「セブルスは優しいのね」
我輩が一時の気の迷いで身を投じた闇。
己の浅はかな行いに胸を苦痛にかき毟るも、逃れることにさえ恐れを感じて。
ただただ増えていくのは血にまみれた己の手のひらを蔑げす見る日々。生きていることを感じない闇の世界。
我輩の道は闇に飲まれていくだけと悟りはじめた頃、貴女は光とともに現れたのだ・・
+ライバル+
「また食事をとらなかったのですか」
深い森の奥に誰も知らない、いや、ごく一部の者しか知らされてない古城が冷たい風にふかれ不気味に佇んでいた。
石畳の廊下にはわずかな蝋燭の明かりがユラリと揺れ、冷たい壁に不気味な波を揺り起こす。
北の塔の部屋に暖炉の火の様子見に訪れたセブルスは、溜息まじりにベッドの上で胡座をかいているこの部屋の主である少女を見やった。
本来ならばこの時間、この部屋の主は食事でダイニングにいるはずなのに・・
だがセブルスはそれを予期してたかのように、驚くことなく懐から紙に包まれた包みをベッドの上の少女に差し出した。
「わあっ!セブルス話がわかるねぇ!お腹ペコペコだったのぉ!」
腰まである長く黒い髪を揺らしながら、少女は満面の笑みで包みを受け取った。
ガサガサと包みをあければ、そこにはたくさんの具が挟まれたクラブサンドイッチ。
少女が嬉しそうにサンドイッチを頬張る姿に少しだけ表情和らいだ。
「ちゃんとした食事をとらなければ体に良くありません」
「いーやーよ!あんな奴と一緒に食事を取るんだったら餓死する方がいいわ!
ふふっ、でもセブルスのサンドイッチ大好きだからまだ死にたくないわねぇ〜」
セブルスより少し年上だが、外見はセブルスよりも年下に見える少女がにっこりと笑ってみせると、
ほのかに頬が熱くなるのを感じた。
なぜ、今になって貴女が現れる・・
(わーセブルス!雪だよ!雪!)
我輩を暗い闇から陽の元に連れ出してくれた貴女ー
(ここは何もかもがだ一っい嫌い!でもセブルスは大好きよ?良いお友だちだわ!)
(行きなさい、セブルス。貴方はここにいてはいけないのよ)
貴女はいまどこにいらっしゃるのか・・・・・
(あの子をよろしくね!)
「っ!?・・夢・・か」
弾かれたように目を見開けば、そこは見慣れた自分の自室。うっすらと汗ばんだ額にバシリと片腕を叩きつけた。
「なぜ・・今になって・・」
(あの子をよろしくね!)
その言葉が脳裏に張り付いて離れない。誰のことなのだろうか・・・
その人物がここホグワーツにいるというのか・・・
「貴女は何を・・・我輩に伝えたいのだ・・どこにいらっしゃる・・・」
呟かれたスネイプの言葉は静まり返った自室に響きわたった。
ダンダンダン!
着替えをすませ、ポットに火をつけたところで、誰かがドアを叩いた。この早朝の時間に来訪など、
「誰だ?」怪訝そうにドアを見つめながら、冷たく口を開くが、来訪者は名乗ることなく再び乱暴にドアを叩いた。
「ちっ」っと鋭く舌打ちしながら、不機嫌にドアをへと歩み寄る。
(ルーピンだったら血祭りにあげてやる!)
