「血族か主か(後編)」


































「ち・・父上!!」







ドラコは激痛が走る体をぐっとこらえ、を後ろへとかばった。
そのドラコの行動にルシウスの表情が醜く歪む。
ガッと大股に近寄り二人を物置から廊下へと引きずりだした。


「マルフォイ家の恥じさらしめが!貴様のせいで主はご立腹だぞ!」


そうを罵り、床に手をつくドラコを蹴りあげた。うめき声をあげ、腹部を押さえながら
必死にを自分の後ろに隠す姿に、ますます怒りの表情を剥き出しにする。


「玩具の分際で一人前にナイト気取りか!片腹痛いわっ!」


ザッと杖を取り出す。は血相を変えてバッとドラコの前に立ちはだかった。


「やめて!」

「おどきなさい、様・・・そいつには仕置が必要なのです!」


だがはと首を振った。


「貴方は間違っているわっ」

「っつ!黙れ!!!」



ルシウスの杖から光がをめがけた。



「やめろぉっ!」


「きゃあああっ!」



を赤い光が傷付ける。ドラコは杖を取り出し反対呪文を唱えた。
赤い光が消え、はらりとの体が解かれた。ドラコは血相を変えてを抱きかかえた。


!しっかりしろ!」

「っつ・・セブ・・」

「?セブ?っッ!」

「ふんっ小娘が」


「ほお、我が妻を手にかけるとはいい度胸だな」

「っは!ごっご主人様っぐわあっ!」



ルシウスは蒼白になり振り返った。
と同時に眩しいほどな閃光を浴び吹き飛んだ。


「父上っ!」


ドラコはそっとを壁に寄りかからせ、ルシウスへと駆け寄る。
ザッと二人の前にヴォルデモートが立ちはだかった。咄嗟にルシウスをかばうドラコ。


「ドラコ?」


思いもしないドラコの行動に、ルシウスは驚きに目を見開いた。


「何・・をしているドラコどきなさい」

「嫌です!」


そう声を張り上げドラコは目の前に立ちはだかるヴォルデモートを睨みつけた。


「私の父を傷つけるのなら、僕は貴方に逆らいます。と僕はホグワーツに戻るんだ!」


「ふんっ戻れるとでも?」



ねっとりとした視線がドラコに絡み付く。
ドラコは恐怖に震えそな体をグッとこらえ、拳を握った。
そのドラコの肩にルシウスの手が置かれる。



「父・・・・上?」



「お前は下がってなさい。ご主人様・・・奥方様に手を出したことは誠に申し訳ありません。
ですがっ・・息子の無礼だけはっ・・・全ては私の責任でございますっ!
仕置はすべて私がっ!ですからっこの子だけはどうかっ」


ルシウスはヴォルデモートの前に膝まついた。
そんなルシウスの姿に目を見開くドラコ。



「父上!」



「よくもを傷付けてくれたな」



ヴォルデモートは嘲るように口を開いた。恐怖に体をこわばらせるルシウス。


「もっ申し訳ありませんっ」


「こんなに血が流れているではないか」


ヴォルデモートは壁に寄りかかるを抱き上げた。は抵抗をするが力がでない。
ルシウスはただただ震えていた。



「かわいい顔を傷つけおって」

「誠に・・」

「その上、我輩の生徒まで手にかけるなどな。」

「・・・・・・申し・・・・え?」

「父親として恥ずかしくないのかマルフォイ」


「??どういう・・」



ルシウスはわからないといった表情で恐る恐るヴォルデモートを見上げた。
目の前に立ちはだかるこの人物は今なんと言った・・・?
抵抗する腕を止め、じっとヴォルデモートを見つめる。赤い目が徐々に薄らいでいく。


「セ・・セブ?」


はおそるおそる自分を抱き上げている人物を見つめた。
ヴォルデモートはフッと優しく微笑み、何か小さく呪文を唱える。
するとヴォルデモートの顔がみるみると崩れ落ち、その下からスネイプの顔が現れた。


