29声
目の前に立っていたのは紛れもなく、自分自身だった。
「声〜精神世界編〜」
はしゃくりあげながら目の前の自分を見つめた。
同じ顔に同じ髪の色・・・でも・・その瞳はとても冷たく感じた。
とても冷たく突き刺さるように
「わ・・・・わたし?・・・」
「ああ、そうさ。私はあんた。でも違う。私は強く、お前は弱く何もできない落ちこぼれさ!」
ぎらりとその目が怪しく光る。目の前の自分はに手をかざすと何か呪文を唱えた。
それと同時に手から青白い光がでて、を数メートル吹き飛ばした。
「きゃあああ!」
鈍い音ともに地面に叩きつけられる。
「っつう・・・・」
「防御もできないのか。情けない」
「!!?あぅっ・・・っつ・・・」
容赦なく腹部を蹴られ、口から血が溢れ出る・・・
「どうした反撃してこいよ!できないのか?え?能無しがっ」
一段と強く蹴られては仰向けに飛んだ。
「ふん、過去の記憶を思い出しただけで弱くなるとは・・お前は本当に陰陽師か?」
「いっ・・!」
ドカッ
と自分のお腹に冷たい目の自分の足が勢い良く降りてくる。
痛みで顔をゆがめるが、冷たい目でを見下ろしたまま、足をどけようとしない。
力をこめて押してくる。
「痛い?ふふ・・泣けっ喚けっ!お前はそうしている方がお似合いだよ
石をぶつけられ、化け物呼ばわりされ影でピーピー泣いてなっ」
は目の前の自分の足をギュッと掴むと、痛みに顔を歪ませながらも
冷たい目を睨みつけた。
冷たい目の顔はピクッと眉を顰め、ガッとの髪を掴む。
「っつあ!」
「何だよ、その目は!気に入らない!お前は負け犬らしく泣いていればいいんだよ!」
痛いっ
でもいつまでも泣いたばかりはいられない・・・いられないのよ!!
バシッと手をはたくと、は体を翻して、その背後をとった。
ガシッと後ろから羽交い絞めにする。
「っく!生意気!離しな!!」
「・・っっつ・・・は・・・離すもんか・・・・」
だが、冷たい目は怪しく光りを振り返った。
の背中に冷たいものが走る。
ザシュッ
鈍い音ともにわき腹に激痛が走った。
一瞬何が起きたのかわからなかった。ぐらりと視界が歪む。
何とか意識を取り戻すと、自分はまた地面に倒れていた。
おそるおそる激痛が走るわき腹をおさえると何か液体が流れている・・・・・・それは自分の血だった・・・・
ゆっくりと顔を上げると小刀を手にし、気味の悪い笑顔を浮かべたもう一人の自分が見下ろしている。
「ふん・・・ただの負け犬じゃないってわけか・・」
「・・まっ負けられないのよ・・・・・」
痛みをこらえなんと体を起こし、地面にへたり座りながらキッと自分を睨み上げる。
小刀を手にし自分は怒りの表情を一瞬むき出しにしたが・・すぐまた気味の悪い笑みを浮かべた。
「あの男か」
の顔が強張った。
「ナツキ、少し休みたまえ。お前寝てないだろう」
が精神の世界に飛び込んでから4日が過ぎた。
ナツキは片時もの傍を離れず、ずっとの顔を撫でていた。
ナツキはスネイプをチラッと見ると首を振る。
「いやよ・・頑張っているんだもの・・・このくらい」
だがナツキの表情は疲れ果て、生気が全くない。
ハヤトも心配そうにナツキに休むように説得するがナツキはガンとしての傍を離れようとしなかった。
ハヤトは仕方ないとナツキの顔に手をかざし、何か唱える。
ナツキはフッと目を閉じてハヤトにもたれかかった。
相手を眠らせるまじない・・・
ナツキを抱えながらハヤトは呟いた。
「すまんなナツキ・・でもこうしないとお前休まないだろ?」
「ハヤト、お前も休め。お前も寝てないだろうが・・・ここは我輩がみている」
「あぁ・・・・すまんが頼む・・・・」
ハヤトは少しニッコリと笑うとナツキを抱きかかえ、部屋から出て行った。
ベッドサイドに腰を下ろしの顔を撫でる。
そのかわいい目は開くことなく、心地よく耳に響く声を奏でる口は開くこともなく、
そしてただただ・・冷たかった。
「・・・」
スネイプの声だけが部屋の中に波紋を広げた。
「、今お前はどこを彷徨っているのだ・・・早く戻ってこんか・・・・・」
その冷たい手を優しく包み、額に軽い口付けを落とした。
「ウソよ・・・そんなのうそよ!」
「ウソなものか。あの男はお前のこと邪魔だと思っているのさ、目障りでしつこくて・・・」
「うそよ!」
は痛みを忘れて立ち上がった。
「ふん、大した自信だな。いったいどこからそんな自信が出てくる。貴様あの男のことを何も知らないくせに」
目の前の自分は嘲るようにを見据えた。
「たしかに・・知らないわよ・・でも・・でも・・・・」
は俯いてしまった・・
