「黒猫遊戯」













「うぅ〜スネイプ先生いないよぅ」








は教員席を悲しそうに睨みつけながら呟いた。
今日の大広間はいつもと少し違っていた。天井には不気味な、でも幻想的に灯されているカボチャのランターン。
黒とオレンジのテーブルクロスの上には、カラメルの蜘蛛の巣がかかったカボチャタルトにチキンの香草焼き、
キラキラと放つ光を変えるフルーツポンチ、満月の夜に降り注いだ星を浮かべたオレンジジュース。
ナイフを入れると柔らかな香りとともにしみでる肉汁が食欲をそそるミートパイなど、豪華な食事がところ狭しと並べられていた。
いつもは真っ黒のローブに身を包んでいる生徒達は今夜だけ思い思いに着飾っている。
タクシードにぼってりとした大きなシルクハットをかぶったハッフルパフの男子、ホグワーツで密かに人気のアジア民族衣装、
アオザイ・サリー・着物・チャイナドレス・チマチョゴリなどをまとった女子のグループ。
妖精をモチーフにしたようなサテンドレスに魔法で薄い透き通るような羽をつけた3年生・・・

そう、今日はハロウィーン。秋の収穫を祝い悪霊を追い払う日。
そしてここ、ホグワーツでは数少ないイベントの中でも盛り上がる日。


それなのにはつまらなそうに口を尖らせていた。



「うぅ、スネイプ先生〜」



頭につけた大きな黒い猫耳をいじりながら、は今晩何度目かの嘆きを漏らす。
毛先を軽く遊ばせた黒のショートヘア、ふわっふわの黒いボワの猫耳とアーム&レッグカバー。
そして艶やかなベロアのミニ丈のワンピース。小柄のは可愛らしさと妖艶さをミックスさせた黒猫の出で立ちだ。
グリフィンドールといえば明るく賑やか、そしてスリザリン+その寮監であるスネイプ嫌い。
これがグリフィンドールを代表する生徒像だ。
だが、は少し違っていた。賑やかとまではいかないがとても明るく優しい。、
それは周りにいる生徒誰もが認めることで、はグリフィンドールのみならず全校生徒に人気だった。
廊下を歩けば誰もが声をかけてくる。当の本人はちっともわかってないが。
そんなホグワーツのマスコットといっても過言ではない・・そんなが思いを馳せるのは・・



「にゃ〜スネイプせんせいぃ〜(泣)」

「ちょっと!声が大きいわよ!」



頬を膨らましながら頬杖するの横で囁くようにハーマイオニーが厳しく窘めた。
そう、はスネイプのことが大好きだった。でもそれはスネイプにはもちろんほかの誰にも秘密のこと。
同室のハーマイオニーだけが知る秘密の想い。もし口外しようならホグワーツのマスコットを死守するために
全校生徒がスネイプを亡きものしようと躍起になるであろう。
ハーマイオニーにこずかれて、申し訳なさそうに肩をすくめてみせると、は目の前のタルトを皿に盛りつけた。






「さあっ!皆の衆!ご注目!」

「ホグワーツの天才発明家がまたすばらしいものを発明したぜ!」


の近くではフレッドとジョージがなにやらゴブレットを掲げている。

「さあさっ!今日はハロウィーン!皆も仮装して盛り上がっているかい!」


大広間歓喜の歓声をあげる。沸き起こる歓声に満足そうに頷きながら
フレッドとジョージはゴブレットを誇らしげに揺らした。


「さてさて!本日の目玉!」

「ハロウィーン仮装に持ってこいの妙薬!!」

「その名も!!」

「「なりきりジュース!!!」」


周りにいた生徒達は興味津々といった表情でゴブレットに釘付けになる。
フレッドは胸を張りながらわざとらしく咳をひとつすると、「なりきりジュース」について語り始めた。

「このジュースを飲むと、仮装しているモノになりきってしまう!なんとも素晴らしい代物さ!!」


ここで包帯全身に巻きつけ、ミイラ男に扮した生徒がビクッと肩をびくつかせた。

ジョージがそのミイラ男を見ながらニヤリと笑いながらカバンの中を漁りはじめた。

「さあて。「なりきりジュース」のお次は・・・これまた新開発の・・・」























「むぅ〜だってだって!先生の仮装みたいじゃない〜vv」


そうキラキラと目を輝かせるに、ピシッとフルーツゼリーを口に運ぶハーマイオニーの手が固まった。


「あの先生が仮装するとは思えないし、見たくないわぁ・・」


明後日の方向を眺めながら微笑む姿にぷうっと頬を膨らませる。



「ひど〜い!絶対似合うって!ドラキュラ男爵!」

「・・まあ・・ね。でも普段と変わらなそうよ?」

「じゃあ、マントにかわいい蝙蝠のアップリケ!」

「・・で、あの不機嫌そうな表情で廊下を闊歩するの?」

萌え!かわいい!


