・・・・・・・・そんなわけだから、落ち着いたら遊びにきなさいなv

あなたが遊びに来るのを楽しみに待っているわよvv         
                                          ハーマイオニー

































「永久の誓い」











十数枚に及ぶ手紙を読み終えたは、嬉しそうに溜息を零した。
下宿している宿の一室。手紙からそっと窓の外に視線をやれば、ほのかに灯る街灯が夜のダイアゴン横丁を美しく幻想的に演出している。
真昼の活気は嘘のように静まり返り、まるで横丁全体が眠っているかのようで。
親友のハーマイオニーの手紙には勤め先の事、ハリーやロン(ほとんどがロンだった)のこと・・・
そしてのことを心配していること・・たくさんのことが思い綴られていた。
卒業式以来ハーマイオニー、ハリー、ロン・・ホグワーツを共にした友達と全く会っていなかった。
ドラコとは一回ダイアゴンとノクターンの境でばったりと会ったが・・
卒業式から3週間くらいしかたっていないのに、もう何年もあってないような気がする・・そう・・スネイプとも2週間・・会ってない・・・・。

ヴォルデモートが卒業式に校内に乱入したことは魔法省にも大きな衝撃を与えた。
ホグワーツは魔法界の中でも安全な場所として名高いことだっただけに、衝撃の波紋は消えることなく広がる一方だったのだ。
スネイプはホグワーツ教員という立場からその処理などに追われているのである・・

たった2週間・・・だけどその2週間はとても長すぎて・・





「セブルスも・・私がいなかった2年間・・こんな思いだったのかな・・・?」




誰に問うわけでもないその呟きは、静まり返った空気によく響いた。
両親・祖父・・そして家の守番達は皆死んでしまった・・
あの日、人の言葉を話さない使い獣の姿をみて、は両親達に何かあったのではないかと日本へと急いだ。
そして家に帰ったは・・眠るように倒れている両親達を見つけたのだ。
その夜、はスネイプに抱き支えられ泣いた。枯れることの知らない泉のように・・泣いて泣いて・・ひたすら泣いてのだ・・・・
きっと彼が傍にいて支えてくれなかったら・・きっと自分はどうにかなってしまっていただろう・・
散々泣いたせいか・・もう涙は流れることはなかった。だけど、心はぽっかりと穴が開いたように淋しかった。
もう一度小さい溜息を零すと、手紙を畳んでベッドの中に潜り込んだ。
真夏といえど、夜になればかなり冷える。少し身震いをしては愛しい恋人を想い、やがて小さな寝息とともに眠りについた。




人気のないダイアゴンに街灯が一つ、黒い影を作り出したがはもちろん、誰も気づきはしなかった。
黒い影は静かにが下宿をしている「漏れ鍋へ」と向かっていった。






















翌朝、小鳥のさえずりと店開けの用意をする外の音では目を覚ました。
窓からは、夏の朝日が差し込む。上体を起こしたは小さい欠伸をすると
のそのそとベッドから立ち上がった。
窓の外では、今日も賑あうであろう横丁が朝の訪れを静かに伝える。
ヴォルデモートが動きを見せているというのに、ここダイアゴン横丁は魔法省が
直接管理するせいかいつもと変わらない活気に溢れている。
小太りな中年の男がはす向かいのパン屋に、小麦粉を卸している。
それはいつも見かける極当たり前の光景・・・・
その隣の衣服屋の女主人は店の窓ガラスにポスターを張り出していた。

”ホグワーツ指定制服取り扱い店・貴方にぴったりなローブを!”

