恐怖と安堵
「・・・・くらくらする・・・・」
「恐怖と安堵」
はおぼつかない足取りで、人通りが少ない廊下を歩いていた。
特に目的の場所はない。ただじっとしていることが耐えられなかったからだ・・
その原因は一つ。今日の「闇の魔術の防衛術」の授業・・そう、ムーディの授業だ。
ムーディから滲み出る異様な気配にほんの少しだけだが・・・平気になってきた。のだが問題は今日の授業内容・・
「許されざる呪文・・・」
は思わず自分の両肩を抱き身震いをした。
今日の授業では3匹の蜘蛛に許されざる呪文をかけ、
その呪文についてどのようなものなのかということを学んだのだ。
「服従の呪文」「磔の呪文」そして・・「死の呪文」
その呪文を一匹ずつ蜘蛛にかけてゆく。は二つ目の「磔の呪文」を見た時から気分が急激に悪くなった。
おそらく他の生徒・・ムーディにすら聞こえていなかったのだろう・・・蜘蛛の声が。
常識から考えても蜘蛛は人間の言葉は話さない。
使い獣や魔力を持った動物なら人間の言葉を話すこともできるが、
さきほどの授業で使われた蜘蛛はすべて普通のものだった。
それに人間の言葉を話す生き物を授業の実験道具にすることは、
魔法省固く禁じられている。それなのにはその蜘蛛の声を聞いた。
なぜ、蜘蛛の声が聞こえたのか・・・・それはにも分からなかったが・・授業終わった後でもその声は頭の中で響いた。
[イタイ・・・クルシイクルシイッ・・・トメテイタイイタイイタイッッ]
悲痛な蜘蛛の叫び声がぐるぐると頭の中を駆け巡る。
そして最後の呪文・・「死の呪文」
一瞬だった・・ほんとうに・・一瞬にして生命あるものの魂を奪ったのだ。
ムーディがその呪文を唱え杖を向けたとたん、目も眩むような緑の閃光が走り、蜘蛛の絶叫が聞こえた。
もちろんこの時もにしかその絶叫は聞こえなかっただろう。そしてはあるものを見た・・・・
ムーディの杖から何か鬼のようなものが現われ、蜘蛛から魂を引き剥がすのを・・・
それすらも他の生徒達は見えなかったようだった・・・
「どうして・・・私だけしか・・・聞こえず、見えなかったの・・?」
授業後すぐに大広間へ向かうことがどうしてもできなかった。そして一人になりたかった・・
ハリー達はとても心配してくれたが・・・とにかく一人で歩きたかった。
なるべく人がいないところに行きたかった。
少しでも歩けば気分が紛れるかと思ったが、その考えはどうやら間違いのようだった。
気分が良くなるどころか、さらに悪くなるばかり。蜘蛛の悲鳴・杖から現われた鬼のような顔の悪魔・・
「・・・やば・・・・目がまわってきた・・」
視界が歪み、靄がかかってくる錯覚に襲われ始めたのだ。
「・・マダム・ポンフリー・・・の・・・と・・ころに・・行か・・な・・・きゃ・・・・・・」
は冷たい廊下に崩れるように倒れて意識を失った。
(あれ・・・今・・・・誰か私のこと呼ばなかった・・・・?)
薄れてゆく意識の向こうで・・・を呼ぶ声がしたが・・・起き上がることもできずに
意識が途絶えた
・・・・あたたかい・・・・・私、ベッドの中にいる?・・・保健室か〜・・・・・
そう、ぼんやりと考えながらはゆっくりと目を開けた。
だが・・そこは保健室ではなかった。はまだ保健室に行ったことはないが
明らかに保健室ではない。たしかにはベッドで寝ていて、丁寧に毛布までかかっている・・・
でもなんか・・・薄暗〜いし、怪しそうな分厚い本が本棚にぎっしりつまっているし・・・・
というか・・・この部屋には自分が寝ていたベッドとサイドテーブル、そして本棚とクロゼットしかない・・・
「・・・・どうみても・・保健室じゃないよ・・・ね・・・」
そう呆けていると、なにやら扉の向こうがからカチャカチャと音が聞こえてくる。
この部屋の住人だろうか・・・?まだ頭がくらくらするし、体も重いがはベッドから出て、
おそるおそる細めに扉を開けた。
一人の男がに背を向ける形でなにか作っている・・・扉が開く音に気づいたらしく、
その男は振り返った。
「気分はどうかね?ミス・」
「・・・・・・・・・・・・・」
パタン・・・(←扉を閉めた音)
なんでスネイプがおるんじゃあぁぁぁぁっ!!!
って!まっまさか!ここってスネイプの部屋!?っていうか巣窟!?
どうりで暗いはずだよ!!ってなんで私ここにいるのさ!!!
ひーん!陰険教師の巣かよー!!!
「・・・ミス・・・・聞こえているのだが?」
扉の外でいかにも不機嫌そうなスネイプの声が聞こえる。
「・・うっ・・・」
「出て来い」
は〜怒られるな〜・・・そう観念して扉を開けると、スネイプが腕を組んで立っていた。
まだ頭がくらくらするのに、そこで説教されたら・・・そうビクビクしているに予想外の言葉がかかった。
「どこか具合が悪いのか?」
「へ?」
絶対嫌味の嵐だろうと思っていたため、はスットンキョな声をあげた。
いつも不機嫌そうな皺寄り表情が少し不安そうな優しい表情で・・いつもとは感じが全く違うスネイプに
は不覚にも少し顔が赤くなった。
「えっと・・その・・・」
は返答に困った。
(なんて言えばいいんだろう・・・ムーディのこと話す?授業のことも?・・・)
はふと思い出したようにスネイプを見上げた。
「あの・・・先生がここに・・・?」
自分は意識を失っていたのだから、自分の意志でここに来るはずない。
ましてや近寄りがたい人物の巣窟・・いや・・部屋など・・
スネイプは質問したのはこちらの方だと少し眉をひそめたが、
まだ意識がしっかりしてないのだろうと、を気遣い彼女をソファへ促した。
スネイプもの前のソファに座り「そうだ」と頷き、続けた。
「君がいた場所は普段から人通りが少ない。我輩も偶然通りかかったからな。
へたすれば1日あそこで倒れてたままだったぞ。」
そう少し声を低めると、は俯いてしまった。
(本当に・・何かあったのか?)
