闇払い

―死喰い人に対抗するために組織されたもので、有能な魔法使いによって構成されている。
闇をとらえるタメなら殺生も許された組織。


アニメーガス

―特異体質として動物へと姿を変えられる者。その姿を駆使して闇の情報を入手する。


守り人

―村や学校など施設を闇から守る者。
ほとんどがそこの役人や従者で、ある程度魔法に長けているものがその役につく。







見張る者

―己の姿を隠し、ただ闇と光を見つめる者。彼らは自分達の世界に生き一切干渉をしない。













だが、この荒れ始めた時代は、見張る者を闇に対抗する者に僅かな光を与えた。
だが、互いを認め始めた矢先、彼らの主は闇に落ちた。
闇に背いた従者を血祭りにあげて。












+闇に対抗しうるもう一つの存在+










医務室に運ばれたハルツは何とか一命をとりとめた。
「すまない」と弱りきった言葉に、スネイプが気にするなと声をかければハルツが儚げに笑う。


ハルツもまた同様追われた身か。
ダンブルドアはハルツが回復するまでここホグワーツにおき、その後のことはそれから決めれば良いと仰ってくれた。



ここホグワーツはいま魔法界がどれほど混沌としているのか、知らないのではと思うほど平和な日が続く。
穏やかな暖かい昼下がり。歩けるまで回復したハルツはスネイプに付き添われ校庭を散歩することにした。
















「うぅ・・・雑草とるのは腰にくるねぇ」


たくさんの薬草が植えられた温室で、はとんとんと腰を叩きながら根っこごと取り払った雑草を篭へ放り投げた。
今日は温室の雑草抜き。暖かい日差しに照らされた温室は、目がとろんとしてくるほど暖かくて。


「う〜。粗方終わったし!ちょっくら休憩!」

手袋を放り投げると温室内にあるベンチに横になった。






「のどか・・だな」

赤茶色の髪を揺らしながら、ハルツは眩しそうに空を仰いだ。
薄紫色の瞳に白い雲が映し出される。
そのどこか晴れ晴れしたハルツの表情にスネイプも空を見上げた。本当に真っ青で平和な空。


「あれー?教授―!?」
青空を見つめるスネイプの耳に聞き慣れた声が響いた。声の方を見やれば、
大きな篭を抱えたがちょうど温室から出てきたところだった。
てこてことスネイプに向かって歩いてくるが可愛らしくて思わず頬がゆるむ。

「生徒か?」

「いや・・」

目を細め、を見つめながらハルツが呟いた。たしか今は授業中のはずだ。
だがスネイプの答えに少し驚いたように目を見開いた。



「あの若さで教師なのか?」

「教師でもない、彼女は・・」

「あ〜雑草との見分け方がややこしくてさ〜。」


がスネイプの所にたどり着くと、ほら〜と篭をスネイプに見せる。
ご苦労だなと労ってやれば嬉しそうにが微笑んだ。そしてハルツを見て首を傾げる。



「あぁ・・彼は・・・」

「ハルツ・・ロイ・ハルツ・・・?」

「!?」

「どっどうして俺の名をっ!?」


から紡がれた言葉にスネイプとハルツは息を飲んだ。
ハルツは今まで医務室の奥の個室に隠れるようにいた。ハルツのことはスネイプとダンブルドア、
そしてルーピンとシリウスの四人しかしらず、ハルツが良くなるまでは誰にも秘密だった。
そして歩けるようになり今日、初めて外に出たハルツをが知っているわけがない・・

驚きの表情で見つめてくる2人に、は「あっ;」と気まずそうに呟くと、
「あはっはは;」と空笑いをした。

「あ・・・えと・・;」

、ハルツを知っているのか?」

「えと・・・;うー・・;」

「俺の名前は見張る者の契約により、伏せられている。なぜ俺の名前を知っている!?」

ハルツは焦ったそして怒り染みた表情で、の両肩を掴んだ。
その衝撃に、雑草を入れた籠がポスッと足元へと転がったが、そんなことにかまっていられない。


「そうだ・・我ら見張る者は家系の名のみしか明かしていない・・・
自分の名前は仲間にはもちろん、主ににさえも・・それがなぜ!!初めてあったこの娘が知っている!!」


「い・・痛い・・・;」


力を込めてくるハルツにが表情を歪ませたが、ハルツは一向に力を弱めようとしなかった。
痛がるにスネイプがハルツの肩を掴む。


「言え!!どこで俺の名を!!」


「よせ!ハルツ!!!傷に響くぞ!!」


スネイプの言葉と同時に、ハルツの顔が歪んだ。
どうやら傷が疼いたらしい。苦痛の声を上げて、屈みこむハルツに「馬鹿がっ!」とスネイプが支えた。
けれども、ハルツの視線はギッとを捕らえたまま。
は青ざめながら、ジッとハルツを見つめていた。
























「やれやれ・・・・迂闊だったのお・・・」

「う・・・ご・・ごめんなさい・・・」



校長室の椅子にチョコンと腰をかけながら、は気まずそうに俯いた。
の目の前には、やれやれと微笑むダンブルドアの姿。そしての隣の椅子には
怪訝そうにを見つめるハルツが座っていた。
スネイプ・シリウス・ルーピンも戸惑った表情でを見つめている。
ダンブルドアは小さく溜息をつくと、にっこりと微笑んでハルツをみやった。