どちらかというと、スネイプは朝が苦手だった。起きてしばらくは静かに紅茶をすすっていたい。
「ルーピン、我輩が朝が苦手だと知ってわざと・・・・・・・・・貴様は・・・」
「うーん・・・教授食べてくれるかなぁ・・・・」
全ての講義が休みの日曜日。
以前、スネイプから借りた本を返すためにはスネイプの自室へと向かっていた。
小さくなってしまったの体には本はあまりにも大きく、ずっしりと重い。
しっかりと両手で抱え、は不安そうな表情で考え事に耽っていた。
本を借りたお礼や今までのことを含めてスネイプにお礼がしたくて、はビスケットを焼いたのだ。
あまり、甘いものや菓子類を口にしなさそうなスネイプだが、ができるお礼といったらお菓子を作り
もっていくことしか他になかったのだ。とてとてと少し本の重さにぐらつきながらスネイプの部屋の前に辿り着くと
コンコンコンと控えめにドアを叩いた。
「入れ」
ノックの音にすぐさまスネイプの声が返ってくる。その不機嫌そうな声に今日も相変わらずご機嫌ねと苦笑いしながら
丁寧にノブを回して、顔だけちょこんとスネイプの部屋をのぞいた。
「教授ー・・・・・・・・・あ・・・お客さんだったんだ」
が部屋の中をのぞくと、ピリッとした威圧的な空気がの頬をチクリと刺激した。
対面式のソファにいつもよりも不機嫌そうな表情のスネイプ、そしてその向かい側の
ソファには一人の女性が足を組んで座っていて。
スネイプはの姿を認めると表情を和らげての元に歩み寄って屈みこんだ。
「だったか・・どうしたのだ?」
「えと、本を返しに。あとこれー、貸してくれたお礼!」
そうにっこりと本とビスケットを差し出しし、はチラッとソファに座っている女性を盗み見た。
年はいくつぐらいだろうか?20代後半から30前半だろうか・・。
その女性はゆるくウェーブがかったブロンドの髪の持ち主だった。まるで海の宝石を思わせるマリンブルーの瞳。
ほのかに漂ってくるローズの香水・・・上等のビロードで作られた深緑のローブには裾に深いスリットが入って、
そこから惜しげもなく組み返られた綺麗な足。ハンドバックのチェーンをまさぐるその指はとても優雅で・・
はこんなにも美人な女性を見たことがなかった。
女性に釘付けになっているのに気づき、スネイプは少しだけ表情を歪ませた。
「あぁ・・・彼女かね?彼女は我輩のこ・・・」
「ねぇvセブルス、その子は誰かしら?」
スネイプの言葉を遮るようにして、その女性は優雅に微笑んだ。
そしてゆっくりとを見つめる。マリンブルーの宝石がのあどけない表情を映しこんだ。
「・・・・この子は・・・・」
「あっ自分で言うから!あの・・初めまして、私・といいます。わけあって、ここホグワーツの・・・」
「まあvなんて小さい子なのかしらv」
ピシ
スネイプにははっきりとの固まる音が聞えた。
ちらりと横目でを伺えば、笑顔のまま微動だにしない。
慌てて口を挟もうと口を開きかけた瞬間、その女性はソファから立ち上がり、の前に屈みこんだ。
ゆっくりと手を上げて
ポスッ
の頭に手を乗せた。
優雅な笑みを湛えながら、の頭を優しく撫でる。
「ちゃんはいくつかしら?」
(ガキ扱いかよ!!ぁあ!どうせミテクレは5歳付近の子どもだよ!!)
「ごっ・・・5歳っ」
そう叫びたいが、どう見ても今のは20歳には見えなかった。
それにこの人は、自分が20歳であるなんて想像もしないだろうから仕方のないことなのだが・・
叫び散したいのを必死に押さえ込み、拳を握りながら外見どうりの年齢を嫌そうに吐き出す。
「どこから来たのでしゅかー?」
(本気でガキ扱い!てか赤ん坊!"しゅ"?"しゅ"って何さ!!私キョロちゃんしゅか?!!)
「パパとママはどこにいっちゃたのでしゅかあ〜?」
(助けろ、教授)
怒り混じりに拳を震わせ見上げてくる仕草に、スネイプは一塊の恐怖を感じずにはいられなかった。
目が強烈に語っている。
(誰だか知らんが、なんとかしろ)
「あ・・ミス・シャルミース・・・さきほどの話なの・・・・だ・・・が・・・」
そう言いかけた瞬間に、スネイプは一気に凍りついた。
へと伸ばしかけていた手が、行き場所を失ったように空中で固まる。
「・・・・・・・・・・・・っつ」
「ふふv子どもの頬って本当に柔らかいわねvマシュマロみたいv」
スネイプの目の前にはシャルミースと呼ばれた女性に頬をつねられるの姿。
その表情は今にも杖を取り出しそうな勢いで微笑んでいる。
嫌な予感がスネイプの脳裏を掠めた。こんなところで杖を出すなど・・
「にしても本当に子どもって・・・」
「おばさん誰?」
ピシ
次は女性が固まる番だった。
杖を取り出すことがなかったことに、胸を撫で下ろすのもほんの一瞬のこと、
あたりの空気はより一層居心地悪くなった。
口を震わせ、を睨みつけるがは無垢な子どものようににっこりと笑って・・
女性もなんとか笑顔を取り繕って、の頭を撫でた。
「お姉さんはねvキャシーナというのよ?ちゃん?キャシーナ・シャルミース。
セブルスの恋人なのv」
「・・・・え・・・・」
(今・・なんて言った?)