そうだ・・自分は先生のこと何も知らない・・私のことどう思っているのかも・・
あの日私にキスしたのだって本当におやすみなさいのキスだったかもしれない・・
自分は先生のこと大好きで・・でもそれを伝えてなくて・・・
きっと・・先生は私が先生の所にいくの・迷惑しているかも・・・
「何、ぼさっとしてんのかねぇ・・・」
ハッと顔を上げたと時にはもう遅かった。冷たい目が本当に目の前にあり、
下がろうとする前に蹴りがの血が出ているわき腹を直撃した。
「あぁっ!!うぅっ・・・・」
力なく膝が崩れた。
「バーカ。なに恋しちゃってんだか?お前自分のことちゃんと見てから行動しろよ
誰がお前のことを好きになる?え?バ・ケ・モ・ノ」
ドサッ
は仰向けに倒れた。
その目は焦点があってない・・ただ血の様に赤い空をボーと見上げているだけ。
ワタシハバケモノ・・・・・・・・・・
頭の奥に声が響いてくる。
「なんかさー日本から来たってやつー気味悪い〜」
「黒い髪ってただでさえ気味悪いよねー目も黒いしー」
「俺クリスマスの時あいつと踊っちゃてさ〜もう!やめてくれって感じだったよ」
「ははーロン、わかるわかるその気持ち」
「早く日本に帰ってほしいよね」
「ふん・・早く我輩の前から消えろ。能無しが」
の目から涙が溢れてきた。
「わ・・・わ・・た・・し・・は・・・・・」
「そう、お前は能無し。必要とされない人間だよ」
冷たい目がねっとりと口を開いた。
「さあ・・・・今楽にしてあげるよ」
小刀がの胸につきたてられた。
はボーっと空を見上げたまま・・・・・
「せ・・んせい・・・・」
貴様が死のうと我輩には関わりのないことだ
頭の中に消えることなく木霊する。
「もう・・やめ・・・・て」
「あぁ。もうすぐだよ」
小刀が空を仰いだ。
シャン
ローブのポケットから巾着が転がり落ちた。
力なくその巾着を手にする・・・
紐がはらりと緩み、中から小さな鈴が手の中に転がってきた。
シャン
最期に聞くのがこの音なら・・・きっと安らかに眠れる・・・
そう、はその鈴を耳に近づけた。
"、今お前はどこを彷徨っているのだ・・・早く戻ってこんか・・・・・"
は目を見開いた。今鈴から聞こえたのは大好きな人の声・・・
冷たい目がカッと見開いた。
「お前!それをどこで!」
から鈴をもぎ取ろうとした瞬間、鈴が光を放ちもう一人の自分をはじき飛ばした。
痛みに耐えながら上体を起こし、鈴を耳にあててみる。
"戻ってきなさい・・・・・・・・・・・・我輩の元へ・・・・・・・早く"
「先生・・・」
の目から大粒の涙がこぼれた。
「はい・・・戻ります・・・・」
その瞬間鈴がはじけた。キラキラと光るその破片がに降り注ぐ。
その破片はとても温かく心地よいものだった。
やがてすべての破片が落ちると、は驚きに目を見開いた。
体中ケガだらけだったのが一つ残らずなくなっていた。
一番酷かったわき腹も、破れたローブも元どおりになっていた。
「過去は消せない・・でも・・もう振り返らない。弱いのは自分。でも違う。
弱いのはいつまでも過去に縛られているあなたの方!!!」
は立ち上がって目の前の自分を真っ直ぐに見つめた。逸らすことなく、曇りのない目で。
また声が聞こえてきた。
「・・どうしたのかな?大丈夫かな?」
「おい!・が入院したって聞いたかよ!!」
「おい!クラッブ、ゴイル!の容態見て来い!!」
「・・・早く元気な笑顔をお母さんに見せてちょうだい・・」
「我輩の元へ・・帰って来なさい」
「私は帰るわ!皆の所へ、先生の元に」
冷たい目はフンと鼻で笑うとゆっくりと立ち上がった。
「私が弱い?ふざけんじゃないわよ!!殺してやる!」
はザッと構えた。両手で印を結んだ−
「四方を守護する聖獣よ・・東に青竜、西に百虎、南に朱雀、北に玄武・・我が・の名に
おいて命ずる、そなたらの力我に示せ!四方を司りし麒麟よ・・今我とともに!」
が結んだ印を両手にかざすと、あたり一面に雷が轟いた。
雲の割れ目から金色の麒麟が舞い降りる。ゆっくりと空を駆け抜けもう一人の
自分へと徐々に加速する。
「ひっ!来るな!消えろ!」
ザーっと麒麟は目の前の自分を飲み込むと、再び空へ駆け上り雲の割れ目へと消えていった。
「もう・・過去に縛られない」
はしっかりとした目で麒麟が消えていった空を見つめていた。
「進まなきゃ・・・・・」
はゆっくりと踵を返した。
目指すは最果ての地。
そこに巣食っている呪いを・・
呪いを消して戻るんだ。皆が待っている世界へ−
書き逃げます(自分殴り)
なにRPGってんだよ(まったくだ)