+助手(番外編・消せない呪い)+
















闇が時を覆い被す頃、ソレは我輩を蝕み始める。

血と人が焼ける匂いとその映像ーそして、左腕に走る強烈な痛み・・・・

そう・・・今夜もソレは我輩から寝ることを奪う。そう・・・まるで


















呪い
















「っつ・・・・ぐうっ・・・」


地下牢の自室でスネイプはうめき声をあげた。

左腕に走る焼けるような激痛・・・夜になると毎晩その痛みにうなされ、眠れない。

思い出したくない過去が・・・昨日のことのように甦る。荒かった呼吸を整えスネイプは冷笑した・・・


「所詮、「あの人」から逃がれられない・・・・か・・・・」


許されない罪と罰。たとえそれが世間に許されても全ては己の自惚れ・・・そうかもしれん・・・



スネイプはベットから抜け出し、本でも読もうと居間へ向かった・・・・


(今夜も眠れなさそうだな・・・・)


居間に行くとスネイプは一瞬立ち尽くした。がソファで読書をしていたからだ・・


「こんな時間まで起きていたのか」


(1時過ぎだぞ・・・・)そう続けようとすると、は本からスネイプに視線を移し









凍りついた









「教授!どうしたんですか!とても顔色が悪いですよ!!!」


勢いよく立ち上がりスネイプの元へ駆け寄る。両手でスネイプの両頬を覆い、目を覗き込む

スネイプはが居間にいることと、彼女がとった行動に動揺し固まってしまった。


「ちょっと!凄い汗ですよっどこか具合悪いんじゃないんですか!?」

慌てて濡れタオルを作るを焦点の合わない目で眺めながらソファになだれ込む・・・・・

「一体、どうしたんですか!?あぁっもう!」

は左手で濡れタオルをスネイプの顔に優しくあてた。右手でスネイプの左腕に手を掛ける・・・その瞬間


「っつ・・」



掴まれたわけでもないのに左腕に激痛が走り、スネイプの顔が歪んだ。


「?教授・・・ひょっとして左腕怪我してるんじゃ・・・」


スネイプはハッとして無意識に左腕を隠した。



ー彼女には見られたくない・・・・彼女だけには・・・ー



「なんでもない」


「なんでもなくないですよ!痛がってるじゃないですか!?」


グイッとスネイプの左袖をまくった


「っつ!やっやめろ!!」


























「死喰い人・・・・・・」






















はポツリと呟く。同時にスネイプからサーッと血の気が引いた・・・

彼女の・・自分の左腕を掴む手を振り払うことはおろか、逃げることもできずに・・・








彼の左腕の内側には「髑髏の口から蛇が這い出ている」印が刻印されていた。

その印は「例のあの人」・・・ヴォルデモートの充実なしもべの証拠。

ただ、彼の印は薄くその上に何度も切りつけたのであろう、いくつもの切り傷が覆っている・・・

そんなことをしても闇の印は消えることはない・・・

(きっと・・・この印を負ったことを悔いているのだろう・・)はそう直感した。


「・・・・・・離してくれ・・・・」


スネイプは消え入るような声で懇願した。はおずおずとスネイプから手を離す・・・・













スネイプとはしばらく無言で・・・そして動くこともできずに・・・。








































「15年程前・・・我輩は死喰い人だった・・・・」


スネイプは何か決心したように話し始めた。

は私を拒絶するだろう・・・我輩を軽蔑し、ここを辞めてしまうかもしれん・・だが・・・話しておくべき・・いや・・・聞いてほしい・・・)

は一瞬ピクッと動いたが、何も言わずただスネイプを見つめ返している。真っ直ぐに。

その仕草で(聞いてくれるのか・・)と少し安堵しスネイプは話はじめた。

自分はスリザリンの出身で、当時ほとんどの人間が死喰い人になったグループにいたこと・何人ものマグルを虐げてきたこと・

自分の過ちに気づき、自らスパイとして魔法省に情報を流したこと・・・・・

普段の彼なら絶対己の過去を語ったりはしないであろう・・

たとえそれが、想いを寄せる愛しき人でも・・・・実際スネイプ自身も驚いていた。




(何を・・・話しているんだ・・・)






スネイプは気づいていなかった。己の体が恐怖に駆られ、小刻みに震えていることに・・

毎晩左腕を蝕む呪いが徐々に彼を追い詰めていることにも・・・






















「教授・・・?」


「なっ・・・どういうことだ・・・」


スネイプは息を呑んだ。彼の目から一筋の涙が零れている・・・


(我輩が泪などっ・・!)


