+闇の術者+






















「フィルチさーん!見回り終了っ!」

「あぁ、ご苦労だな。もういいぞ?今日は」

「やったぁー!もうバテバテっすよう」



ランターンをテーブルに置くと、は大きく伸びをした。
ふわぁと欠伸をするにフィルチは苦笑いをこぼす。


「しかし、君がきてからいろいろと助かった。」


そのままソファになだれ込むように座るに、まだ出ていかないと悟ったフィルチは、
大きめのマグカップにココアを注いでに手渡した。



「わ〜ありがとう!っつ〜甘くておいし〜い!今まではずっとフィルチさん一人でやってたんでしょ?大仕事だよね〜」



両手で少しずつココアを飲むに小さく笑いながらフィルチもココアを口に運ぶ。


「まぁ・・・な。だが一人じゃない。ミセス・ノリスが手伝ってくれているからな」


そう皺まみれのゴツゴツした手で、フィルチの膝上で寝息をたてているミセス・ノリスをそっと撫でる。
最初こそは「相棒が猫かよ!」とつっこみまくっていただが、
今では人間に劣らぬほどのミセスの働きにただただ関心するばかりである。
そんなフィルチの姿をはにっこりと見つめていた。












行き場所をなくしたはほとぼりが冷めるまでここ、ホグワーツで用務員として働くことになったのだ。
表向きはほとぼりが冷めるまてだが。

だが、にとってほとぼりが冷める時はこない・・



「ふふ・・それが来るのは私かあいつが死ぬ時ね・・」


そう自嘲するにダンブルドアとマクゴナガルは眉を顰めた。
が医務室で目が覚ました日、はダンブルドアにすべてを話した。
ヴォルデモートが村を襲い村人を殺しの母親がの目の前で殺されたこと・・・


「あいつは・・私だけ殺そうとしなかった。きっと私が持つ力が狙いだと・・」


自分の手のひらを憎むような睨みつけながら声をふるわせるにダンブルドアは
小さいため息をついてを抱きしめた。


「自分を責めるでない、。確かにお主は拭いきれぬ運命の元生まれたかもしれん。
だが、それはこれから君が選ぶ道によって変えていける。だから自分を責めるでない」



その言葉には銀の滴を瞳からこぼした。
それからはダンブルドアの計らいにより、用務員として働くことに。
当初はフィルチに煙たがられたが、の持ち前の明るさと行動力で仕事をこなし、
いつの間にかフィルチはもちろんのこと、ミセス・ノリスもを当てにするようになった。








そんなある日のこと。





「うぅ〜箒運びは意外とつらいのよぉう〜」



飛行術の授業が終わり、一通り後かたづけを終えたはヘロヘロになりながら城へと戻った。
玄関ホールに入るとなにやら螺旋階段の上の方から言い争いが聞こえる。



「いい加減にしろよ!マルフォイ!」


「はっ貴様こそ負けを認めろよ!貧乏人めが!」







「・・なんだガキの言い争いか」



そうはさも疲れたようにため息をつくと、螺旋階段を上っていった。
ちょうど上りきったところで言い争いをしているようで、は舌打ちをして歩調を緩める。



「私が上るまで終わらせて消えてよ〜?面倒はごめんだわ」





だが、生徒の喧嘩は終わりそうにない、は立ち止まって少し聞いてみることにした。


「ちょっと!いい加減にやめなさいよ!」

「この声はハーマイオニーか。となるとハリー・ロンも一緒か?」


「そうだ!言い過ぎだぞ!マルフォイ」


「せーか〜い。相手はあの坊ちゃん・・マルフォイか・・」


の表情が少しばかり強ばった。だがそれと同時にぶんぶんと首を振る。


「落ち着け自分。あの子もそうだとはかぎらないんだからっ」







上の方の声が止まった。




「あ〜終わったかぁ」



そうホッとため息をついて階段を上ろうとした瞬間、



「きゃあああ!」


ハーマイオニーの悲鳴が当たりに響きわたった。
は思わず階段を駆け上がった。そして目に飛び込んできたモノ。
それを目にし瞬間の怒鳴り声が響いた。


「何をしている!!」



そこには全身から紫色の蔦のようなものが生えているロンが苦しみながら倒れていた。
しかも一本や二本ではない、無数の蔦が自ら意志があるかのようにロンの体を締め付けていて・・・
そして杖を構えながら薄笑いを浮かべるドラコ。
を見て少しほっとしたようなでも不安そうにハリーが叫んだ。

