えー。まあ、なんて言うんですか?
悪いのはたぶんきっと1割がた?、私かなー思うのよ。
確かにさ?あの呪文はまずったかなあとは思うけどさー。
だからってこうも執拗に責められなければならないわけ?
只今、・は絶体絶命のピンチなんですよ!はい!!
「んー・・・そろそろ疲れてきたっぽい?かなあ・・・」
たったったと軽い足音を立てながら、は盛大に溜息をついた。
ローブのボタンは取れ、赤と黄色のネクタイも僅かに乱れて風になびいている。
背中まで伸ばされた茶色がかった黒い髪は全速疾走するには邪魔になるので、手早くまとめていた。
かれこれ奴との追いかけっこは30分ほど続いている。
大勢いた仲間たちは奴の餌食となったようだ。轟音と石柱が倒れる音が背後に迫ってくる。
ちらりと肩越しに振り返れば、怒りと空腹で真っ赤に燃え上がった双眸と目が合った。
瞬間、雄叫びをあげる追跡者には思わず首を竦める。
もう一度溜息を吐き出すとは視界の先に人影がよぎるのを見とめ、ハッと顔をあげた。
「巻き込んでしまう!」焦りの色が顔に走るが、その人物を見出すと一瞬のうちに安堵の色へと変わる。
「おーい、セブルス〜vv」
走るズピードはそのままに、は満面の笑みで手をぶんぶんと振りながら、
目の前の黒髪の少年と突っ込んでいく。
図書館より出てきた少年は、やっと借りることのできた本を開きながらの前を横切る
ところだった。明るい呼び声に少年は不機嫌そうに顔をあげ、そして凍りついた。
はスピードを緩めることなく、少年へと辿りつくと、パシッとその腕を取って
さらに走り続ける。瞬間転びそうになるが寸前のところでバランスを整え、
の横を走り出した。
肩につくかつかないかくらいまで無造作に伸ばされた髪が、ふわりと揺れる。
ローブの裾が翻るとともに、胸元の蛇のエンブレムが光の加減で光って見えた。
セブルス・スネイプは杖を取り出し、魔法で本を部屋へと送り出すと不機嫌そうに口を開いた。
「・・・・質問していいか」
「ほいよ!」
横目で睨みつけてくるセブルスに、は前を見据えたまま明るく答える。
その明るい声に些か気分を害したように眉を顰めると、溜息混じりに口を開いた。
「今日の魔法生物は?」
「彼っすね」
魔法生物飼育学。
セブルスはこの授業をとってはいなかった。すでに目標があるため、得意分野である
魔法薬学を専門に受けている。しかし、それなりに魔法生物の知識は心得ていた。
魔法使いであるための基本以上のことは多少知っている。
ちらりと後ろを見やれば、咆哮をあげながら突進してくる緑色の巨体。
翼がなく蛇のような長い胴体から見ると、東方のものであろう。
それとともに彼の脳裏に、自分達を追っている追跡者のデータがあらわれる。
「東方種のドラゴンと言えども、一般授業の使用・飼育は禁止されているだろう」
「うん、東方種はかなり希少で神族に属するものが多いから、世界魔法庁に何十もの申請を出す必要があるからね。
しかも絶対というほどその許可は下りないってやつ?」
うんうんと頷きながら、スラスラと答えるに、ますます眉間の皺が増える。
「じゃあ、あれはなんだ」
「ドラゴン」
「矛盾してないか?」
「そうっすね」
ケタケタと笑い出すに、セブルスは眩暈がしそうになった。
隣で平然と走るこいつもそうだが、全世界の魔法界をつかさどる世界魔法庁で
管理されている東方種の絶滅の危機にさらされているドラゴンが、授業で使われているのか。
いくらこのホグワーツ校のダンブルドア校長が、権威ある魔法使いであるにしても
許可がおりるとは思えない。盛大に溜息を吐き出そうとしたセブルスだが、
ふと思い出したように口を閉ざした。ちらりと横目で隣を疾走するを見やる。
「おい」
「ん?」
「お前たしか東方の国の出はだったな」
「おうv」
