「じゃあかしぃわぁ!パツ金ボンボーン!!」


黒く長い髪を綺麗に舞い上がらせながら、は緑と銀のネクタイをした男子生徒へと盛大な回し蹴りをくらわした。
蹴られた生徒ードラコ・マルフォイは白目を向いて冷たい石畳の地面へと儚げに散っていった。








  逃亡


  介抱


  観察










さぁどうする?!














「もっち逃亡じゃけんのうっ!!」























         +マグル+






































ずる・・ずるずるずるずる・・ごっ・・・・・・・ずるずる




























人気のない薄暗い廊下に何かを引きずるような不気味な音が響いている。



「ちぇっ、回し蹴り如きで気絶すんなよなー」



はぶつぶつと毒づきならがドラコを地下牢のスリザリン寮へと引きずっていた。
そう、この不気味な音はドラコを両足を持ち引きずっていた音なのである。
途中のごっという鈍い音はドラコの頭を壁か何かにぶつけた音であろう。
は何か聞こえたように感じたがあえて気にしないことにした。今それどころではないのだ。


「ったくさー!こいつ細っせえくせに重いよ!絶対ホグワーツって重力重いよね!ニュートンの法則無視!」


ごっごっと後ろの方で鈍い音が続くがは無視こいて引きずる。
とても小柄なから比べると随分と背の高いドラコを引きずっているのだ。
ほんの少し注意を逸らすだけでバランスを崩しかねない。
その場に放置しておいても良かったのだが、なんとなく罪悪感に駆られたのでスリザリン寮入り口前に
放置しておくことにしたのだ。浮遊術を使ってドラコを浮かしてもいいのだが


「こんな奴に使う魔法必要なっしんぐ!」


もうすぐスリザリン寮前の十字路にさしかかったところだった。






























「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・;;・・・・・・・;あは;」





曲がり角で遭遇したのはドラコが所属するスリザリン寮監



「ごきげんよう!スネイプ教授!いいお天気で!」



「今日は雨だがね。




スネイプはサッとドラコをみやって一瞬目を見開くと至極楽しそうに、意地の悪い笑みでを見やった。
まさに減点ができる絶好の場面に遭遇できたと祈らんばかりの表情にの顔がひきつる。



「ほう?・・・・ミス・は大物を仕留めたようだ。さて、そなたの大物取り武勇伝をお聞かせ願えるかね?
そう・・我輩の部屋で」

「ちっきしょう・・ドンに見つかるとはっ」

「何か?」

「なんでもないっす!蛇親分!


スネイプはスッと目を細めてを見やると懐から杖を取り出した。
ふわりとドラコの体が浮かばせ、背中を向けたスネイプに悟られぬようにそーッと踵を返す








ぐわっし



首根っこをつかまれてしまった!


「どこへ行くつもりかね?」


「やっ、ほら!無事マルフォイ君もスネイプ教授の手に渡ったことだし!とっとと寮に帰ろっかなーなんてさ!」




倒れてたのを見つけてここまで引きずってきたんだよぉ!と、さも自分は偶然居合わせたと力強く抗議すれば
「ほう?」と口端をつり上げるスネイプ。


「回し蹴りをしたのは君だったような気がしたが、あれは我輩の目の錯覚かね?」





見てたんすか?!






「うーんスネイプ教授だ〜いぶ目がモウロクしてますねー」

「我輩は視力は良くてね。」

「うにゅぅ・・」


片手には杖を持ちドラコを浮かせ、もう片方の手にはを首根っこをつかみ上げ
足早に地下牢へと向かう。


「先生ぇ、不可抗力だったんだよぉ〜」


そうさも悲しそうに上目遣いで見上げれば、スッとスネイプは目を細めてを見据えた。
ビクッと体が強ばらせるとシュンと俯く。上の方から落ちてくる深いため息ともに、は冷たい地面へとおろされた。
そこはスリザリン寮入り口の前。
スネイプはの両耳をふさぐと、なにやら扉に小さく呟いた。扉がゆっくりと開くと、再びドラコを浮かして・・・




ゴッ・・ボスッ



ソファへと投げ飛ばした。
着地とともにソファのサイドテーブルに頭がぶつかって鈍い音をたてたが、スネイプは素知らぬ顔で寮の扉を閉めた。
ポカーンと口を開けて見上げているに怪訝そうに眉を寄せ「何だ」と小さく唸れば、
が遠慮がちに口を開く。



「医務室につれていかなくていいの?」

「問題ないだろう。薬の無駄だ」

「今投げ飛ばした?」

「貴様は引きずっていただろう」

「今なんか鈍い音が」

「あぁ・・・知らん」





それでいいのか!寮監が!!