一文字づつ現われては消え、赤や緑に光るうたい文句にもう新学期の準備か・・とは小さく微笑んだ。
そういえば自分もホグワーツに編入するときここで、ローブを繕ってもらったけ?
そんなことを思い出しながら、着替えを済ませ主人の手伝いに階段を軽い足取りで降りていく。
が起きるこの時間は主人は1階の食堂でコーヒーをすすりながら新聞を広げている。
今日もそんな光景が目に飛び込んでくる。にこやかに微笑みながら、食堂の扉を開ける



「マスター!!おはようございます!!」




今日も新しい一日が始まった。
の仕事の工程はほとんど決まっている。
マスターと朝食を済ませたあと、テーブルや椅子を拭いて宿泊客のために朝食の準備。
昼はここの食堂はちょっとしたレストランになるのでその手伝いと、宿泊部屋の掃除・・そして買い物・・
夜は宿泊客の夕食の準備にとはっきりいって暇というものがほとんどない・・
だけどにとってそれはとても嬉しいことだった。忙しく動いている分・・悲しい想い耽ることはないから・・・


太陽が西に傾き、容赦なく照りつけていた暑さが和らいできた頃


ちゃん!ちょいと買い物頼まれてくれるかい?」


主人がにこやかにを手招きした。
は快く頷くと、買い物リストのメモを受け取り横丁へと出た。
夕方になっても人通りはまだ多く、は人ゴミに飲まれぬように端の方を歩くことにした。


「うーんと・・・調味料に・・口拭き紙の補充・・そういえば調味料もう少しで切れるよねv」

ひとりで納得をしながらはメモの指示どうり買い物に向かった。




ひと通りの買い物を済ませてもうないかと再びメモに視線を落とす。


「?・・・・ここ?何の用があるんだろう・・・」


最後の店の名前を読んでは首を傾げた。
今まで何回も買い物を頼まれているが、最後のこの店に買い物を頼まれたことは一度もない。
それに宿屋とこの店では接点がなさ過ぎる。それでも宿泊客か誰かに頼まれたかなんかであろうと納得させ、
は肩に食い込みはじめたカバンをかけ直し、再び人ゴミに突進してしまわないように端を歩いた。






カラン






と恐る恐る中に入ると、店の女主人が飛び掛るようにしての腕を掴み店の中ほどまで引きずり込んだ。


「まあまあ!!来たわねvささっ!もう少しだからvここにかけて待っていてv」



肝っ玉母さんのような女主人はをソファに座らせると杖を一振りして紅茶とクッキーを出した。
にこやかに手をヒラヒラさせながら作業場へと入っていく。
は女主人の圧倒的な態度に驚かせながらも、自分を落ち着かせるようにそっと紅茶に口をつける。

作業場から聞えてくるのは女主人の陽気な鼻歌とこの店によく馴染んだ音・・・
いったい誰の注文だろうと不思議に思いながら紅茶のカップを置いて立ち上がり、店の展示物を眺めた。
決して広いとは言えない店に所狭しと飾られた展示物を一つ一つ夢見るように眺める。



「いいな・・・私もいつか着てみたいなv」



「おんや?ちゃんは本当に何も聞いてないのかい?」



独り言のつもりで呟いた言葉に、返事が返ってきたのでは思わずビクっと肩を強張らせて振り返った。
どうやら展示物に夢中になっていたようで、女主人がすぐ真後ろにいるの全く気づかなかった。
鼓動が早くなる心臓を落ち着かせて、は小さく溜息をついた。


「びっくりしたぁ・・驚かさないでくださいよぉ・・おかみさん・・・・・??本当に何も聞いてないって・・・?」


そう首を傾げるに、女主人はにっこり笑うとガッとの腕を掴んで店の奥へとズンズン歩いていった。




「いっ痛いって!!お上さん!!」


「ん?ああ!ごめんよ!!さあてそれでは・・・・」


「??きゃああ!!!///////」


が悲鳴を上げたのは無理もない、にこやかに笑った女主人が懐から杖を取り出し、
一振りしたかと思うと、の着ていた衣服が忽然と消えていたのだ。
下着姿の自分に顔を真っ赤にさせ、ギュッと目を瞑りうずくまるーーーーーーだがその瞬間、頭からバサリと音がしてそっと目を開いた。
そして、自分の着ている・・さっきまで来ていたローブとは全く違う・・衣服には目を開くしかなかった。
あまりの驚きに声が出せないにヒュウと口笛を吹く女主人。



