18
「激怒」
その翌日から、ハリーとロンが口を利かなくなった。
ハリーが自分でゴブレットに名前を入れたのではないか?
そんな疑いと嫉妬で・・・・
ハリーは身に覚えのないことでもちろんそれを否定した。
だが、ロンは信じず、翌日からハリーと行動を共にしなくなった。
それはロンだけではなかった。
全員といっていいほど生徒はハリーが自分で名前を入れたものだと決め付けていた。
ただ、グリフィンドールの生徒だけはハリーを英雄扱いした。当のハリーは嫌がっていたが。
他の寮の生徒はロンと同じ態度だった。
ハッフルパフの態度はあからさまに酷かった。無理もない、自分達の寮から代表選手が出たのに
ハリーまで出ることになっては自分達の代表選手が目立てない。
スリザリンはいつものことながらだが、レイブンクローの生徒でさえもハリーが目立とうとしていると思っているらしい。
ハリーはいまや針の筵だった。
ハリーの唯一の救いはハーマイオニー・・ハグリッドが自分で名前を入れてないと信じてくれたこと。
だけど、信じてくれる者がいてもハリーの学校での存在は変わることはなかった。
一方、はこれまでにないほどホグワーツが禍々しい空気に覆われているのを感じていて、
とてもイライラしていた。ハリーとロンの間をハーマイオニーと一緒に何度も往復して、仲直りさせようと試みるが
ハリーもロンもとても頑固だった。
そんなイライラが募る日々に、とうとうはぶち切れてしまった。
それは魔法薬学の授業で起こった。
昼食後、ネビルと一緒に地下牢の教室に行くとまだ鍵が開いてなかった。
ネビルの復習を見てやっていると、なにやら言い争いが始まった。
ハリーとドラコだ。ハーマイオニーが顔を真っ青にしている。
「やめて!ハリー!!」
ハーマイオニーが叫んだ瞬間
ハリーとドラコは杖を取り出し、何か呪文を唱えた。
杖から出た光線が空中でぶつかり、ハリーの光はゴイルの顔にあたり、ドラコのはハーマイオニーにあたった。
「ちょっちょっと!何やってんのよ!!」
が慌ててハーマイオニーに駆け寄る。廊下の壁に寄りかかっていたロンも
何事かと駆け寄ってきた。
「ハーマイオニー!!」
が悲鳴にも似た声を上げた。
ハーマイオニーの前歯が驚く速さで伸びているのだ。
ハーマイオニーは自分の歯を触って驚き叫び声をあげた。
「何の騒ぎだ」
低い声がした。スネイプだ。
スリザリン生が口々に説明しだす。スネイプは眉間に皺を寄せ、ドラコを指差し「説明したまえ」と唸った。
「先生!ポッターがゴイルをやったんです!」
スネイプはゴイルの顔を調べた。ゴイルの鼻は毒キノコのように膨れ上がっている。
「医務室へ・・」
ロンが慌てて言った。
「マルフォイがハーマイオニーをやったんです!!見てください!!」
そういって嫌がるハーマイオニーをスネイプの前に向かせた。
ハーマイオニーの歯はいまでは喉元を過ぎるほど伸びていた。
スネイプの後ろでクスクスと笑うスリザリンの女子生徒達・・・・
ピシッ・・・・・
スネイプは冷たい視線をハーマイオニーに向けて
「いつもと変わりない」
と言い放った。
ピキッ・・・・・
ハーマイオニーは涙を浮かべて走り去ってしまった。
がスネイプに口を開きかけたとき、
「「★▽XXXX!!???***@иЙ!!!」」
ハリーとロンスネイプに向かってが同時に叫んだ。
冷たい廊下に反響し、その言葉は騒音になり2人がスネイプに向かって何をいったのか
聞き取れなかった。それでもスネイプはおよその意味がわかったらしい
「ほおう?」
と意地の悪い笑みを浮かべ、
「グリフィンドール減点50点。ポッターとウイーズリーはそれぞれ居残り罰だ。
さっさと教室に入れ。さもないと一週間の居残りを罰をあたえるぞ」
ハリーとロンは怒りまかせにカバンを机に叩き置いた。は一瞬、2人が元に戻ったと思った。
が
ロンはプィとそっぽ向くとディーン達の一緒に座った。
は深い溜息をつき、ネビルと一緒にハリーの隣に腰をおろした。
スネイプが解毒剤の説明をしていると地下牢教室をノックする音がした。
グリフィンドール三年生のコリンだ。
なんか代表選手の写真を撮るらしい。スネイプとコリンがいくつか言葉を交わしたと思ったら
「よろしい!!ポッター!カバンを持って今すぐ我輩の前から消えろ!!」
と唸った。ハリーは嫌そうに小声でに「後でね」というと、渋々と教室から出て行った。
はなんともいたたまれない気分になった。スリザリン生の胸元で光るバッジにが
とても腹立だしかった。
そしてスネイプのこの一言ではぶちぎれた。
「さて・・・・目立ちたがり屋がいなくなったところで・・・」
バーン!!