心の中で盛大に突っ込みをいれつつもあえて口出さないでいるに、背を向けさっさと奥の研究室へと歩いていく。
一瞬逃げかけようとしたが、チラリと肩越しに睨みつけられてしまったので慌てて後を追いかけた。

初めて訪れるスネイプの研究室は思いのほか、すっきりとしていた。
たしかに棚には見たこともない薬瓶やホルマリン漬けが所狭しと並べているのだが、それらはきちんと
整頓されており不気味な印象はさほど受けない。
ずっしりとした黒い革張りのソファーに座るように進められ、おずおずと腰を下ろせばの体が
深くソファへと沈んだ。
ローテーブルを挟んだ同じ形のソファにスネイプも腰を下ろすと同時に、「さて」と溜息交じりの低い声が紡がれる。



「さきほどの君の回し蹴りは・・ずいぶんと・・まあ・・見事に入ったものだな」

「にゅ!!でしょ!?自分でもきっれーにはいったなーと思っていたの!?」

「誰も褒めてなどいない。たわけが」


にぱあと表情を輝かせてスネイプへと身を乗り出せば、冷たい表情で返される。
はシュンとなり、またソファへと身を沈めると、おそるおそるスネイプを見つめた。


「その・・先生?やっぱり減点?」


こげ茶色の可愛らしい瞳が、びくびくと震えている。
スネイプはジッとを見つめた。黒く長い髪に年相応に見えない幼い顔立ち。
可愛らしい瞳が震えながらスネイプの顔色を伺っている。



「減点・・は・・イヤ・・・」


「ほう」


それなら処罰に・・



「処罰もいやだな。羊皮紙の課題も絶対に嫌・・・でもってぇ・・」

「おい;」

「できたらお咎めなしの見逃しの方向で!!」

「却下」

「むぅ」


キラキラと人差し指を立て「ねv」と首をちょこんと傾げ、とびっきりの可愛らしい笑みをスネイプに投げつけるも、
氷点下鉄仮面無表情フェイスで即答され、項垂れる


こ・・これはもはやスネイプに回し蹴りをお見舞いして逃亡するしかない!!


「我輩に回し蹴りを食らわして、逃亡できると思うなよ」

「うっバレバレ?!」

「やろうとしてたのか、貴様;」


気まずい空気がスネイプの部屋に漂う。あはーとカラ笑いをするに、
スネイプは苦々しげにを睨みつけ舌打ちをした。
再び流れる気っまずーい空気には「ぅぅ・・」と呻き声を微かにあげて俯いた。
そんなの仕草にスネイプは表情に表さないように笑うと、そっと立ち上がりの横へと腰を下ろす。
驚いて立ち上がろうとするを無理やり座らせ、そっとの頭から髪を撫でれば、
一瞬頬を赤く染めたが、目を丸くしてスネイプを見つめてくる。


「セクハラー?」

「貴様;」

「だってだってー」

冷ややかに見据えれば、口を尖らせる少女。そんなの口に人差し指を置き黙らせれば
さらに少女の顔は紅潮した。


「我輩なら、侮辱された言葉を放たれたら1週間寝込み、うなされる呪いを相手に掛けてやる。
君のような数時間で目を覚ますような突発的なことはしない。相手を死ぬほど後悔させ
二度と自分の前に姿を現せないくらいにまで陥れてやる」


「・・・・・・;先生ってば怖っ;」




そっか・・先生私が回し蹴りしたところを見てたんだね・・きっとドラコが言ったことも聞いてたんだ・・



「でもね先生。私は正真正銘のマグルだもん。言われても仕方ないと思っているんですよぉ」


「だが、君は「穢れた血」ではない。れっきとしたマグルの血が流れているのだ。
それをマルフォイめ・・・愛しいキリサに「穢れた血」などと」


「・・・・・・・・はい?」


苦々しげに「マルフォイめ・・」との頭を優しく撫でるスネイプに笑いつつも、
その後に紡がれた言葉に、の表情が固まった。



今、なんていった?こいつ!!



