夜が明けてホグワーツにいつもと変わらぬ時が流れてくる。
いつもと変わらぬ風景に、いつもと変わらぬ笑顔。
だがいつもとは違うことがたった一つあった。


























+交わされた無言の約束+




































「スネイプの奴遅えーなー」

「まぁ、来なければそれでいいけどな!」



魔法薬学の教室。始業を知らせるベルが鳴り響いても、教科担任のスネイプは現れなかった。
喜びの声をあげおしゃべりに夢中になる生徒達だが、ハリー、ロン、ハーマイオニーだけは
無邪気におしゃべりに興じることはできなかった。
昨晩のスネイプの姿を思い出すだけで胸が苦しくなる。
今まで見たことのないスネイプの涙に・・・・・・・・
三人は一番後ろの席について、周りの喧騒から逃れるように沈んでいた。


昨晩、疲れきった三人を寮へと送るマクゴナガルをダンブルドアが引きとめた。
「休養が必要です」とややヒステリー気味に声を荒げるマクゴナガルを押し黙らせて、
ハリー達は校長室へと通される。その席にはスネイプも呼ばれたが彼からは話を聞きだすことは
到底無理で、仕方なくハリー三人達が事の始終をダンブルドアとマクゴナガルに告白することになった。


ハグリッドの授業で、突然黒い煙が起こり、ハリーを飲み込もうとしたこと。
それを止めようとしたハーマイオニーとロンだがハリーを引き出そうとした瞬間に、黒煙がぐわりと広がり、
二人ともハリー共々黒煙に飲み込まれていったこと。
ぐるぐると体が回りながら深い穴の底へと落ちていく感覚に不快感を覚え、胸に這い上がってくる
息苦しい感覚。体がバラバラになりそうな痛みにきつく目を閉じた瞬間、急に落下していく
感触が消え、冷たい地面に倒れていることを認識する。
それはすでに牢の中で、その外からはヴォルデモートが不敵な笑みを浮かべていたのだった。



「ヴォルデモートが、牢の中の僕たちに杖を向けた瞬間、キイィーンっていう凄い音が鳴り響いたのです。
とても耳が痛くなる音で・・・耳を塞いでも頭に響いてくるんです。
気が狂いそうに響いてきて僕達、とても立っていられなくて目を瞑ってその場に蹲りました」


「しばらくして、音が消えて・・そっと目を開けてみたらとスネイプ先生が・・」


ハリーの後を続けるようにハーマイオニーが呟いた。
ハリーはチラリとスネイプを見やったが、ソファに深くなだれ座りながら虚ろな目で
が投げ渡したネックレスをぼんやりと見つめているだけ。
いたたまれない気持ちになりスネイプから目を逸らしたハリーは話を続ける。
そして知ることとなった真実。




        がヴォルデモートの娘であること




がハリー達を逃がしてくれた話の頃には、ハーマイオニー目からポロポロと
大粒の涙が零れていた。
長い長い告白にハリー達はどっと疲労の表情があらわれていたが、
ダンブルドア、そして彼らを寮に返すようにと憤慨していたマクゴナガルでさえも
ジッとハリー達を見つめ深く考えているようだった。
目にハンカチをあてながら、おずおずとハーマイオニーは小さく口を開いた。



「本当に・・本当に・・・はヴォルデモートの娘なんですか?」



その問いに、ダンブルドアとマクゴナガルはしばらく考えるように見つめあっていたが、
やがてお互い頷き合うと、スッとハリー達を見つめた。



「ハリー・・ミス・グレンジャー、ミスター・ウィーズリー・・・
そしてセブルスよ。お前達だけには明かそうあの子の事を。
だが、約束しておくれ。このことは決して他言してはならん。」


厳しいダンブルドアの言葉に、スネイプが顔を上げた。































「スネイプ先生・・大丈夫かしら・・」


探しい教室の中で、ハーマイオニーのグリフィンドール生の世にも珍しい
スネイプの心身を案ずる問いは誰の耳にも届くことはなかった。


「だいぶ、ショックだったろうしなー」


いつもはスネイプのことなど微塵も心配しないロンでさえ、上の空で頬杖をつく。






























バン!


















