「ぬくもり」
重厚そうな大きな机につき、ダンブルドアは驚きの溜息をついた。
円形の校長室に集った、スネイプ・マクゴナガル・ハリー達も一瞬呼吸することを
忘れたかのように目を見開いていた。
彼らの視線の先には、黒い髪をキラキラと揺らし胸のところの印を組んでいる少女。
ちょうど、が彼らに自分の術を披露し終えたところだった。
の傍のソファに深く腰をおろしていた、魔女はに上出来と微笑み、
ダンブルドアを見つめた。
「先ほども申したとおり、この子には我らシュビスの技を全て伝授いたしました・・
そして、ヴォルデモートが何に恐れていたか・・・・・それは」
「ヴォルデモートは過去を酷く恐れているのです。」
魔女の言葉を引き継ぐように、は静かに囁くように口を開いた。
「ハリーがヴォルデモートと対峙したときと同じ現象です。ハリー?あの時のことを覚えている?」
は口をぽかんと開けたまま、突っ立っているハリーをみて小さく笑った。
ハリーはハッとしたように瞬きをして、脳の奥にしまわれている記憶を探り出すように目を泳がす。
「う・・ん・・・・たしかヴォルデモートと僕の杖からでた金色の杖でつながった時だよね?
その時あいつの杖からは、父さんと母さん・・・セドリック・・・あいつに殺された人達が
出てきたんだ」
ハリーは自分の両親の名を少し淋しそうに口に出した。
「そう・・・私がさっきヴォルデモートに使おうとした術はハリーと同じようなものだったんです。
ヴォルデモートは消し去ることができない自分の身の上から、罪を犯し、多くの罪無き者の命を手にかけてきた・・
ヴォルデモートは恐れているのです。過去を突きつけられることが・・・」
そう、囁くように話すを見つめながらスネイプは苦しそうに左腕を押さえた。
ギリッと左腕を顔が歪むほどに締め付ける姿に、ルシウスは視線を逸らすしかなかった。
彼らにもまた、けっして消し去ることの無い、忘れることを許されない過去があるのだ・・・
静まり返った廊下をとスネイプは並んで歩いていた。
あのあと、生徒達は再び大広間に集まり卒業宴の続きが行われた。
ももちろん同席して、2年振りに再会した友達と楽しく過ごした。
そして、日が傾きはじめるとともに生徒達は名残惜しそうにホグワーツから旅立っていったのだ。
はというと、もう少しここにいたいという希望で教師達が帰郷する1週間後まで残ることにした。
静か過ぎる廊下に2人の靴音だけが、響き渡る。
の軽やかな靴音とスネイプのやや深みのある靴音が、まるで本人達に代わって会話しているようで。
ようやく落ち着いた時間を手に入れたというのに、二人は何を話したら良いのかわからず、
黙りこくったままスネイプの自室へと、ゆっくり歩く。
それでも2人を包み込む空気は張り詰めたものは全く無く、むしろ穏やかすぎた。
だが、は少し心に引っ掛かりがあった。
校長室ではホグワーツにいなかった2年間のことを全て皆に話して聞かせた。
そして、魔女から渡された記憶を取り戻す薬を飲んだ後のこと、
その時彼女に何が起きたのかも・・・・
はちらりと横を歩くスネイプを不安そうに盗み見た。
その瞬間、はビクッと肩を震わせる。なぜなら、スネイプがジッとを見つめていたのだ。
「あうっ・・・?;」
「ふっ・・・・・変わらんな」
あまりの驚きに、言葉を上手く発せられず、喉を詰まらせるような声を上げるにスネイプの笑いじみた溜息がこぼれる。
そっと手を伸ばし、陶磁器のように滑らかな頬をそっと撫でればはくすぐったそうに目を細めた。
スネイプもまた、不安に駆られていた。
が話していた、2人ののこと・・・・・
もし・・・・彼女が・・・一つに戻った彼女が自分を愛してくれなかたら・・
だけど、そんな不安は無用だった。
確かには外見は変わらぬことはなかったが、その口調などは彼女がここに入学してきた時を思い出させる。
だが、スネイプを優しく見あげてくるその瞳は変わっていることはなかった。
スネイプの心中を察しているのかのように、自分の頬を撫でるスネイプの手に自分の手を重ねる。
その仕草にスネイプは張り詰めていたものが消えていった。
「。・・・・・・」
2年分の抱擁をするかのようにスネイプはきつくを抱きしめた。
耳に響くバリトンがの目頭を熱くする。
もやっと許されたようにスネイプの背中をキュッと抱きしめた。
「セブルス・・・会いたかったよぉ・・・・」
2人は気づいていなかった。
が彼の名前を呼ぶことを恥ずかしがって、愛称で呼んでいた愛しい恋人が
二度目の名前を呼んだ。一度目は彼が彼女を記憶を消そうとした時。
その悲しい声で・・・だけど今から奏でられた言葉は嬉しさに満ち溢れていた。
お互いに相手から伝わってくるぬくもりにようやく安堵の笑みを浮かべた。
その2人の姿を廊下の曲がり角から魔女とダンブルドアが優しく見つめていた。
小さく溜息を零すと、魔女はそっと踵を返す。
どこか寂しさを帯びた微笑にダンブルドアも魔女の後についていった。
「これからどうされるのですかな?シュビスの女王・・・カルフィーサ・フォンジェル様」
「!!?!?ご存知でしたか。ダンブルドア殿」
ダンブルドアに驚きに目を見開いたが、女王と呼ばれた魔女はすぐ優しく微笑んだ。
その笑みにダンブルドアも優しく微笑む。
「えぇ・・それでも貴女様がシュビスの民だと名乗って気づいたこと・・
大したもてなしもせずに・・申し訳ございません。」
「何、畏まることはありませんよ。かつては女王だとしても今はただの死に底ないの老婆さ」
そうクスリと笑うと、魔女は胸にかけていたペンダントをそっと握りしめた。
「そうですね・・・これからも何も変わらず。私の家でひっそりと暮らすでしょう・・・」
「・・・・・・・・・」
何か言いたげなダンブルドアの表情を読み取ったのか、女王・カルフィーサはフイッと
ダンブルドアから視線を逸らした。
「は本当に良い子でしたよ・・・私はあのこと暮らせてとても幸せだった。
だから今度はあの子が幸せに暮らす番なのですよ・・・ダンブルドア殿・・・」
そして、かつての威厳さが垣間見れるような笑顔で顔を上げた時だった。
「・・・・!・・・・・っ!!!」
とスネイプがいたところから大声で叫ぶ声が響いてきた。
何事かと顔を見合わせて、とスネイプのいたところに駆け出す。
「?!どうしたの?いつもの悪態は!!!」
「一体これは・・・・!!!校長!!!」
そこにはの使い獣である鷹のがギャアギャアと鳴いていた。
の体を包むように抱え、不安そうに顔を覗きこむ。
そしてそのに嬉しそうに顔を摺り寄せる。
その隣にには焦ったように眉間に皺を寄せるスネイプの姿があった。
ダンブルドアと魔女に気づいたスネイプが思わず声をあげる。
の家に仕える獣、人語を操る使い獣は人の言葉を忘れたかのように
に懐いていた。
ダンブルドアとカルフィーサもの顔を覗き込んだ。
どこも外傷はない・・どこからみても健康そのものの鷹だ・・・
そんな2人のやりとりをみて、スネイプはハッとした様に顔を上げた。
「ハヤト!」