何か重いものがの中に落ちてきた気がした。
一瞬にして、悲しそうな表情を浮かべたにキャシーナはにっこりと笑ってみせた。
その笑みはどこか蔑みさえも含んで。
「えぇv私はね、セブルスの大事な恋人なのよ」
「ふざけるな」
追い討ちをかけるように紡がれたキャシーナの言葉を打ち砕くように、低い声がの頭の上から降りてきた。
なぜか泣きたくなる思いを押さえ込んで、悲しそうにスネイプの顔を見上げれば、
今まで以上に不機嫌そうなスネイプがキャシーナを睨みつけていて。
「あらvいいじゃないvどうせ子どもにはわからないわ。それにね、貴方と私そろそろ身を固めた方がいいものv」
「離れろ」
抱きついてくるキャシーナを押しのけ、スネイプは不機嫌そうに自分のマントを手繰り寄せた。
「誰が貴様の恋人だたわけがっ。、こいつの話はデタラメだからな。」
少し慌てたように、の肩に手を乗せてキッとキャシーナを睨みつけた。
その言葉にホッと胸を撫でおろすの姿にキャシーナは不敵な笑みを浮かべる。
「あらvセブルスったら、子どもの前だからって恥ずかしがることないのよ?」
「っつ!離れろ!!」
「ちゃん?これからセブルスと大人の時間なのvお母さんの所に戻りなさいな?」
スネイプに抱きついたまま、キャシーナは冷たい笑みでを見下ろした。
一瞬悲しみに怯んだだが・・・
(こんのアマァ・・・)
はむうっと頬を膨らませると、とてとてとスネイプの元に歩み寄り、キャシーナをぐいぐいと押しやって
ピタッとスネイプにしがみついた。
「やー!、スネイプてんてーの遊ぶのー!!」
「!!?」
次はスネイプが固まる番だった。今はなんと言った?
あんなに子ども扱いされることを嫌がっていたが、子どものように自分にしがみついてきて・・
コンコンコン
「セブルスー薬もらいにきたよーって・・・・あれ?」
控えめにドアがノックをしながら、ルーピンがスネイプの部屋へと入ってきた。
キャシーナの姿を見たルーピンは一瞬を眉を顰めるものの、スネイプにぴったりとくっついているにフワリと微笑む。
「仲がいいんだねぇv」
「い・・いや・・;ルーピン・・貴様な;」
「ちょっと!セブルス!どういうつもりかしら!?私がいながらそんなガキに目を向けるというの!
犯罪もいいところだわ!あんたも離れなさいよ!」
「やー!!てんてーと遊ぶーー!!」
どうやら、ルーピンの言葉がキャシーナの癇に障ったらしい。
美しい表情に怒りを露にして、をスネイプから引き剥がそうとする。
けれども、はいやいやと頬を膨らませてスネイプにしっかりとしがみついて一向に離れようしない。
子ども扱いされることをあんなに嫌がっていたの行動に、スネイプはどう対応したらいいのか・・・
とっさにルーピンに救いの眼差しを向けた。チラッとキャシーナを見やったルーピンは軽い靴音をたてて、
の元へ歩み寄り屈む。
「そうかそうかv昨日セブルスに遊んでもらう約束をしていたんだったね。
たしか、簡単な調合を教えてもらうんだったのかな?」
「うんv」
そんな約束をしただろうか?いや、していない。
さらに驚くスネイプをよそに、はにっこりとルーピンに微笑んでスネイプにもにっこりと微笑んだ。
そのの表情にスネイプはハッとする。の頭を優しく撫でながら屈みこんでー
「そうだ・・そうだったな。さて・・・では何を調合しようか」
「んーとねv」
「ところでキャシーナ久しぶりだねv突然どうしたんだい?」
とスネイプのやりとりに微笑みながら、ルーピンがキャシーナに微笑みかければ、
一瞬表情を歪ませたキャシーナがルーピンを頭から足のつま先まで見やった。
くしゃくしゃの鳶色の髪に古びてツギハギだらけのローブ・・・
口をひくつかせばがら、無理やりルーピンに笑ってみせると、ハンドバックとコートマントを慌てて手にする。
「お久しぶりミスター・ルーピン?えぇ・・偶然立ち寄ったものだから・・これで失礼しますわ」