突然、乱暴に扉が開かれ、スネイプがヅカヅかと急ぎ足で教室に入ってきた。
騒がしかった教室は、水を打ったように静まり返り慌てて、席につく。
ハリーはそっとスネイプの表情を伺ったが、いつもと変わらぬ不機嫌そうな表情に眉間の皺で
少しホッとしたような、けれども昨日まで抜け殻のような姿からの変わりように
驚きが隠せなかった。
教壇に歩いてくると、サッと振り返って教室をぎろりと見渡す。









「1週間。魔法薬学は休講となる。課題として、今講義中の薬草の特徴および習性などを
羊皮紙4巻きのレポート提出を命じる。いいか、休講となるからといって気を抜くなよ。
今日の授業は修了とする。速やかに退出しなさい。」




いつもと変わらぬ声色に、いつもと変わらぬ不機嫌そうな表情。
だが、スネイプから告げられた言葉は、教室中を一瞬にして凍らせた。
今、目の前の教師は何と言った?

1週間の休講?
レポート提出?


まだ、飲み込めていない生徒達を睨みながら、スネイプは低く唸った。


「聞いていなかったのか。速やかに退出しろ」


慌てて、教室から出て行く生徒達をスネイプは舌打ち紛れに睨みつける。
教室の後ろの方で、ハリー達が呆然と立ち尽くしているのを見やって、眉間の皺をさらに深くさせた。


「ポッター!!グレンジャーそしてウィーズリー!!早く出て行きたまえ!!」



声を荒げたスネイプに、ロンがビクッと肩を揺らしたが、ハリーはツカツカとスネイプのいる
教壇へときてスッとスネイプを見上げた。


「1週間の休講の理由はなんですか?」


「貴様らに告げる必要はない」



そうきっぱりと言い切るスネイプに、ロンとハーマイオニーは憤慨した表情で何か
言いかけたが、それを無言のまま片手でハリーが制する。




「ハリー!止めるなよ!!」











「・・必ず・・をホグワーツに連れて帰ってきてくださいよ」


?え・・・まっまさか!」



ハリーの言葉にハーマイオニーは弾かれたようにスネイプを見上げた。
ただ、じっとハリーを見据える真剣な表情がハーマイオニーの大きな瞳に写しだされる。
しばらく沈黙が続いたが、それはスネイプの鼻笑いでかき消された。



「ふん、貴様にいわれるまでもない」


「絶対ですよ」


「・・・出て行け」


スネイプはさらに眉間に皺を寄せて唸ったが、その目は明らかに語っていた。



(必ず連れて帰る)と























































「で、なんでお前は手ぶらなんだよ!!


「・・・・杖は持っている。ほれ」


「そうじゃねー!!」



深い森。あたりはすでに暗く、獣たちの声も響かぬ深い深い森。
朽ちて倒れた大木にもたれかかりながら、しれっと答えるスネイプにシリウスは声を荒げた。
両肩にずっしりと荷物を担いだシリウスは、いつも引きずっているマントではなく
動きやすそうな黒いローブを羽織り、優雅に腕を組んでいるスネイプを怒鳴りつけ睨みつける。
大荷物のため、ゼーゼーと肩で息をしているシリウスをチラリと見やると、
さも疲れたようにため息をついてみせた。


「俺がいいたいのは!!
これからヴォルデモートの居城に乗り込むってーのにだ!
そんな杖一本でいいのかって言ってんだよ。
俺なんかトラップやらいろいろ片っぱしから持ってきたというのによ!」


ドサリと重い音をたてて荷物を降ろしたシリウスは「あー癪に障る!」と
口を尖らせ肩を揉みしだく。荷物の口がわずかに緩み、そこからチラリと筒状の
ものが見えた。その筒状の物体を見やり、スネイプはおもむろにそれを手にする。


