+妻 最恐伝説+
































「あぁ、そこの君」



低くも深みと艶があるその声に呼び止められたのは、昼休みも終わりに近づいていた頃だった。
昼だというのにこの石畳の廊下はひんやりと薄暗く、窓から差し込む日の光が唯一の暖かさを送り込む。
次の授業へ移動する生徒達が多い時間であるが、この廊下は人気が少なく、
は背中に響いた呼び止めにきょとんと首を傾げて振り返った。
そこには柔らかな陽の光を浴び、煌びやかに輝く銀色の長い髪の男がを無表情に見下ろしていた。
まるで絹糸のようなその髪は丁寧に櫛が通されていて、毛先まで整えられている。
を冷たく見つめるアイスブルーの双瞳は、に小さな恐怖心を与えたが、
同時に透き通るようなその瞳に魅力さえも与えた。
黒の、まるで喪服なようなスーツになめらかなベルベット生地のマントを羽織り、
胸元の止め具には精巧なシルバーの蛇が象られている。
その二つをつなぐ鎖がこの男の性格を表すに冷たく光っている。
男は手にしているスティッキ、(これもヘッドに精巧な蛇の頭が象られていた。)を軽く持ち上げながら
冷たくに微笑みかけた。
男は素早くの頭からつま先を眺め、鋭く赤と黄色のネクタイを睨みつけたが、
の首や指の関節、人間のものではないそれを確かめると内の中でほくそ笑んだ。


「人を探しているのだが、ここはなんとも広くてね。どこも似たような回廊だ」


僅かに優しく揺れたアイスブルーの瞳にはふわりと微笑みを返した。


「迷われたのですね」

「正直にそう申した方が得策のようだ」


軽く肩を竦めて小さく笑う男にも小さく笑うと、薄紫色の瞳を輝かせてその男を見上げた。
どこか心から慕う主人と空気が似ているような気がして、嬉しさを隠せない。
男はスティッキの蛇の頭飾りを撫でながら、その瞳を細めた。


「セブルス・スネイプという男を探している。あぁ、生徒の君にはスネイプ教授と申した方が馴染みやすいかな」

紡がれた人物の名前にの表情が一層綻び、銀髪の男はい些か表情を歪めたかが
はそれに気づく由もなくにこりと頷いてみせる。
自分はスネイプ教授の所へ行くところだったからと二人並んで、地下牢へと足を進めた。
男は思い出したように顔を上げると、その笑みをへと向けた。


「私の名はルシウス・マルフォイ。以後お見知りおきをミス・・・?」

「あっです!!・・・・?あのマルフォイさんてもしかしてドラコの?」


恭しい挨拶にも強張りながら挨拶を返す。と、同時に男から紡がれた名前にふと首を
傾げれば、男はさらに笑みを深くして頷いた。


「あぁドラコを知っているのかね?そう、私はドラコの父親です」

「やっぱりvドラコにはいつもお世話になっているんですvいろいろ教えてくれて・・」


そう再び足を進めるを見つめながら、ルシウス・マルフォイは不敵に微笑んだ。


(これが魔法省でも話題の人形か。これはわざわざ出向いた甲斐があったというものだ)




もうすぐ地下牢への階段という曲がり角に差し掛かったところだった。


「おっじゃないか」


二人の後ろから声が響き、はふわりと微笑を浮かべながら振り返り、
ルシウスは苦々しく振り返った。


「シリウスv」

「そうかそうかv午後の授業は出ないんだよなvじゃーさ俺と・・・って
なんでてめえがいんだよ!!マルフォイ!!


