43
「一筋の涙」
そっと目を開けると競技場から少し離れたところに立っていた。
騒然とする競技場、生徒達に城へ戻るよう指示を出しているスネイプの姿があった。
自分も行こうと足を踏み出した瞬間、は人混みを避けるように城へと向かう、ハリーとムーディの姿を見つけた。
ハリーは顔色が真っ青だった。おそらく医務室向かうのだろうと再び足を踏み出す。だがの頭にあることがよきった。
(ちょっと待って・・あの時私の前に立った人・・あれは恐らくあいつの忠実な僕。そいつの声は・・)
はバッと振り返った。二人は丁度城へ入ったところだった。今までのことが頭によぎる。
ムーディの時に感じたあの空気・・ヴォルデモートの時と同じ・・・
ムーディに医務室で罵られた時・・・そうだ・・・かすかに首に手が触れて・・・・
はなにかつきとめたような顔をして、城へと走った。
(ハリーが危ない!)
玄関ホールへと走り込み、は医務室に向かう廊下と反対の廊下を見つめた。
「もしそうなら・・」
は医務室へと続く廊下に背を向けて、反対の廊下へと走っていった。
(間にあって!)
ムーディの部屋の前に来ると中から、2人の言い争いが聞えてきた。
「そんな!ではどうしてあの時・・そうだ!あの時はあなたじゃなかった!!」
「違うな。それもこの俺が奴に助言した」
はそっと扉に耳をあて、中の様子を伺う。
「さあ・・・話はもう十分だ・・・さあ!ハリー!いまこそあの人の苦しみを!!
俺がお前を消せば、あの方はたいそう喜んでくれるであろう!!!」
「!!うわあっ!!!」
(いけない!!)
は杖と白い札を取り出し、勢い良く扉を開けた。
「ハリーから離れて!!エクスぺリアームス!!武器よされ!!
そしてお願い!!式神!!!」
部屋の中に駆け込み、ムーディの姿を確認するとザッと杖先をムーディに向けた。
ハリーは方膝を付いて腹部を押さえている。
白い札がふわりと宙を舞い、鳥の形に変わりムーディに勢い良く突き刺さっていく。一瞬怯んだムーディだが
ムーディの杖はの魔法を弾き飛ばし、式神を焼き払った。
ガッと大またにの前に立ちはだかり、の腕を捻り上げた。
「これはこれは・・・花嫁様ではありませんか・・」
捻り上げられ、痛みに顔を歪ませる。
「を離せっ!!っつ!!ぐぅっ!」
ムーディに殴りかかるハリーだが反対にまた腹部を蹴られ、その場にうずくまる。
「ハッハリー!っきゃっ!」
ムーディはをソファへと放り投げた。起き上がろうとするが・・・・
「!?なっ何これ!」
ムーディの杖がに向けられている。杖先からスルスルと現われる紫色の蔓。
蔓はまるで蛇のようにへと絡み付いてきて、思うように動けない。
「しばらくそこでおとなしくしててもらおう。ハリーを始末したらお前を・・・あの方の元へ連れて行って差し上げよう・・」
ムーディはのローブの裾にキスをするとハリーに向き直る。
「さあ、ハリー!運命の最後だ!!」
「ダメぇ!!やめてぇ!!」
その瞬間、目の眩むような赤い閃光が飛び、凄まじい轟音とともにムーディは吹き飛ばされた。
呆気に取られるハリーと。扉に振り返るとそこには杖を構えたダンブルドア・・・その後ろに
マクゴナガルとスネイプが立っていた。
ダンブルドアの表情はいつもとは違う、穏やかな空気ではなく怒りに満ちた空気で・・
ダンブルドアはムーディを冷たく見下ろし、その体を蹴り上げ、ムーディを仰向けにした。
マクゴナガルがハリーのもとへ駆け寄る・・・そして・・・
の目の前に・・・・・・
「ミス・!」
スネイプは血相を変えて、の元へ駆け寄ってきた。
懐かしいその顔・・・スネイプは杖を取り出し、に絡みついた蔓を消し去った。
そっとの頭を撫でる。
「やはりここだったか・・・探し―」
「ふぇ・・セブルス〜」
は目に涙をためてスネイプに抱きついた。
驚きに固まるスネイプ。
ダンブルドア、マクゴナガルも同じ表情で・・・
「ミ・・ミス・・・今なんと・・」
の両肩に手を置きそっと顔を覗きこむ。
今、自分のことをなんて呼んだ?
久しぶりに交わされる視線に体が熱くなる。は真っ直ぐにスネイプ見つめた。
「怖かった・・・・気がついたら・・あいつの・・ヴォルデモートのところにいて・・本当に怖かったんだから・・
なんで・・・離れたの・・・・?バカァ・・・・・セブルスのバカァ・・」
ぶわっと再び涙が溢れ、はまたスネイプに抱きついた。
「・・・・忘れてなかったの・・・私・・・何も忘れてなかったんだよ?・・・・辛かったのよ?
セブルスのこと忘れた振りするの・・・もう・・離れないでよぉ・・・・」
スネイプは驚きに目を見開いた。
震えながら抱きついてくるをおそるおそる抱きしめる。
「我輩は・・・・・・」
「セブルス」
ダンブルドアが静かに口を開いた。スネイプは信じられないという表情でダンブルドアを見つめていた。
少し微笑んで頷くダンブルドア。
「・・・っつ・・」
その瞬間一筋の涙がスネイプの頬をつたった。
「すまなかった・・・・・・」
もう・・・離したくない・・・
久しぶりに感じるお互いの体温に、もう離れないと深く心に誓って・・
ダンブルドア、マクゴナガル、ハリーはそんな2人を優しく微笑んで見守っていた。
「さぁ・・・セブルスよ・・やるべきことはまだ山とある・・・」
「はい」
そう頷くとスネイプはそっとからはなれた。
真っ直ぐと曇りのない目でダンブルドアを見つめる。
「セブルス、君の持っている「真実薬」のなかで一番強力なのを持ってきてくれ・・
それから厨房へ行き、ウィンキーという屋敷妖精をつれてきてくれんか・・・・。
ミネルバ。ハグリッドの小屋へ行っておくれ。そこに大きな黒い犬がいるはずじゃ、犬をわしの
部屋へつれていき、まもなくわしも行くと伝え、またここに戻ってきてくれ。」
スネイプとマクゴナガルはすぐ踵を返し、部屋から出て行った。
「ハリー、・・・こやつはムーディではない」
よくみておきなさい
そうダンブルドアは顎で倒れているムーディを指した。
みるみるとその姿が変わっていく。
「・・・!!・??この人は!!??」
そこには色白の。薄茶色の髪をした男が倒れていた。