+魔法から得られる感情+














































「ご主人様〜!?」




まるでドビーの言い方だが、鈴を転がしたような声が耳を掠めて、ハリーはふと顔をあげた。
声の主はやはりで、ハリーはが小走りに向かっている方にすばやく目走らせれば、
これまた予想的中の人物で。








スネイプは眉間に深く皺を刻み、チラリとを小さく睨みながら振り返った。
の存在はあっという間にホグワーツに知れ渡った。
何も隠すことなどなかったのだがダンブルドアが正式に発表する前に、悪戯のみならず情報収集にも長けていた、
フレッドとジョージによって全校に知れ渡ったのである。
誰もが好奇の目で見つめるも、の精巧な作り整った顔立ち、またほんわかした性格にすぐさま人気者になった。
けれどもの保護者がスネイプというのが皆納得いかなかったようだが。
は常にスネイプと行動をともにしていたのだ。

軽く踵を鳴らしてスネイプの前に立つと、大きな薄紫色の目を輝かせてスネイプを見上げる。



「ご主人様っ!ダンブルドア校長先生からの書類です!もう一つあったそうです」

「・・あぁ。ご苦労。部屋に戻るぞ」

「はいv」


そしてはスネイプの後ろをニコニコとついて歩く。


「ほんとっ人形だなんて思えないよなぁ」


二人の後姿をじっと見つめていると、隣にいたロンがふうっとため息をついた。
と話してみたい、そんな表情だ。
じつはハリーもと話してみたいと思っていた。けれどもは常にスネイプと行動を共にしているのだ。
必ず邪魔にするに決まっている。
それならば、スネイプが担任である魔法薬学でチャンスを見つければいいと思ったのだが、
授業中は生徒達が全員教室から出ていくまでずっと隣の準備室にいるので、話しかけるチャンスは全くなかった。



「スネイプの奴!絶対を一人占めしているんだぜ!
う〜わ〜悪趣味このうえないぜ!」


「グリフィンドール10点減点」



低い声がハリーとロンの背後から響き、二人はびくりと肩を振るわせ、ゆっくりと振り返った。
そこには自室へと向かったはずのスネイプが意地悪そうに二人を見据えていた。
その後ろにはきょとんとやや、首を傾げながら二人を見つめている
やっと巡ってきた好機!だけども、目の前の人物の立ちはだかりにより、そんな余裕は一かけらもない。


「お言葉だがウィーズリー?」


スネイプのねっとりした言葉にロンはサーッと青くなる。


はまだ我々人間の生活に慣れていない。しかもここは魔法界だ。
どんな危険なことが彼女に襲いかかるかもしれん。わかるかね?」


「・・・はい」


「よろしい。そんな彼女には常に行動を共にする者が必要だ」



だからっその役目がどうしてスネイプなんだよ!

ロンの目が強烈に語っている。
ますます意地悪く笑い口を開きかけたスネイプに、の心地良い声が浸透した。


「あの、ご主人様・・私はご主人様のお邪魔なのでしょうか・・」



ロンの呟きを、は自分は邪魔な存在であるのだと解釈したらしい。
慌てて首を横に振って見せるロンだったが、くるりとスネイプはへと振り返った。
やや、悲しそうな表情にスネイプはくしゃりとの頭を撫でる。


「邪魔ならば、外には出さぬ」


その言葉にはふわりと微笑んで、肩をすくめた。


「しかし・・」


スネイプは少し表情をしかめてを見おろした。



「そのご主人という呼び方はなんとかならんものかね」


「え・・だめですか?」


「まぁ、なるべく他の呼び方をしてもらいたいものだな。さて戻るぞ」




そう、ハリーとロンを見据えながらスネイプは踵を返し地下牢へと足をすすめる。
少しショックを受け立ち止まっているに、ハリーはポンっとの肩を軽く叩いた。



「スネイプ教授」




「え?」


「僕たちは皆そう呼んでいるよ。あることに長けて認められた人のことを敬意を表して教授と呼ぶんだ」


「教授?」


「うん、魔法薬学に長けているだろう?それにここは教授はたくさんいるからちゃんと名前をつけてね」



「スネイプ教授…」



「はっ。貴様に敬意を表されているとは思えんがね、ポッター。
、来なさい」




一文字一文字を噛みしめながら呟くにスネイプの声が降りかかった。
苛立ち気にハリーを睨みつけると、スッとへと視線を走らせる。
はにっこりと二人に微笑んで、「またね」というと足早に歩いていくスネイプへと
小走りに駆けて行った。