ニコニコ笑顔で近寄ってきたシリウスはの隣の人物を見やって嫌悪の表情を露にした。


「また、よからねえこと企んでいるんじゃないだろうな?え?」

「ふん、何も?ただスネイプに掛け合ってその娘を我がマルフォイ家に迎え入れるだけだ」

「おもいっきり企んでんじゃねえか!!」


を引き寄せながらシリウスは厳しくルシウスを睨みつけた。
きょとんとしながらはシリウスとルシウスを交互に見つめる。どうやらルシウスの言っていることが
よくわかっていないらしい。


「帰れ!!」

「うんうん、とっとと帰りなよ」

「!?」

さらに唸るシリウスの横で涼しい声が響きシリウスはビクッ肩をびくつかせて振り向けば、
いつの間に現れた?やんわりと微笑んだルーピンがルシウスを見ていた。


「まったく、これだから少女趣味の変態さんは」


訂正。見ていたのではなく、にっこり微笑みながら凄まじい黒いオーラを放ちルシウスを睨みつけていた。
しかし、ルシウスは怯むことなく余裕の笑みを浮かべると、その冷たい瞳をシリウスとルーピンに向けた。


「ふん、貴様ら低俗の輩に私の高貴なる趣味を理解できるものではない」

「うっわ・・認めてるよこの変態;」

「あのさ;、少しは恥じなよ」


思いっきり胸を張りながら言い切ったルシウスにシリウスとルーピンは呆れたように頭を抱えた。
高貴な趣味ならもっと他のものがあるだろう!!とはたいてやりたい衝動に駆られるも、
威張りながらさり気無くスティッキに仕込んである杖に手をかけている手が震えている。


((やっぱり恥ずかしいんじゃん!))



「あれ?父上?」


姫奪還のため蛇対犬&狼の対決が行われているさなか、次なる挑戦者になるであろう?声が響き
ルシウスは笑みを零し、シリウスとルーピンは表情を歪めて声のする方へと振り向いた。
とルシウスが歩いてきた廊下の少し先に、ドラコとパンジーが怪訝そうに三人を見つめている。


「ぉおっドラコ!いいところにきた」

「ちっ、ジュニア登場かよ」

「いや、意外と使えるかもよ?」


「どうしたのですか?突然ホグワーツに来るなんて、一言くだされば案内をしたのに」


ドラコは丁寧に父親へと頭を下げ、やや不快そうにシリウスとルーピンを見やったが、
その後ろにがいるのに気づいて表情を和らげた。
の方もわけがわからないまま三人がいがみ合いを始めたので、ドラコとパンジーの
登場にホッとしたようである。
パンジーに抱きつくように駆け寄ると、驚いたパンジーが宥めるようにの肩を抱き寄せた。


「ちょっ・・どうしたの?」

「父上・・・どうかされたのですか?」


の様子にどうやら心当たりがあるらしいドラコは、咎める様な目つきで父親へと振り向いた。


「まさかとは思いますが・・・を無理矢理家に連れて行こうなんて・・してませんよねえ?

「う;」

「ぴーんぽーん!息子はまともでよかったなーマルフォイさんよー」

「またですか!?父上!!!!まさか二ヶ月前のことを忘れたと言わせませんよ?!
誘拐まがいに女の子を家に連れ込んで、母上に散々殴られ家を半壊の危機まで追い込んだ挙句!、
バルコニーから三日三晩吊るされの刑にされたにも関わらずまだ懲りないのですか!?!?
息子である僕のことも考えてくださいよ!!」

「ぅ;・・・ドラコ;何もこんなところで;」

「へー。そうなんだー」

「最悪だね。というか・・・君のお母さん・・・・・」


((怖えぇ・・・・))


蔑むようにルシウスを見つめていたシリウスとルーピンだが、絶対にドラコの母親には
会いたくないと震えた。


「違うんだ!!ドラコ!お前がよこす手紙に彼女のことがよく書かれていたから
気になってはいたが;今日はスネイプと会う約束があってきたのだ。彼女とは偶然に会ったのだよ!」

「あ・・うん。ルシウスさんとは偶然に会ったんだよ?」

「しかし、我輩はお主に会う約束はしてないがな」


の背後で低い声が響きは弾かれるようにして振り返った。


の帰りが遅いと思ったらこの様とは」

「教授v」


やれやれと盛大に溜息を零すと同時に、鋭くルシウスを睨みつける。


「ルシウス。我輩の研究室に奥方がみえているが?」

「何!!」

「どうしましたの?セブルス?・・・あらここでしたのあなた」


冷たく凛とした声がスネイプの背後から響き、ルシウスは一気に青ざめた。
スネイプの背後から現れたのは、すらりとした背の高い女性。
体のラインが美しい見える濃紺色のベルベット地のワンピース型ローブに、黒のマントのようなものを
腕にかけている。ドラコと同じプラチナブロンドの髪は性格を表すようにきっちりと束ねられ、
深海を思わせるブルーの瞳が厳しくルシウスを捉えていた。
コッコッコッと冷ややかなヒールの音を立てながら、ゆっくりとルシウスの前に立ちはだかる。


