ずーっと待っていた


その一言を聞くために


待たせてゴメンと抱きしめてもらうために


疲れた彼にお帰りなさいと言うために


ただいまと、キスをしてもらうために


私は待っていた









-home-









コンコン

ドアを叩く音が聞こえる

この音が聞こえるたびに私は胸が高鳴った

彼が帰ってきたのだと

もう１人で泣く夜は終わったのだと

でも

いつも扉から聞こえてくる声に涙した

けして聞こえてくることはない、少し低めの優しい声

ただいまと

私が待ち続けるあの声の主








コンコン


ドアを叩く音が聞こえる


そして響くのは


私が愛してやまない低めの優しい声




「…… …俺だよ。」




ずっとずっと待っていた愛しい声


最後に分かれたのもこのドアだった









『………ちょっと出かけてくるからな。』
『ええ。』
『なに、泣きそうな顔してんだよ。』
『……何でだろうね。でも不安で仕方がないのよ。』
『お帰り。』
『……え？』
『お帰り、って言ってくれよ。俺、 が言うその言葉好きだから。』
『じゃあ私は……あなたの"ただいま"を待ってるわ。』
『そうだな。キスつきだと有り難い。』
『………約束よ？』
『あぁ約束だ。』







それから彼は帰ってくることはなかった









１２年

長いようで短い歳月

私はけしてここを離れることはなかった

ただひたすら彼を待ち続けた

約束を守るために

あの一言を彼に言うために

あの扉が音をたてるたび涙した

彼が戻ってきたのではないかと

その期待を砕かれて

それでも待ち続けた









「……… ……。」




ゆっくりとドアノブに手をかける

少し錆ついてギギッと音がなる

まだ泣かない

泣いちゃ駄目だ





逆光で彼の顔は見えなかった

だけど一目でわかる彼の変化

でも



私の所に帰ってきてくれた

言わなくちゃ

言わなくちゃ













言わなくちゃ














「お、かえ…り……なさ、い。」
「うん。」
「おかえり、なさい。」
「………うん。」
「おかえりなさい……シリウス。」





「ただいま…… 。」









最大の笑顔と

最高の想いを込めて

キスを送りましょう

言葉を届けましょう

おかえりなさいと

ただいまと







「約束……だろ？」













-end-