!ロンが・・・ロンが!」


「何の騒ぎだ!!っつウィズリー?」



騒ぎを聞きつけた生徒達を掻き分けながらスネイプがドラコの前に立った。
苦しみながら倒れているロンを見て目を見開く。

「こっこれは・・何があった!」


ドラコの肩を掴み睨みつけてくるスネイプにドラコは薄ら笑いを浮かべている。


「ミスター・ウィーズリーが飛びかかってきて・・・」

「違うわ!ロンが後ろを向いた瞬間杖を向けたのよ!」

「黙れ!」


そう大声を張り上げるハーマイオニーにドラコが鋭く唸った。
スネイプはさらに強くドラコの肩を掴むと鋭く睨みつける。

「どういうことだ、マルフォイ!」



はロンの側に駆け寄り、体から生えている蔦を調べた。
ハリーが少し混乱しているようにを見上げている。

・・ロンが・・」

ロンは苦しそうに呻き声をあげて床をころげ回っている。
ギャラリーと化した生徒たちから小さな悲鳴が微かに聞こえる。
はロンの体からはいでている蔦を一つ手に取り調べた。


(間違いない・・効力はまた微力だけど、これは紛れもなく闇魔法だ・・あの馬鹿!こんな魔法を息子に教えるなんて)




「何事ですか!」


マクゴナガルが忙しく走ってきた。
ロンの姿を見て声にならない悲鳴をあげる。








「・・・ハリー下がって。マクゴナガル先生も」


が小さく、でも周りに十分聞こえるようにつぶやいた。
マクゴナガルは不思議そうにの顔をのぞき込む。
だが、ホグワーツに来てから初めて見せる、険しい表情にマクゴナガルはかけようとした言葉を飲み込み、
ハリーの腕を引いてから離れた。
ロンの元に膝まづくと、手をあわせて何か小さくつぶやき始めた。
呪文を唱える度に合わされた手のひらから光がこぼれてくる。
こぼれた光がまるで意識があるかのようにロンの体を包み込んでいって。
やがてが呪文を唱え終わる頃にはロンの体からは紫色の蔦は跡形もなく消えていた。
けれどもロンはぐったりとしたように倒れたままだ。
は小さく息を吐くと、杖を取り出し担架を呼び寄せた。
担架にロンを乗せながらハリーとハーマイオニーににっこりと振り返る。



「もう大丈夫。すこし衰弱してるから医務室に運ぶよ。ハリー、ハーマイオニー?付き添ってあげて?」


ハリーとハーマイオニーは黙って頷くと、医務室へと向かい始めているロンを乗せた担架と医務室へ足早に歩いていった。
マクゴナガルは我に返り、野次馬の生徒達を追い払う。
は杖を懐にしまうとガッとドラコの前に歩み寄り胸ぐらを掴みあげた。




「来い!このすっとこどっこい!」



突然の出来事に目を丸くするドラコを半分引きずりながら、は使っていない教室へと入っていった。
慌ててスネイプも教室に入ってきたが、から滲みでている怒りマークに声がかけられない。
がドラコをイスに押し座らせたところでマクゴナガルも入ってきた。



「さあて、ドラコ坊や。君は何をしたかわかってんだろうね?」


にっこり笑いながら、でもはっきりと怒りを露わにしたにドラコの表情が一瞬強ばった。


「な・・何のことだよ」





パシーン!





を見据えるドラコの頬を勢いよくはたいた。
今度こそ放心するドラコに、手をあげたに驚きを隠せないスネイプとマクゴナガル。
教室に居心地の悪い空気が流れる。


やがてが静かに口を開いた。




「お前が、ロンに放った魔法は闇の者が使う魔法なんだよ。」



マクゴナガルが声にならない悲鳴をあげて息を飲み込み、信じられない表情でドラコを見つめている。
ドラコはおそらく闇の魔法だと知っているのであろう。拗ねたようにからそっぽを向く。
その態度には拳を握る。



「あの魔法はな、かけた相手の力を吸い取りやがて死にいたらしめる術だ。知ってたか?」



ドラコの目が動揺した。顔をしかめてをみあげる。


「え・・。あれは襲って来た相手を足止めする魔法じゃ・・」

「違う。相手を苦しめ徐々に死に追いやる術だ。最近になって禁術とされた」


そうキパンと言い切ったにドラコの顔が一瞬にして青ざめた。
膝を掴んでいる、両手がかすかに震えている。
おそらくドラコは魔法の効力を別の意味で教えられたのであろう・・
小刻みに震えて俯くドラコを見つめながら、はギリッと歯を食いしばった。