「今日は一日屋敷にいると申されたのに、朝食が済むといなくなるんですもの。探しましたわ。
あら?ドラコ、いたの?まあ、パンジーも。お元気かしら?」

「はい!奥方様v」

「母上・・なぜ父上がここにいると?」

元気よくお辞儀をするパンジーにふわりと微笑むと、ドラコの母親はパンジーの隣にいる
へと視線を移した。

「あなたが・・ね?」

「はっはい!初めまして!!」

びくりと肩を震わせながらお辞儀をするを優しく制すると、そっとの頬を撫であげた。


「ドラコのよこす手紙通りかわいい娘さんねvルシウスが狙うのもわかるわv」

「う;あ・・そのナルシッサ?」

「えぇ、あなたのご趣味はよく存じてますわよ?ですがねぇ・・・
恥をわきまえなさい!!この変態があっ!!

シュッと空気を切るような音が響くと同時に、ルシウスの体が数メートルほど飛んだ。
ドサリと重い音を立てて冷たい石床へ投げ出されたルシウスは、白目を向いている。
ルシウスの妻-ナルシッサは体制を低くし、フウッと息を吐き出すとパンパンと手を叩きながら
ゆっくりと立ち上がった。
シリウスとルーピンは顎が外れんばかりに口を開き固まり、とパンジーは目をまん丸にして驚いている。
どうやら何回もこの光景をみているのであろうドラコとスネイプは呆れたように深々と溜息を
つきながら目を閉じて首を振った。
ナルシッサは冷たくルシウスを見下ろすとパチンと指を鳴らした。すると廊下の影や天井の隙間から
マルフォイ家の屋敷しもべがぞろぞろと現れ、ナルシッサとドラコに恭しく挨拶をするとルシウスを
担いで玄関ホールへと消えていった。
一人の屋敷しもべに「拘束しておきなさい」と言いつけると、にっこりと微笑みながらスネイプ達に振り返った。


「ふふっ、お騒がせして申し訳ありませんわねvセブルス?お茶をいただいてもよろしいかしら?」

「えぇ、どうぞ。さ、戻るぞ。ミスター・マルフォイにミス・パーキンソンもいかがかな?」


何食わぬ顔をしながら、そしてドラコとパンジーを促すと一同は地下牢のスネイプの研究室へと
踵を返していった。
再び静けさが訪れた廊下には、いまだ固まっているシリウスとルーピンが取り残された。



























「それであなた。セブルスとはどこまで?」





ブ八ッ



ナルシッサの問いかけにドラコとスネイプは一気に紅茶を噴出した。
辛うじてこらえたパンジーもケホケホと咽返っている。ナルシッサは眉間に皺を寄せながら
ドラコとスネイプを睨みつけると、きょとんとしているへと微笑む。


「奥方殿!!何を突然!!」

「あら?違うの?」

慌てて言葉を挟むスネイプに、ナルシッサは涼しげに首を傾げた。


は生徒ですぞ!」

「あら?でもセブルス。教師と生徒の恋なんて今時珍しくないわよvねえ?パンジーv」

「えぇvそうですわv」

ナルシッサの言葉に一瞬首を傾げかけたパンジーだが、すぐさまにっこりと微笑んで大きく頷いてみせた。
ドラコは「また母上の悪い癖が始まった」と呟くと、片手で顔を覆った。


