不思議と心を落ち着かせるほんのり黴臭い館内、靴音だけがアクセントに響く静寂。
時折、耳を掠める、ページを捲る音が私はとても大好きだ。









+休日の過ごし方+







ロンドンより、少し離れた小さな町。
小さい頃より通っている、馴染み深い図書館。少し重めの扉を開いてちょこんを覗き込めば
そこにはずっと変わらない係員の笑顔。にっこりと挨拶を交わしてやや急ぎ足に館内へと足を向ける。
先日より狙いをつけていた本を手に取り、心を躍らせながら閲覧席へと踵を返した。




これが私の休日の過ごし方




長いホグワーツの一年が終わると、夏休みを迎えて生徒達は故郷へ。
家族たちとの楽しい休日、友だちとの再会、山のように出された宿題も悪戦苦闘しながらも片付けつつ、
は毎日のようにこの町でたった一つの図書館へと足を運んでいた。
田舎町の小さな小さな図書館。
決して貯蔵書数は多くはないし、カテゴリーも豊富ではない。
ホグワーツの図書室の足元にも及ばない場所だが、はこの小さい、貯蔵書数が乏しい
図書館が何よりも大好きだった。もしかしたらホグワーツの図書室より親しみを抱いていると
いっても過言ではないであろう。なんせ、彼女が小さい頃から通っている場所なのだから。
周囲の迷惑にならないようにと静かに椅子を引き、そっと腰を下ろす。
けれども、は椅子に腰を下ろすことはなかった。
の視線は対面式の大きな閲覧テーブルの斜向かいの席に注がれている。
この図書館は訪れる人はさほど多くはないが、斜向かいに人が座っていようとも
それほど驚くことではない。そう、人が座っていることなどは問題はないのだ。

問題なのは座っている人物そのものなのである。



「スネイプ・・先生?」


やや、怪訝そうに問えば目の前の人物はゆっくりと顔を上げた。
不健康そうな顔色に、肩につくかつかないくらいの少しクセのありそうな真っ黒な髪が僅かに揺れ。
そして常に刻み込まれている眉間の皺を、少し濃くさせたスネイプが静かにを見据えた。


「・・・・グリフィンドール寮生次期7学年、
・・・・・そうだったかね?」


「あっ・・はい。名前を覚えてくれて光栄です」


「・・・・・・・」


授業でいつも聞く声、口調には僅かに体を強張らせて返事をする。
パタリと本を閉じ置いたスネイプは、再びへと視線を走らせると、
目の前の席をさし「座ったらどうかね」と素っ気無く促した。
慌てて座るも、その素っ気に言い方に不機嫌さがないことに少しばかり驚いてみたり。
ちょこっと姿勢を伸ばして向けばスネイプは一瞬目を細めて笑った。その笑みにドキっとの胸の鼓動が早くなる。
いつもは不機嫌そうで笑うなんて絶対しないだろうなと思っていた教師が。
しかもこの教師はグリフィンドールを目の敵にしている教師として有名なのだ、
もできればスネイプに関わりたくないと思っていた、だけどもいくら夏休みで
ホグワーツから開放されても教師は教師だ。挨拶はするべきだろう。そう緊張するに易々と、
それもグリフィンドールの生徒に笑みをこぼすなど・・



「ここはホグワーツではないし今は休暇中だ。そんなに肩肘張ることはないミス・
・・・君はこの町に住んでいるのかね?」


「あっ。はいっ。私はこの町に住んでいるんです・・・いえっ;休暇中でも
先生は先生ですので;」


さらにビクッと背筋を伸ばし答えるに、スネイプは小さく噴出して笑った。
また初めて見るスネイプの表情にの心拍はますます高くなる。
この高鳴りは何だろうか、そうだきっと緊張からくる高鳴りなのだと思いながら。
「こんな小さな町にどうしたんですか?」と恐る恐る聞いてみれば、
またもや普段では見れないであろう優しい表情で返事が返ってきた。
なんでも、ホグワーツが夏休みになっても自分の研究でほとんど仕事詰めであるという。
そこで、僅かに空いた時間を縫って気分転換にイギリス内の町々を散策しているのだと。


「すごいですね・・でも、ここらへん汽車あまり走ってないですけどお時間大丈夫ですか?」


家のお手伝いや自分のすべきことを全て終えて、図書館に来たのだ。
陽も僅かに傾きかけている。
首を傾げて、腕時計を見やるにスネイプは小さく息を吐いた。


「・・・・・・・お言葉だが、ミス・。我輩には姿あらわしというものがあるのだが・・・」


「・・・・ぁあっ!」



「そんな高等な魔法なんて私使えませんからっ」と必死で弁明するに、スネイプは笑った。



「そんなわけでだ、今日はこの町に来たのだ。職業柄か自然とこちらへ向かってな」


「へへ・・小さな図書館でしょう?でも私ここの図書館大好きなんですよ」



そうスネイプ言葉がなんだか嬉しくて、はにっこりと微笑んでスネイプを見つめた。
一瞬スネイプの表情が固まったのは気のせいだろうか?
しかしはそんなことには気に留めず、静かに続ける。
小さい頃から通っていることや、意外と珍しい本が置いてあるなど。驚いたことにスネイプが
の話を静かに聞いてくれたということ。自分はグリフィンドールなのに・・
珍しい本があるということにスネイプも深く頷いた。


「誠にここは貴重な書物があるようだ。そう・・たとえば今君が手にしている本とかな」


そうの手にしている本に視線が向けられ、つられて視線を本へと落とす。
が手にしている本はなんの変哲もないマグルのお伽小説。不思議そうに首を傾げている
少女に小さく笑う。「発行部数が少ないのだよ」そう付け加えればやっと納得したように頷いて。
「先生マグルの本にも詳しいのですね」と視線を再び目の前の教師に向ければ、「まあな」とまた笑った。
なんだろう・・いつもと全く違う空気に少女の心はどんどん跳ね上がっていくばかり。
けれどもなんだかとても嬉しくて、胸がキュウッと熱くなる感覚。
少女はちょっと考えると、おそるおそるスネイプへ口を開いた。



「あの・・先生?近くにね?とてもおいしい紅茶を出してくれる喫茶店があるんです」



とまどいまみれの少女の言葉、おそらく普段学校で見せる姿と違うことにとまどっているのであろうか。
けれどもそれを咎めようとなど毛頭なく、スネイプは少女の戸惑いじみた呟きに
静かに耳を傾けていた。




「・・・そいえば喉が渇いたな」


「・・・っじゃっ・・じゃあ」


少女の明るい表情がスネイプに向けられ、小さく微笑み返した。




いつもの平凡な休日が特別になった日。
























地元の図書館はいつもいつも騒々しいです。おとなしくしろーって!
なので静かな図書館って憧れますね