「教えたのは・・・父親か?」


俯いたまま小さく頷くドラコ。
スネイプとマクゴナガルは声もかけられずにただジッと2人を見つめていることしか
できなかった。しばらく俯いているドラコを睨みつけていただが、
やがて小さい溜息を一つ零すと、そっとドラコの利き手をとった。


「それにな・・・」

「?・・・・!!!??ひっ・・・!!」


手のひらを返してドラコに見せると、恐怖心を露にしたドラコが思わず声を上げた。
スネイプもたまらずドラコに歩み寄り、その手を強張ったように調べ見る。


「これは・・」

「そう・・・リバウンド。未熟な者が高度な術を施した時に起こる副作用。
普通の魔法なら手が痺れる程度だけど・・・ドラコが使ったのは闇の魔法・・
リバウンドも大きかったんだ。」


ドラコの手のひらはまるでただれたように、紫色に変色していた。
自分の手の平を恐怖の眼差しで、見つめるドラコにはまた小さく溜息をついた。


「まったく・・お前の父親の気が知れないね。息子にこんな馬鹿げた魔法を教え込むなんて!」


そう誰に言うでもなく怒りながら、ドラコの手の平に自分の手のひらを重ねる。
が短く何かを唱えると、急に手のひらが熱くなった。
けれどもそれは一瞬で、熱いと思った時にはドラコの手のひらは元通りになっている。
目をぱちくりさせているドラコの頭を軽く叩くと、はニッコリと笑って頭を撫でた。
その仕草に、ドラコの頬に赤みがさす。


「えと・・・あ・・・ありがとう・・・」

恥ずかしそうに小さく呟くドラコには「もう使うなよ?」と念を押して帰るように促す。
扉を開けて出て行こうとしたドラコだが、一瞬立ち止まってに向き直った。

「ありがとう・・・ごめんなさい」

「おうよ!ロンにも謝っとけよ?」

「え;・・・・・」

「あ・や・ま・れ・よ?」

「・・・・・・う・・はい・・」


顔は笑っているが、滲み出るオーラーが怒気じみている
ドラコは頷くことしかできなかった。
パタンと扉をしめてドラコが出て行くと、は大きく息を吐いて椅子に座り込んだ。



「マクゴナガル先生・・・いちお・・ダンブルドアのおじい・・じゃない校長先生に報告を。」


少し青ざめているの表情にマクゴナガルは戸惑いながら頷くと、扉へと歩いていく。

「あっ!でも!」

扉を開けて出て行こうとうするマクゴナガルにが慌てて引き止めた。

「何かしら??」

マクゴナガルが首を傾げてを見つめている。
は少し戸惑いながらそっと口を開いた。


「全部が・・・あの子のせいじゃ・・・」

「わかりましたわ、。安心して?」

マクゴナガルはニッコリ笑うと静かに扉を閉めて、教室から出て行った。


「ふぅ・・・・弱ったなぁ・・・って!な!何!?」


が再び息をつくと、ガッと腕を掴み上げられた。
突然の出来事にはアタフタするばかりで・・・
スネイプが険しい表情での左腕を掴み上げている。



「・・・っつ・・・痛いって!!放し・・・」


「ほお?それは掴まれて痛むのではないであろうが!」


そう、唸るように吐き捨てると、スネイプはの手のひらをの目の前に見せつけた。
そこには、先ほどドラコの手のひらと同じように紫色にただれていたのだ。
キッと見据えてくるスネイプには居心地が悪そうに視線を逸らす。



「なんでバレたかなー・・・・・」

「ふん、リバウンドで侵された身体はそう簡単には治らんからな!!
大方、マルフォイから貴様の体にリバウンドを移してのであろう。莫迦なことを!」

「なんか・・むっかつくなー・・・?・・・・スネイプ先生?うおっ!」


ジッとの手のひらを見つめているスネイプに、は不思議そうに顔を覗きこんだが
次の瞬間、グイッと腕を引っ張られ教室から連れ出された。

「えと・・あのー?てんてー?」

「医務室で直せば、遠からずもマルフォイの耳に触れるであろう。リバウンドを移した意味がなくなるからな」

スネイプは振り返らず、ズンズンと廊下を歩いていく。
は何度も引きずられそうになり、必死で小走りになり転ぶまいと必死だ。
医務室からどんどんと離れていく。一体どこにいくのだろう?
やがて、2人は地下牢へと近づいていきその一番奥の部屋に着いた。