「たしか陰陽師という東方魔法使い一家だな?」
「よく知ってんね〜v」
あっけらかんと答えるに対して、セブルスの表情は徐々に冷気を伴っていく。
中国そして日本という国で有名な陰陽師。魔法使いとは少し違う種族らしいが。
セブルスには違いがいまひとつ理解できないのだが、は西洋の魔法と習うために来ている留学生。
陰陽師というものにある種の興味を惹かれて、彼なりに調べていたので若干の知識を持っている。
それらと今起こっている現状を照らし合わせてみる。
1・ドラゴンは種類に関係なく希少価値の生物として、授業に用いたり・飼育してはならない。
2・自分達を追っているのは東方種のドラゴン。
3・は東方出身の魔法使い、いや陰陽師。
4・陰陽師はいろいろ操れるらしい。(セブルス調査談)
5・たしかの家の紋章にはドラゴンが刻まれていたような。
「あれは、お前の式神か?」
「大正解っ!!正解したセブルス君にはもれなくドラゴンの鱗を進呈〜!!」
『誰がやるかあ!!!』
ぱんぱかぱーんと明るく歌うに第三の声がとセブルスの後ろから響いた。
肩越しに振り向けば、怒りマークを顔中に浮き出しているドラゴン。
炎のような瞳を爛々と輝かせながら2人を、いやを睨みつけていた。
『ひでえっひでえや!。家の守り神をあんなガキ共の戯言に使うなんて!!』
地を這うかのような咆哮が廊下中にこだます。
恐ろしい声なのに、その内容はあまりにも親しみがあり、セブルスははっとして
追ってくるドラゴンを凝視した。
も他の生徒同様にペットを所有している。が、フクロウや猫などではなく彼女の家代々司る
龍の化身だ。なんでも家の守り神だそうだ。
長さ40cmほどの体躯でいつもの肩に乗っているドラゴン。
その声は甲高く、そして恐ろしく口が悪い。
「おい。あれはか?」
「おっよくわかったねーvv」
「お前、何をした」
「むっ何さ。さも私が原因みたいな言い方!!」
「違うのか?」
「あたりっすv」
「・・・・・・・」
体中から溜息を吐き出したい感覚に襲われ、セブルスは目を閉じて小さく頭を振った。
そんなセブルスにはケタケタと笑って、ことの顛末を呟いた。
それは魔法生物飼育学の時間だった。
常々ドラゴンを扱ってみたいと思っていた教師と生徒達数名は、ある目的のために
ダンブルドアとに頼みをしていた。
それは
を授業で使わせて欲しい
ちなみに数名の生徒というのは彼女の同僚の生徒であり、ホグワーツでは有名な彼ら。
ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン、そして彼らの
問題に引きずりこまれている、ピーター・ペテグリューの四人である。
ダンブルドアは、野生のドラゴンではないので規定にはかからないし、
がOKするならいいであろうと許可をくだした。
とは顔を見合わせながらいいんじゃない?と了承する。
自身も、多くの者にドラゴンというものをしっかりと知ってもらいたと、
思ってたようで、快く了承したのだ。
「そしたらさー、あの馬鹿者共と、セブルスと同じ寮の白髪若年老人さがー!」
「・・・・マルフォイのことか?」
「そうそう!!あいつ絶対将来禿げるよ!!」
憤慨したように口を尖らせるに、同期のルシウス・マルフォイの顔が
脳裏によぎった。
セブルス同様にグリフィンドールを毛嫌いしていて、常に自信家で尊大な態度で
数人のお供を引き連れて校内を我が物顔で歩いている。
グリフィンドールを敵視しているのは、まあわかる。
セブルス自身もとくにジェームズを筆頭にした悪がき共とは関わりたくない。
ふと、セブルスは憂いにも似た目で隣を疾走するを見やった。
そういえば、もグリフィンドールの生徒だが、他の生徒に比べて
嫌悪感がだいぶ薄れる。ハッとしたように頭を振ってから視線を外すと、
再び前を見据えた。
