「滅びた民族」



































あたりには緑色の噴煙が立ち込めていた。
ヴォルデモートは煙に隠されたスネイプ達の方を不気味な笑みで見つめている。
この煙が晴れたらそこには、無数の亡骸が転がっている・・・
その景色は美しいものであろうと・・・




























だが、煙が晴れたそこには巨大なドラゴンが立ちはだかっていた。
いや・・・・?水の塊・・・だろうか・・・・・
ヴォルデモートは目を細めて凝視すると、それは膨大な量の水で作られたドラゴンだった。
青みをおびた透明な体の中にはスネイプ達が不思議そうに辺りを見渡している。
どうやらその中では息ができるらしい・・・・それよりも、このドラゴンは一体どこから現われたのであろうか・・・
死の呪文を唱えたのにスネイプ達はなぜ死なない?
ドラゴンはヴォルデモートを見下ろすとその金色の目をクワッと見開いた。
一瞬、ヴォルデモートに電撃のような恐怖が走る・・・・・
このドラゴン・・・どこかで・・・・・


「・・・まさ・・・か・・・・有り得ん!!!そうだ・・・あの時俺様が・・・・・」



「そう!!シュビスの民はあんたによって滅ぼされたの!」




ドラゴンの頭部から声がして、さっと黒い影が現われた。
死喰い人とは異なる黒いローブをまとい、顔が見えないようにすっぽりとフードで顔を隠している。
黒いローブの裾には金色の糸で見たことない文字が刺繍されていた。
その人物が手をかざすと、ドラゴンの体が霧が晴れていくように消えていく。
ゆっくりと崩れていくドラゴンの頭に立ちながら、やがて地面に近づきタンと軽い足音を立てた。
ドラゴンの中から開放されたスネイプ達は、不思議そうに黒いローブの人物を見つめる。
黒いローブを纏った人物はスネイプ達の方に向き直るとにっこりと微笑んだ。
ちらりと見えた口元に、スネイプはハッとしてその人物の前に・・
だが、さきほど受けた攻撃によってバランスを崩し、その場にうずくまってしまった。
黒いローブの人物は慌てたように、スネイプの元に駆け寄りそっとスネイプの手をとる。


その仕草にハリー、ダンブルドア達はハッとする。
スネイプは弱々しくも優しく微笑んだ。


「おかえり・・・・



そっと腕を伸ばして、フードを下ろすとそこには懐かしい笑顔があった。
はちょろっと舌を出して、軽く頭をかく。


「えへへ・・遅くなっちゃたよ〜vvセブvv」


はスネイプが痛がらないようにそっと、抱きついた。
嬉しさに目を閉じて、そっとをだきよせる。


「我輩が・・・・・わかるのかね・・・?」

「あったぼーよv」


はにっこりと微笑むと、ハリー達に向き直った。
その瞬間、目に涙を溜めたハーマイオニーがに抱きついてくる。


「バカアッ!!のバカァッ!!心配したんだからあ!!!」


は少しよろけながら、苦笑いをしてハーマイオニーを抱きしめた。


「ごめんね・・・・」





ハーマイオニーの後ろにはハリー・ロンそしてルシウスを支えているドラコの姿があった。
そして、にっこりと微笑むダンブルドアと目にうっすらと涙をうかべたマクゴナガル・・・・




「おかえり、v」



「ただいまあv」



マクゴナガルが優しくの頭を撫でる。
はそっとハーマイオニーを支えると、もう一度スネイプに向き直った。



「セブ・・大丈夫?」



まだ、うずくまっているスネイプを心配そうに覗き込む。
スネイプは笑って「たいしたことはない」と立ち上がろうとするが、バランスを崩してしまった。
慌てて、スネイプを床に座らせ、はスネイプがおさえている腹部に手を置く。


「たいしたことないわけないじゃない!!!こんなに血が出てて!!!」


は少し慌てたようにスネイプを怒ると、そっと手をスネイプの腹部にかざした。
不思議そうにの顔を覗きこむが、はじっと目を閉じたまま・・・
しばらくして、腹部に温かさを感じて視線を移すと、先ほどまで血まみれだった腹部の傷が
痕かたもなく消えていた。体中にめぐっていた痛みさえも・・
不思議そうな表情で立ち上がるスネイプに、はフウッと軽い溜息をこぼしながら立ち上がる。
ダンブルドアが何か浮かない表情でに口を開いた瞬間、