「・・・・はぁ・・・」



夢みるように頬を赤くするにハーマイオニーは疲れたように額に手をおいた。
かわいい友人は自分がどれほど人気があるのか露知らず、大好きなスネイプのことになるともうそれは取り乱したように喜ぶ。
小突きたくなるほどに!全く気づいてないが、
あのグリフィンドールを目の敵にしているスネイプでさえ!!!をみる目が違うのだ。
はホグワーツのマスコット。その人気は生徒だけではない、教師にもいえる事で・・・・
ハーマイオニーはもう一度溜息を零すと、横目でを盗み見た。

スネイプのドラキュラ姿を想像しているのであろうか?
嬉しそうに微笑みながら、ゴブレットに口をつけている。


「なあに・・ニヤニヤしてんのか・・・・」

「ふふふーvvだってvv先生ってやっぱりかっこいいにゃ、にゃんてv」

「はぁ・・・完璧なスネイプバカね・・」

「む!!にゃによう!!にゃあっにゃあみゅう〜にゃー!!」


「・・・・・・?・・・・?」

「にゃあ〜vvv」

「/////////!?」


の言葉に違和感を覚えの顔を覗きこむと、はニッコリと微笑みながら
ハーマイオニーの頬に自分の頬を摺り寄せた。あまりの突然のことにハーマイオニーは
顔を真っ赤にさせて固まってしまった。
はハーマイオニーの腕に自分の頬を摺り寄せて、嬉しそうに目を細めている。
その仕草は・・まさに


子猫!!




「ちょっと!!!!!どうしたのよ!!!!」



「にゃあ〜んv」















































「さて・・・・と・・・・・・」


冷たい地下牢の自室で、スネイプはシフォンケーキほどの厚さはある本を閉じて目頭を押さえた。
今日はハロウィーン、騒がしいどんちゃん騒ぎなど御免蒙るとスネイプは早々に自室へ篭り、食事も自室でとった。
ふと、思い出すように額にかかった髪を払う。そしてその思い出し事に自嘲して軽く首を振った。


「何狂ったことを・・相手は生徒だ」


スネイプが今脳裏に描いた生徒は、今夜さぞかわいく着飾っているのであろう・・・
本をデスクに置き、立ち上がりながら軽い伸びをする。
久しぶりにまとまった時間が取れたのだ、この機会を有意義に過ごさなくてはと新しい本に手を伸ばしたその時、






ドンドンドンドン!!


「セブルス!!起きてますか!!セブルス!!」



乱暴にドアを叩く音と、慌てたように声を張り上げるマクゴナガルの声がスネイプの平和な一時をぶち壊した。
不機嫌に溜息をつきながら、手にした本をデスクに置き足早に扉まで歩み寄る。


「騒々しい。少しは静かにしてもらえないものかね、マクゴナ・・・・」

「にゃあv」

「なっ!!////」


扉を開けた瞬間、何か黒い動物がスネイプの視界を遮った。
あまりの出来事に、驚くもそれが生徒だとわかり眉間に皺を寄せながらその襟首を掴む。


「貴様、我輩に飛び掛るとは良い度胸だ。どこの生徒だ・・・・」

「にゃあ?」

「・・・・・・・・・・・・・・ミス・・・・?」

「にゅうv」


スネイプはの襟首を掴んだまま、驚きに目を見開いた。
自分が愛しいと止まない、今先ほどまでパーティではどんな仮装なのかと
心を和ませていたが・・・・・・





我輩に襟首を掴まれてぶらさがっていた



いやいや・・愛しいと思う相手に飛びかかられ、嬉しいのだがなミス・




「・・・・・・何をするか・・・・君は・・・」


「にゃあ〜んv」


「・・・・・あぁ・・そうか今夜の仮装は・・君は黒猫か・・・・」


「にゅうv」


いまだスネイプに襟首を掴み上げられながら、目を細めて笑う姿に
思わずスネイプの理性が歪みかけたが、ここは教師として生徒を嗜めなければ!!


