遅いっス!」


「ひゃーごめんまた子ぉー。お団子買ってきたから許してー;」


「お団子?!許すっスv」


「また子げーんきーん」






























+sweet enemy Line+

















人影が少ない倉庫が立ち並ぶ港


コンテナの上で仁王立ちで声を張り上げて待っているまた子に駆け寄る。
走る勢いで跳躍すると、一回転をしてスタンとコンテナの上、また子の横へと着地。
コンテナに座り込んでお団子の包みを開けて見せれば、「わあっ」とまた子の顔が綻んだ。



「そういえば、今日は制服じゃないっスね」


「うん、今日は非番なんだ。それに隊服でなんて会うなんてやっぱちょっとあれでしょーが;」



梅餡の団子を口に運ぶまた子に苦笑いをしながら、柚子餡の団子を手にとる。

今日は非番という名の休日。
いつもは定められた制服に身を包んでいるが、休みの今日は衿やポケットに赤系の和柄をいれた、濃紺の作務衣姿。
せっかくの休みなのだから、年相応に着物を着ればいいのにもったいないと上司や同僚達に何度も言われるが、
休日でも何かあれば即対応できるように、動きやすいようにとはいつも作務衣だった。
その証拠にの横には刀。

また子の言葉にハアッと溜息を吐き出すと同時に、高めに結わえられた黒髪がさらりと揺れた。


「えー私は好きなんだけどの真撰組制服姿。あのプリーツのミニスカート超かわいいじゃん!
私もみたいに膝上まであるロングブーツにしよっかなと思ってるんス」


「えーまた子は私よりスタイルいいんだもん、足隠すのもったいないよー」




鬼兵隊幹部・来島また子

真撰組局副長専属監査方・


二人の肩書きは決して相容いることのない宿敵同士。

しかし、それ以前にとまた子は幼馴染で。
人里離れた村で一緒に育ち、いつも二人一緒だった。





ずっとずっーと、どちらかがお嫁さんに行っても、

二人ずっと傍にいようね





そんな少女の約束はいとも簡単に引き裂かれてしまう。二人が15になった年の冬、村は天人に襲われて滅びた。
幼少の頃から剣と銃器に長けていた二人は、武器をとり天人へと反撃するも多勢に無勢、二人は離ればなれになり。

は瀕死状態に陥りながらも逃げ伸び、武州でまだ真撰組の真の文字すらない頃の近藤と土方に助けられた。
親身になって世話を焼いてくれた近藤達に、は二人に一生かけて恩を返すと誓い、彼等の後ろをついていき自分も隊士に。

一方、また子はボロボロで彷徨っていたところを高杉に拾われた。
高杉を慕いその思想に心酔して鬼兵隊へと身を置き、己の力だけで幹部へと登り詰め。
その手にする銃は高杉のためにあると頑なに誓う。


二人が再会したのは真撰組と鬼兵隊が衝突した捕り物で。



はなぜテロリストなんかにとまた子を怒鳴りつけ、

また子はなぜ天人にひれ伏す幕府の戌にとなじった。






けれど、二人は敵同士にはなれなかった。


互いを憎むことができなかった。


























「来島」


ふと頭上から低いよくとおる声が降ってきて、とまた子は顔をあげた。



「っ・・・」



「晋助様っ!」


息を飲むとぱあっと笑顔が綻ぶまた子。
二人が腰を降ろしていたコンテナの後ろにはどうやら鬼兵隊の船が停泊していたようで、
その甲板から鬼兵隊の長である-高杉晋助が二人を見下ろしていた。
ちらりとを無表情に捉えると、また子へと視線を移す。