そろそろ体力的にも辛くなってきている。
に対して比較的?友好的?なセブルスに対し、ルシウスはも
険しく敵視していた。そもそも自分より優れた者がいるのが許せないルシウス。
のペット、いや式神に授業を教わるなんて耐えがたいものがったのだろう。
は人語を話す。ペットは違う。ペットと称するものなら目を爛々に赤くして
「ペットじゃねええー!!」と頭に噛み付くのだ。
式神であるから人語も操れる。よって、授業も魔法生物飼育学教授を補助に
が主導権を握って授業をすすめていた。
それがルシウスにとって気に入らなかったのだろう。
彼の性格はセブルスがよく知っている。苦笑いするセブルスを見やると
はわずかに頬を膨らませた。
「ちょっと!!何笑ってんのよ!!マルフォイのせいで授業めちゃくちゃに
なったんだか・・・うきゃっ!!」
石畳の廊下はなだらかではない。ところどころわずかに突き出しているものある。
いつもはそれを把握しながら足を進めているのだが、
今回は焦りも感じていたためか、把握してなかった。
くんっと足先に違和感を感じた時にはすでにの体は傾いていた。
今ここで転べば、の突進は免れない。
そしての異変をも目ざとく感じ取り、近くにあった石柱をもぎ取ると
へと投げつけた。
「!!」
視界の隅でが大きく体をうねらすのを見とめた瞬間、セブルスは左手での腕を引き寄せ
右手を懐へと伸ばした。
石柱が2人へと向かっていく。やがて大きな衝撃音と共に粉塵が巻き起こり瞬く間に
廊下は視界ゼロになる。
は満足そうに吼えると、にんまりと巻き起こった粉塵を見据えた。
『へっへー!!式神の恐ろしさ思い知ったか』
ゆっくりと粉塵が和らいでいく。あともう少しで2人の姿が確認できる。
『!!』
突然風が起こり粉塵がサーッと舞い上がった。2人がいた場所に青みがかったドームのような見え、
は目を細くする。
「貴様、図に乗るのも大概にしろよ」
薄らいでいく粉塵の向こうで、怒気を含んだ低い声がの体を取り巻いた。
一瞬殺気にも似た冷気がの体を硬直させる。
ドームのような障壁はセブルスが懐から取り出した杖で作り出したものだった。
をしっかりと抱き寄せ、右手を掲げている。このドームで衝撃と粉塵を凌いだのだ。
ギンと鋭い視線がに向けられ、僅かには後退した。
今の自分はセブルスより何倍も大きい姿だ、力任せに突進すれば難なく済むはずなのに、
セブルスから漂う空気は巨体でも身動きが取れない。
『あー』『うぅ』と唸っては窮屈そうに体を捩じらせるを一瞥して、深く息を吐き出すと、
杖を下げドームを消した。
「元に戻れ。今の貴様の姿ではが不利すぎる」
『む・・わかった』
一瞬納得のいかない色を浮かべるをさらに冷たく一瞥してやると、は不貞腐れたように
了承し、ポンと軽い音をたてて40cmの姿へと戻った。
廊下中にこだましていた重低音の変わりに甲高い声がセブルスの鼓膜を刺激する。
「でもようっセブルス!!おいらは被害者だぞっ」
上目使いにセブルスのローブの裾を握り締める姿を見ると、これがさきほどの
ドラゴンかと目を見張る。小さく息を吐き出すと、隣でのへーとしているの
頭を軽く叩きながら、言葉はに向けた。
「だからといってと貴様の体躯は明らかだ。」
「そうそう!!女の子なんだしね私!」
「お前が原因なんだろが、阿呆が」
「むう」
落ち着きを取り戻したから再び事情を聞くことにする。
授業でドラゴンを使いたい、そう申し立てをしたのは魔法生物飼育学教授と
ジェームズ達。
しかし純粋にドラゴンの生態を調べたいと思っていたのは教授だけのようだった。
「あの悪ガキ共、なんか薬の調合でドラゴンの鱗が必要だとか言って・・」
「無理やりの体から鱗を抜き剥がしたのよ」
「ほらっ見てくれよ!!痛ぇのなんのって」
後足で器用に立ちながら、前足で自分の体を指差して見せる。