「けっ、スネイプのヤロー見せ付けやがって!」


「ねえ、ロン。「またね」だって」


「うん?」


舌打ち紛れに毒づくロンの方を見もせずに、ハリーはジッと(とスネイプが)曲った
廊下の角を見つめていた。何が?といわんばかりなロンの顔をチラリと見やって笑うと、
グリフィンドール寮の方へと踵を返す。


「またねって言ったんだよ。。いつか近いうちにお話できるよきっと」



この後寮の談話室へと戻った二人は、と少し話せたことを皆に話し、
大いに悔しがられたとか。














































「スネイプ教授」



部屋へと戻ったスネイプはダンブルドアから受け取った資料をデスクに置くと、
本棚からいくつかの厚い本を取り出し、何かを調べるように開き始めた。
がホグワーツに訪れて、また動くようになり2週間は過ぎただろうか。
ずっと引っかかっていることを目の前の主人に問うてみることにした。
スッとデスクの前に立ち、静かに先ほどハリーが教えてくれた名前を紡げば、
本から顔を上げたスネイプと視線が重なる。
作業を中断させられいささか不機嫌そうに表情を作るも、目の前の少女は真剣そのものの眼差しに、
パタリと本を閉じて静かに口を開いた。


「なにかね」


「私が、スネイプ教授にお世話になりはじめて2週間・・たちました」


「うむ」


「それで・・私本当に教授には感謝しているんです。
教授にとってはたいへん不本意な出来事だったと思いますっ。
だけど・・私とても嬉しくて・・・・・
だからっそのお礼に少しでもスネイプ教授のお役に立ちたいんです!!」


が言いたいことはよくわかった。
彼女がスネイプの隣の部屋で暮らすようになってから、は毎日本棚を整頓したり
石の床をきれいに埃を掃きだしたり、暖炉を掃除したり。少しでもスネイプの役に立とうと、よく働いた。
けれども常にそれら全てを杖1本で済ましていたスネイプにとっては、無意味なこと意外なにもなかったのだ。
雑巾を取り上げて「お前はおとなしくしてれば良い」と優しく促すも、
にとってはとても苦痛なことだったのである。


「礼など必要ない。掃除も茶も着替えも全て魔法で片付く。お前が気にすることはない」


そう口調を和らげて促し、再び本を開く。



「だけど・・・」



まだ言うか・・・そう深い溜息をつき、再度へと視線を向ければ、
やや俯き気味に淋しそうに薄紫の瞳を微かに揺らしていて。



「魔法で簡単に片付けられるかもしれないけど・・だけどっだけどねっ
一振りで片付いてしまうことってなんか淋しくありませんか?
自分の手でやった方が、とてもすがすがしくなると思うの!
必死に磨き上げて綺麗にしてあげた方が、愛着も出てくるでしょうv
これを作った人はどんな人だったのかな?とか
それに誰かに淹れてもらった紅茶って、淹れてくれた人の思いが篭っているみたいで」



「もういい。ソファに座っていなさい」



目を細めて微笑むの言葉を遮り、スネイプは再び本へと視線を戻した。
は微笑みから淋しそうに俯くと、黙って静かにソファへと体を沈めた。
ふと、思いたったように立ち上がり、スネイプへとやや大きめに声をかける。


「あのっ本をお借りしてもいいでしょうかっ」


「あぁ、かまわん」

スネイプは作業を続けたまま、顔を上げずに返答をした。
は少しでも人間の生活を知りたいと、スネイプから様々な本を借りていたのだ。
ほとんどが魔法薬に関わる書物だったが、にとってはとても魅力溢れるものだったのだ。
さきほどの件から気を取り直して、本棚から読みかけだった本を取り出すと大事に抱えて
またソファへと体を沈める。
ちらりと横目でスネイプを見やって、はそっと手にしたの表紙をなぞった。
なめし皮の表紙は、長年読み込まれているようでタイトルが擦れ、角も少し丸みを帯びている。
けれどもそれは大事に読み込まれている証拠。1回も雑に扱われたことがないものだった。