「そおかい?忙しないねぇ・・どうだい?僕の部屋でお茶でも・・」
「私、急いでいるの。ごめん遊ばせ?セブルス。また・・」
コートマントを羽織ったキャシーナはルーピンとに目もくれず、スネイプにだけ微笑むと
足早にスネイプの部屋から出て行った。
「「はぁ・・・・」」
キャシーナの靴音が聞えなくなり、スネイプとルーピンは深い安堵の溜息を零した。
「助かった・・・ルーピン」
「はは・・・キャシーナ相手じゃ君も大変だからねv」
苛立ち気に頭をかくスネイプの肩をポンポンと軽く叩きながら、ルーピンはにっこりとを見つめて
固まった
は顔を俯かせて、フルフルと震えている。泣いているのであろうか。
スネイプの肩を突付いて、へと目配りさせれば、驚いたようにスネイプが目を見開いた。
「ッ・・悪かったな・・嫌な思いを・・」
「なんだ!あのアマァ!!誰が豆チビだコラ!」
の頭を撫でようとした瞬間、は怒りに声を張り上げた。
突然のことにスネイプとルーピンはビクッと肩を揺らす。
「い・・・いや・・誰もそこまで言っておらんだろうが;」
「でも現に小さいよねv」
「ルーピン!」
さらりと追い討ちをかけているルーピンを軽く睨んで、再びへと屈みこんだ。
「ッむかつく・・あの女!美人だなと思ったら何!あの態度!人を子ども扱いしやがって!」
「だからv子どもだって・・ヴッ;」
怒りに怒鳴り散らす、を宥めながらルーピンにみぞおちを食らわす。
「すまなかった・・・まさかいまさら現われるとは・・・・」
「そうだねーv卒業して20年はたっているよねえ?」
そう、やつれ気味に溜息をつく2人にはきょとんと首を傾げた。
キャシーナとは学生時代から知っているのだろうか・・・
そういえばさっきスネイプは「彼女は我輩のこ・・」と言っていたか?
こ・・・・・?
必死に思いつく言葉を探してみる。
「そんな・・・教授・・あの人恋人なの・・・」
思いついた言葉はすぐ見つかって、はショックのあまり涙が溢れてきた。
ふぇ・・・と声をしゃくり上げ始めたにスネイプはギョッとして、の頭を撫でる。
「っつ・・?!なぜ泣く?!」
「んーvキャシーナが君の恋人だと思っているんじゃない?」
のほほんとしたルーピンの言葉に、目を見開いてを見つめれば
すでに大粒の涙を流しているのに、必死に押さえ込もうとしていてー
「何を勘違いしているのか知らんがな、。あれは我輩の恋人などではないぞ?」
「・・・?え・・・・?」
「そうそうvだいたいキャシーナ何しに来たのさ」
赤く腫れた目で見つめてくるに苦笑いしながらソファへ促すと、
スネイプは杖を振って紅茶を出した。がゆっくりと紅茶を喉へと通すのを確認しながら
溜息混じりに口を開く。
「まったくもって腹立たしいことでな・・・ミス・シャルミースは我輩の後輩だったのだよ」
そううんざり顔で笑って見せるスネイプにはハッとしたように息を呑んだ。
(そうか・・「こ」って後輩のことだったんだ・・・)
そう思うと同時に重くのしかかっていたものが急に消え去り、は安堵の溜息をついた。
そんなの様子ににっこりと笑いながらルーピンもの隣に腰をおろして、口を開いた。
「セブルスも僕もここ、ホグワーツの出身でねv僕はグリフィンドールセブルスはスリザリンだったんだよ。
キャシーナはセブルスより三つしたのスリザリン生で。とても美人なんだけどもかなりの野心家でね・・
ってセブルスv僕の紅茶は?」
自分の紅茶が出されていないことに気づいたルーピンは、にっこりとスネイプを見つめた。
眉を顰め、いかにも「こいつに紅茶など」と言いたげなスネイプだが杖を振って紅茶を出す。
「ありがとうv」と微笑んで砂糖を何倍も入れながらルーピンは続けた。
なんでも、名声や権力そして財産をもった男が好みらしく、学生の時から優秀で純血の由緒ただしい家名の
スネイプを狙っていたとか。だが、学生の頃から今のようなひねくれた性格だったスネイプは
まったく相手にしなかったらしい。