「何もそんなに警戒することはないぞ?ハルツ殿。・・・もうそろそろ話してはどうかね?」

「!!?でっでも!!」


ダンブルドアの言葉に、は弾かれたように顔を上げた。
微笑みながらも真っ直ぐ見つめてくる視線に、言葉が返せない。


「全てとは言わない。お主が話せる事まででいい。ここにいる者は皆闇に対抗する者たちじゃ。
お主の情報は、彼らの力になる・・・そう思わないかのう?」


「・・・・・・」


は沈んだように俯いてしまった。
何か堪えるかのように、口をキュッと締めて。


「話してくれないか」

の隣で、落ち着き払った声がした。
顔を上げれば、ハルツが穏やかな表情でを見つめている。
ハルツを顔をジッと見つめたは、コクリと頷くと小さなそれでも校長室に十分に響き渡る声で話し始めた。






「私は・・・ヴォルデモートに捕らえられていたんです」







その言葉にハルツ達は息を飲んだ。
ダンブルドアが苦しそうに目を閉じていた。
























日が沈みきった夜。
スネイプは自室のソファに身を沈めながら、先ほどのの話しに
頭を抱えていた。




「まるで・・・・あの方と同じではないか・・」









はその強力な魔力の持ち主ゆえに、ヴォルデモートから狙われていたのだ。
ハルツが言っていた、ハリーポッター以外の闇に対抗しうるもう一つの存在とはのことだったのだ。
はなんとか逃げ出し、母親の所に戻ったもののヴォルデモートの手にかかり、
抵抗した村と共に母親は殺された。

「私がお母さんを・・村の皆を殺したんだ」


そう震えながら自分の膝を抱くに、ハルツがそっと頭を撫でてやれば。
儚げにが微笑んだ。


「貴方はカイン・ハルツのお兄さんでしょう?」


その呟きに、ハルツの表情が固まる。

カイン・ハルツ。


その名の人物こそがハルツが助けて欲しいとスネイプに言ったハルツの弟だったのだ。
ハルツが医務室で療養している時に聞いたのだが、彼らの両親もまたヴォルデモートに殺されたのだという。
怒りに狂った弟は復讐のため、死喰い人になりすましているのだ。
けれども、闇の帝王の下。いつ正体がばれるかわからない・・・

カインはの世話係りだったと、が静かに言った。


(あの頃の我輩と同じではないか・・)



カインはにいろんなことを話してくれたという。
家族のこと、兄弟のこと。
そしてヴォルデモートから逃がしてくれたのもカインだった。


「カインは貴方にとても似ているからすぐわかった・・・。赤茶色の髪に綺麗な薄紫色の瞳・・。」


そう薄くハルツに笑って見せると、一瞬目を見開いたハルツが儚げに笑って見せた。












「ねえ!セブルスはこんな莫迦やる前は何をしてたの?」


「莫迦・・・って・・・」


「えぇ!とってもいい子なのに、セブルスは!!こんな死喰い人なんて莫迦なことしてるんだもん!
ウルトラハイパーおバカさんよ!!」









「私の中には天狗という血が流れているんです・・・あ・・古来より日本に伝わる物の怪の一種です。
その血は、魔法使いとは違った力を持っていると言われていて・・それで・・ヴォルデモートに・・」



そう俯くにダンブルドアはもう良いとを抱き寄せた。
その瞬間、堰を切ったように泣きじゃくる。そしてスネイプに「ずっと黙っていてごめんなさい」と
何度も謝った。その仕草に、今までのの苦しさにスネイプは「気にするな」と何度も肩を叩いてやる。
けれども彼の表情は一向に晴れなかった。








「なぜ・・貴方はここに連れてこられたのです?」


「さあねー私が天狗の末裔だからじゃない?」


「天狗?」


「そv日本古来から伝わる物の怪の一種でねー。魔法使いとは違った術を使ったりするわけよー」





昨日のことのように思い出される20数年前の記憶。
何かがスネイプの中でカチリと当てはまった。



なぜ、は隅々まであの人に似ているのか。



薄っすらと霧が晴れたような頭を軽く振って、スネイプはデスクの引き出しを開けて一枚の羊皮紙を取り出した。
ペンを走らせ、己のサインで締めくくり。封筒に入れて蝋を落とす。
起こされて不機嫌そうに鳴く梟を優しく撫で、手紙を差し出せば、梟はスネイプの指をちょっぴりきつめに甘噛みして
夜空へと飛んでいった。
梟が見えなくなるまで、見届けるとスネイプはフッと自室の明かりを消した。


スネイプが放った梟が夜空を悠々と飛んでいく。
その姿を禁じられた森から見上げる者がいた。
黒いローブにフードをすっぽりと被っているが、僅かにのぞく赤茶色の髪が
月の光に美しく映し出されていた。
















「あの子をよろしくね!セブルス!!」




夢の中で笑った貴方の言葉が、今やっと解かった気がします・・・。






を・・・いえ・・は必ずヴォルデモートから守ります」





スネイプは知らない。の告白は、半分も語られていないことを。
そして語られなかった事が、どんなにを苦しめているかを・・・・