「おやおやvぴったりだねvさっすがあたし!!さてさて・・それじゃあ髪の方何とかしなきゃねv」


そう独り言のように微笑むとを近くにあった椅子に座らせて、の髪をそっと手に取った。
目の前に置かれた鏡に自分の姿が映し出される。


「あの・・お・・・お上さん・・・・」


はおそるおそる鏡越しに女主人を見つめた。


「ん?なんだい?」


の髪をいじりながらご機嫌そうに答えるのを見ては躊躇して口を開いた。


「あの・・この・・ドレス・・て・・その・・・・」


そう・・・は真っ白なドレスを纏っていたのだ。
宿屋の主人に頼まれた買い物の最後の項目は


”メルーナ・マリッサ ドレス洋品店に寄ること”


事の詳細は女主人であるメルーナ・マリッサに伝えてあるということだった。
メルーナ・マリッサの作るドレスといえば魔法界では知らぬものなどいないほど、有名で人気のあるものだ。
女の子なら一度は憧れるメルーナのドレスを、自分が着ているのである・・・
それにこの形・・この純白の色・・・これは・・もしかしなくても・・・
だんだん混乱しかけてきたに、メルーナはにっこりと微笑んだ。



「そうさvこのドレスはウェンディングドレスってやつだねv」



「ウェンディング!??・・・ちょっ!!お上さん!!」



「さあて!出来た!!」


そう声を上げるの抗議を打ち消すようにメルーナはの肩をポンッと叩いた。



「・・・・・・・///////わ・・・私?」


思わず鏡を見つめたは声を失ってしまった。
純白のドレスに身を包み、腰まで伸びた黒い髪を緩めにアップさせて・・
すらりと伸びた首筋が大人へと成長しているを美しく見せている。
それでもその表情は子供のあどけなさも残っていて・・・・



「さあて・・・と・・旦那!?できましたよ!!」

ふとメルーナが店の方に向かって声を上げた。
他にも客がいたのだろうか?たしか自分とここの女主人しかいなかったはず・・
そう首を傾げながらは鏡越しに、店の方をじっと見つめた。








「あぁ・・ご苦労だなマダム・メルーナ・・急な注文を・・」

「あーまったくだよ!!まっ同窓の頼みだからねvまあ通常の三倍額で手をうってやるわv」

店の方から聞えた声は低い声だったが十分聞える音量で・・その声には聞き覚えがあった・・
鼓膜を振るわせるバリトンの音・・・


「・・まさ・・・か・・・」


鏡ごしに姿を現した人物はがずっと、待ち望んでいた愛しい恋人・・・・



「セブルス・・・」


は鏡越しに恋人を見つめた。スネイプも鏡越しにを見つめる。優しい表情で・・
メルーナは気を利かすように「作業場にいるわ」と声をかけるとそっとその場から離れていった。


「セブ〜・・・・・」


そっと肩に手を置く恋人の顔をいまだ鏡越しに見つめながら、は半涙声の声を上げた。



「おいおい・・・せっかくの綺麗な姿が・・台無しだぞ・・・」


鏡越しからそっとに視線を移し、涙が零れぬ様にそっと目の下に指を添えた。
はじっとスネイプを見あげた。、必死に泣くのをこらえているようにでも何か訴えたいような表情・・・
そんなの姿にスネイプは申し訳なさそうに微笑むと、目の下に添えていていた手をそっと頬へ添えうつした。