ねっとりとした声が大広間に響いた。
が顔を上げると、すこし先にヴォルデモートが気味の悪い笑みで立っていた。



「・・・・・・・・・・・・・ういっす!」



は少し考えた後、軽く右手を挙げてヴォルデモートににっこりと微笑んだ。
少し、驚きの表情に変わったヴォルデモートだが、いつもの笑みに変わり口を開く。


。俺様の元に戻ってきたのはいいが・・その術をどこで覚えてきた?」



「いやいや。べつにあんたのところに来るために戻ってきたわけじゃないし」


そう、さらりと突っ込みをいれるの肩に、そっとダンブルドアの手がおかれた。


「み?校長先生?」


よ・・・・わしも気になる・・・今お主が使った術は・・30年前に滅んだシュビスの民が用いていた術・・
いったいどのようにして、覚えたのじゃ・・・・」











「あの・・シュビスの民って・・」


ハリーが少し恐縮しながら口を開いた。
知識が豊富なハーマイオニーも知らないようでジッとダンブルドアを見つめている。
ダンブルドアはハリー達をじっと見つめて、鋭い目つきでヴォルデモートを睨んだ。


「シュビスの民・・・・魔法使いの世界でおいても自然を操る魔法使いとして
非常に貴重な民だった・・・だが・・・30年前・・・・・・・」


「俺様が皆殺しにしてやったのさ」


そう得意気に続けるヴォルデモートにダンブルドアとハリーは怒りの表情で睨みつける。
ヴォルデモートは続けるー

「俺様の下に付くことを拒んだ当然の報いだ。それにその術が相手になるのも避けたかったのでね
しかし・・惜しいことをしたと思っていたのだが・・・が使えるとは・・好都合」


ヴォルデモートの顔が不愉快な笑みで歪み、へと1歩踏み出した。


「おっと、それ以上動くんじゃないよ坊や」

ヴォルデモートは背中に杖を突きつけられる感触を感じて、立ち止まった。
ヴォルデモートの背後にはと同じ黒いローブを纏った人物が・・・



「あぁ・・・配下たちには眠ってもらった」


手をかざそうとするヴォルデモートの意図を察しているかのように、その人物はぼんやりと呟いた。
大広間の扉の傍には数人の死喰い人が気を失って倒れている。
杖を突きつけながらフードを下ろすと、そこにはが世話になった魔女の姿があった。
その魔女をちらりと睨みつけると、ヴォルデモートが一瞬青ざめた。



「シュビスの生き残りか」


「左様」





静かに口を開く魔女に、スネイプは驚いたような表情を浮かべた。


「貴女が・・・生き残りだったのですか・・・」


魔女は細く笑うと、厳しい目でヴォルデモートを睨みつけた。
杖はまだ突きつけられたまま・・・



「そう・・わたしは最後のシュビスの民。忘れもしないお前が殺した
夫、可愛い子供達に兄弟・・・仲間の死に顔を・・・・・」


そう魔女は憎しみの表情< を浮かべて、ヴォルデモートのこめかみに杖を押し付けた。


「私は、お婆ちゃんに全てを聞いたの。お婆ちゃんの大切な人たちのこと・・
魔法を使うことによって自然と上手に向き合うこと・・たくさん教わったの」


スネイプの横に立ち静かに口を開くに、魔女は優しく微笑んだ。


「どうしても、シュビスの技と伝統を消したくはなかった。
その時だ・・そのこが私の前にあらわれたのだよ・・・はとても優秀な魔法使いだ・・
二年・・たったの二年でシュビスの自然を操る術を会得した」