”とても大事にされていたのね”

”うんvその人はいつも大事に僕を持ち歩いていたんだよ”


静かに心の中で呟けば、そっと本に置かれた手からじんわりと本の言葉が伝わってくる。
元々、人形という物だったは物に手をあてればその物の言葉がわかるという力を持っていた。
けれどもそれはスネイプには秘密にしていること。


だって、はじめはとても怖そうな人だとずっと思っていたの。
だけど、スネイプ教授の部屋にある物達に触れていくうちにそんな思いはいつの間にか消えていたんだ。


スネイプの部屋にある物は皆、”この人はとても大事に扱ってくれる”と口を揃えたのだ。
それから注意深くスネイプの行動を見ていたは物達の言葉に大きく頷くことになる。
扱う薬のためかすこしカサついた手で大事にみせる仕草。ほとんどが魔法で済ましてしまうので
あまり見ることができないけれど・・・本を取る仕草、カップを取り出す手つき・・・
とても大切にしてるという雰囲気がスネイプの手から温かいほどに伝わって、 の大好きな瞬間なのだ。。
おそらくスネイプ自身も意識していないことかもしれない。それはとても得したように嬉しくて。
だから、自分は物の言葉がわかるなどスネイプには告げなかった。


ふわりと微笑んでスネイプを見やれば、気難しい顔をしながら静かにページをめくっている。
そのページを捲る仕草も、頬が緩むほどに大好きで。
スネイプが大切に使っている本を、丁寧に開いてはそっと文字の羅列を読み取ることに
意識を集中させた。

































コト








「・・・・・・・しなくていいと先ほども言ったはずだが?」




どれほどの時間が過ぎただろうか。もうだいぶ遅い時間だとはすこし靄がかった意識でも十分と把握できる。
羊皮紙に長い羅列を書き込んでいたスネイプの耳に、デスクの上に何かが置かれた音が掠めた。
不思議に思い顔を上げてみれば、目の前には紅茶が入ったティーカップ。
そしてその先にはがふわりと微笑みながら立っている。
怪訝そうに問いかければ、もじもじと両手の指を絡ませ小さく口を開いた。



「だけど・・・やっぱり誰かが淹れた紅茶の方が、魔法より絶対美味しいと思うのっ」





















「もう遅い。休みなさい」







深い溜息とともに、パタンとスネイプは傍らにあった本を閉じた。
別に労いの言葉が欲しかったわけではない。けれども何も意を返さない返答に、少しばかりの心が淋しくなった。
これ以上何を言っても、逆に怒らせるだけかもしれない。そう思いは小さく
「おやすみなさい」と呟くと、自分の部屋へと入っていった。



カチャリ


の部屋のドアが完全に閉じられると、スネイプは羊皮紙から顔を上げた。
小さく溜息をついてティーカップを見やる。




細い湯気とともに立ち上るほのかな香り











魔法よりも誰かに淹れてもらった紅茶の方が絶対に美味しいよ!!




















「くだらん。茶など魔法だろうが人の手だろうが同じこと」




そう小さく吐き捨てるも、ティーカップにそっと口をつける。






「・・・・・・・・・・・・」












静かな空気が流れるスネイプの自室。
やがて最後の一口を飲み干すと、コトリとデスクにカップを置いてスネイプは静かに立ち上がった。










「魔法では得られぬ感情か・・・ふん。まあ悪くはない」





そう薄く笑うとスネイプは寝室へと続くドアノブをゆっくりと回した。














やや疲れ気味な体に流れ込んだのは、ほのかにイチゴの香りを漂わせた紅茶。



「お疲れ様v」


そんなの笑顔が脳裏によぎる。
翌日、デスクの上にカラになったカップを見つけたは、嬉しそうに微笑みカップを抱きしめた。
















魔法はとても大好きだけど、もしかしたら簡単に済ませてしまっていることに
魔法では絶対得られない感情があるかもしれない。そんな思いで書いてみましたv
そしてやっと、ハリーとロンを出せてホッvこれからどんどん皆を出していきたいと思っていますv