夏の風が青々とした草原を駆け抜けていく。
所は日本。
草原を360度見下ろすように、小高い丘にたたずんでいるの視線の先には
黒曜石の墓石がたてられていた。

























「永久の別れ」

















草原の周りには深い森が覆っていたが、二年前ヴォルデモートの手により美しい森は
枯れ木の林と化していた。の眼下に広がるこの草原も焼き払われてしまったが
生命の強さはなんと素晴らしいことか、焼け野原は元の草原に戻り、林と化した森には
小さな植物が新たに芽を出している。
これこそまさに自然の生命力・・その生命の強さに微笑を浮かべて・・・
だが、人の命はなんと儚いものであろうか・・


夏の日差しが容赦なくを照りつけている。
黒いワンピースの裾が軽く揺れ、はそっと墓石に手を重ねた。
墓石にはの両親、祖父の名が刻み込まれていた。










「・・・・・まあな。俺の体もうねえし・・・ただ・・・一応寿命ってもんもある・・・

ハヤトが死ぬ時、俺も死ぬ。

俺はハヤトの術によって転生させられたんだ。ハヤトが死ぬ時、俺に掛けられた術も効果を失う。

そう、必然的に俺の魂は抜けてこの体は普通の鷹となる」




スネイプは以前、鷹と姿を変えた友人がそう言っていたのを思い出していた。
今、彼の肩にとまっているのその知人・・だが鷹はもはや人の言葉を話すことはなかった。
頭を傾げて頬に擦り寄ってくる知人だった鷹の背中を撫でると、スネイプはそっと小高い丘を仰いだ。
こちらに背を向け、何か必死に耐えているような恋人の姿に心が軋む。


「所詮、ヴォルデモートの術にはかなわんのだな」


スネイプの隣に立っている人物は辛辣に顔を歪めてを見つめていた。
シルバーの煌びやかな髪を黒いフードの中に隠し、その整った顔もまるで誰にも見られないように隠されている。
彼は今ではヴォルデモート、魔法省から終われる身であった。
葬儀が終わり、人が帰った後にそっと訪れたのだ。
ルシウスは自嘲するように笑うと、そっと片手で手を覆った。


2年前ヴォルデモートは両親達に死の呪いを放った。
それは反対呪文が存在しない絶対的な呪い。しかし、その呪いはルシウスは独自に編み出した術によって
彼らを永遠の死から仮死状態へと留まらせたのである。
だが、それは一時のものでしかなかった。ヴォルデモートの呪いは消えることなくゆっくりと彼らの体を
蝕んでいたのである。


「・・・・・ルシウス・・・」

「慰めんでくれ」


何かを言いかけたスネイプに片手を上げて、言葉の進行を妨げる。
ルシウスは小さく溜息をつくと、さっとスネイプに背を向け踵を返した。


「私にはそんな言葉をかけてもらえる権利などない。さて・・そろそろ行かせてもらう。
長居は無用だからな・・・・あぁ・・・ドラコが魔法省のノクターン横丁不正取り締まり機関に
入所したよ・・ノクターンに出入りしているお前なら会う機会もあるだろう・・・
その時は息子をよろしく頼む。」


「まっ・・ルシウス!!これからどうするのだ!?」

姿くらましをするルシウスにスネイプが慌てて声をかけるが、
ルシウスは何も答えなかった。淋しそうに笑って一瞬だけ振り返ると彼はフッと姿を消した。










・・・・・・・」


「・・・・・・・・・帰ろうか」




恐る恐るかけた言葉に帰ってきた言葉は、とても落ち着いたものであった。
はスクッと立ち上がって、にっこりと微笑むとスネイプの横を通って丘を降りていく。



「きゃっ」


突然、腕を掴まれては小さい悲鳴を上げた。
振り返ろうとしたの視界が一気に暗くなり、それがスネイプに抱きしめられているのだと
気づくのに少し時間がかかった。抗議の声を上げようとするがそれは掠れた声によって思い留まらせる。




「泣け」


「・・・・・・・・セブルス・・泣いているの?」




掠れた声がかすかに震えているのは聞き逃さなかった。
きつく抱きしめられているため、彼の表情は伺えないが彼の体から伝わってくる
小さな振動に彼が声を殺して涙しているのが十分に伺えた。
いつの間にかの目からも一筋の涙が静かに零れ落ちた。

2人の啜り泣きが草原に小さく響いていた。














それから数日が過ぎ、は壊された家から必要なものをカバンに詰めて、ダイアゴン横丁の「漏れ鍋」に下宿していた。
2年のも間、ホグワーツにいなかったはどこに勤めるか全く決まっていなかったのだ。
本来なら家に一旦家に帰って、これからのことを決めるつもりだったのだが彼女の帰る家はもう・・ない。
そこでダンブルドアの計らいで、落ち着くまでここ「漏れ鍋」で住み込みで手伝うことになったのだ。
だけど、いつまでもここの主人に迷惑をかけるわけにはいかない。
ダイアゴンに来てからスネイプはの前に姿を現さなかった。
ヴォルデモートの件でホグワーツの警備を強化しなくてはならないため、忙しい毎日を送っているようだ。
そうわかっていても、は心淋しかった。
店の主人やお客さんは大変良くしてくれて、笑いが絶えないがやはり愛しい人に傍にして欲しい・・・

仕事が終わって、部屋に戻ったは、星空を見上げて深い溜息を零した。