「すまなかった・・・・また・・淋しい思いをさせたな」


「・・・・・・うん・・・・・ううん!!これくらい・・セブが苦しんだ2年に比べれば・・」


頷きかけた言葉に首を振ってはにっこりと微笑んだ。
スネイプもつられて小さく微笑み、の手をとってそっと立たせた。
のドレス姿を嬉しそうに眺めて歓喜の溜息を零す。



「綺麗だよ、


「ありがとお・・・・って・・あの・・・このドレスって・・・・・」


嬉しそうにへにゃと微笑んだだが、思い出したようにスネイプを見つめた。



「この2週間・・用意などに手を取られていてな・・」

「用意?あ・・ホグワーツ大変だったでしょう?」

「ダイニングテーブルにカップや食器・・・あぁ・・ベッドは一つで十分であろう?」

「???」


悪戯っ子みたいな笑顔で顔を覗きこんでくる恋人には目をきょとんとさせ首を傾げた。
スネイプはそんなの仕草に笑ってさらに続ける。


「家は小さいが・・ホグズミードに構えた。あそこも魔法省直接の管轄で守りも固い。
それに休みの度に帰ってこれるからな。ダンブルドアも校内を自由に行き来して良いと言っておる」


「セ・・セブ・・・それって・・・・・・もしかして・・・」


スネイプの言葉をようやく手で制して、は恐る恐る恋人の目を見つめた。
深い温かみのある黒い瞳に、優しくが映し出される。





「一緒に暮らそう。2人年老いてもずっと・・・愛してる・・・」



そう呟くようにでもしっかりとその言葉はの鼓膜を叩いた。それはとても心地良い振動で
驚きの表情から少しずつ笑みが零れて、はそっとスネイプに抱きついた。


「うんvずーっと傍にくっついているから!!」


「ふっ・・それはこっちの台詞だ・・・覚悟は良いかな?」


勝ち誇ったように微笑むスネイプだが、その表情はこの上ない幸せに満ち溢れていた。






「一つ・・・約束してくれるか?


「うん?」



スネイプの問いかけにはそっと、顔を上げた。



「なあに?」


「もう・・・・離れないでおくれ。ずっと傍に・・・」


「・・・・・・・」


?」



「うん。もう離れないよ・・だからお願い、セブルスもずっと傍にいてね?」



「あぁ・・約束する」


「神に誓って?」


「・・・・いや?」


「むうっ」



意地悪そうに口端をあげるスネイプにはムッと頬を膨らました。
膨れた頬を軽く突っついて、の耳にそっと囁く。




「お前に誓って」


「む・・・うんv」



その言葉に時が止まった。
2人の手がそっと2人の体に絡みついて、夕日が祝福するように二人をそっと包んだ。
見詰め合った視線が今までの事を思い出させる。




出会いはこのダイアゴン横丁から始まった。

出会いは最悪なシチエーションだった。
何となく気にしていた生徒を処罰という名義で傍に置いたりもした。
理不尽な教師に不満を叩き付け喧嘩をした。
仲直りはぎこちない微笑みで・・・・
クリスマスで2人踊り、観衆を幻想的に酔わせたりもした。
生徒に対する感情が愛というものだと気づいた時、彼女には大きな影が迫っていた・・
相手を思うあまり、別れを決意したこともあった。


何度も何度も遠回りをしてきたその道・・・・



だけど、もう何も恐れない、離れたくない。


夕日に包まれながら二人はそっと口付けを交わした。

それはもう二度と離れない永久の誓い。そして長い長い迷路から開放された喜びの証・・・



鏡の中には幸せに満ち溢れた、新しい夫婦の姿が映し出されていた。







「陰陽少女ー完」














長かったです・・・ほんっとーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーに長かった・・(遠い目)
途中、何度も設定を変えるということを行い、話がちぐはぐなところもありました。
ヒロインの両親・祖父にしても最初の設定はやはり亡くなってしまうのですが、
何度も迷い一度仮死状態になってもらいまいしたが、結果このような形に・・・
初めて書き上げた連載・・右も左もわからぬうちから書き始めて、
なんとか連載終了に辿り着けました・・これも励ましの言葉をくださった皆様のおかげでございます!!
最後まで本当にありがとうございました!!!!
そして、また新しく始まる連載にもお付き合いくださる嬉しいですv