「ふん。催涙煙筒など子供だましにもならん」


「うるせ!返せ!!」


「ちょっと!シリウス静かに」

「奴の城はもうすぐそこなのだぞ」


偵察に行っていたルーピンとロイ・ハルツが二人のいた大木の所に
戻ってきて、声を荒げたシリウスを睨んだ。
「うぐっ」と罰の悪そうに声を飲み込み、「お前のせいだ!」と言わんばかりにスネイプを
睨みつけるが、スネイプはシリウスを無視して、ルーピンへ「どうだ?」と腕を組み直す。


「城外に五人。城壁の上に6人。城内は・・ごめんわからなかった。
けど、闇に堕ちた者は多いからね」


「正面から挑むのは得策ではないな」


そう渋い顔をする二人に、スネイプとシリウスは黙って頷いた。























ダンブルドアがハリー達にの事を話した夜。
ハリー達が出て行ったのを見計らって、スネイプは真っ直ぐにダンブルドアへ向き直った。









               「を迎えに行く」






とー。曇りがない生気溢れるその瞳に、ダンブルドアは小さく微笑んだが
すぐ表情を険しくさせる。


「だが、セブルス」


「校長。私達も一緒に行きますよ」




扉でよく通る声がした。弾かれたように振り返ればそこにはルーピン、シリウス
そしてハルツが立っていたのだ。
怪訝そうにルーピン達を見ているスネイプの肩に、ポンと手を置いてルーピンがダンブルドアの
前に歩み寄る。




「申し訳ありません。お話聞いてしまいました。
彼が、セブルスが彼女を助けに行くのなら私達がそのサポートをします」



「ルーピン!!貴様っ」


「ダンブルドア殿、光はますます闇に飲まれていくだけです。
今手を打たねば、取り返しの付かないことになります」


「校長。俺たちアニメーガスの仲間もシビレを切らしているんだ」


三人の譲らない姿勢にダンブルドアは小さくため息をついた。


「そうじゃの・・・」














「ダンブルドア校長が魔法省へ闇払いの要請を出してくれたが、数時間前の今だ。
どんなに早くても魔法省がここへ着くのは明け方それ以降になるだろう。」


地面に城と付近の森の地図を木の枝で描きながら、ハルツが厳しい口調で呟いた。



「俺たちの仲間も月が傾く頃になりそうだ」


すでに仲間達に伝達をしたシリウスも、険しい表情で舌打ち紛れに呟く。

「だけど、僕達が何か起こさないと仲間たちや魔法省は踏み込めない」

「やるか・・」


地面に描かれた城と森に、4つの×印が刻まれている。


「やれるだけでっかくな!!」

「うんvもちろんだよ」

「スネイプ。わかったなこれは・・・」

「あぁ。分かっている」


ルーピン、シリウス、ハルツはジッとスネイプを見つめる。
のネックレスを服の下へとつけ、スネイプは真っ直ぐに彼らを見据えた。



「行こう。を迎えに」


「あぁ!」


互いの手を取り合い力強く頷くと、スネイプは城の裏手へと回り、
ハルツは城を一望できる崖の上へと足を向けた。




「へっへ・・なんだか懐かしいな!」


「あのね・・シリウス。」



目が眩むような閃光を放つ、爆竹玉を手にしながら楽しそうに笑うシリウスに
ルーピンが呆れたように笑った。彼も杖を片手に何か黒い布袋を持っている。



「学生の時の悪戯じゃないんだから」


「変わんねーよ。ただ危険度が増しただけだろが」


「んー。まあそうかvそしてお姫様を奪還の目的」


「な?多少スケールがでかくなっただけだ!」



そうニヤリとルーピンに笑ってみせるシリウスに、ルーピンもニコッと微笑み返す。



「ホグワーツ校至上最強の悪戯コンビ、ここに復活だね」


「へっ今回は減点されねーぞ」



「それじゃあはじめようかパッドフッド」


「よし来たムーニー」












シリウスとルーピンは、ザッ目の前の城を見据えた。