天狗
黒い羽根に赤ら顔、山伏姿で高下駄をはき、羽団扇を持って空中を自在に飛行する妖怪。
彼らは日本人の多くが崇高する仏教を妨げる妖怪、密教僧の敵としと恐れられ、
また山の支配者として人間から畏怖される超自然的な存在でもあった。
時がたつにつれ天狗のほとんどは人間と交渉し、やがて人里に住処をかまえ
人間と交流し徐々に天狗の力を失い、やがては人間よりも零落していったと言われている。
山に残った天狗は静かに自然と共存し、子孫を残していったと伝えられているが、
現代において天狗は架空のもののけと位置づけられている。
+天の狗+
薄暗い地下牢のスネイプの自室。
スネイプは分厚い本のページを食い入るように読んでいた。
彼が開いているページには天狗を連想させるスケッチが描かれている。
あの頃は気にもしなかった天狗という存在。
けれども、今回の件は20数年前の記憶を鮮やかに甦らせた。
昨晩放った梟は無事たどり着いただろうか?
梟がスネイプの元に戻ってきた時、すべてが解けるだろう。
深い溜息とともに本を閉じて、重く感じる目頭をさすった。
コンコンコン
控えめなノックの音にスネイプは顔を上げた。
短期間のうちに把握できてしまった、少し控えめなノックの仕方。
素早く立ち上がってドアを開ければ、ほんの少し強ばった表情でが立っていた。
「あ・・あのっ!この前借りた本返しにきましたっ!」
いつもなら、にっこりと笑いながら「ありがとう!第三章のさ!」とすぐさま本の感想を言うのに。
よそよそしい敬語と石の廊下を見つめる視線。
自分の事を打ち明けたことで引け目を感じているのか・・
「茶でもどうかね?」
「え?」
罰が悪そうに俯いているに、小さく溜息を零すと表情を和らげて部屋の中へ促す。
スネイプの問いにが驚いたように顔をあげた。
ジッとスネイプを見つめれば、小さく笑いながらスネイプがの背中を押して部屋の中に促す。
「あぁ・・湯を沸かしてなかったか。座って待っていてくれ」
「あのっ・・・・はい」
ぼんやりと呟きながら、ポットを食器棚から出すスネイプを見つめながら
は落ち着かないようにソファへと座った。
まるで今の心のように、体がゆっくりとソファへ沈んでいく。
コポコポとポットが鳴り始めるのを聞きながら、ぼんやりと茶の葉をブレンドするスネイプの慣れた手つきを見つめていた。
ふと、スネイプの手が止まって彼の顔を見やれば、スネィプはじっとを見つめていた。
「う;……?」
「目の下が黒い。昨晩は寝れなかったようだな。」
そう呟きながら踵を返し、紅茶缶が並べられている棚から、ラベンダーの葉缶を取り出す。
黙りこくっているを視界の隅に置きながら手際よく葉をブレンドしていき・・。
カチャリとの前に紅茶が差し出された。
ほのかに香るラベンダーがおのずと心を落ち着かせてくれるようで。
「いただきます…」
そっと口に含めば柔らかいラベンダーの香りがフワリと体中をかけ巡った。
「おいしい」
「そうか」
沈黙が静かに時を刻む。もスネイプも堅く口を閉ざしたまま。
スネイプが再びカップに口づけた。
「私を軽蔑・・・しないのですか?」
の震えた声が地下室に響きわたった。
スネイプは静かに紅茶を飲み、コトリとカップをテーブルに置く。
「なぜ我輩がを軽蔑せねばならんのだ」
「なっ!・・・・・・・その・・私が・・」
そう消え入るような声で俯いてしまう。
グッと口を引き締め、膝を掴んで。
「だからっ・・・わっ私が・・・」
「天狗。黒い羽根に赤ら顔、山伏姿で高下駄をはき、羽団扇を持って空中を自在に飛行する妖怪だったか。
日本人の多くが崇高しているとされている仏教を妨げる妖怪、また密教僧の敵としと恐れられ、
また山の支配者として人間から畏怖される超自然的な存在か。
しかし、時がたつにつれ天狗のほとんどは人間と交渉し、やがて人里に住処をかまえ人間と交流し
徐々に天狗の力を失い、人間よりも零落していったと言われている。
山に残った天狗は静かに自然と共存し、子孫を残していったと伝えられているが、
現代において天狗は架空のもののけと位置づけられている。
そうだったかね?」
スネイプの答えにの表情はますます悪くなった。
「そこまで調べたのなら・・っうわっ」
声を震わせるが声をあげた。
驚いてスネイプを見上げれば、そこにはの頭を鷲掴みして
意地悪そうにニヤリと微笑みをたたえたスネイプが・・
「あう;?・・」
「ふむ。書物の天狗像はかなり畏怖するもの値する存在だが、今我輩の目の前にいる天狗はなんとまぁ・・・」
そう目を細めての頭からつま先まで見つめれば、きょとりとしたと目が合う。
その少し間抜けっぽい表情に思わず笑みがこぼれた。
「こんな間抜けそうな天狗。怖がるにたらん」
「・・・教授・・・はあ!間抜け!?今間抜けといいましたか!」
意地悪そうに笑いながらも、優しく頭を撫でてくるスネイプには小さく微笑みかけたが、
ハタと表情を変えて声をあげた。
顔を真っ赤にさせむくれる姿に思わず、声を出して笑う。
「ま・・間抜け・・っつ笑わないでくだ・・さい・・・っ!」
思い切り頬を膨らまして、むくれるに銀の滴が流れた。
必死に止めようとするけど、どうしても止まらない。どうしてだろう?
