どうして、この人形から目が放せなかったのか、自分でも解らなかった。
抱きかかえながら何をとち狂ったのかという自嘲さえ浮かんで。
けれども。この人形をあそこへ置いておくなぞ、したくなかった。




私を連れて帰ってくれた人間は、今まで見てきた人間とは
多くのことが違っていた。



























+名前?+


















「セブルスや、その子はここに座らせておくれv」


「はい」


校長室へと戻ってきたダンブルドアは、にこにこと微笑みながらマジックボックスの上をポンポンと叩き示した。
静かにその上に座らせて人形を見やれば、僅かにスネイプの眉間に皺が寄せられ。
損傷は足首のひびだけだが、長い間放置されていたためか、
髪や服が汚れている。懐から杖を取り出し、その杖先を人形へと向けた。


「のう・・セブルスよ」


杖を振ろうとしたスネイプの耳に、ダンブルドアののんびりとした声が耳を掠めた。
杖先を戻し静かに顔を上げれば、まるで我が子のように人形の頭を撫でるダンブルドア。



「この子に名前をつけてくれぬかのお・・」


「人形に?それならば校長自身でつければよろしい」


人形に名前をつけるなぞ、子供のままごとではあるまいに。
それにこの人形はここ、校長室に置かれるのだから名前をつけるのなら
その部屋の主が良いであろうと怪訝そうに見返してやれば、
まるでスネイプの反応を承知していたかのように、ダンブルドアは楽しそうにウインクをした。


「ほうほうv
だがのう、この子を連れて帰りたいと申し出たのは・・・・・セブルス、
お主じゃったよの?それならばお主が名前をつけてやるべきではないかのぉ
この子もセブルスに名付けてもらいたいじゃろう」


「・・・・・・・」


「のうvセブルス」


さも嫌そうな表情を向けてみせるも、目の前の人物はにっこりと微笑み返してくるだけ。
スネイプは諦めたように深い溜息をつくと、おろしていた杖先を再び人形へと向けた。







”まぁ、名前をつけたところで何も変わるわけでもないか・・”





「・・・・・・・。お前の名前はだ。”修復せよ”」




呟くと同時に振られた杖先から、ビー玉大の淡い水色の光がポンッと飛び出し、
人形の額へと吸い込まれていった。その瞬間みるみると人形の体から汚れや埃が消えていく。
足首のひびもすっかりと綺麗になりダンブルドアは一層嬉しそうに微笑んだ。
ふわりと揺れる黒い髪がまるできれいにしてもらって喜んでいるようで。





「さてv一段落ついたところで、紅茶はいかがかのうセブルスよ」



「・・・いただきます」


小さい溜息をつきながら杖を懐に戻すと、人形に背を向けてダンブルドアへと向き直った。
ダンブルドアがテーブルに小さく杖を振るうと、2つのティーカップにクッキーやケーキが
ポンと音を立てて現れた。


「偶然にもホグズミード限定のチョコベリーケーキが手に入ってのぉv
いやはやなかなか手に入らぬものじゃからぜひとも誰かと一緒に食べたくて食べたくて
セブルスも甘党じゃったよの?」

「えぇ・・」

ややはにかみながらも、嬉しさを隠し切れない表情で頷けば、鼻先を優雅な紅茶の香りが掠めた。








































                    カッタン   カラカラカラ





















スネイプの背後で小さな物音がした。何か転がったのかと不思議に思い振り返る。




「・・・・・」



振り返ったままスネイプは動くことを忘れたかのように、固まってしまった。
スネイプが正面にいることにより、いったい何が起きたのか把握できずに、
立ち上がって見たダンブルドアもあまりの驚きに、滅多に見せることのない驚きの表情を浮かべる。





「これは・・なんと!!」























「あの・・・私・・・動いて・・・歩いてる?」










二人の前には立ち上がりそろりと歩いている人形ー−の姿があった。












































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「あ・・・あのう・・・」





おじいちゃんと私を連れて帰ってくれた人・・セブルスっておじいちゃん呼んでいたっけ?
おじいちゃんは私に「ちょっと待っててくれるかのう?」と微笑むと、
二人は私から少し離れたところで何か小声で話しはじめた。時々セブルスさんが「莫迦な」とか
「あり得ん」と唸っていて・・あ・・お話が終わったみたい。
おじいちゃんはにこりと微笑むと、私を椅子へ座るように促してくれた。
テーブルを挟んで向かい側におじいちゃんとセブルスさんも腰を下ろす。
なんか・・セブルスさんジーっと見てきて怖いぃ;




「お主の名前はじゃったのおvワシはホグワーツ魔法学校校長のダンブルドアじゃv
おぬしは魔法界の人形かの?」


「うんv今さっきご主人様さまが名前をつけてくれたのv」


「ごっ・・・主人だと!?」



うー・・・セブルスさんが怖そうに私を睨んだぁー
??魔法?魔法界?なあにそれ。絵本のお話?