「だが、行動まで仮装するのはどうかと思うがね」

「にゃああvv」

「ミス・・・」


何を言ってもニッコリと微笑んで猫真似するに、スネイプは軽い眩暈を覚えて溜息をついた。


「セブルス。実はミス・のことでここに来たのです。」

「・・・?彼女のことで・・ですかな?」

スネイプはを優しく下ろすと、怪訝そうにマクゴナガルを見やった。
地面に着地したは嬉しそうにスネイプの部屋に飛び込み、スネイプのマントが置かれていた
ソファに潜り込む。普段のからは想像もできない大胆な行動にスネイプは驚きに目を見開いた。
そんなを苦笑いしながら見つめて、マクゴナガルは小さいため息をつく。

「ウィーズリーの双子が作った、仮装したモノの心になってしまう薬を飲んでしまいまして・・」

「・・・・ほお・・・グリフィンドールの双子・・・がですか」


そう嫌味たらしく鼻で笑うスネイプを、マクゴナガルは悔しそうに睨みつけたが
堪えるように咳払いをして話を続けた。


「えぇ。そうです!私の生徒がです!仮装した心になってしまうだけならまだよかったのですが
どうやら自白剤が微妙に入っているらしく、普段彼女が口に出さないようなことも行動にだしてしまうのです・・」


「ほお・・で、何をやらかしたのですかな?ミス・は・・」




「ドラコ・マルフォイの顔を引っかきました」


「・・・・・・・・・・ほ・・ほう・・;」


スネイプは先日、ドラコがにちょっかいだしていたのを思い出した。
少しでもの気を引こうとしていたのだろう・・だがその時は困ったように笑っていて・・・


よほど嫌だったのだな・・・


だが、マクゴナガルの表情はまだ何かあるように思わせた・・
顔を青くさせ、落ち着かないようにローブの裾を握ったりはなしたりしている。


「それで?」


「数人の男子生徒を引っかき、ポンフリーの手当てを受ける羽目に・・」


(ほお・・・いい様だな)


「ルーピン先生には激しく拒絶反応を起こして・・ルーピン先生も楽しいのかなんなのかわかりませんが
しばらく2人の追いかけっこが生じて・・大広間はごたごたに。そして・・・」


(ルーピンめ・・・・明日の薬覚えておれ!!)







「ダンブルドアに猫パンチを・・・」



(何をしおった!!狸じじい!)



「ダンブルドアは「ふぉっふぉっ、やはりあれはいやだったかのv」と微笑みながら気絶されまして・・・」


(墓を作らなくてはな・・)



「もう・・大広間は大変なことになって・・お願いです、セブルス。彼女に解毒剤をつくってください」


そう、いうとスネイプの返事を待たずにマクゴナガルは足早に大広間へと帰っていった。


















「にゃあ〜んv」


「こっこれ!!ミス・!!調合中は傍にいてはならん!!授業でも話したであろう?!」


「にゅう〜vv」



スネイプはのために薬を調合し始めたのだが、がぴったりとスネイプに張り付いて
作業がすすまない。いつもの彼女はこんなに大胆ではない・・・。
スネイプにびったりと張り付いたまま、は目を輝かせてスネイプを見上げた。
その表情にスネイプは一瞬にして固まる。
どうやら、薬を調合をするのは諦めた方がよさそうだ・・・・・を見る限り、
解毒剤なくとも明日には元も戻るであろう・・・・
そうスネイプは深い溜息をつくと、大鍋の炎を消してソファになだれ込んだ。
もスネイプの隣にちょこんと正座をしてニコニコとスネイプを見つめている。



「しかし・・・君はこんなに大胆だったのかね?」

「にゃあ?」


「・・・・・そうか・・猫化すると人の言葉も分からぬか」


スネイプは小さい溜息を零すと、そっとの頭を撫でた。
フアフアの耳がサラリと心地良い。は嬉しそうに目を細めてスネイプの腰に抱きついた。
一瞬驚くスネイプだが、優しく目を細めて頭を撫で続ける。


「頼むから、ここでは悪さはしてくれるなよ?ミス・?」


その言葉を理解したのかしてないのか、はスネイプの言葉にもう一度
にゃvと鳴くとスネイプの体に自分の顔を摺り寄せた。
そのの行動に思わず笑みが零れてしまう。
密かに想いを寄せている生徒が、薬のせいであろうとも自分に擦り寄ってくるその姿は
なんともいえない幸福、しかもそれはの本心であるというのだから決して自分の自惚れではない・・・











本心?


