は両手で机を叩き立ち上がった。
教室にいる全員がの行動に驚き固まっている。
スネイプもその一人で・・やがてハッと我に返り
「ミス・・・何事かね・・・いまは・・・」
「あーやってらんない!!」
スネイプの声を遮り、はカバンを肩に掛け、ズカズカと怒りに満ちた歩調で扉へ向かった。
「なんなのよ!いったい!ハリーが何したっていうのよ!あんた達最低!!
ハリーの話聞こうともしないで!!あーもう!腹立つ!!」
教室全員が言葉を失った。かわいくて優しいが凄まじく怒っている・・・
生徒達は初めてみるの姿に絶句し真っ青になっている。
スネイプでさえ、今まで見たことないの姿に言葉が出ない。
は勢い良く扉を開けて出て行こうとした。
が、一瞬立ち止まって振り返りスネイプに
「・!ムカツキ度マックスのため!陰険教授の如何わしい授業は
お休みさせてもらいます!ってか出たくもねえ!!」
そうスネイプを一睨みしてバン!と扉を閉めて出て行ってしまった。
「サッ〜・・・・まだ怒ってる・・・・・・?」
「ふぉへ?何?ロン?」
大広間で一人夕食を食べていると、ロンがおそるおそる隣に座ってきた。
の機嫌を不安そうに伺うロン。は口に入っているミートパイをコクンと飲み込むと
にっこりとロンに微笑んだ。
「もう怒ってないわよ?ロン。ただあの陰険男にむかついただけよ?」
そういうとロンはほっとしたように自分もミートパイを口に運んだ。
「あっあのさ・・・・・・・」
「?なあに?」
戸惑いながら聞いてくるロンには不思議そうな顔をした。
「・・・わかってはいるんだ・・・ハ・・ハリーが自分で名前入れたんじゃないって・・・」
そう俯くロンには食べるのをやめて、ロンの話をちゃんと聞く態度をとった。
「でも・・・・なんかむしゃくしゃするんだ・・・自分でもわかってる・・これって嫉妬だよね」
にはロンの言いたいことがよくわかった。ロンは七人兄弟だ。いつも兄さん達比べられてきた。
だからハリーとは同等でいたいのであろう・・でもハリーは有名人で・・目立っていて・・・
シュンと俯くロンの肩をポンポンと軽く叩きながらはロンに微笑んだ。
「ロン!貴方がそう思っているなら大丈夫よ!近いうち必ずハリーと笑い合えるようになるわ!」
そうガッツポーズを取るにロンは顔を真っ赤にして頷いた。
その一方で、スネイプは自分の部屋の中を行ったり来たりしていた。
本当ならが来る時間だ。それなのにはまだ来ない。
お茶会の用意はすで整っている・・・
「今日は・・・いや・・もう来ないのか・・・」
スネイプはポツリと呟いた。
今日の授業で見せたの激怒する姿。
しかも出て行く際に自分のことを「陰険教授」と吐き捨てた。
今まで見たことのないの姿にもう自分の所に来ないのでは?