「武市が呼んでる」

「はいっス!」



腰を上げるまた子にも慌てて腰を上げる。
不思議そうに見つめてくるまた子に残った団子の包みを差し出す。



「私そろそろ帰るねっ。このお団子あげる、遅れたお詫び」



「えーやだーっ!次会えるのいつになるかわかんないじゃん!
すぐ戻ってくるからここで待ってるっスよ」


「え・・でも」


「待ってろっつったら待ってるっス!帰ったら絶好スよ!
あ、晋助様あっ!が逃げないように見張ってくださいっス!」


「おぉ」



甲板に両肘をついて見下ろしてくる高杉がゆらりとを捉える。
何を考えているかわからない隻眼には小さく息を飲んだ。


「え;っちょっまた子ぉー!」


パッと跳躍して船へと消えて行ったまた子を呆然とお団子の包みを持ったまま固まってしまっていると、
サッと黒い影が音もなく降りてきた。
ハッとして見やれば、色鮮やかな着物。甲板にいた高杉がの目の前にいて。
言葉をつまらせるには目をくれず、高杉はの手にある団子へと向ける。




「一本くんない?」


「へっ?あ・・どどどどうぞっ」


わたわたと差し出せば、包みを受け取り笹の葉を開きながらコンテナの上に腰を下ろす高杉。
海苔を巻いた団子を口に運ぶ高杉を見下ろしながら、は帰ろうか残ろうか迷った。




「座れよ」


「へ?・・あ・・いや;」


座れ。逃げたら・・」


「座ります。座らさせていただきます」


下から鋭い眼孔で睨まれわたわたと高杉の隣、間1人分をあけてちんまりと正座する。
そんなを鼻で笑うと再び団子を口へと運ぶ。




沈黙が訪れる。




なんというか・・





非常に気まずいんですけどこの空気。




高杉さんって鬼兵隊のリーダーでしょう?
そんな人に見張り頼んでいいのまた子!
武市さんや万斉さんとは何度か話したことはあるけど・・・
この人と話するのはもちろん、こんなに近くなんて;どーうするよぉのっ!
絶対この人私とまた子会うの気に障ってるって!私、真選組なんだしっ;
お願いまた子!早く戻ってきてぇっ!!

















「俺が怖いか」



「へ?」



突然沈黙を破る高杉の呟きに脳内で暴走しかけていたはしっかりと聞き取れず、間抜けな声をあげパッと高杉を見やった。
そこにはまっすぐこちらを見据える高杉の顔。
左目が包帯で覆われ右目だけがに注がれているが、片目だけで見据えられていると両目よりも力があるように思えた。
今までも何度か高杉を見かけたことがある。


捕りものの時、自分達真選組を見下ろす時の嘲笑じみた表情。

土方と刀を交えている時、まるで獣が狩りを楽しむが如くの笑み。

また子と会っている時、離れたところで部下に指示している固い表情。

先ほど、を甲板から見下ろしていた時の無表情な顔。



そして


今、を真っ直ぐ見据える真剣な表情。






あぁ、この人もいろんな表情をするんだ。












「俺が怖いか









もう一度高杉の口が開き、はハッとして顔をあげた。



























あれ?