ダンブルドアは息を荒くするスネイプを宥めると、もういちど優しい表情でを見つめた。
もう一度魔法界の人形かねと問いかければ、不思議そうな顔をしてはフルフルと首を横に振る。



「私は普通の人形です・・・でも、私ずっとずっと人間に憧れてきたの」


そう恥ずかしそうに答えれば、ダンブルドアはいっそう表情を明るくさせて微笑んだ。
どうしてかの?と話を促せば、嬉しそうにが微笑む。

なんでも捨てられるまでは随分と人間に大事に扱われていたらしく、そんな人間が大好きで
またそんな人間の生活に興味があったという。自分の力で歩いてみたいと−
そう目を細めて笑うだが、急に思いついたようにダンブルドアへと身を乗り出した。


「でも私何度も強く願ったのに、願いが叶ったことなんてなかったの!!
それにさっきご主人様が私に何か棒見たいのを向けたとたん、急に今で感じることのなかった
ものが急に体中を駆け巡って!」


こうねっここがキュウッとカッカする感じなの!
と両手を胸のところで握り締めるに、ダンブルドアはにっこりと微笑んで
を落ち着かせた。


「それはのう・・vお主の強い思いがセブルスの魔法とシンクロしたのじゃろう
お主の海よりも深い思いが、セブルスが放った魔法に何かの形で力が宿ったのじゃろう
そしてお主は−」


「魔法?」


「おぉvそうかそうかは魔法使いを知らんか。、ここはお主が今まで暮らしていた
世界とはちょっと違っていてのぉvそう、ここは魔法使いが住む世界なのじゃよ。
聞いたことないかの?」


「うー・・・んと・・・なんとなく。それじゃ魔法使いは人間じゃないの?」


表情を顰めて首を傾げては、ぺたりと椅子に腰を下ろした。



「同じ人間ではある。けれどもちっとだけワシ達は魔法を使うのだ。
君が暮らしていた世界の人間は魔法を使えないが、機械というなんとも画期的な
魔法を使うじゃろうv」



「うー・・・よくわかんない・・」



はむうっと頬を膨らませて首を横に振った。
ふと、全然話に参加していない男をへとそっと視線を向ける。



「ぴ;」



スネイプはただ黙ってジーッとを見据えていた。




「よしvそれならばやvここで人間の生活に触れてみてはどうかのv」

「え?vv」

「校長!!」


ここでようやくスネイプは、表情を歪めてダンブルドアに食いついた。
けれども、ダンブルドアはスネイプを無視してへと話を続ける。


「それがいいv何、魔法省にはワシから話を通しおくセブルスよ。
そうじゃのう・・・・の部屋はセブルスの隣がいいかの」


「ちょっと待ってください!!」


「ほっほーvv何を照れておるセブルスvお主が名前を付けてあげたのじゃから
お主の部屋の隣がいいじゃろう?・・・おーそうかv安心せい!部屋はすぐに用意するからのv」


「違う!!」



「それではやv魔法使いの世界じゃが人間ライフ楽しんでくれのv」



そういってダンブルドアはとスネイプを校長室からにこやかに追い出した。
スネイプは苦虫を潰したような表情でしばらく扉を睨みつけていたが、
やがて諦めるように踵を返した。するとすぐ後ろにいたのかとばったりと向き合う。
おどおどと肩を窄めて、上目遣いにスネイプの機嫌を伺っているようだった。


は人形そのものが人間と見間違えるほどで、ぱっと見は人間と変わりない。
けれどもよく目をこらして見れば、首や手首、指の関節は人形独特のものがしっかりと残っていた。
大きな紫色の瞳が、自分が怖いのだろう微かに揺れている。
スネイプは深く溜息をつくと、自分の軽率さを呪った。
もしあそこで、この人形を持ち帰ったりしなければ・・・・



「あの・・・ご主人様・・・。何でもお手伝いしますっだからっ捨てないでください!」



今思っていたことが目の前の人形・・いやに通じたのだろうか。
はカタカタと震えながらキュッと目を閉じて、スネイプに深く頭を下げた。

たしかに持ち帰ったのは自分だ。
この人形がまさか動き出すなど思いも寄らなかったが、それをめんどくさいからといって
再び捨て置きに戻ったら、この人形を捨てたサーカスの団長とやらとなんら変わらない下賤になるだろう。
それに、そんなことはスネイプ自身がしたくはなかった。
まあ、部屋の片付けなどをやらせれば多少役に立つだろう・・
そう、今度は軽く溜息をつくと「ついてこい」と呟き、を連れて自室へと足を向けた。
















これが我輩ととの出会いだ。

それからの生活が今までと一変するなど、この時は思いもしなかった。






スネイプの後ろをついていく少女は、そっと声に出さずに呟いた。







”神様、奇跡をくれてありがとう”

















そしていつか本当の人間になれますように