「怖がらせてすまなかったな。もう大丈夫だ」

「セブ!」


の目から大粒の涙がこぼれ落ち、はスネイプに抱きついた。
口をあんぐりと開けている、ドラコの頭を撫でる。


「君も大丈夫そうだな、マルフォイ」

「え・・え、あ・・はい」


「ス・・・・スネイプ・・貴様」


ルシウスはスネイプを睨みつけながらユラリと立ち上がった。
そっとを下ろし、スネイプもルシウスを睨みつける。
ルシウスはギリッと歯を食いしばり、杖を取り出した。



「!いけません!父上!」


「なっドラコ?」


杖を握るルシウスの手をドラコが制した。



「もう、やめてください父上。父上にこれ以上間違いを犯してほしくないのです。」


ドラコは真っ直ぐにルシウスを見つめた。
しばらくドラコを見てめていたルシウスだが、深い溜め息をつくと杖を納めた。


「やれやれ・・とんでもない息子をもったものだ。父親に抵抗するなど・・・」



「マルフォイ・・奴から離れろ、我輩も力になろう・・・」

「ふん・・だれが」

「!?」

ルシウスは嘲るような笑みをスネイプに向けた。


「あの方から逃れられると思っているのか・・スネイプ・・貴様も逃げられん、絶対にな。」


「ならば結束するまでだ」

「ふざけるなよ」



ルシウスはバッと黒いローブを羽織って仮面をつけた。
スネイプの表情が強張る。


「マルフォイ!貴様っ」

「私はデスイーターだ・・あの方が戻られた今、私はあの方に仕える。」

「父上っ!」


「・・・・・・・・・・・・・ふん、やはり貴様は父親に歯向かうな。もはや貴様は玩具でもなんでもない・・・・・・」


「・・・闇に生きるのか?・・・・」


「・・・・・・・・・さて。暗黒が訪れた今、貴様等はいつまで光の中を歩けるかな?」




ルシウスの体が透けていく



「逃れはできん私も・・貴様も・・・スネイプ・・。せいぜい姫巫女を守るがいい・・・だが必ずや様、
貴女は我が主の元に・・・・・」


「父上!!」



「・・・・・・・・・・・・・・・さらばだ」



そう言ってルシウスは消えて行った。



















































「さあ・・・、マルフォイ。ホグワーツに戻ろう。」


しばらく無言で立ち尽くしていた廊下に、スネイプの声が響いた。
そっと抱きついてくるの頭を優しく撫でる。
ドラコは父親が消えた所をずっと見つめていた。とスネイプは顔を見合わせる。
スネイプから離れ、はそっとドラコを抱きしめた。ドラコも震える腕でを抱き返す。


・・・・・僕は・・・僕は・・・・どうしたらいい?・・・・・僕は・・・」

「生きるの」

はドラコの顔を覗きこんだ。
ドラコの透き通るようなアイスブルーの瞳にの可愛らしい顔が写り込む。


「生きて生きて生き続けるの。悲しい、苦しい、逃げたい・・・そんな時も前を見続けて生きるの。
そうしたら必ず、光は差し込むから・・・ね?ドラコ・・・・・・・・」

ドラコの瞳にの可愛らしい笑顔が映し出される。
気づけば、ドラコもぎこちないけれども笑顔ができていた。
スネイプはそんな2人を優しい表情で見つめていた。

























あれからホグワーツに戻り、我輩はルシウス・マルフォイの行方を調査した。





ルシウス・マルフォイ・・・・失踪。

おそらくヴォルデモートの元にいるのだろうか・・・







スネイプは深い溜息をついて、調査書をそっと閉じた。
ホグワーツに戻ってからルシウス・マルフォイの息子であるドラコは
以前と変わらない態度を示していたが、時折見せる憂いに満ちた表情がスネイプの表情を曇らせた。
も気にしているようで、よく話しかけている姿を目にする。
これ以上悲しむ者が出ないようにと深く願うが・・世間はあまりにも無常すぎる。
闇はどこまでも光を喰らっていく。
さらなる悲劇が訪れることをまだ誰も知らない。


ある日、の使い鷹であるミカエルが忽然と姿を消した。