「今・・名前?・・・」


きょとんと首を傾げるに高杉はハッとしたように顔を背けた。




「俺ガ怖イデスカ、コノヤロー」


「何でいきなりカラクリ口調ぉっ?!しかも敬語なのか喧嘩売ってるのかわからないしー!」



顔を背けたまま発せられたか言葉に、は思わず突っ込んだ。
高杉も少し驚いたようにへと振り返る。



「う、うっせ!来島がいつもってお前の話するから移ったんだよ!名字一瞬忘れたんだよっ」




























「・・・・プッ・・ふふふ・・あはははははっ」


「なっなんだよテメー」


涙目になりながら笑い出すに、高杉は気恥ずかしそうにを睨みつけた。だけど全然怖くない。


「ふふっ晋助さんがすっごい狼狽たえてるっ。鬼兵隊のリーダーが狼狽たえるなんてっおっかしー」


「なっ・・狼狽たえてなんかいねえよ!・・・ちょっときょどっただけだ。
テメーこのこと瞳孔半開きに言うなよ」


「大丈夫でーす。非番や休憩時にまた子に会うときは鬼兵隊の情報は一切探らないと土方さんに言ってありますから。
また子も言ってたでしょう?」


「・・ああ、お前たち二人の時は互いの立場に対して一切干渉しないってな。
ったくふざけた話だぜ。つーかよく鬼の副長と呼ばれる奴が認めたなァ?」



お人好しなあの局長ならともかく、敵を捕らえるためなら味方をも利用するような土方がだ。
俺達鬼兵隊を探るのなら、来島と幼馴染のは格好の餌だろうに。



「はい。探ったりつけたりしたらバリカンで髪剃って、マヨネーズ塗りたくってやるってv
ほかにも精神的に痛めつけてあるんでv」


「俺今土方にちっと同情したかも。俺もに刀を向けたら俺の着物全部ミニ丈にするってよォ・・
あん時の来島の目・・あらぁマジだったなァ・・・」



カラカラと笑うに思わず笑みが零れた。


「なァ」


「はい?」


「さっきよォ、俺のことなんて呼んだ?」




「///・・・・高杉晋助コノヤロー?」



「テメェ・・」




「だっ、だってまた子ったらいつもあなたのこと話すんだもん。
晋助様は実はお酒が弱くて、甘酒一口だけでも酔っちゃうから常に持っている瓢箪の中身はオレンジジュースだとか
晋助様は意外とおっちょこちょいで、よく物を置き忘れて、お気に入りの煙管を探す姿がかわいいだとか
晋助様は詩人でロマンチストで、月や夕陽を眺めては一句詠んでいるとか、密かにかぐや姫を信じているとか
晋助様は物に抱きつかないと眠れない達で、パンダの抱き枕が一番のお気に入りだとか
晋ムグっ・・」



「それくらいにしろや;。来島のヤローなにに吹き込んでんだよ」


ぽそぽそと話すにだんだん恥ずかしくなり、ばっとの口を手で塞ぐ。
鋭く舌打ちして「あとで絞めてやる」と呟けば、パタパタとが自分の腕を軽くはたいた。





「むー;むふひー;」(うーくるしー)



あ?とを見やれば、ぎゅっと目を瞑り微かに頬を紅潮させている
口だけ塞いだつもりが、鼻まで塞いでたらしい。
やべっ思うも「むーうー」と苦しがる表情がたまらなく可愛く見え。小さく笑って手を解放してやれば、
「ぷはっ」と肩で大きく呼吸する。
それが妙におかしくてクツクツと笑えば涙目で睨んでくる



「くーっ・・じつは晋助さん私のことすっごい嫌いで殺す機会伺ってるでしょ!!」


「クククッさあなァ?」



きゅっと睨みつけてくるに、ニヤリと口角を上げて見せれば、カチリと
視線が合さる。と、吹き出すと高杉。
へと団子の包みを差し出してやれば、へにゃりとは1本団子を取った。
一人分の間があいていた空間はいつの間にか消えていた。











「早く戻るのではなかったんですか」



甲板からニコニコとと高杉を見下ろすまた子に、武市は不思議そうに首を傾げた。
クスリと武市へと笑うと、また視線はコンテナの二人へと向け、頬杖をつく。



「ふふv晋助様と二人きりにしたかったんス。もう少し二人でいさせてあげるっス」













だってお似合いじゃないっスか。

晋助様と



また子は知ってるんスよ。
といるときいつもなら自室に籠もりがちな晋助様が、わざわざ出てきて部下に命令しながら、
チラリとを見ているってこと。


この前のテロ行為もが風邪で寝込んでるからって、日にちずらしたりとか。


鬼兵隊と真選組が衝突した時も、があまり巻き込まれないようにと配置を決めてたりとか。



優しくてにぞっこんな晋助様



おっちょこちょいでロマンチストで物に抱きつかないと眠れない晋助様だけど、
でも、晋助様になら大事な譲っても惜しくないっス。




だから、あんたも早く晋助様の良さに気づくっスv




また子の夢が叶うのはもう少したってからのこと。





また子との絡みが書きたかっただけ!!(還れ)

執筆・2007年1月26日