「あの・・「どこまで」って?・・・この前教授とホグワーツを見下ろせる「希望が丘」に
行きましたけど・・・」


かわいらしい薄紫色の瞳を瞬きさせながら、首を傾げているにナルシッサはくすりと笑った。


「あらあら、かわいいわね。そうじゃなくて、セブルスとキスをしたのか共に一夜を「奥方殿!!」

ズイッと身を乗り出してくるナルシッサには少し肩を強張らせた。
ナルシッサの言葉を遮ったスネイプの顔は突然大きな声を出したせいなのか、それともナルシッサの紡いだ言葉の
せいなのか僅かに紅潮している。
パンジーはきゃっと楽しげに頬を紅くし、ドラコは顔を真っ赤にさせながら俯いてしまった。
しかし、ナルシッサは意に返さずニコニコと微笑んでいる。


「祝いの門出には必ず出席しますわvそうね貴女にドレスを贈らせるわ。
純白で・・今一番人気のマリーナフェルのドレスがいいわねv」

「まあっ素敵vブーケは何がいいかしらv」

「そうねえ・・この子は可憐な感じだからそれに見合う小ぶりなブーケがいいかもねパンジーv」

「きゃはっ。絶対似合うわよ!」


嬉しそうにを囲みながら話すナルシッサとパンジーに、意味がわからないが二人の楽しそうな
姿ににっこりと微笑む
一方スネイプとドラコはさも疲れた表情で紅茶をすすっていた。


「マルフォイ。君も家では苦労しているのであろう」

「わかっていただけますか?スネイプ教授(涙)」



楽しい?お茶会は空が紅く染まり始めると同時に閉会となり、をいたく気に入った
ナルシッサは「近いうち家に遊びにきなさい?あぁ、安心して?主人はちゃんとつないでおくわ」と
さらりと怖いことをいうと、優雅な足取りでホグワーツを去っていった。
ドラコとパンジーも部屋を出て行くと、スネイプは盛大な溜息を深々と吐き出した。
マルフォイ夫妻とは長年の付き合いがあるが、二人とも全く変わらない様子に疲労の色が一層濃くなる。
ソファに深く体を投げ出し、眉間に指を置き目を閉じているスネイプの様子には不安そうにその
顔を覗き込んだ。


「教授?具合でも悪いの?」

「あ・・いや」

ハッととして顔を上げれば、不安そうに目を震わせているの顔が近くにあり一瞬息を殺した。
さきほどのナルシッサの言葉が脳裏を駆け巡り、頬が微かに熱を帯びてくるのがわかる。
それを隠すように立ち上がると、一つ咳をしてへと向き直った。

「なんでもない。久々の客人に少々くたびれただけだ」

「そうですか」

まだ、不安そうな表情のの頭を掻き撫で「そろそろ夕食の時間だ。大広間で友だちが待っているだろう」と
促せば、うんと頷きは地下牢を後にした。
の後姿を見送っていたスネイプは扉が閉まると、ぼんやりとの頭を掻き撫でた手を見やる。


「あの子は我輩の生徒だ。それだけだ。それ以上のことはなにもない」


そう自分に言い聞かせるが、スネイプの心にはどんよりとした重りが残った。



























「あれ?シリウスにルーピン先生?こんなところで何してるの?」




夕食を取るために大広間へと向かう廊下を歩いていたハリーとロン、ハーマイオニーは
ポケーッと突っ立っているシリウスとリーマスを怪訝そうに見やった。
顔の前で手を振ったり、頬をつねってみるが一向に動じない二人に三人は顔を見合わせる。



「まあ・・いいか。二人とももう夕食だからね?」





その日の夜、ロンドン郊外にあるマルフォイ家が再び半壊の危機になったと執事からの
手紙にドラコが頭を抱えるのは二日過ぎてからだった。
























やっとの連載更新がルシウスさん変態だし;ナルシッサさん最強だし;
いやでも今回は書いてて楽しかったですけどっ;
いちおラストに続けるためには大切な回だったりするわけですよ!(いいわけか?こら。)
あと、ギャグを書いてみたかっただけ。ルシウスファンの方ものすっごいごめんなさい;
ハリー達もちゃんと出す予定だったのですが、今回は奥さん書いているのがめちゃくちゃ楽しくて;
次回はちゃんと活躍してもらいますから!(><)

2005年2月18日執筆