試練












「呪い」





















「顔色悪いわよ?サクヤ?具合でも悪い?」




昼食後、次の授業へ向かうため廊下を歩いていた時、
ハーマイオニーが不安そうにサクヤの顔を覗きこんだ。
サクヤは慌てて首を振る

「えっううん!元気だよ?」

「そう・・ならいいけど」


しかしサクヤの様子は日に日に悪くなる一方だった。











なんだろ・・・頭痛い・・体が重い・・・・寒い・・・
確か前にも・・・そうだ・・初めてムーディ先生の授業受けたときと同じ感覚・・














ふらつきながら歩くサクヤにハリー達も尋常でないと察し、マダムポンフリーのところへ行こうと
サクヤを連れて行った。





「睡眠はとっているの?」

マダムポンフリーが心配そうにサクヤの背中を撫でる。
サクヤは弱々しく首を振ってた。

「いいえ・・眠れないんです・・いつも・・同じ夢でうなされて・・・・」

いつもは明るい元気なサクヤがこんなにも弱っていて・・ハリー達も不安の色が隠せない。
マダムポンフリーはサクヤの髪を優しく撫でた・・・・

「・・・・・・・・・・・・」




「ミス・ッ」

スネイプが慌てて医務室に飛び込んできた。
普段のハリー達ならスネイプの姿を見るとあからさまに嫌な顔をするだろうが、
今はそんな状況ではない。ハーマイオニーも不安そうな表情をスネイプに向けている。


「先生・・・」

サクヤは弱々しくスネイプに微笑んだ。

「いったいどうした・・・」

そうサクヤの頭を撫でるスネイプにマダムポンフリーがスネイプに耳打ちをした

「スネイプ先生・・至急ダンブルドア校長とマクゴナガル先生を・・・・・・
できれば彼女のご両親も・・・お呼びして・・・」


眉を顰めマダムポンフリーの顔を見ると、マダムは深刻そうに頷きハリー達に
授業に出なさいと医務室から追い出した。




この事をダンブルドアに知らせると、ダンブルドアは黙って頷き暖炉に向かって杖を一振りした。
それから数十分後暖炉の中が青白く光り、中からサクヤの父親のハヤト・母親のナツキ、そして
おそらく祖父であろう白髪の老人が現われた。
ダンブルドアはその老人に笑顔を向け、その老人と抱き会う。

「久しぶりじゃのう・・・・・・・」
「全くだな!ダンブルドア!どうしたんだいきなり呼びつけるなんて!」

その老人も嬉しそうに微笑み、ダンブルドアの肩を軽く叩いた。
ダンブルドアはスネイプの方見る。スネイプは一歩進み出て、その老人に軽くお辞儀をした

「お初目にかかります・・ホグワーツ、魔法薬学教師のセブルス・スネイプと申します」

老人はニッコリ微笑み、スネイプの肩をぽんぽんと叩いた。

「おう!君があのスネイプ君か!いやあ孫から君の事は聞いているよ!!」

スネイプは少しはにかんで笑ったが

「お呼びしたのは、そのご令嬢のことです」

そう深刻な顔をするスネイプにその老人とハヤト、ナツキ、ダンブルドアは表情を強張らせた。





















「見てください・・ミス・サクヤの首を・・・・」

マダムポンフリーがサクヤの髪を束ね上げ、皆に首筋が見えるようにした。

「こっこれは!」
「そんな!!」

その場にいた全員が固まった。
サクヤの首筋には黒い痣が、大鎌をバックに掲げた髑髏の紋章が施されていた。
自分からは見えないサクヤは何があるのかわからない。不安そうに周りを見つめていた。
クリスマスの時まではなかったはず・・・
スネイプは真っ青になり、自分の注意力のなさに怒りを感じた。

(くっ!なぜ気づかなかったのだ!)

サクヤはいつも髪を下ろしていたし、その髪は腰まである・・・
だから首筋になにかあっても気づくはずは無理なのだが、スネイプは
仮にも毎日のように会っていた手前、その分腹立たしさがこみ上げてくるのだった。

ナツキはかたかたと震え、サクヤをギュッと抱きしめる。

「そんな・・・こんなことって・・・どうしてよぉ・・・・」

ボロボロと涙が溢れ、サクヤの頬をつたう。
サクヤ一人、事態のを飲み込めず老人を不安そうに見上げた。

「お爺様っ私になにが起こっているの!?・・お願い教えて!!」

サクヤのお爺さんは深い溜息をつくと、真っ直ぐとサクヤを見据えた

「よいかサクヤ。お前にとって一番つらいことだ。・・・・お前の首筋にあるその印・・・
それは・・呪いだ。「名前を言ってはいけないあの人」の・・・」

サクヤは目の前が真っ暗になった。

今、お爺様はなんて言ったの?「名前を言ってはいけない人」?その呪い?

