「ちょっと、セブルス!怪我してるじゃない!見せてみなさい!!」
「教授〜。この本のさv」
「やだー!セブルスの作る薬苦いんだもん!絶対飲まないわよ!」
「うー・・もうちょっと甘くしてよー・・」
「ねぇ!セブルス」
「教授ー!?」
20数年前に出会った少女。
時がたつにつれて薄れていた記憶が、突如として現れた少女により鮮明に思い出された。
その笑顔・仕草・憂いに満ちた表情なにもかもがあの人を連想させる。
先日放った梟はスネイプの推測通りの真実を携え舞い戻ってきた。
そして思い知る真実。
「そうか・・あの方はもういないのか・・」
満月の光が美しく差し込む廊下の窓際に身を傾けながら。
スネイプは一人、小さく泣いた。
遠くで狼の遠吠えが響いていた。
+断ち切れぬ運命(さだめ)+
今日も賑やかな昼下がり。
は裏庭のベンチでハリー、ハーマイオニー、ロン達と談笑していた。
裏庭では参考書を開き勉強をする生徒、ペットを放して遊ばせる生徒など皆それぞれが自由に過ごす。
はハリー達がホグズミードで買ってきてくれたお菓子をつまみながら、ハリー達の話に耳を傾ける。
そんな穏やかな一時、じんわりと暖かい陽の光が心地良い。
グリーンの芝生が青々と輝いている。
「それでさ!この前の魔法薬学最悪だったんだぜ!」
「スネイプ教授絡み?それとも実験?」
「両方かな?」
カエルチョコを口に放り込みながら憤慨したようにロンが声をあげる姿に
が笑って口を挟めば、ハリーが苦笑いをして答える。
ハーマイオニーもロンほどではないがちょっと苛立ち気にため息をついた。
「スネイプ先生のスリザリン贔屓は毎度のことだけどね・・」
「だからって!ちょっと出来がよかったマルフォイに点数を入れて」
「大失敗したネビルに大減点、そして罰則」
興奮して拳を握りながら毒づくロンの後を、疲れたようにハリーがため息まじりに続ける。
「だいたいスネイプのヤローがよ!」
「我輩が何か?」
さらに声を荒げたロンに冷たい声が降り注いだ。ピシリと固まる面々。
ギギギと音がたつように振り返れば、ロンとハリーの後ろに腕を組んだスネイプが意地の悪い
笑みを浮かべて、ハリー達を見おろしていた。
「あ・・えと・・」
顔を真っ青にさせて口をパクパクさせているロンの肩に手を置き、スネイプがずいっと迫る。
「何か我輩に用かな?ウィーズリー」
そうニヤリと笑って見せれば、ビクッとロンの体が強ばる。
ブンブンと首を振るロンに鼻で笑うと、へと視線を移した。
「、話がある。我輩は午後の講義は全てないのだが、君は空いているかね。」
「え・・あ、うん。空いてるよ」
真剣な表情のスネイプに少しばかり驚きながら頷くと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
ハリー達は午後はハグリッドの魔法生物飼育学で、そのままハグリッドの小屋へと向かった。
三人に手を振って見送り、スネイプへと向き直る。
「えと、中に入ります?」
「いや・・散歩でもどうかね」
些か、スネイプの表情がいつもより沈んでいるように見えて、は首を傾げた。
軽くマントをなびかせて歩き始めたスネイプの横をそって歩く。
二人はしばらく何も話さずに校庭を散歩した。
穏やかな春の陽が心地よい。
校庭一面には緑の芝生が敷き詰められてとても眩しい。
小鳥達のさえずりに心が洗われるようで・・・
そよそよと吹いてくる心地よい風が優しく頬を掠める。
「春ですねぇ」
そう軽く目を閉じて、呟きながらはそっと両手を広げた。
「・は優しい母親だったかね」
のすがすがしい表情をじっと見つめていた、スネイプが決心したようにそっと口を開いた。
その名前には驚いて目を見開き、スネイプを見つめた。
「どうして・・母さんの名前を・・」
スネイプは驚きに見つめてくるからふいっと視線を反らすと、再び静かに歩き出す。
ハグリッドの小屋の周りに生徒たちが集まっているのが見えた。
「君は母親から昔のことを聞いたことはあるかね」
ハグリッドの小屋の方をじっと見つめているスネイプをは不思議そうに、
そして戸惑ったように拳を握る。
もしかして、全てを知られたのだろうか。
「うん・・・。お母さんも天狗の力に目をつけられてヴォルデモートに捕まったの」
握る拳にますます力が入る。
知られた・・知られた・・・・・もう・・・ダメだ
この人がどうやって調べたのかは分からないけれど、きっと軽蔑する・・・
の表情に諦めを帯びた自嘲の笑みが薄っすらと浮かんだ。
必死で隠していたもの、知られまいとしていたこと。もう終わりなんだと。
「捕らえられていた時のことは?」
「うん・・・少しは」
「世話係りがいたと?」
「・・・・・・?うん・・その話は何回も聞いたことがあったよ。
何もかも闇の中で、気が狂いそうになって。でも優しい人がいたって」
その人のおかげで自我を保っていられたって。」
そのの言葉に、スネイプはゆっくりと目を閉じた。