そう問いただしたかった。だが、いつもは明るく元気な愛しいが顔を青白くさせ、
何かに怯えているようで・・・急かし聞きだすのは得策ではないとスネイプは話を
続けることにした。
「マダム・ポンフリーの所のほうが良いのだが・・あそこからでは遠くてな・・
我輩の部屋が一番近かったのでこっちに運ばせてもらった。」
俯きながらは小さく消えるような声で「迷惑かけてすいません・・・」と
呟いた。そんな消極的な態度にスネイプの不安はさらに濃さを増す。
は何気なく腕時計を見てハッとした。
「あっ・・・もうすぐ消灯時間・・」
そう勢い良く立ち上がった瞬間・・・
「くあ・・」
万全でない体調のうえにいきなり立ち上がったので、一気に視界が歪む。
そのままソファへとなだれ込んでしまった。
「馬鹿者!」
スネイプは慌てての上体を支えた。
明らかにいつもとは違うスネイプの気配に戸惑いが隠せない・・・
心配そうに覗き込んでくるスネイプに顔を赤くさせ「ごめんなさい・・」と繰り返す。
何度も謝るを優しく制し、顔にかかった真っ直ぐで綺麗な髪を丁寧にはらってやる。
「マクゴナガルにはすでに知らせている。我輩が寮まで送るから・・・
しばらくここで休んでいけ・・」
そう優しく促すと、は俯いて頷いた。
スネイプはソファから離れ、先ほど作っていたと思われる物をコップに注いで持ってきた。
「飲みなさい」
そう差し出されたコップを受け取り、コップの中を覗き込む・・・・・
「・・・・・先生・・・・・?」
コップに視線を落としたまま、弱々しいの声が空気を流れた。
「何かね?」
「・・・・・いっ色が・・・・紫と緑のマーブルなんです・・・けど・・・」
ものすごく不安そうにスネイプを見つめるに苦笑いをし、スネイプはの前のソファに腰を下ろした。
「飲みなさい」
「・・・・・・・・・・・・」
「死にはしない」
「・・ものすごっく苦そうなんですけど・・」
「良薬口に苦し」
「こんなに並々と注がれちゃあ・・・」
「一気に飲め」
「いいいい一気にですかぁ!?」
「効果が出ん」
「先生、毒味・・・」
「必要ない、飲め」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
コップを持ったまま固まっているに深い溜息をつき、スネイプは立ち上がってからコップを取り上げ・・・
「・・・・・!?/////」
ぐわし!
との顎を掴み上げた。スネイプの顔が間近にあり一気に紅潮する。
「せっせせせせせ先生!?」
わたわたと動揺するにニヤリと意地の悪い笑みを向ける。
「でわ・・・・我輩が飲ませて進ぜよう・・・」
「ひやひや!自分へ飲めまふ!!」
顎を掴み上げられているせいで上手く話せない必死のに問答無用!
スネイプは器用にコップに中身をこぼすことなくの口に流し込んだ。
コクン
「あれ・・・・苦くない・・・・」
「苺味だ・・・」と呟きスネイプを見上げる。スネイプはフンと軽く笑いコップを戻しに行った。
(良薬口に苦しって言うから・・・)
はコップや器具を片付けるスネイプの背中をしばらく見つめていた・・・・・・・・
おそらくに合わせて甘くしてくれたのだろう・・・今までスネイプに対して嫌悪感丸出しだったのに
今は全然違う・・作業するスネイプの行動一つ一つに釘付けになっていた。
「先生・・・・・・・」
信じてもらえないかもしれない・・・・でも・・・誰かに・・・この人に聞いてもらいたい・・・
なぜそんな感情が出てきたのかわからない。ただ・・・・
「何かね?」
「聞いて・・・・もらいたいことがあるのです・・・・」
「我輩にか?」
直感的に何か重大なことだと分かった。それならばが属するグリフィンドール寮の寮監に話すほうが得策だろう・・
そう口に出そうと思ったが、今もなお顔色が悪くなにか怯えているの様子を察し、その言葉を飲み込んだ。
愛しい・・・できれば自分の手で救い守ってやりたい。
俯いたまま頷くにスネイプはソファに腰をおろした。
「話してみなさい」
今までにない優しい気配には驚き、そして今日の終わりになってようやく安堵感を感じた。
「信じてもらえないかもしれません・・・」
「かまわん、話しなさい」
「あの・・・」
コンコンコン
が話をしようと口を開いた時、誰かが扉をノックした。
「こんな時間に誰だ?」スネイプは眉をひそめ、怪訝そうに扉をみた。
も不安そうに扉をジッと見つめている。
コンコンコン
もう一度ノックがした。
少し変化が現われましたよ。さんスネイプに顔赤くしてます。(笑)
「術式」でのムーディの人型がどうなったかといい!授業でのさんしか聞こえなかった、
見えなかったことといい!謎が深まるばかりですな!!
そして、消灯時間を過ぎてノックする人物は誰?
まっまさか!?ムーディ!?