「くくく・・・喜ばしいことだな・・それが俺様の手に入るのだ」


「させぬ!!!」



余裕の笑みを浮かべるヴォルデモートにカッと目を見開いた魔女が声を上げた。
だが、その瞬間ヴォルデモートはサッと身を翻して魔女の杖を奪い、
自分の杖を取り出した。しまったという表情をうかべる魔女・・体勢を立て直そうとするが
ヴォルデモートの方が動きが早かった。
ガッと魔女の首根っこを掴み上げ、ギリッと力を込める。
魔女の足が地面から離れ、次第に魔女の顔が青ざめていく。
ヴォルデモートは背けたくなるほどの不気味な笑いで魔女の顔を覗きこんだ。


「くく・・いくらシュビスの生き残りといえども所詮死にぞこないの年寄り、
力では負けん・・・・・・さあ・・・旅立つが良い」


そう呟くように言葉を紡ぐと、右手がゆっくりと空を仰いだ。
杖から光が溢れ出そうとした瞬間鈍い音ともにヴォルデモートは激しい痛みとともに
顔を歪ませ、魔女の首から手を放した。
いや・・放すしかなかった。その激痛は背中に走り、背骨が悲鳴を上げているような
感覚を呼び起こす。ガクリと膝が床につき、体を支えてつかれた手のひらからは
地面の冷たさをダイレクトに伝える。

背中から広がった激痛は一瞬呼吸を止めた。わずか数秒の出来事が
何時間も続いたように感じられ、やっと吸い込めた酸素がヴォルデモートの脳に
後ろを向かせるという指令を送った。
そこには彼が欲してやまないが足のひらをこちらに向けて立っていた。
背中に走った激痛は、が放った回し蹴りだと認識するのに少し時間がかかったが、
ヴォルデモートは怒りの表情を浮かべてを睨みつけた。



・・・貴様・・・・・」


「あら?痛かった?・・・当たり前だろっが!!!痛くしたんだから!!!」


ヴォルデモートの殺意めいた視線に臆することなく、もキッとヴォルデモートを睨みつける。
は魔女の体を支えて立たせると、ダンブルドアに魔女を託した。
そして、思い出したようにヴォルデモートに振りかえると、つかつかと歩み寄り









ばっしーん!!









ヴォルデモートに平手を喰らわせた。
これにはヴォルモートはもちろん、スネイプ、魔女やハリー達全員も驚きに目を見開く。



「っつ!貴様!!!!」

「うっさい!!黙れ!このすっとこどっこい!!」



怒りに唇を震わせるヴォルデモートに、の怒鳴り声が大広間に木霊した。
アーチ型の天井は声を反響させて、しばらくの声が連呼して聞えてくる。

は腕を組んでヴォルデモートを睨み上げた。

「あんたねえ!!!人の卒業式は邪魔するは、お婆ちゃんは殺そうとするは
大切な恋人、友だちに死の呪文をぶっ放すは!!覚悟できているんでしょうねえv」


そうの表情が怪しく微笑んだ。
その表情に、理由もわからず恐怖を植えつけられるヴォルモート。
自信に満ちていたその表情からは、何かを怯えるような色がくっきりと浮かび上がっていた。



「貴様・・・まさか・・・・!!!」


「あぁ・・そのまさかさ」


何を恐れているのと首を傾げるダンブルドアの横で、魔女は首を擦りながら口を開いた。



にはシュビスの全てを教え込んだ。そう・・・全てをな」


その瞬間、バッとヴォルモートがから離れた。
恐怖と疑念の表情がヴォルデモートから闇の帝王という名をこそぎ取っていく。
今彼らの前で震えているヴォルデモートはただの初老の男にしか見えなかった・・・


はキッとヴォルデモートを睨みつけると両手を軽く挙げ、手のひらに軽く力を込めた。
ポォッと両手の平が淡く光だす・・・・・



「くっ・・・・おっ・・・覚えていろ!!!」



まるで今まで金縛りにあっていた人物が、突然解き放たれたようにビクッと
痙攣させるとヴォルデモートはサッと木の葉のように体を翻して跳躍し、
天井の窓を蹴破って逃げ去ってしまった・・・
配下の死喰い人を見捨てて・・・







はフウッと溜息をこぼすと、手のひらの力を緩めて頭をかいた。




「逃げられちゃった・・・・・」