けれどもその表情は安堵していた。
そんなを見つめながらスネイプはやや呆れ気味に笑う。
「そんなことを気にする方がどうかと思うがね」
とても温かくて、心地良い声・・・・
涙が止まらない・・止められない・・・
「だって・・ひくっ・・・天狗の末裔と知っただけで皆離れていったの・・。
っ天狗に関わったら神隠しにあって、異世界に連れて行かれるからって!
変な術で人心を惑わすもののけって・・!」
堰を切ったようにわめき出したの手を引っ張り自分の懐へと抱き寄せれば、ピタリとがおとなしくなった。
かと思えば、居心地悪そうにごそごそと離れようとする。
だが離すものか。
スネイプは「むう〜!」と呻きながら離れようとするをさらに強く抱きしめた。
そしてその耳元に囁く。
「まったくもって莫迦らしい。誰が離れたというのだね」
「・・・・・小さい頃の・・」
「そんな過去は忘れたまえ」
「っ!?」
「ダンブルドアもマクゴナガルも知ってたのであろう?だが君とよく語り合っている。それに」
そういっての頬を伝う涙を拭って立たせ、ドアへと歩みより開け放した。
「よっ!ッやっぱここだったか!遊びにきたぜ!」
「〜お菓子あるかい?ロイにね、のお菓子おいしいんだよって
話したらさ彼、食べたがっちゃってv」
「貴様ほどではない!・・・まあ、気にはなるがな」
スネイプがドアを開けた外にはシリウス、ルーピン、そして傷が完全に癒えたロイ・ハルツが立っていた。
づかづかと部屋に入りくつろぐ面々をほんの少し睨みつけながら、の肩に手を置く。
「過去の事を気にかけるより、今の天狗である君を慕う友人たちを気にかけたらどうかね」
「無論我輩も含むな」そう付け加えれば、から再び銀の滴がこぼれた。
あぁ・・・・なんて温かいのだろう・・
切なげに瞳を閉じて穏やかに微笑む。
「教授」
「まだなにか?」
「ありがとう・・、」
そうにっこりと微笑み見上げてくるに、優しく笑ってみせると再びソファへ促した。
「げっ!スネイプ笑うな!寒気が起きる!」
「うるさい、死ね。黒犬。」
「う〜!やっぱりのお菓子はおいしいよ!」
「おいルーピン全部抱えて食べるな」
の周りにはだいの大人四人が、子どものようにいい合っていて。
なにかあるたびに、に笑いかけた。
天狗である私を遠ざけないの・・・私の存在を認めてくれた
こんな私を友人として見てくれた・・・・
なんて気持ちのいい人たちなんだろう・・・
そう嬉しさがこみ上げ、はそっと悲しそうに笑った。
スネイプ達が軽く言い争っているのを眺めながら、は苦しそうに目を閉じた。
でも、教授?
貴方はまだ知らない。
私の本当の正体を。本当の私を知ったとき、貴方はその時こそ・・・
私を軽蔑する。
冷たい目で
その夜、スネイプの元に梟が一羽舞い戻ってきた。
一通の手紙と共に。
本当にハッピーで終わるんですか?(書いている本人が言うな)
天狗については異世界への招待という雑誌を参考にさせていただきました。
実は天狗って、あまり知らないというか馴染みがないんです。(いや。あっても・・;)
漠然と天狗の姿を思い浮かべる程度で、どんな存在であったかなどあまり知りませんでいた。
上記の本を読んで、いろんなエピソードを読んで、今回の連載を思いついたのですが、
まあ・・・この連載の天狗ちゃんはかんなり、てかもう全部私のいい様になってます。(おいおい)
この連載ではヒロインは天狗の末裔。純粋な天狗ではないのですが、
その血筋の故、やはり子どもの頃はそうとう辛い思いをしてます。
でもその天狗という血以外にもヒロインを悩ませるものが・・・
それは次回から解かってきますのでぜひお付き合いくださいv
そんなわけで連載もやっと終盤ですvv