ゆーくりと後ずさりをする仕草にニヤリとスネイプが意地悪く笑った。
「やばい!!」とバッと逃げようとするも、スネイプの方が素早かった。ぐいっと腕を引っ張られバランスを崩し
そのままスネイプの懐へと飛び込む羽目になる。
慌てて懐から抜け出そうとするも、きつくスネイプに抱きしめられてしまい逃げられない!!



「にゃー;攻撃?呪文?身を守る?様子を見る!!どうしよう?!」

「どこぞやのRPGか;というか我輩はモンスターかね?」

「こっこの場合先生モンスターだよぅ!!」


自分の懐でパタパタと暴れる。けれども本当に嫌がっていたのなら頭突きやアッパーが
スネイプの顔をめがけてくるであろう。実際、が本当に腹が立っている時はかならずそれらが
お見舞いされるのをスネイプは度々見かけている。
フワリとから見えぬように優しく微笑み、優しく抱き寄せればぴたりとの動きが止まった。



「笑うかね?ずっと君を見ていたといったら。教師が生徒に惚れるということに。」

「・・・・私も先生大好きだよ〜。魔法薬大好きだし調合も楽しいし。先生も分かりやすく教えてくれるもん!」

「君だからだ」

「そうなの?」

「そうだ」


もぞもぞと腕の中のが動いて、ポフッと顔を出す。その仕草もなんとも可愛らしい。
ほのかに頬を染めてジッとスネイプを見上げている。そっと優しく頬を撫でてやれば猫のように目を細める少女。


「にゃあ・・でも先生?私はマグルなんだよ?」

「関係ない」

「いいの?」

「あたりまえだ」

「私もね、先生のこと大好きだったんだよ?」

「それなら問題あるまい」





















「おい!!昨日はよくもこの僕に回し蹴りをしてくれたな。
この薄汚い「穢れた血」が!!」


「青コーナー!!蛇所属〜万年蒼白顔のドラコ〜!!!
赤コーナー!!獅子所属〜ラブリー〜!!!   レッツファイ!!」


翌日のほほんと廊下を歩いていたの前に、昨日盛大に回し蹴りをお見舞いしてやった
ドラコが立ちはだかった。後ろに二人の大きな磯巾着を抱えて手をボキボキと鳴らしている。
そんなドラコをぽけーっと見やった後、はにっこりと微笑み腕を回しながら盛大に叫んだ。
廊下にいた生徒達もおもしろうそうに集まって二人を取り囲む。
の合図でドラコはニヤッと笑って、素早く懐から杖を取り出した。




バシッ!!



ドラコの杖を持った腕を誰かが止めた。は素手で殴りかかろうとしていたようだ。
ふと見上げればいつも以上に眉を顰めたスネイプが二人を交互に睨みつけている。
ドラコは「やった!」と言わんばかりな表情でを見据えると、猫撫で声でスネイプを見上げた。


「スネイプ教授。が先に仕掛けてきたんです」


「うん!!やっぱりガキンチョは拳でファイトだもんね!!」


てっきりは落ち込むと思っていたのに、にっこり両の拳をスネイプに示して見せたのだ。
驚いているドラコを尻目にスネイプは深く溜息を付くと、の頭をガシガシと掻き撫でる。




「スリザリン、グリフィンドールから5点ずつ減点。二人には放課後魔法薬教室の掃除を命じる。無論マグル式でだ。」

「むー・・・まー仕方ないか」

一瞬むうっと頬を膨らませるだが、納得したように拳を下ろした。
反対にドラコの方は気に食わないといった表情でスネイプにくってかかる。


「スネイプ教授!!どうして僕まで処罰を受けなければならないのです?!」

「丸腰の相手に杖を取り出すとはなんとも卑怯ではないかね?マルフォイ。
しかも相手は女性だ。」

「そ・・それは・・・」


口をどもらせるドラコにニヤリと笑うと、その耳にドラコにしか聞こえないように呟いた。
低くそして冷たく。

「貴様。我輩の大事なに掠り傷一つでも負わせてみろ・・ただでは済まさん」

「!?・・・・・」

みるみるに顔を真っ青にさせ、冷や汗をたらすドラコには首を傾げながらスネイプを見上げた。
スネイプは一瞬に微笑むと、サッと踵を返し廊下の角へと消えていった。
まだ呆然と立っているドラコにポンっと肩を叩くとにっこりと微笑む。



「まっほら!!喧嘩両成敗ってやつさね!!あっ安心しなよ!!私マグル式の掃除は大の得意だからさ!!」




もうにはちょっかいを出さない!!

固く誓ったドラコ君であった。