そんなルーピンの話に「ひねくれたとはなんだ」とスネイプは眉を顰めていたが・・
ルーピンの話に頷きつつも、表情が晴れないにスネイプはピクリと肩眉を吊り上げた。
「」
「え?え?何?」
突然呼びかけられ、もう少しのところでカップを落とすところだった。
驚いたようにスネイプを見つめれば、フッと小さくスネイプが笑う。
首を傾げて隣のルーピンを見つめれが、ルーピンもにっこりとに微笑んだ。
「???;」
その後、が持参したビスケットを茶菓子に・スネイプそしてルーピンのお茶会が行われた。
ダンブルドアとのお茶会の時は、が学生時代の話だった。今日はスネイプとルーピンの学生時代の話に華が咲く。
ルーピンの親友が他にもいて、いつもスネイプに悪戯をしかけていたとか。
たまにスネイプの逆襲があってひどい目にあったとか。
それから、最近ではルーピンは1年前までここホグワーツで教師をしていたりとか・・・
楽しい話から、深く話し込む話まで気づけば外は夕日に染め上げられていた。
もうこんな時間なの!?と慌てて立ち上がるにスネイプは苦笑いをする。
ビスケットのお礼をいえばふわりとが微笑んだ。
「へへvお母さんが教えてくれたのvv」
そうすこし悲しそうに笑って見せると、はスネイプとルーピンに軽くお辞儀をして足早に自室へと戻っていった。
さきほどまでにぎやかだったスネイプの部屋がまたいつもの静けさを取り戻す。
ニコニコとが出て行ったドアを見つめているルーピンに、何か深く考えながらドアを見つめるスネイプ。
「まさか・・・・」
「ん?なんだい?」
「いや・・・なんでもない」
不思議そうに首を傾げているルーピンにスネイプは小さく首を振ると、が焼いてきたビスケットを
一枚手に取った。軽い食感と共に広がる香ばしい風味。甘さが控えられたビスケットが
紅茶に良く合っていて、思わず頬を緩みそうになる。
(まさか・・・は・・・・・だが・・)
「ところでセブルス」
思案を巡らしているスネイプに、穏やかだが少し緊張染みたルーピンの声が響いた。
その声色の変調にスネイプも真剣な表情でルーピンを見つめる。
「新しい情報が入ったんだ」
そう静かに、でもはっきりとした口調でルーピンが口を開いた。
その言葉にスネイプはキッと自分の左腕を睨んだ。
逃れることはできない過ち。されど逃れようとは思わない。目を背けない。
それはあの人が我輩に諭した思い・・・・
「聞かせてくれ。ルーピン」
今朝、我輩は夢を見た。
それは夢ではない、現実にあったこと・・
我輩が一時の気の迷いで身を投じた闇に。
己の浅はかな行いに胸を苦痛にかき毟るも、逃れることにさえ恐れを感じて。
ただただ増えていくのは血にまみれた己の手のひらを蔑げす見る日々。
生きていることを感じない闇の世界。
我輩の道は闇に飲まれていくだけと悟りはじめた頃、貴女は光とともに現れたのだ・・
そんな貴女の夢を・・今までは夢で見ることのなかった貴女が
なぜ20年もたった今になって突然夢に現われたのか。
なにか意味があるように思えてならなかった。
そして貴女を思い出すと、浮んでくる・の表情・・・
その笑顔が
淋しそうな表情が
その仕草が
涙が
貴女に似ている
「あの子をよろしくね!」
それは・のことなのですか?
我が心の姫君よ・・・・・・・・・
「お母さんv今日はねーとても楽しかったんだよーvv」
自室に戻ったは枕の下から写真立てを取り出して、写真に写る女性にニッコリと微笑んだ。
と同じ黒い髪が緩やかにウエーブを描き、今のと変わらない幼少の頃のと一緒に
にっこりと今のに微笑んでいる。
「お母さんが生きてたら・・・スネイプ教授に会わせたかったなーvあとルーピン先生にもv」
そう呟くと同時に、無性に心が痛くなった。
もう二度と会えぬ母親、その優しい笑みも温もりも・・もう触れることはできない・・・
「お母さん・・・」
キュッと写真立てを抱きしめて、は小さい眠りについた。