳にの声が耳に入ってきた。
ふとに目をやれば左手を押さえて辛そうに顔歪めていて・・
大鍋の火を消してコブレッドに注ぎの前に立つ。
押さえつけている手を取り、手のひらを返せば先ほどより酷くなっている手・・
スネイプは心の中で舌打ちをして、ゴブレッドをの前に突きつけた。
「飲め」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・;」
だが、は青ざめながらジーッとゴブレッドを見つめている。
「100%オレンジジュースに青汁とミルクティーを混ぜたような色・・・・」
「混ぜたことがあるのか!いいからさっさと飲め!」
スネイプの脳裏にが意識を取り戻した時のことがよぎり、盛大に溜息をついて
ズイッとゴブレッドを突きつける。
だが、は両手を後ろに隠して、頑として受け取ろうとしない。
「もう騙されないぞぉ〜また苦いんでしょう!」
「誰も騙してなどおらんだろうがっ良薬口に苦し。飲め」
キッとを睨みつけるスネイプだが、も負けじとスネイプを睨み返す。
一度飲んだら、飲まずとも色でその味が手に取るようにわかる。
絶対飲むもんか!
「塗り薬にしてよ!!」
「飲み薬の方が効く。飲め」
「や」
「材料言うぞ」
「飲まないもん」
スネイプの部屋に張り詰めた空気が流れる。
お互いを睨みつけたまま、どちらも動こうとしない、口を開かない。
しばらくして、スネイプが深々と溜息をついた。
呆れたように、サイドテーブルにゴブレッドを置く。
この勝負!の勝ちだと思われ、がニッコリと微笑んだその時・・
ぐわっしぃ!!
「ぐにゃぁ・・む!な!!何すん・・」
「ふむ。我輩自ら飲ませて差し上げるのだ。ありがたく思いたまえ」
の顎を掴み上げて、スネイプはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
「な?何!?・・・・!!!!や・・・やだー!!」
無理やり口を開かされ、一滴も零すことなく器用にの口に薬を流し込む。
吐き捨てたくても、顎をスネイプに固定されて吐き出せない。
はギュッと目をきつく閉じて、覚悟を決めるようにゴクリと薬を飲み込んだ。
「・・・・・・・・・くぅ・・・・かは・・・・ま・・・・・・っず・・・・・・・・」
は胸をさすりながら、ソファにもたれ掛かった。
喉が焼けるような苦さ。これはもう薬というより毒だ!!
殺意を抱きながらギッとスネイプを睨みつけるが、スネイプはそんなことおかまいなしに
の手をとり手の平をジッと見つめている。
「ふん。もう大丈夫だ」
「え?・・・・・あ・・・・え!もう治ってる!!」
スネイプの言葉に自分の手のひらを見やると、は驚きに息を呑んだ。
あんなに酷くただれていた手が、跡形もなくもとの綺麗な可愛い手に戻っていたのだ。
「は〜・・・」と信じられない表情で自分の手のひらをかざすに、小さく鼻で笑うと
スネイプはサッと立ち上がり、大鍋を片付け始めた。
「あ・・・ありがとうございます・・・」
その後姿を見つめながら、は小さく礼を言うがスネイプは聞えているのかいないのか、
手際よく道具を片付けていく。
「本当に有難うございした。えと・・・では失礼します。」
は慌てたように、お辞儀をするとサッと扉へ小走りした。
ガチャ・・・・・ガチャガチャガチャ
「鍵をかけてあると言ったであろうが。阿呆」
すぐ真後ろでスネイプの声がして、バッと振り返ると本当に真後ろにスネイプが立っていた。
「うおっ!!」
(なんで!!片付けしてただろうが!!あんた!!)