脳裏に浮かぶあの人の笑顔。
そしてもう一度静かに目を開くと、まっすぐにを見つめた。
(話しておくべきではないのか)
「我輩もあの方のおかげで、闇の飲まれずに戻ってこれた」
「え?」
静かに口を開いたスネイプに、は不思議そうに首を傾げてスネイプを見上げた。
(その姿もよく似ていらっしゃいますね、様)
見上げてくるに優しく微笑むと、ゆっくりと空を仰ぐ。
穏やかな青空の中、鳶が悠々と舞っていた。
「そう。様が我輩の過ちを窘め、闇に染まっていくこの身を救ってくださった」
「教授?」
「あの日、様を城から逃がして・・だが、それから彼女の行方はわからずに・・
生き延びたのかさえも・・」
「もしかして・・教授が?」
の中でカチリとパズルが当てはまるような音がして、思わずスネイプのマントを握り締めた。
そんなに、小さく笑って頷いてみせる。
「あぁ。我輩が様のお世話を・・・・我輩は死喰い人だったのだ」
自分が死喰い人であったことによほど悔いていたのであろう。
そのことを口にした時スネイプは辛辣な表情を浮かべた。の顔を
見ることができずにフイっと視線を逸らす。
「ふっ、我輩こそ軽蔑ものであろう?たとえ昔であろうとも、闇に身を置いた人間が
のうのうとここで教鞭をとっているなぞっ」
苦々しく吐き出した、言葉はスッと春の風に吸い込まれていく。
リンッ
スネイプの耳に、鈴のような音が耳を掠めた。
その音にスネイプはハッと顔を上げる。あの時と同じ鈴の音・・
恐る恐るへと振り返ると、は首から下げている鈴がついたネックレスをそっと取り出していた。
おそらく常に衣服の下へとつけられていたものだったのであろう。
がネックレスをつけていたのだとは始めて知った。
そして、そのネックレスにも見覚えがあった。
「それは・・・」
「母さんの形見なんだ。母さん、ヴォルデモートから逃げのびてもいつも不安に怯えていたんだって。
でも、このネックレスの鈴の音を聞くとね落ち着くって。母さんが、今の・・お父さんと
結婚するまでずっとこのネックレスに頼っていたんだって。私がヴォルデモートから逃れたとき、
とても怯えていた私に母さんがくれたの。本当に落ち着くんだよ?」
そうにへらと笑いながら「おかしい?」と聞いてくるに首を振ると、
そっとネックレスに触れた。リンと軽い音が耳に優しく響く。
「大事にしているのだな」と呟けば、がにっこりと頷いた。
「私にとっても、とても大切な宝物なのv」
「そうか。様は・・・・・・・今の?・・・今の父親?どういうことだ」
「あ・・・」
険しい表情をしていたスネイプがやっと表情を和らげて頷くが、の告白にふと疑問が浮かんだ。
怪訝そうにを見つめれば、しまったと顔を真っ青にさせている。
「?」
「なっなんでもない!!今の忘れて!!」
慌てて首を振り、バッと歩き出す。
だが、勢いよく肩を掴まれてバランスを崩しスネイプへと飛び込み形になってしまった。
さらに慌てたが離れようとするがそれをスネイプが許さなかった。
力強く引き寄せ抱き寄せる。
「放して・・・」
「すまない、言いたくなければいいのだ。」
スネイプの温かさが心を落ち着かせてくれるようで、は弱々しくそろりと
腕をスネイプへと回す。
今の父親。
おそらくそれはの母親、がヴォルデモートから逃れた後に結婚をした相手であろう。
そしておそらくそれは・・・・・彼女の本当の父親ではない。
ならば、彼女の本当の父親は・・・
その瞬間、スネイプはギッとを歯を食いしばった。
を抱きしめる力がやや強くなり、は不思議そうにスネイプを見つめた。
「教授・・・?」
「・・・いや、」
「!?///」
「いかん!!お前ら小屋の中に!!早く!!」
スネイプが何かを告げようと口を開いた瞬間、ハグリッドの怒鳴り声が響きわたった。
驚いて、小屋の方をへと視線を移せば、ハグリッドの小屋の周りに不気味な黒い煙が覆いかぶさろうとしていた。
その煙から逃れようと四法八方へと逃げ惑う生徒達。だが、その煙はまるで意思があるように生徒達を
取り巻いていく。
「いやあ!!ハリー!!ハリー!!」
ハーマイオニーの悲鳴が響いて、目を凝らせば黒い煙の中に吸い込まれていくハリーが
の視界に入った。
「だめ!いけない!!」
そう叫ぶないなや、は小屋へと走り出す。スネイプも黒い煙に表情を険しくさせて、
小屋へと走り出した。
「まさか!!ここはホグワーツだぞ!」
「教授?!杖持ってる?!」
必死にハリーを煙の中から引き出そうとするハーマイオニーとロンも、徐々に煙に吸い込まれていく。
とスネイプは走りながら懐から杖を取り出した。
「持っている。どうするのだ?」
「飛び込む!?」
「!?」
目を見開いてを見やれば、はハリー達が吸い込まれた黒い煙の中へと飛び込んでいった。
「ちっ」と鋭く舌打ちをしてスネイプもの後へと続く。
「もう、逃げはしないんだ」
「もう失いたくないのだ」
お互い、強い決心を胸に抱いて。