こんな顔をに見られたくないと彼はヨロヨロと立ち上がろうとした・・・・・・・

























キュッ































「・・・・・・・・ミス・?」


おそるおそる振り返ると彼の左腕を抱きしめるがいた。

さっきまで痛みでどうしようもなかった・・・左腕が今では嘘のように痛みがひいている・・・

それどころかとても温かい・・・はスネイプの左腕を抱きしめながら目を閉じ、


「ありがとうございます・・・」と呟いた。


「何がだ・・・・」


「お話してくれて」


「・・・・・・・・・・」


スネイプは少し躊躇し、再びソファに腰をおろした。


「我輩を軽蔑しないのか?」冷ややかに・・だが、かすかに震えた声でスネイプはを覗き込む。

するとはふわりと優しく微笑み、何か・・・日本の陰陽師のものであろう呪文を唱え、スネイプの左腕にキスをした。

その瞬間、左腕から体全身にかけて・・・なんというのだろうか気だるかった体・拭いきれない心の荒みが洗われ、

軽くなったように感じた。は顔を上げ、もう一回彼に微笑み・・・
そして、スネイプの額にもキスをした。



スネイプはだんだん意識が遠のいていった。意識が途切れる寸前の声がしたが・・聞き取ることはできなかった・・・

















その夜、我輩は夢をみた・・・。辺り一面、深緑の野原でと手をつなぎながら歩いている・・・

左腕からはあの呪いの印が消えていて・・・

こんな穏やかな夢は何年ぶりだろう・・・・・・そしてスネイプは深い眠りについた。































































朝・・・

スネイプが目を覚ますと、彼は固まった。どうやらあのままソファで寝てしまったらしい。

が、それよりも寝ている体勢・・・・の膝枕である。

おそるおそる、視線だけの顔をみると彼女は頭を肘掛に傾け小さな寝息をたてて寝ている。

彼女を起こさぬようにゆっくりと体を起こす。



「んー・・・」と声を小さくあげたが起きる気配はない・・スネイプはホッとしてソファから離れ、

寝室から毛布を持ち出しにかけてやった。机の椅子にもたれかかり、左腕の袖をまくる・・・

夢の中では消えていた呪いの印・・・だが、現実は彼に落胆と後悔を与える。


薄く消えかけてはいるが決して消せることのない・・・逃れることができない印・・・





しかしスネイプは思いのほか気分が軽い気がした・・・。

おそらくに話したことで・・・彼女は彼から目を背けずに優しく微笑んでくれてのだ。


(あの時・・・彼女は何と言ったのだろうか・・・)


スネイプの意識が途切れる寸前に彼女が口にした言葉・・・・思い出せない・・・

ただ・・その言葉を聞いて・・安心して眠りに落ちることができた・・

スネイプは立ち上がり、ソファにもたれ掛かって寝ているのそばにしゃがみこんだ。

まだ、起きる様子はない・・おそるおそる手を伸ばし、彼女の髪を優しく撫でる。

陶器のように滑らかな肌に、黒く真っ直ぐな髪・・・

穏やかな寝顔にスネイプはフッと微笑む・・


(君が傍にいてくれてよかった・・・君だけは必ず守り通す・・必ず・・)


そして、の顔に手を添え、口唇にそっと自分の口唇を重ねたー






「愛してる」






は返事をしたのかそれとも夢をみているのか・・






「私も・・・」





と返した。


彼女はまだ起きる気配がない・・・




スネイプはもう一度、口唇に触れた










消すことのできない印と過去・・・一生背負って行くことだろう・・・・

だが・・・それでも・・君と歩いて行けたら・・君が傍にいてくれたら




我輩は君を守り抜いてみせる・・必ず




今は・・そう・・どうか今のシアワセが壊れぬように・・・・・







思いつきで書いてみた番外編。
なんとなくスネイプの苦悩見たいのを書きたかったんす
見事、不発。