Trick or Treat!Trick or Treat!!Happy Halloween!!!
ハロウィンなど煩わしいだけだ。
思い出したくもない記憶ばかりだ。
学生時代も教師になった今も。
しかしここ数年はそうでもない。
+Fortune trick+
Trick or Treat!Trick or Treat!!
小高い丘の上にあるスネイプの家にまで町からの陽気な歌声が流れてくる。スネイプはそれに心底うんざりしながら開いていた窓を閉めた。
毎年、ハロウィンには賑やかなホグワーツを何だかんだと理由を付けて離れているのにこれでは何も変わらない。
「全く馬鹿騒ぎしたがる連中の気が知れぬ」
そう呟いてソファに腰掛け読んでいた本へと戻る。
しかしスネイプの目は本を見ているだけで全く進んでいなかった。
いつもこの日にスネイプの屋敷を訪れる客人がいるのだ。
はじめは何の前触れもなく訪れた客人を邪険に追い払っていた。
しかしそれでも尚めげる様子もなく毎年やってくる客人を、いつからかスネイプも楽しみにするようになっていた。
そして神経を集中させるスネイプの耳に屋敷の前の砂利を踏む音がする。
コンコン
「Trick or Treat!」
「………」
来たな…とスネイプの口元に僅かな笑みがもれる。
トンテンカントンテンカン!となにか手以外のものでドアを叩いている様子の客人を向かい入れるために立ち上がる。
「おーい!Trick or Treatだよー!おーい!…あ」
「これはこれは小さな妖精殿」
ドアの前に立っていたのは小さな少女だった。
町からは僅かに離れ、鬱蒼とした森を背に立っているスネイプの屋敷にお菓子をもらいに来るたった一人の奇特な少女。
名を・。
親の都合で日本からイギリスに来たは、初めてのハロウィンの日からずっと誰も来ないスネイプの屋敷を訪れ続けているのだ。
は母親の愛情があふれんばかりにつまった手作りのフンワリとした可愛らしい服を着ていた。
背中にはちゃんと小さな羽根があり、なぜか手には鍋の蓋と柄杓を持っている。どうやらこれでドアを叩いていたらしい。
「Trick or Treat!」
「…と聞かれる前にすでに悪戯されてしまったようだがね」
「?」
苦笑交じりに呟くスネイプには首をかしげた。わかっていない様子のに黙ってドアを指差す。
「あは…」
が鍋の蓋と柄杓で連打したドアには無数の凹みが出来上がっていた。
笑って誤魔化そうとして、しかしそんな器用なことは出来ないはシュンと下を向くとゴメンなさい…と蚊の鳴くような声で謝った。
スネイプがやわらかく微笑み、の頭をポンポンと撫でる。
「やる菓子は無い。しかし客人をもてなす為のケーキならある」
「私お客!」
ピョンピョンと跳ねるように屋敷へと入ってくるの背中を見送りながら、スネイプはわずかにその表情を曇らせていた。
小さな客人に伝えなければならない事があった。
「おいし♪」
本当に嬉しそうにケーキを食べるをスネイプは黙ったまま微笑んでみていた。決して自分を怖がらない少女がとても愛しい。
しかし、スネイプには言わなければいけない事がある。絶対に伝えなければいけない。来年に悲しい思いをさせないように。
「ごちそーさまでしたっ」
満足した顔のがフォークを置いたのに、スネイプはその手を捕まえると真剣な表情でを見つめた。
キョトンとするの無邪気な顔に思わず何も言わずにおこうかと思ってしまう自分を叱咤する。
「、我輩は君に言わなければなら無い事がある」
「???」
スネイプはこれからを苦しめるのだという罪悪感に一度目を閉じると、しっかりを見つめた。
「我輩は来年、ここには帰ってこない」
「………じゃあ来年は来るの止めとくね。んでもってその次の年に…」
「2年後も帰らない」
「……………じゃあ3年」
「ずっとだ。我輩はこれまでハロウィンには職場からここへ帰ってきていた。しかし来年からは事情が変わってそうはいかなくなった。我輩は夏しかここに帰ってこない」
「……だ…。そんなの…そんなの嫌だモン!!」
見る見るうちに目に一杯の涙を溜めるにスネイプはなんと言えば良いのかわからなかった。
来年ハリー・ポッターが入学してくる。不測の事態も十分に考えられるのでハロウィンの休暇は今年で最後。
仕方の無いこととはいえ、そうダンブルドアと取り決めた事が悔やまれる。
スネイプが慰めようと伸ばした腕から逃げるようにが椅子から飛び降りた。
「そんなの嫌だモン!!」
「…頼むから聞き分けてくれ」
「嫌!!嫌ーっ!!!」
パンッ!!
「!?」
スネイプが使っていたティーカップが突然破裂した。続いてフッとランプの明かりが全て消える。
暗い中、慌ててに目を凝らしたスネイプは驚きに目を見開いた。
「…」
「…っ……っっ…」
は今にも大粒の涙がこぼれそうな目できつくスネイプを睨みつけ、ギューッと両手は握りこぶしでプルプルと震えていた。
しかしスネイプを驚かせたものはそんなものではなかった。
「…お前は……」
の体は薄く発光していた。フワリフワリと白い光がの体から舞い上がっている。
時折ピッと鋭い光がはしり、それに触れたものは軽い音を立てて割れていた。
魔力。
「っ!?」
次の瞬間スネイプはをしっかりと抱き締めていた。驚いて目を丸くしたの体から光が消える。
スネイプはが苦しいだろうと思うような力を腕にこめていた。
「…痛いよ……セブ…」
「今年…いくつだったかなは…」
「ぇ…え?えと……10歳だよ。来年11歳」
突然の質問の意図がわからなくて困惑するを抱き締めたままスネイプはに見えないところでコッソリと微笑んだ。
ほんの僅か力を緩めるとの目にたまっていた涙を拭ってやる。
「撤回しよう。来年もハロウィンには会うことが出来る」
「……ホント!?」
あっという間に元気を取り戻したに苦笑交じりの微笑みを返しながら頷く。
「しかし、場所は違うだろうがね」
「?」
「来年になればわかる」
「!!!」
スネイプはのサラリとした前髪を少しどけると現れた額にキスを落とした。
頭の上には?マークを沢山浮かべ、目はまん丸に見開き、ピンクの頬で両手でおでこを押さえるにこれまでで一番柔らかく微笑む。
「約束の証に」
「………うん!」
は嬉しそうに大きく頷くとピョンとスネイプに飛びついた。バランスを崩し2人で床に倒れこみながら笑う。
「菓子を用意しないのもいいものだな」
「?」
「いや…何でもない」
(その結果があのように幸せな悪戯ならば……)
がスネイプの言葉の真意を理解するのは来年の事。
Trick or Treat!Trick or Treat!!Happy Halloween!!!
Happy Halloween!!!