ハヤトがサクヤの手をギュッと握り締めた。

「いいかい?サクヤ。「名前を言ってはいけない人」というのは・・・」
「しってる・・・図書室で読んだよ・・・魔法界至上最強にして最悪の魔法使い・・でしょ?」

サクヤの声は震えていた・・・
ダンブルドアが静かに口を開く。

「サクヤや・・最近おかしなことはなかったかの?」

「・・・・・・・夢を・・・・誰かわからない声・・とても恐ろしい声・・いつも見るの・・・・」

「いつから?」

マクゴナガルは優しくサクヤに囁いた。

「・・・術式が・・失敗した時から・・・」

すでにサクヤの体はカタカタと震えていた。ナツキは震えるサクヤを優しく抱きしめる。
誰も口を開けなかった。誰も動くことはできなかった。

力を失ったはずの魔法使いの呪いがなぜ、無垢な少女に降り注いだのか・・・
しばらく沈黙が続いていたが、スネイプははっとしたようにダンブルドアに振り向いた。

「まさか・・あの時の顔は・・・」

あの時の顔−サクヤが術式を失敗した時、壺の中から現われた緑色の煙の顔・・・・
あれはもしかしたら・・・

「うむ・・・じゃが・・ヴォルデモート本人ではない・・・」

ダンブルドアもスネイプと同じ考えに達したようだった。

「だが・・サクヤに施された呪いは直接彼女に触れなければかけられない・・
あの煙では無理じゃろうて・・サクヤよ・・だれか不審な人物に触れたかの?」

「いいえ・・・心当たりありません・・・」

必死に自我を守ろうとするサクヤだが、その表情は白くなり、恐怖におののいている・・
マクゴナガルも目に涙を溜めていた。

「校長・・・呪いを消す方法はないのですか・・・?!」

だが、ダンブルドアは黙ったまま・・・
その姿にナツキは声をあげて泣き出した。ハヤトもガックシと膝を折る。
スネイプも手を震わせていた。



























「一つだけ・・・方法がある」













お爺様がポツリと呟いた。
皆の視線がお爺様に向けられた。
険しい表情でサクヤを見据える。




「だが、これは己の精神力が全てを左右する。己との戦いだ。己に負ければ待っているのは死。
呪いに蝕まれ死に至るのをただ待つか、わずかな望みにかけ戦うか。全てはサクヤ、お前次第だ」


その言葉にサクヤは、ただお爺様を見つめるしかなかった。
何も言えなかった。
それはここにいる全員も同じ、ただ立ち尽くすだけ・・・・・










「よく、考えなさい・・だが助かる道はそれしかない。呪いはいつ己の命を朽ち果てさせるのか・・
それはワシにもわからん・・10年かもしれんし1年かもしれん・・・
ただ・・サクヤよ。お前が己自身と戦う勇気を持つならばワシも手助けでできる・・・
時間はあまりない・・お前の体力が少しでもあるうちに手を打たなければならないからな。
明日の朝までよく考えることだ・・・・・・さあ・・もう休みなさい。
大丈夫・・今日は良く眠れるよう・・ワシが守ろう・・・・・」

そう、サクヤの顔の前に手をかざすと、何か呪文を唱えた。
サクヤはフッと目を閉じ、やがて小さな寝息をたてる。
ナツキは優しくサクヤをベッドに寝かし、布団をかけてやった。

「お義父さん・・本当にあの術を・・・・?」

ナツキはまだ涙を流していた。
ハヤトは優しくナツキを抱きしめる。

「うむ・・それしか道はない・・・茨の道だ・・」

スネイプは(一体どんな術なのだ)と聞きたいような顔でハヤトを見た。
ハヤトはナツキをチラッと見やり、スネイプを医務室の外に出るように促す。
ダンブルドアとマクゴナガルも廊下に出てきた。


「この術は・・己との戦いと言っただろ?呪いは自分の体内奥深くに巣くっている。
この術は親父しか使えないんだ・・・親父が呪いを掛けられた人物の精神と体を離し、
精神を自分の精神世界へと送り込む。親父ができるのはそこまでだ。
あとは・・・・・」

「己の精神の中に飛び込み、その呪いを消す・・・ということか?」

スネイプは腕を組んで唸った。

「簡単に言えばな。だがそう簡単にはいかない・・自分の精神に飛び込む・・・
これはどういうことかわかるか?自分の弱さ、醜さ・・それと真正面からぶつかることになるんだ」

マクゴナガルは驚愕したように両手で口を覆った。
ダンブルドアは静かに聞いているが、その表情はとても険しい。

「そう・・自分との戦いだ。もう一人の自分と戦うようなものだよ・・・
自分の汚さ、醜さ、悪質さそれがさらけだされてくるんだから・・
己に負けてしまえば二度と肉体へと戻れない。
制限時間もある・・1週間・・それを過ぎたら・・・同じだ・・つまり・・」

「言うな!」

スネイプはハヤトの声を遮った。その先の言葉・・・・そう・・「死」
スネイプは額に手をあてて荒く溜息をついた。

「・・・すまん・・ハヤト・・・つい・・・」

「あぁ・・」















ハヤトたちはその日ホグワーツで夜を明かした。
だが、医務室にいた者すべて眠りにつくことは誰一人できなかった。
サクヤ以外に。

ハリー達にはしばらく入院するとマクゴナガルから告げられた。

その日の夜はとても長く感じられた。

自室で一人、イスに座って目を閉じるスネイプ。


サクヤは・・おそらく・・・己と向き合う選択をするであろう・・
自分は何もできない・・見守るしか・・・


「くそっ・・・守るのではなかったのか!!」

額に置かれた手が自分に爪を立てる。
じんわりと赤い液体が染み出てくる。

守ると誓いながら・・・傍にいようと決めながら・・・

何もできない・・・

「我輩は・・・サクヤに何もしてやれないのか・・・」

長い長い夜が白みはじめてくる・・・・・




選択の時・・・・


























「お爺様・・・・術式の仕度をします・・・」





サクヤはポツリとでも真っ直ぐに祖父の目をみて呟いた。

スネイプはただサクヤを見つめることしかできなかった・・













はい!サクヤさん呪い掛けられていました!!
いったい誰によ!!(わかるって・・)
とにかく呪いをなんとか消さないと大変です!
なにやらようやく陰陽師らしくなってきたっす・・・(汗)