焦りの色が隠せないお嘲るように見据えると、ゆっくりと扉に両手をついてを逃がさぬように
顔を覗き込む。
(あわあわあわ!性格ひねくれていても!あんた顔はいいんだから!少しタイプな顔だし・・)
「って違う!何考えているんだ自分!!」
「;おい・・;」
そう顔を真っ赤にして首をブンブン振るに、スネイプは怪訝そうに眉を顰めた。
はハッとした様に顔を上げると、ガッとスネイプから逃れようと腕をすり抜けた。
が・・・
「にゃあ〜;」
また首根っこを掴まれた;
「用はまだ済んでいないのだが?」
「やあ・・もう・・・私はないので!!」
だが、スネイプにがっしりと肩を掴まれてスネイプへと向き直される。
少し怯えたように見やれば、真剣な表情のスネイプと目があった。
「君は・・・我輩を避けているようだが?」
「んなことないですよ!」
(よいか?お主のことは他言無用じゃ・・とくにセブルスには気をつけるようにのぉ・・
セブルスは感が鋭いからのお・・・v)
ダンブルドアの言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
一体、この教師は何が効きたいのだろうか・・・
(まさか・・・・私が・・・・・・・・私のこと・・・気づいているの?)
長いこと目を合わせたまま、お互い何もしゃべろうとはせず。
ただ時間だけが過ぎていく。
「君は何者だ」
やがて重苦しい空気にスネイプの声が響いた。
の顔が一瞬にして青ざめる。
「な・・なんのことですか・・」
いきなり現われ、ホグワーツで働く少女。
人目を恐れるように、校外から一切出ようとせず、自分のことをひとつも語ろうとはせず。
ただ、分かっていることはこの少女がヴォルデモートに襲われたこと。
いかにして逃げ延びたのかさえもなにも語らない。
「君はなぜヴォルデモートに狙われたのだ」
「・・・・・・・・・・」
「どうやって逃げ延びた」
「・・・・・・・・・・」
「君の力はどこで身につけた」
「・・・・・」
スネイプが問うてもはギュッと口をしばったまま、俯いて口を開こうとしない。
何か必死に耐えているような表情に、スネイプは深い溜息をついた。
「話したくは・・ないか・・・・」
そう舌打ちをするとから離れて、ソファへとなだれ込む。
だが、扉の鍵はしっかりと施されたまま・・・
「いい加減扉開けてよ」
「できんな」
握る拳に力が入る。
(だいたい!なんでこう知りたがりなのさ!こいつ!!)
「母親は殺されたといったな。父親は?」
「・・・・・・・・・・・・・死んだ。ずいぶん前に」
「ずいぶんホグワーツ慣れているようだが?ここに来たことが?」
「あるよ・・・うんと小さい頃だけどね・・16年ぐらい前・・・」
(我輩が教師なる前か・・・)
ソファに肘掛に肘をついて、を見据えれば口を尖らせて必死にドアノブを回している・・
そんな姿が妙に子供らしくて、面白い。スネイプは薄く笑いながら、額に手をおいた。
(思い違いか・・?)
懐から杖を取り出すと、軽くドアノブに一振りする。
カチャリと乾いた音がして、キイと扉が開いた。
は驚いたようにスネイプを見つめて、空いたドアを見る。
「えと・・・・;」
「悪かったな。もういい。」
乾いた廊下を歩きながら、ズンズンと自分の部屋へと急ぐ。
その表情はムッと苛立ちを隠せないでいた。
「セブルス・スネイプ・・・・嫌な奴!
次あんなことしてみろ!監禁罪で訴えてやる!!」
自分の部屋に戻り、ドカッとソファになだれ込めば、テーブルの上の写真立てが目に入る。
何気なく写真立てを手に取り、淋しそうに・・その写真立てを見つめる・・・・・・・・
「母さん・・・・・・あの時には・・・もう・・戻れないよ・・・もう引き返せないんだ」
「我輩の気のせいだったか・・・だが・・気になる・・・・あの娘の力は・・・」
が出て行った後もずっとソファに身を埋め、考えに耽ける。
スネイプがふと時計を見やれば、すでに日は落ちていた。
母さん・・・・・・あの時には・・・もう・・戻れないよ・・・もう引き返せないんだ
私には分かる・・音をたてて壊れていく自分が
止めて・・・・止めてほしいよぉ・・・・
もう・・・これ以上何も壊さないで