という不安に駆られた。ちらちらと時計を睨む。五分・十分・十五分・・・
チッチッチッ・・・
秒針の音だけがスネイプの部屋に静かに響き渡る。
その音でますます焦ってくるスネイプ・・・・。
授業では・・・確かに自分も言葉が過ぎたと思っている・・・
気をつけなくてはと思っているのだが・・・いざあのポッターを目の前にすると
例えようのない嫌悪感に駆られるのだ・・・・
三十分が過ぎ、今夜はが来るのを諦めはじめた時、
コンコンコン
聞き覚えのある控えめのノックがした。
[このノックの仕方は!!]そうスネイプは慌ててドアを開いた。
「コンバンハ、陰険・根暗御教授さまさま」
そこにはスネイプが首を長くして待っていたがいた。
だが、いつもは笑顔で来るのに今夜は無表情で、言葉にも抑揚がないうえに棘を持った口調だ。
スネイプはそんなの態度に動揺しながらもを中へ促す。
・・とここであることにスネイプは気づいた。
「ミス・・・・・・・はどうしたのかね?」
いつも必ずにくっついてくるの使い獣の。
の隣に立つたびに文句を言い、邪魔をするうざったらしい鷹。
いつも「こいつさえいなければ」と苦々しく思っていたのに、いざ来ないと気になる。
ましてや今日はの機嫌がとても悪い。スネイプは不本意ながらもになんとかしてもらうと
思っていたのだ。ところが頼みの綱のが来ず・・・
「・・は今いません。家に使いに行ってもらっているんですよ、こーのねっとり黒男」
はそう言いながらもスネイプに悪態をつく。
スネイプは暴言を吐いてくるに一瞬声を失った。
(どうすればいいのだ・・)
2人立ち尽くしたまま沈黙が流れる。
スネイプは今まで自分の部屋にいて、初めて居心地が悪くなった。
は黙り込んだままソファに座ろうともせず、スネイプの前にずっと立っているだけで。
スネイプは心の中で頭を抱えた。
「・・・・先生は・・・ハリーが嫌いなんですか?」
しばらくして、が静かに聞いてきた。
いきなり聞かれて一瞬目を見開いたが(ハリー)と聞いて眉を顰める。
「ふん、生徒に好き嫌いもない」
そう吐き捨て、くるりとに背を向け机へと足を向けた。
「でも、先生のハリーへの態度は他の生徒とは違う」
スネイプの背中にの言葉がのしかかる。スネイプはイラつくのを感じながらも
冷静さを装って優しくに答える。
「ミス・・・・・なぜ我輩がポッターにだけ態度を変えなくてはならんのかね?
我輩は全ての生徒を・・平等に・・・・」
「ハリーだけ見る目が違う」
空気が凍った。スネイプの表情はいまや青白くなり額に青筋を浮き立たせている。
「まるで・・・ハリーの存在自体を憎むような目で」
「・・・・・め・・・・・ろ・・・・・・・・・・・」
「それに、先生を覆う空気もハリーがいる時、とても怖い」
「・・・・・それ以上・・・・・いうな・・・」
「なんでハリーだけあんなに−」
「黙れ!」
スネイプは声を張り上げてを睨んだ。
は突然のスネイプの変貌にびくっと肩を揺らす。
「はっ・・・・貴様のような小娘に何がわかる!」
スネイプはを睨みつけて唸った。その冷たいスネイプの目つきに
は凍りついた。
「それも・・あれか?陰陽師の力か?え?とんでもない能力だな」
スネイプは嘲るような笑みでを見下ろした。
は傷ついたような表情を浮かべたが、スネイプはそんなの表情を読み取る
余裕もないほど我を忘れてさらに毒づく。
「人の粗探しに夢中になる暇があったら、勤勉に励んだらどうなのかね?
教師を責め立てるとはなんたることかっ。グリフィンドール30点減点だ」
「・・・・何よ・・・・・」
顔を俯かせワナワナと震える。
「聞こえんな、ミス・。はっきりと言わんか」
スネイプは俯くの顎を掴みグイッと上を向かせる。
「なっ・・・」
バシィ!
の顔を見た瞬間、スネイプは思わず言葉を失った。
同時にが勢い良くスネイプの腕を払いのける。
そのかわいらしい両目を涙で潤わせながらキッとスネイプを睨み上げる。
「あー!そりゃどうもっ悪うございましたねっこの!理不尽減点教師!
いつもこんなジメったらしいこんな所にいるから、あんたの性格も髪もじめったらしいんだ!!
先生のあら探したって何の得にもなんないわよ!!お前なんか大嫌いだー!!」
そう大声で一気に怒鳴り終わると、さっとスネイプに背中を向け、部屋から走り出て行った。
大粒の涙をこぼしながら。
ダン!
「くそっ・・・・」
自室で一人、スネイプは机を拳で叩いた。
あそこまで言うつもりはなかったのに・・・・
「ふっ・・・・我輩は所詮誰からも好かれん人間なのだな・・・」
そう額に手をあて、自嘲した。
テーブルには、手が付けられることがなかった二つのティーカップが淋しげに光っていた。
はわわっわわー!!
さんと教授大喧嘩!?これからどうなってしまうの!?
そしてはなんのために日本に?
あーようやく話が進んできたと思ってたのに・・・・・(滅)