スネイプは眉間に皺を寄せの頭を撫でるのと止めた。はまだ嬉しそうにスネイプに擦り寄っている。
あの時のマクゴナガルはなんといった?








「自白剤が微妙に入っているらしく、普段彼女が口に出さないようなことも行動にだしてしまうのです・・」







それは・・・・もしかすると・・好意を寄せている人物に対しては・・・・・





「にゃあ〜v」


「////////////っ!!!!」


スネイプが思いに耽ってから目を離した瞬間、スネイプの視界が突然影を落とした。
目の前にはかわいらしいの笑顔。あまりの驚きにスネイプはが自分の顔に擦り寄ってきたと分かるまで
少し時間がかかった。いつの間にかはスネイプの膝にちょこんと乗り、嬉しそうに目を細めてスネイプの顔を撫でている。


「ミス・・・・・・」

「みゅう〜vv」
































「う・・・・ん・・・・・あれ?・・・・・・・・朝?・・・・・・って・・ここは・・・?」


「目が覚めたかね?ミス・


「ふ?・・・あvおはようございます〜スネイプせんせい〜vv」


「あぁ、おはよう」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っっ!!!!」





がばっ!!




「ええええぇぇぇぇぇえええええ!!!」








は自分が違う部屋で寝ていたこと、目が覚めて目の前に大好きなスネイプがいたことに
顔を真っ青にして起き上がった。何回かレポートを届けにきたことのあるこの部屋・・
間違いないここはスネイプの部屋・・・でもなぜ自分がここにいるのかまったくわからない。
は今までにないくらい取り乱し震えながらスネイプを恐る恐る見あげた。


「あああの!私・・どっどうして先生の部屋に・・・」


「昨晩の事何も覚えていないのかね?」


「昨晩?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!・・・え・・・・」


スネイプに促され、落ち着いて昨晩のことを思い出す。
昨晩のことを思い出すにつれて、はみるみるうちに血の気が引いていった・・・
どうやら昨晩のことを全て思い出したらしい・・・・



「あああああ・・・・ど・・どうしよう・・・・スネイプ先生になんて失礼なことを・・・!!」



(いや・・・気にするのはそこじゃないと思うのだが;)


「我輩のことは気にすることはない。むしろ喜ばしい」


「あうう・・でもでも!!・・・?え?喜ばしい・・?香ばしい?」


(・・・・・・)


スネイプは微笑みながら溜息をつくと、そっとの横に腰を下ろした。
驚いてビクリと体を強張らせるの肩に手を置いて、そっと抱き寄せる。


「あのあの・・スネイプ先生?」


「さて・・・昨晩は合言葉もなしに悪戯を受けたのだが・・・」


「・・;;;;;うっ・・す・・すいませ・・」


「せっかくだ、何かお返しをしなくてくはな」


「い・・いえ・・そんな!滅相もございませ・・・・・!!!////////」



そう必死にもがき出ようとするをさらに強く抱き寄せて、その頬にそっと口付けを落とす。
その瞬間、ピタリとの動きが止まった。そのあどけない可愛らしい顔をは真っ赤な林檎のように染まり、
宝石を思わせる少し潤んだ瞳でじっとスネイプを呆然と見つめている。




その日の朝、仲良さそうに朝食をとりに大広間に入ってきた2人を見てハーマイオニーは
嬉しそうに微笑み、に引っかかられて男子生徒達は残念そうに肩を落とした。
皆、がスネイプをバリバリに引っかくことを望んで止まなかったようだ。


「まったくvがスネイプにそんなするはずないじゃないv」





かわいい、でもちょっぴり危険な子猫は大好きな人に寄り添って、嬉しそうに顔を摺り寄せていましたとさv




























〜おまけ〜



「はははーv今日も可愛いね〜ちゃーんvv」



「にゃっ;」


「ルーピン!!に近寄るな!!!」











ようやくの更新です・・・・
しかもダラダラダラダラダラダラ長いだけ・・・・(死)
ネタが浮ばない時って本当に辛いです・・・