セブルスは覗き込むようにへと身を乗りだすと、指差された箇所へと
目を凝らす。小さい鱗でびっしり覆われた中一箇所だけ鱗が取れ、
赤く血が滲んだ箇所を見とめた。
小さいままのから鱗を採取するのはなかなか大変だが、巨大化したからならば
採取もしやすいだろう。だから奴らはドラゴンの勉強をしたいとかこつけたのか。
セブルスは一瞬眉を潜めてを見やる。
「で?そこにマルフォイがどう加わる?」
ジェームズ達の悪戯にルシウスが加担するとは思えない。
せいぜい遠くから見て仲間達と嘲笑っているだけだろう。
が口を開く前に、の口から小さい炎がポンッと吐き出された。かなり憤慨している様子だ。
は今度は自分の顔を指差した。
「あの白髪は俺様のたーいせつな髭をぶち抜きやがった!!」
「ね。間抜け顔でしょv」
「うるへー!!」
何かの薬で使わせてもらおうと髭を抜き取ったルシウスにさすがのも
頭にきたようで、抗議をした。最初は口論だけだったものが次第にエスカレートし、
またジェームズ達も巻き込んで、杖を取り出すまでに発展。
咄嗟にを庇っただがその魔法をもろに受け、角や足などに損傷を受けた。
それでも非を認めないルシウスにがついにキレて暴れだしたという始末。
ジェームズ達にもしっかりと仕返しを食らわし、止めようとしたから発せられた
魔法にも激怒して見境をなくし、校内を破壊しまくってたというわけである。
つまりはとばっちりを受けただけなのだ。
粗方の内容を把握したセブルスも、を宥めつつ窘めてその小さな体を片手で持ち上げた。
僅かに体を強張らせるを無視して、の腕を引き立たせる。
「もお前も傷だらけだな。今医務室に行けば混雑しているだろうから
私が借りている個人研究室に・・調合してやる」
「あ・・うん」
あたりを見渡せば、巨大化したに倒壊された石柱などがいつの間にか
元の変わりない姿へと戻っている。おそらく水晶か何かでこの件を見ていた
ダンブルドアが治したのだろう。
きっとセブルスと、そしてのやりとりを見て微笑んでいるに違いない。
小さく舌打ちをすると2人と1匹は魔法薬学教室の方へと歩き出した。
翌日、立ち寄った医務室で全身に包帯を巻かれ呻き声をあげている物体達に
セブルスは小さい溜息を吐いた。
彼らが退院したら壮絶な処罰が待っていると、スリザリンとグリフィンドールの
寮監が口を揃えていた。
「まったく、ドラゴンの鱗など一ヶ月待てば容易に手に入るものを・・」
「あっセブルスやっほー」
魔法薬学教室の隣、特別に彼に与えられた専用の個人研究室の前で
とその頭に乗ったが待っていた。
少し怪訝そうに眉を潜めると、ぶっきらぼうに「何だ」と口を開く。
との怪我は見た目ほど軽く、セブルスが調合した薬で
あっという間に治った。
「おうっ!頼まれてたブツ持ってきてやったぞー。ほらっ」
の頭の上に乗っかりながらも長い胴体を伸ばし、セブルスへと顔を
近づけるとはにんまりと笑っての頬を尻尾で軽くぺちぺち叩く。
それを受けて、はローブのポケットかた手のひらに納まるくらいの
瓶を取り出し、セブルスへと差し出した。
透明な瓶の中にはドラゴンの鱗がぎっしりと入っていた。
ドラゴンは一ヶ月に一度古い鱗が抜け落ち、そこから新しい鱗が生えてくる。
その抜け落ちた鱗を定期的にセブルスはから受け取っていた。
「あぁ、ありがとう」
少し表情を緩ませるとセブルスは大事そうに瓶を受け取った。
後、魔法生物飼育学でドラゴンを使われることは一切なかった。
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なんとなく。ジェームズ達も出したかったのだけどそこまで
手が回らなかったす;しまりがない内容でごめんなさいっ
ドロン!!
2006年2月20日執筆